『トキヒコハウス』賄い料理 トキヒコ焼き
さくらがエルフの王宮より、持ち戻って来た包の中身は、
「塩、岩塩と、青のりみたいなのと、胡椒?それとコレは何?」
少し大き目、背の高い陶器製のビンみたいなのが色違いで3個。
「それらのバテルカ(小瓶)に入りますはプレジィプラワ(調味料)の幾つかに成りますね。」
調味料か、なんか素朴な香水の瓶と言ってもいいかも。
「どちらかと言いますれば、プレジィパラウィ(香辛料)とデゾードラント(臭い消し)効果成る物ですね。」リーザが答えてくれる。
香辛料、、、スパイスであり胡椒の類だな。
私の居た世界では、胡椒といえば黒胡椒のイメージが強いけど、黒胡椒の他に白・青・赤の胡椒があり、それぞれ食材(肉・魚・野菜)に適した物が使われる。
最初に胡椒と食材を組み合した者は偉大だよなぁ。
胡椒の辛さは、塩辛さとは異なる辛さであるが、肉料理、魚料理、野菜料理、スープなどさまざまな料理に使われ、ハムやソーセージの製造にも利用される。ハムとかソーセージは大好きだけど、余り胡椒辛さやハーブ系が混ざってないのがいいんだけど。
胡椒は、ソースやケチャップなどにも使われる。色々な調味料の原材料にもなる。
大昔であれば、冷蔵や冷凍技術が未発達で、腐りかけの肉の匂いを隠すためや、その防腐作用のために胡椒が重宝・珍重されたらしいけど、私はもっぱら味付け用だな。
へぇ~、だけど食材の臭い消しか。
「魚類に水生生物、食用肉、食用菜に関しましても、我らでは好まぬ匂いを持ちまする種も存在します故。」
へぇ~知らなかった。エルフが好まない匂いが有るんだ。
まあ、食べ物の食材が独特の匂いを持つのは私の居た世界でも一緒だ。
匂い消しに胡椒もその役目となる時もあるだろう。実際、牛肉料理ではお肉の臭み消しの場合も有るし、鰻の蒲焼きの山椒はその代表格かも。
でも私は、良く焼かれた鰻に生臭さなんて感じず、山椒の香りの方が苦手なんだけどね。
じゃあ、この素焼きのビンの中身はエルフが好む匂い?
ビンのコルクの様なフタを開け、鼻を近づける。別に何も匂わないなぁ、それよりも無臭?じゃんか。
「トキヒコさん、此れらの物は、その消臭が近きでしょう。」
消臭ねえ。でも、食材の気になる臭みを打ち消す様な匂いはしないんだ。では、こっちの赤いのは?
続けて別のビンのフタを取る。
「トキヒコさん!そちらはっ!」
あー!きっつー!目に来た!効っくぅ〜
「何コレ〜!」
「其れ成るはデゾードラント・アロマット、山岳赤山羊種の肉料理にて使われます物。滅多な使用機会も無く、本日私が持ちました食用肉の中には御座いません。」
消臭だか臭いの打ち消し用でコレだけキツいのだったら、山岳赤山羊の肉って相当のモノなんだろうなあ。山羊肉を焼くと、独特な凄い臭いがするって聞いた事が有るけど。山岳赤山羊の肉かぁ〜キッツい臭い、それは避けたい。
でもさくらぁ〜、良くぞ滅多に使わないヤツを持って来てくれたなぁ。まぁ悪気は無いだろうからな。
「さくら、そいつのフタはしっかりと閉めておいて」
ではでは食材を仕込んで行きましょう。
「トキヒコさん、如何様に?」
「うん、今考えているのはフォカッチャの生地を丸く広げて、そこに様々な食材を乗せる。片側に焼き色が付いたらひっくり返して、反対側を焼く」
「お好み焼きですね。」
「うん、上手く行くかは分からないけど、何とかそれなりの形にはなるんじゃないかな〜と」
リーザに魚は捌いて貰い、お肉は細かく小さなブロック状に切りましょう。
野菜の類も一緒に並べて乗せれる様に、気持ち細かく切りましょう。
ロウが作ってくれた木製ボウルにフォカッチャの生地を切り分けて入れる。
生地に混ぜ込む為に細かく切った野菜は、フォカッチャに混ぜ込む様にぐるぐると。
ここで少し塩と香辛料を。
「トキヒコさん、味付けは少しご配慮を」
そうそう、エルフ達は繊細な舌を持っているので、私好みの塩加減にしたら、しょっぱく辛いかもね。
ほどほどにね、気を付けましょう。
「トキヒコ岩焼きグリル、スイッチ・オン!」
表面が熱くなるから、ボタンの位置はさくらに後で考えてもらおう。
生地が出来たら、動物性の脂身部分を岩板に溶かして伸ばして、そこへフォカッチャの生地を丸く伸ばす。
おお〜岩板グリル、調子良さそう。
ヘラでペンペンと平にして、切ったお肉、魚を差し込む様に乗せて、野菜も追加しましょう。
ん、ピザか?まあ、お好み焼き『風』でいいだろう。
これを見本に、リーザとさくらも同じ様にどんどんと並べ、岩板の上はお好み焼き『風』に占領された。その数は20枚になった。
フォカッチャの焼ける匂いが伝わって来たら、さっき作った大き目の木製ヘラでひっくり返して行く。
うん、いい焼き跡が付いている。
焼ける匂いも具材側に変われば、伝わって来る香りも変わって来た。
特製フォカッチャが焼ける香りが広がり、誘われたかの様に『トキヒコハウス』で建設作業をしていたエルフ達が集まって来た。
「スルガトキヒコ、何とも言えぬ匂いが参りましたが、」
ザドエッタ、お腹空いた?
