『トキヒコハウス』建設が始まる 休憩場
「うーん、オレが手出しする事が無い」
『トキヒコハウス』の建設は進む、(たぶん)順調に。
建物を建てる地面のスペースは、4本切ってしまった大木の根は大概が撤去されて整地もされた。その後のカニエンプラツァ達による基礎ベース相当となる大きな石による土台の組付けが始まっている。
『トキヒコハウス』全体の大きさは、大体6畳相当の部屋が三つ程、一列に真っ直ぐに並ぶ大きさ(長さ)となり、自分としては大きな平屋の家。
今日はエルフの王家の長男坊ロウが『トキヒコハウス』の建設現場へ見学にやって来た。
私たちは、切り出された木を背中に座り、ぼぉ~と二人並んで現場を見ている。
ロウが私に『何か自分に出来る事』と問われても、この建設現場にて、私がロウに頼める事が何か有るのか分かっていない。
この現場を取り仕切っているザドエッタ(ストラシィ~建てる者、エルフの大工さん)に聞いても、各種の希望や気になる点があったら言って欲しい。基本は『見ていて下さい』程度の返事しかもらえない。
自分自身が何に手を出して、何かお手伝い出来る事の有無すら分かっていない。
前の生活であったらその仕事柄、建設現場の大体の流れは知っていた。知ってないと設備機器等の現場搬入のタイミングがあるし、搬入経路から機器設置位置の確保、稼働に伴う配管や配線、納期に影響しちゃうから。
だけどエルフの里国で行われる建築現場、以前『エルフ湯』の現場を見た事は有ったけど、あの時は向こうでの生活からの訪問で、スポット的に現場訪問する程度であった。
全体の流れはザドエッタに任せ切りだったし、あの時は正直何か浮かれていた。細かい点とかを一切見てなかった、、、と思い返すと、気付く。
だから実際は、柱が先なのか、壁から作り出すのか、屋根は作ってから乗せるのか、、、エルフ達がどういった順で建物を作るのか分かっていなかったんだ。
それは、この現場でも一緒だ。
エルフの皆が私の『トキヒコハウス』を建てる為に、動いてくれている事は嬉しい。
だけど、だからこそなのか、私に出来る事は無いのか?
木材の切り出しや組み立ては、基本力仕事だ。彼らに比べ、非力な私では足手まといにしかならない。
だけど、あれ?荷物の運搬とか、先日の木を切ったり根を掘り返したりする事をエルフ達は”魔力“を行使して行っていない様に思う。いや、行使していない!
基本、手作業で力仕事だ。ザーララさんやロウであったら、魔力を行使する事により、手など使わずに木を切ったり、地面を掘り返したりする事は、可能であろう。
そう、エルフ達って人間からすれば特殊能力である“魔力”を内に秘め、魔法使いの様な行いが出来るはずだ。
だけど思い返しても、多くのエルフ達は”魔力“を行使して物を作ったり、狩猟もしていない。基本『手作業』だ。自分の体を使った行為である。
「ロウ、木から建設資材を切り出したり、建物を組み上げる為にそれを持ち上げたりするのに“魔力”って使わないの?地面を掘り返す事だって、魔力でぴゃぁーとやれちゃいそうなんだけど?」エルフは皆んな魔法使い。
「可能と成りましょう。」
そうなんだ、
「だったら、何故?」
魔力、便利じゃんか!それを使わないのは、宝の持ち腐れじゃないの?
「我ら自身で応えねば成りません。」
自身で応える〜?何に?
