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『トキヒコハウス』 完成

 トキヒコハウスが完成した!


 ストラシィのザドエッタ、ズレヅノォグロマジチキシェのストラーカに促されて、私は階段を二つ登り、ドアノブに手を掛ける。

 その手はブルブルと震えている、武者震いだ。

 周囲との隙間が無いドアは、力を掛けなくてもスムーズに開いた。


「おおー!」

 室内は、その幅の半分を越える程の間仕切りが交互に配置されていて、ドアは無く、奥までは見通せない構造だ。


 ひとつ目の空間、直ぐに目に飛び込んで来たのは、部屋の左壁面に設えられた机と椅子。長さが2m近い机があり、同じ長さのベンチ型の椅子が並ぶ。

 そう、こんなの欲しかったんだよ!机の上に何か広げても、別の事が行えるやつを!(あー、こんな机で同時に複数のプラモデル作りたい!)

 私はエルフ達に比べたら小柄なんだけど、何だよ〜オレのサイズにピッタリじゃん!

 机の正面上には仕切りの有る棚が天井まで続いている。

 もうこの段階で、夢の様だ。


 続いて奥へと進めば、建物の真ん中辺りが寝室相当で、ベッドがある。マットや布団はまだ無いけどね。


 間仕切りを回り込む様に次へと進めばキッチンとダイニングだ。

 石板や(ほぼタイル)陶磁器の板で組み上げられたシンクや調理台、食卓テーブルと、私の高さに合わされている事が直ぐに分かる。

 シンクの横には土と石組みで作られたかまどがある。昔の日本家屋の展示物で見た事がある懐かしさを感じるけど、ココに据えられているのは新品だ。

 この竈には、下で薪を燃やして鍋を直接火で掛けたりはしない。薪の火として使われるのは『火鉱石』と『熱鉱石』が使われる。『火鉱石』は字のごとく、鉱石が炎を放つんだけどエルフの『術』によってその炎は一定さを保ち、安全使用に繋がる。まあ、火を取り扱うのだから用心に越した事は無い。

 調理の場面で比べれば、熱鉱石は電気ヒーターとかIHクッキングヒーターの位置づけになるのかな?

 

 少し離れて食料保管庫。これはどこかで冷鉱石か氷鉱石を手に入れなくっちゃな。どちらも希少石らしいけど。

 うん、リーザがこのキッチンに立つ姿がもう見えた。

 だけど『火鉱石』にしろ『熱鉱石』『冷鉱石』『氷鉱石』、、、各種の鉱石が秘めている力を私では引き出せません、”魔力”秘めてませんから。ちぇっ。


 その隣の間仕切りの向こうは、浴室と整理棚が有る。

 衣服を仕舞う、洋服タンス相当の収納庫まで備え付けられている。


 そしてもうひとつのドアを開ければ、『トキヒコハウス』を通り抜ける形で、入って来た所の反対側に出る事となる。

 そのまま外へと出て振り向けば、入って来た時と同じ形の楕円の姿が見れる。

 『タンクローリー車』そうかも知れないけど、この楕円は、切り口がアールを持った長い木材が組み合わされて形作られている。私が見た中で最も美しい楕円だ。


 再び中へ入り、ゆっくりと改めて部屋の中、床、壁、天井を見て回った。


 どこからどう見たって、全てオレ仕様でオレサイズ。

 そうそれは、机や椅子の高さに限らず、窓の高さ、ドアノブの位置、間仕切りとなる板壁にしたって、私が扱い易いサイズである。気付けば気付く程、私の為だけに作られている事が伝わって来る!