「うん、今皆さんに差し入れしようと思っている、賄い料理を作ってるんだ」
「賄い?」
「そう。『トキヒコハウス』の建設に何も手伝えてない(役目を持たない)私が出来るお手伝いの少しとして」
「此れは何と成りましょう?」
「フォカッチャを使ったお好み焼き風の、、、」
そうだ、これは『トキヒコ焼き』と命名しよう。
「トキヒコ焼き!」
さあどうだ?
表裏にいい感じの焼き色が付いた。
塩と青のりを振り掛けて、完成!お好みソースは間に合わなかったけど、こちらの世界で作った特製マヨネーズは有っても良かったかも。
「ザドエッタ、出来た。試食してみて?」
ザドエッタはエルフが食事の時に使う大小のヘラを持って、トキヒコ石焼きグリルの前に立つ。
あー、椅子やテーブル、それにお皿も準備出来てなかった。
ザドエッタは『むんず』と”トキヒコ焼き“にヘラを立てると、食べる分だけ切り出し、もう片方のヘラに乗せる。
ヘラに乗ったトキヒコ焼きは、迷う事無くザドエッタの口へと運ばれる。
「どう?」
「スルガハフコ、ハフるハフハフ、ハフ」
ザドエッタは、ハフハフとしながら何を言っているのか分からない。(私がここで、意識の疎通が出来ていたら良かったのに。いや、単に出来立てで熱かっただけ?)
ザドエッタはようやくゴックんと。
「良いです。」
あ〜良かった。味付けに自信が無かったけど、そこはエルフ向け、少量の塩加減で良いからな。
ただ、建築現場は重労働だ。多く動き、多くの汗をかいた者は、塩分を気持ち多く採って欲しいけど。
「皆もどう?」
ロウが皆に、エルフの食事用ヘラを配ってくれる。
リーザとさくらはお箸を持って構えている。
「あー、お皿とか準備してなくて申し訳ないけど、『トキヒコ岩焼きグリル』は熱くなってるから気を付けて」
『トキヒコ焼き』の評判は、、、エルフって『美味しい顔』をしないから。でも、皆の伸ばす手は止まらない、それとリーザとさくらを見れば分かる。そこそこ成功したみたいだ。
自分でも一口パクリと、、、薄い、味付けが薄味だ。いや、薄過ぎ。
塩と青のりと調味料を追加。あの赤い小瓶と間違えたら大変な事になりそうだから、そこは慎重に。
やっぱ、お好みソースとマヨネーズは居るなぁ。
胡椒相当の調味料が有るんだから、今後の課題にしよう。
そう、向こうで得た知識を応用するんだ。無い物ねだりなんてしいる場合じゃないな、こちらでも出来る事をやればいいんだ。やってみなければ始まらないしな。
それでも出来なかったら、その時はその時だ。
皆が『トキヒコ焼き』を食べ進み、岩焼きグリルの場所が空けば、リーザとさくらは続けて第二弾の焼きを始めてくれる。
エルフ、良く食べるから。
「ザドエッタ、作業はどう?」
『トキヒコハウス』の外観は出来たけど、住むにはまだまだ家の中が整って居ないと。
側から作って中身を仕上げる。私の居た社会の一般住宅の建築と変わらない。
「スルガトキヒコは良い場を決められました。」
場所が?
「この場には、多くのルイラーが集まる様です。」
へぇ~、ここはそんな場所なんだ。まあ、決めたのはオレだけど、さくらが見付けた場所だ。
「我らの活動や作業にも適した環境として影響を受けてます。」
どうやら、力を出す時とか、位置や線を確定させる際には、”魔力“を行使した『術』の使用が有ると。それぞれの作業形態や状況により、自身の行為の補助的に魔力は常に使われているとの事。
だけど魔力の行使には、『今から魔力使いまーす』とかの掛け声は無いから、私ではいつ、どの瞬間に魔力が行使されたのかは分からない。
「なんと言いましょうか、『術』を使用した際の負荷と成りまするか、思考や動作の低下、、、疲れですね、それらを意識せずに済んでいる事が分かります。」
疲れ知らずだと、働きっ放しじゃん。
「いやいや、疲れが軽減されているとしても、安全第一で通常通りの休憩や休息は取ってよね。別にオレは『トキヒコハウス』の完成を急いでは無いからさ」
やっぱルイラーって、便利なんだ。
「トキヒコさんですよ。」
リーザが小声で言って来た。
そう、私はルイラーを集めているらしい(見えません)。
ルイラーって、そんなにエルフ達に影響を与えるの?
ルイラーは見えないし、感じないから。そして私がルイラーを集めているって言われても、魔力を内に秘めない私には、その恩恵も無い。
『トキヒコハウス』、やっぱり『ルイラー充填所』位の名前にして、ひと商売始めるかな。
「お父さん、無理ね。」
あがっ、さくら!
そう、エルフの里国で商売を始めても、貨幣文化は無い。
対価に換算したら、、、すでに私は、エルフの皆に払えない程の恩を受けている。
それと、『トキヒコハウス』の建設費用、払えません。