表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/39

エルフの里国での始まり 位置図

 別の用紙を広げ、今度は周辺の位置図を描き出した。

 エルフの里国には、地図が無い。

 それは皆が自分の居る場所から任意の場所までの位置関係や距離感を把握していたり、誰かに言われたり聞かされるだけで、同じく把握してしまうから、地図は不要な物に近い扱いかも。

 それに加え、外の国や地域にも、余り行かないそうなんで。


 私はエルフでは無い。

 だから具体的に描き記さなければ、誰かに教えてもらっても、それこそ書いてもらわないと、イマイチ場所を把握するのにピンと来ない。それに、私は目から入った情報は理解(処理)と行動が早いという特技(?)を持つから。(耳から入って来る情報は、比べると弱い。)


 自由に住む所を決められるって言われてもなぁ、、、さあ、何処で暮らす?大体の場所の見当は決めたいな。

「ココが王宮で、すーと森を抜けたらジエジオラ湖で、今いる場所がこのあたり、」

 王宮を中心にして、今日来た道を辿る様に、簡素な絵を描き込んで行く。

 それはロールプレイゲームで良く表されるマンガチックに。

「ロダッズの家がこの辺りで、先へと進めば野球場だ。」

 あれ?意外と描けない。ザーララさんの山岳城の在る北山は用紙の上の方に描いたけど、城の位置ってどの辺りだ?それに、王宮からのそれぞれの場所との距離感覚が曖昧だ。

 エルフの里国内の移動にはトゥクルトッドドゥーに乗せてもらった事が多かったけど、王宮から離れれば離れる程、実は物理的な移動では無い“魔力”を行使して何処かに連れて行ってもらったり、運んでもらった事の方が多かったりして。

 それに合せて、女王様の馬車であるボゼックシェチックコボベやトゥクルトッドドゥーの実際に走る速度はどれぐらいなんだ?

 こりゃあ、地図作りも課題だな。


「トキヒコ、離れる距離か、ジエジオラ湖の周囲に関しても、寸法が合わず。正確さ?とは掛け離れ様に。」

「いいんだよ。これは『マンガ』って言う表現方法であって、大体の位置を知りたいオレ専用だ」

 以前にリーザから聞いた、エルフの里国のそれぞれの配置というか距離感は、王宮を中心にして西門までが約1,000km、国のサイズとしたら、一辺が2,000kmの四角形に近いって。

 そんなのこの机の上で表現する事は、私では出来ません。


「トキヒコ専用と成るか。」

 おっ、変なトコに食い付いて来た?

「ああ、オレが知りたい事だから。でも、皆んなで書き記せば、オレ達専用だな」

「我らも書き記すならば、我ら専用と成ろうのか?」

「ああ、皆が知ってる、何か特徴的なモノを描き込んで欲しいなぁ」

 リュバック、シエック、ロダッズの3エルフが乗って来た。

 大男が三人揃って1枚の用紙を囲んでる。滑稽であり、微笑ましい。

 まあ、マンガはギュラック(遊び)と変わらない一面を持っているからな。


 スゴイ!どんどん山や谷、集落や里が描かれて行く。

 凄く緻密で3エルフ共に絵が上手い!それで、何か夢中だ!

 でも、用紙が狭過ぎた。どうやらマンガチックを理解しつつ有るけど、正しい数値の基準しか持って無いから、もう何かが混線して混乱してる。エルフ達って『ディフォルメ』って表現方法を知らないからなぁ。


「ちょっとストップ!」

 何か、収拾が付かなくなりつつある。

「皆んな凄く絵が上手い!プロっ、画家、天才!だけど地図だか何だか分からなくなっちゃったよ」

 彼らが手を挙げた先に見える地図には、王宮から軒が並ぶ街道が用紙からはみ出してる。シエックは自宅までを描きたかったんだな。

 それぞれが、用紙に合せた独自の縮尺を用いたみたいで、それは表現されているその絵の大きさの違いから想像は着く。

 王宮からこのジエジオラ湖の湖畔の食堂までの道中にも、見た事の無い建物や川が流れてる。今日オレ、こんな所通って来て無いぞ。いや、知らないだけか?


「皆んなが絵が上手いのは良く分かった。でだ、オレの住処となる場所なんだけど」

 マンガ地図を描き出した本題に戻す。それは私の棲家となる場所探しだ。

 エルフの王宮と、山岳城とを結ぶ線上の中間ぐらいがいいんだけど。この食堂が近い方がいいかも。

 今描き上がった地図をトントンと指し示しながら、

「この辺りで、誰かの邪魔にならない場所って有る?」

「トキヒコの記されたる『マンガ』では、今示されたるの検討を付けるは難となろう。」

 あー、色々と正確さを持つ彼らには、多分とか大体、適当で曖昧な考え方や表現はしないからなぁ。


「う〜ん、イメージだよ。余り深くない森の中で、猛獣の類が出ず、小川が流れる所」

 まあ、エルフの森であったら、何処でも『良い』場所なんだろうけど。

「猛獣か。成らば北山の近くへ向うが適当か。」

 何で北山だと、猛獣か出ないの?