「それは地との対話、木との対話。皮であれ糸であれ、我らは対話を行いし、物事を進めます傾向がございます。」
エルフは物質と語る?聞いて無いぞ。
「へぇ~じゃあさ、対話なんだから、物(素材となる様々な物質)からの返事って有るの?」
オレも聞いてみたい。先日切り倒してしまった大木達、今背にして寄り掛かっている大木からの返事と言うか、思いを聞いてみたい。
「トキヒコ殿、それは叶いません。あくまでも我らの思いを伝える事。相手に対し求むるは、我らの意向に反します。」
はぁ~良く分からんが、エルフ達は全ての物に対して思いを抱くのか。それは尊敬や畏敬なのであろうか。
「流石に我らとしても、物質よりの声は届きませぬ。人間的な思考の内『物に魂が宿る』との概念を我らは持ちませぬ故、其は尚更であります。」
人間社会での経験を持つ、ロウならではのオレに分かり易く、的確な回答なんだろう。
「じゃあ、何故、」
いや、聞くのが愚だ。こういった考え方を持てず、理解出来ないから、オレはエルフに近付けない。
「いや、ロウありがとう」
だけどこれだと、余計に手出しが出来なくなった感じ。
そもそもオレって、そこまで思慮深く無いからなぁ。
それとオレって、エルフ達の『日常生活』ってのも理解していなかった。
隔週ぐらいには、エルフの里国に通ってたはずなんだけど、やっぱりどこかで単なる訪問者『旅行者』であったんだ。
自分の生活を置いてない場所との考えだから、実際にエルフ達がどう暮らしている、どんな生活を送っているのか見えていなかったんだ。だから自分に置き換えたりもしていなかったんだ、、、今更だけど。
『移住』して来たけど、やっぱりエルフの里国で暮らす事を前提として真剣に考えられて無かったんだ、、、あ〜反省。
それでも何か、この状況で私が出来る事は有るだろう。
エルフ働く、エルフ疲れる、エルフ休憩、、、。
『休憩場』は宿泊も兼ねた(比較的簡易的な)物を隣接して作り出したみたいだけど、、、そうだ!『まかない』だ、賄いメシを作ろう!彼らがどんな休息を取るのか知らないけど。
リーザに手伝ってもらう事にはなっちゃうけど、何かは出来るだろう。
そういえば、リュバックは漁の成果の一部を差し入れてくれると言っていたから、、、エルフは皆んな生魚でもバリバリと食っちゃうからなあ、だけど生魚だと、オレがちょっとな。
「ロウ、この間行ったカニエンプラツァの里へ今から行けるかな?」
「問題無きですが。」
よし、行こう。カニエンプラツァ達の里『シェシイエ・カニエニイア』へ!言い難い。
私は寄り掛かっていた建築材料となった大木から背を放し立ち上がった。
「よしでは、ロウお願いします!」
行こうと言っても、もう全面的にロウ頼り。
「ロウの持つ力で、シェシイエ・カニエニイアまで連れて行って欲しいのだけど、あの里って、何処?」
前回初めてシェシイエ・カニエニイアを訪れた際は、ザーララさんが魔力を行使した『ラタッカー』と言う術で、瞬間とも言うべき合間に到着となったし、そもそもこの『トキヒコハウス』の建設地がエルフの里国においてどこら辺にになるのか、具体的な把握にはイマイチ至っていない、、、お恥ずかしい。
だから尚更、エルフの里国の外に位置するカニエンプラツァ達の里『シェシイエ・カニエニイア』がこの場所からどちらに向いて、どれだけ離れているのか、サッパリ分からない。
ただ、私が今から歩いて行くには遠い事だけは、分かる。
「トキヒコ殿、飛びましょう事。」
「飛ぶ〜?」
以前ザーララさんに抱えられて、飛んだヤツか?
「プレゼスタルゼン・スジィボウニクトゥ、、、表現としまして、魔力に依る『宙位滑空』とでも申しましょうか。」
宙位~?滑空は何かカッコいい!
私は少し屈んで構えてくれている、ロウの背中に飛び付く!
いい歳こいたオッサンが逞しいシズロック(男エルフ)におんぶしてもらう。
他人が見たら滑稽だろうけど、オレもロウもこれでいいんだと思ってる(ロウより伝わる意識は分かりません)から、いいんだ!
ロウは”魔力“を行使して、私を別の場所まで運んでくれる。
でも、エルフの『術』なり技(?)ってある意味“個”としての動作の延長だと思う。
魔力を行使して、他の誰かを動かしたり、操ったりはしない。そして力仕事の代わりにも使わない。
、、、土を耕したり、物を動かしたり、果物を収穫したりしない。魔力はエルフ達の生に繋がる素であり、生活の「基盤」であり、常に使用され行動に関連付けされる。
そこは、何でもかんでも便利な魔法使いでは無いんだろう。
それに、確かにそれなりの“魔力”を内に秘めなくては、外へと向う『術』は繰り出せられないそうだから。
それなりの魔力、、、私はリーザや女王ユーカナーサリー、ロウにザーララさんと、大きな力を持ったエルフ達に囲まれ過ぎていて、外へと向う魔力を感覚として『普通』に感じ過ぎていたのだろう。
私が魔力を内に秘めぬ故に、魔力の『理解』に及べないのは、そういった事なんだろう、、、。
それと、ロウは『私のエルフ』と呼べるエルフでは無い。
ロウとは友人関係を築きたいと、人間とエルフとの間の友達になろうと付き合って来た。
ザーララさんは自身の事を『お前のエルフ』と位置付けろ、何でも頼れと言って下さいますが、リーザを除いて一番何かを頼む相手となってるエルフって、ロウだったりして?