 トキヒコハウスの外観に加え、中の造作もこんなに立派で凝っていて、、、もう言葉が出ない!私は身を震わせながら、この部屋に立っている事が精一杯な程、感激と感動していた。


 入って来た玄関口に戻り、外へと出たら『トキヒコハウス』の建設に携わってくれたエルフ達が皆揃っていた。

 ザドエッタを筆頭にストラシィ、ストラーカと、、、『シェシイエ・カニエニイア』の里のカニエンプラツァ者達も来てくれている。


 私は、私は、泣き出してしまった。年甲斐も無く泣き出した。

「スルガトキヒコ、何やら不満か不備が?!」

 エルフは泣かない。滅多に涙なんて見せない。

 そんなエルフ達は、私が現した姿に戸惑いを見せる。

「違う!逆だよ逆!嬉しいんだよ、嬉し泣き。嬉しくて泣いているんだよ。皆ありがとう!」

(こんな時こそ、私の意識を読み取ってよ〜!)


 私はザドエッタを抱きしめた。ストラーカを抱きしめた。カニエンプラツァ達を抱きしめた(硬い、ゴツイ!)。

 ルジィニエリアとラードゥワ、、、この場に居る、全てのエルフ達を抱きしめて回った。『ありがとう』と感謝しながら。

 悲しいかな、何も持たない私が出来る、最大級で最上級の事。こんな事しか出来ません。

 ロウとリーザも、ぎゅぅ〜と抱きしめた。


 実は設備に関しては、さくらの”力“が大いに役立った。

 私は魔力を内には秘めない。だから各種の鉱石が持つ力を引き出せない。

 そこでさくらの登場だ。


 お風呂の湯船は特殊なサイズ。幅が70cmにも満た無く、長さは1.6mを越える。そう、長細いの。

 従来からあるエルフのお風呂は、縦長の箱みたいな物。それを横に倒した感じで、エルフであれば狭く感じるかも知れないけど、私的にはゆっくりと深くお湯に浸かりたい、だけど無駄なお湯を減らしたかった。

 そう、お湯。

 浴室の蛇口からはお湯が出せれる。それは配管の中に熱鉱石を仕込んだから。

 幾ら熱鉱石を仕込んだって、魔力を持たない私では熱鉱石を働かせて水をお湯へと熱する事は出来ない。

 そこでさくらの登場だ。

 さくらが『トキヒコ石焼きグリル』の要領で、熱鉱石を働かせる“スイッチ”を作ってくれた。

 追い焚き様に湯船の底に仕込んだ熱鉱石も、同様にスイッチを作ってもらった。

 部屋の灯りと机の灯り用の光鉱石にも、さくらが点灯のオン・オフと光の強弱のスイッチを作ってくれた。

 

 配線も無く、設備が動く、、、我が娘がこんなにも役立つとは!

「お父さん、失礼しちゃうわね。」

「いやさくら、ありがとう。魔力を持たないオレが、各種の鉱石の力を使えるなんて想像もして無かった。感激だよ。それに何やら魔法使いにでもなった気分だ」

 さくらの解説だと、作ってくれたスイッチ、それは外向きに放った魔力をこの場に留め、私がスイッチとして使える役割を持たせたそうだ。

 ふぅ~ん、へぇ~、その定義だとか理論はサッパリ分からないけど、さくらが使った魔力、便利だ。単純にそんな力を持ってるなんて、ズルいなぁ。


 『トキヒコハウス』には、トイレも備わっている。

 水道に関しては、エルフ独特の“仕組み”を使って、横に流れる小川から水を汲み上げ、大型の浄水器である『オクヅィスザクザカヅウォデイ』をくぐって建物内に引き込まれている。


 浄水器『オクヅ、、、ウォデイ』(名前は長くて何だか憶えられません)の中身は、水が透過する順に大きな石から小さな石そして細かな砂になるまで、水は通り過ぎる。

 その途中に消毒の働きを持つ木の枝や木の根が混ざりこみ(ここで好みで香りを着けるエルフも居るけど、私は遠慮しました)、エルフの里国の美味しく美しい飲料水が出来上がる。