「確かに北山成れば。成れど北山は、」

 そう、北山の山岳地帯はエルフの里国の民達にとって『禁忌の地』のひとつだ。実際に猟の成果も望めないと、何より『悪いエルフ』が住むと噂立てられているから。

 ただ『悪いエルフ』、エルフの里国の民達の殆どの者は、それが何者なのか、その上その姿を見た事は無いんだけどね。

 まあ、決まりを持たないエルフの里国の民達に取って、『禁忌の地』は特別な意味合いを持つそうだ。だからそこが近いとなれば、皆は行き難いかもな。

 だけどオレはエルフの里国の民でも無いし、『禁忌の地』の理由を知っているから問題無い。エルフの彼らにとって、未知なる存在であるザーララさんは『悪いエルフ』であり、恐ろしい存在なんだなぁ。


「北山方面の、ふもと辺りだったらどうだろう?」

「うむ、麓辺りなら問題無かろう。但し、山岳部には入らぬ事。」

 やっぱ、ちょっと警戒しているみたい。エルフ達としては珍しい態度だ。


「よし、ちょっと行ってみるか」

「トキヒコは恐れを持たぬのか?」

 『恐れ』って言われても、『禁忌』の原因である『ザーララ』さんという『タネ』が分かってれば怖くは無いよ。

 だけど実際は、ここから遠い。私の足だと周囲の詮索をする前に陽が落ちてしまうだろう。


 ちょっと趣向を変えるか。さっき皆に描いてもらった位置図のマンガで、気になった所がある。

「コレ、誰が描いたの?」

 それは今日、抜けて来たはずの森の中に、描き表された建物と川。この川、何か途切れているのか、突然現れた様な、ディフォルメや単純化を表現方法としては使わない、エルフとしては不思議な書込み。エルフの里国の者達は、どちらかと言うと正確さを重視する。これは珍しい表現方法だ。


「私である。」

 シエックか。確かにエルフの王宮から続く、軒が並ぶ街のサイズと表現方法が近い。

「シエック、オレは今日この森を歩き抜けて来たけど、川なんて流れて無かったぞ?」

 川を見落とす事なんて、それが小さな小川だろうと気付かずに歩き過ごす事は無いだろう。

 川は独特の雰囲気を持っている。

 川が存在する気配、水の流れが起こす空気、音、匂い、周囲との温度差が起こる。自生する草、花、木の違い、昆虫に小動物が過ごし、多くの命が集まる。


「トキヒコ、この場には流るるレゼカ(川)が存在する。」

 いや、レゼカ(川)があったと言われても、今日オレはそこを歩いて来たんだよ。だけど川なんて見なかった、感じなかったし、無かったぞ。

「トキヒコが通り過ぎたる刻には、その姿を現してはいなかったのだな。」

 いや、時間やタイミングで川の流れが途絶えていたとしても、川が流れていたならその流れが途絶えたり、干上がったりしても、その形跡は有るはずだ。

 私もエルフの里国に通って、20年程が経つ。だけど、そんな現象に出会った事が無い。この地図上に描き記された場所辺りで、感じた事も無い!


「トキヒコにとり、異成り疑問を持つ事と成ろうのか?」

「そりぁなるよ!だって川があって水が流れていた。もしも今それが干上がってるとしても、川が流れていたなら、その形跡って見られるはずじゃんか」

 凄く大昔の事なら納得もするけれど。

 シエックやロダッズの口振りからすると、そんなに古い話しではなさそうだし。

 川は生きていて、その流れを変える事もある。

 流量が変われば水の流れが描き出すカーブ具合も変わるし、地形の変化の影響で、流れの向きが変わる事だってある。

 川は一種の生き物で、強制的に流れの向きを変えても、本来持っていた流れの記憶に、昔流れていた方向に戻って行くとも。


「プラトフォーマ・トナシィ・パーゼプリィウ」

「えっ?何それ」

「この場のレゼカに付けたる呼び名、呼称である。」

 私が見た事も、感じる事の無い川の名前。でも『呼称』だなんて、それならエルフ達と同じ扱い?

「それはどんな意味を持つ『呼称』になるの?」

「トキヒコに示し表そうならば、『浮き沈みの流れ』と成ろうか。」

 浮き沈みの流れ川、、、何だそれ?ますます疑問符が増えそうだ。

「時に地中を流れ様。しかし時期により地上を流るる刻を持つ。」

 いつもは地中を川が流れるなんて、地下水路?でも地下水路が、ある時は地表に出て、またある時は地中に潜ったりするなんて、見た事も聞いた事も無い?!

 長い年月が過ぎれば、そういった変化も有るかも知れないけど、シエックの口振りだと、そんなに長い期間で無くとも、繰り返される現象みたいだ。(まあ、エルフ達が過ごす時間と、私が持つ時間軸は違うだろうけど。)


 続けて聞いた説明にも驚かされる。

 その川は、流れる水量に関係無く、川の持つ気性にて地上を流れたり、地中に潜ったりするそうだ。気分屋の川って事?

 そこには何か理由が有る筈だろう。だけどそんな現象、何かちょっとしたミステリーだ!興味をそそられる!


「この川(跡)の今を見に行きたい」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