「ロウ、なんかさぁ、何時もロウに頼んじゃったり、頼りっ放しだなぁ」
いつの日にか、体が吹っ飛んだ時に支えてくれたのもロウだ。
「トキヒコ殿よりの頼み、拙ぬ言い方と成りましょうが、取るに足らぬ事。其に比べトキヒコ殿より受けます情、信頼、喜びを分け合おう想い、敵いません。」
いや、エルフって、観察、検討から出された結果の比較から、優越なんて付けないでしょ?
それにオレはそんな善人みたいな考えも行いもしてないぞ。
「そぉお?じゃあ、友達だから許される範囲のお願い、って事にしておいてね」
「問題無きです。さあ、行きます。」
私はロウと、カニエンプラツァ達の里『シェシイエ・カニエニイア』へと、飛んだ。
ロウは飛ぶ。
私はしっかりとロウを背中から抱え、飛び込んで来る景色に圧倒される。
眼下には、どこまでも続く緑の絨毯が敷き詰められた森、目線を上げれば何処までも続く青空。
受けているはずの風を感じる事も無く、あの日見た、森の中から白く飛び出す四角い構造物が見えた!今確認出来る範囲で、四つのそれが見える。
前回訪問した時と同じ様な場所に到着すれば、『シェシイエ・カニエニイア』の里長であるスタラスヅ・ブラト・チョロポワティを先頭に、複数のカニエンプラッツァ達の出迎えを受ける。
「スルガトキヒコ、良くぞ参ったな。」
見た目がゴッツく、屈強な男達。嫌いじゃないけどその見た目から、ちょっと怖い。別段笑顔で迎えてくれる分けでも無いので(エルフは基本無表情だ。作り笑顔もしないしな)。
今日は挨拶代わりの『肩バンバン』を受けなくて済みそうだ。ちょっとホッとする。エルフ達って馬鹿力だからなぁ。
「あ~、スタ、スタラ、、、」
(「トキヒコ殿、スタラスヅ・ブラト・チョロポワティと成ります。」)
「あー、サンキュウ、ロウ。え~スタラツ・チョロポワティ、ご機嫌よう」
エルフは日常の挨拶は行わない(意識を読み取り合うから)。
「ああ、ご機嫌よう、スルガトキヒコ。」
だけどエルフ達は私の意識を読み取り、私の『日本語思考』で考え、対応してくれる。
「今日は『任』と言うのはおこがましいのですが、私の個人的な希望を聞いて頂く事は出来ませんか?」
断られたら、どうしよう。
「スルガトキヒコよ、何であろう?」
「実はですね、石の一枚板を作って欲しいんです」
そう、前回『シェシイエ・カニエニイア』に訪問した時、彼らの持つ技術の一部を垣間見て、その”磨き”に関心させられた。
そして贅沢にも、その技術を使って鉄板焼きの鉄板代わりに石の一枚板が作れないかなぁと。
それは、エルフの里国、エルフ達は金属を好んで使わない。
彼らの持つ知識と技術があれば、鉄分の含有量が高い鉄鉱石から鉄の原料を抽出したり、砂鉄を集めて鉄製品や金属加工は可能なはずだ。鉄は熱を加えれば、その形を比較的自由に変えられ、冷えれば硬度を取り戻す。多くの原料とも混ぜる事が可能で各種の素材として便利な物だ。
鉄が各種の素材として有能なのは、私たち人間の産業の発展が、鉄と共にあった歴史が裏付けている。
だけどエルフは鉄を使わない。
はっきりとした答えを聞いた事は無いのだけど、どうやら”魔力”との関係が大きい、そうだ。
魔力は波動を発する(私は見えません、感じません)、鉄は魔力の波動を遮断してしまい、魔力を体内で廻す際にも近くに鉄が有ると、その影響が発生するらしいと、、、何、魔力って磁気でも帯びてるの?
刃物の先に鉄を含んだ岩石の使用が有ったりするが、その量としては僅かな範囲だろう。
唯一の鉄製品と呼べるのは、リーザがエルフの王宮の厨房にて採用として持ち込んだ、二つの大鍋だけかも知れない。
いずれにせよ”魔力”と『鉄』は相性が悪いそうだ。だから鉄の使用が少ない世界で、鉄板焼きの代わりに石板で焼き物をやってみたいと思った。鉄で組んだ『網』があったら良かったんだけど。
石焼き用の一枚岩、カニエンプラツァであれば、その製作は可能であろう。
私は里長のスタラスヅ・ブラト・チョロポワティに頼んだ。
「縦横がこれぐらいで、厚みがこれぐらい。片側の表面はツルツルに!」
両手を使い縦横の寸法を提示、厚さに関しては、親指と人差し指で。
彼らの持つ技術で薄い1枚石板を作れば鉄板代わりになる、石焼きが出来るはずだ。
石を直接火で熱したなら、それなりの時間が掛かるかも知れないが、ここはエルフの里国、便利な熱鉱石が有る!