 石や砂がろ過するフィルターとなるのは、私の世界と変わらない。

 そして浄水器は、他の里や一般的であるエルフの住居にも個別や集中の違いはあれど、備わっている。

 リーザの家屋は王宮からの分水になるから、浄水器は備えられてはいない。


 実は、エルフの里国には下水道が網羅されており、トキヒコハウスの生活雑排水と排泄物も下水路へと引き込まれる。

 ルジィニエリアとラードゥワには、とにかく掘りまくってもらい、何とか下水道へ繋いでもらった。

 下水路の配管は、カニエンプラツァ達の石組みの道だ。

 私の居た現代社会と比べてしまうと、原始的とも言えなく無いエルフ達の生活、あなどれません。

 下水路にはバクテリア相当の者達を放ち、下水は最終処分地である南の浄水の湖『レプロデュックカジャ・ジェジィオロ』に流れ着く。


 バクテリアは細菌の事であり、エルフの里国にも様々な種が生息しているそうだ。

 菌である為、食べ物を腐らしたり、病気の原因になったり、『人食いバクテリア』みたいな恐ろしい種も存在しているのは、私の居た世界での事だが、それがエルフの里国であって大きくは変わらない。

 けど、基本微生物でありバクテリアは、『単細胞の微生物』であり、外からエネルギーを取り入れて毒素や水分を放出する微生物だ。


 そんなバクテリアは、様々な場所に生息し、有用な有機化合物を持つ種もいる。微生物なんて見えないけど。

 実は細菌・バクテリアは、私の居た世界であっても、ここエルフの里国にしても多くの人々、多くのエルフ達を助ける種も存在している。その微生物なりバクテリアに、人間やエルフにはない能力を借りているのは事実である。


 そして、エルフの里国には、化学薬品も無ければ洗剤も無い。それはバクテリア相当者達が大いに繁殖し、生活排水は最終処分地に届く前には殆ど分解されるそうだ。

 バクテリア達の元気な活動と繁殖、目に見えたらさぞかし恐ろしかろう。


 さて、『トキヒコハウス』の建設に加えて『トキヒコ石焼きグリル』にも立派な屋根を作ってもらった。

 どこかのキャンプ場やバーベキュー場に劣らない、四隅に柱が伸び、屋根を支える立派な物だ。

 ただ『トキヒコ石焼きグリル』は、点けっ放しが怖いので(さくらにオン・オフのスイッチは付けてもらったけど、私では、熱鉱石が働いているのか止まっているのか、直接触らなければ分かりません。熱いよ!)さくらには『トキヒコ石焼きグリル』の熱鉱石が稼働中を示す“光”を付け加えてもらった。

 これなら目視で私でも分かる。でも熱鉱石、熱を発し続けていたら、どうなるんだろう?ちょっと興味は有るけど、大事となったら大変だから、私の興味本位は留めて置きましょう。


 今後、この『トキヒコ石焼きグリル』を多くのエルフ達と囲んで、多くを語り合いたい。一種の社交場になったらいいなぁ(食堂のエルフに怒られるかも)。




 そして仕上げ。

「ストラーカ、ここにさ、この石をはめ込む凹みって作れる?」

 ストラーカに石の板を渡すと、採寸もせず、水平器も使わず、石ノミを外壁の木の壁に当てる。小さな小槌を使い、優しく木を削り始める。

 正面とした玄関扉の横にストラーカに頼んで長方形の窪みを彫り出してもらった。

 そこにロウが石焼きグリルに熱鉱石を組み込む時、4ヶ所くり抜いた岩板の破片をはめ込んだ。ピッタリだ!

 岩板を鋭角に魔力でくり抜いてしまったロウも凄いけど、こんなにもパッと容易く彫り出したストラーカもすげぇなぁ!

「トキヒコ、コレは何と成る?」

「うん、これは表札といって、この場に住んでいる人を記す物なんだ」

 エルフ達の家に表札なんて掲げられてはいない。

「して、何が書かれる?」 

 4枚を横長に組み合わされた岩板の破片の表札には、カタカナでロウに彫ってもらった。


「私の世界の文字なんだけど『トキヒコハウス』って書いてあるんだ」

 




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