それを使えば上手く鉄板代わりの『石焼き』が出来るんじゃないかと。
石焼き板に熱鉱石を組み込めば、火を使わずにに調理が可能だろう。山火事を起こす心配も無いぞ。
ただ、熱さの加減はエルフの誰かに。でも魚を捌くのはリーザに頼まなくっちゃ、いや、オレもやってみるけど。
里長のスタラスヅ・ブラト・チョロポワティは快く(たぶん?表情には現れませんので)受けて下さったみたいだ。
白い大理石の様な磨き上げられた建物を回り込めば、白い石が積み上げられている。
磨かれていなくとも、ここに集められた石の白さが分かる。何処から持って来た?
取り出されたのは、これまた岩石から作り出された石ノコだ。長さは1m50cmぐらい有るか?大きく長く、石なのに薄い!
里長チョロポワティに指示された石(白い岩だな)にカニエンプラッツァ達が取り囲めば、切り出し作業を行うスペースが確保され、先ずは第一に切り出す2エルフが1本の石ノコを左右に分かれて持ち、構える。
白い岩に切り出す為の目安となる線など引かずに(いきなり!?)石ノコを当てると切り出した!
そこは、指示を出す者、作業を行う者、周囲で補助となる者達が意識の統一性が計られているいるのかも知れない。誰かが『曲がってる』と思えば、周囲の者も合わせて修正を掛けつつ作業が進んでいるのかも知れない。
他者の意識を思考のレベルで疎通が計れない私は、見学させてもらっていても、少し、何か蚊帳の外のような寂しさを感じてしまう。
石ノコを引く者が代わりつつも、あっという間に白い岩板が切り出された。お見事!
切り出された岩板を抱えて、移動が始まる。
今度は白い建物の1階の半地下に進めば研磨を行う”鍛錬所”だ(場所の名称がなぁ)。
そして磨きが始まる。
フラットな面を持つ大小の石が揃えられ運ばれて来た。一つひとつがレンガ程の大きさで、たぶん研磨を順に行う砥石相当なんだろう。水の入ったタライも準備されている。
そして磨きが始まる。
削りと磨き出しも人力だ、砂煙と水煙が立ち昇り、少し慌ててこの場から退散した。
(少し吸い込んで、ムセた。)
先の屋内作業場からは、『ガッガッガッ!』と続いて聞こえて来る!だけどその音も段々と下がって行く。
やがて削り出しを行っているだろう大きな研磨の音は届かなくなった。
作業は止まっていない。多くのカニエンプラツァ達は作業者が入れ替わりながらも、白い一枚岩板へ向う姿は止まらない。
そして岩の表面を削り、擦っていた音が聞こえなくなると、白い粉だらけのゴッツイ男エルフ達が現れる。後ろに続くシズロック(男エルフ)が1枚の輝く石板を抱えて現れた。
石では無く、あの白い岩から切り出してくれた岩板だ!
大体の大きさは、1m50cm✕60cm、厚さは5cm位だ。ひゃあ〜凄い!想像以上だ!あんな大雑把な指示に対して完璧だよ。そして見た目も大変に美しい。
魚を乗せようと思う表面はツルツルだ!カニエンプラツァ達が目指すもう一つの側面である“磨き”が見事だ。
コレ、魚を焼くには勿体ないなぁ。『トキヒコハウス』の装飾品として、家の中で飾りたくなった。
ロウは白い一枚岩板を軽々と受け取り持ってしまったけど、私では多分無理です。
「スルガトキヒコ、何に使おう。」
カニエンプラツァ達も想像が付かないのかな。
そう言えばロウにも言ってなかった。
(まあ、ロウは私の意識を読み取っていただろうけど。)
「ええ、コイツを使って石焼きです。この岩板の上に魚を並べて焼くんです。そして今、働いてくれている皆へ『賄いメシ』を作って差し入れたいんです!」
それでは早速に戻って、この石焼き板に合せた土間作りだ。
あーコレ、どうやって持って帰る?
【補足・エルフによる”魔力“の行使】
エルフ達が持つ魔力は、基本自身の生命や生活を営む事の補助的な機能としての働きを多く占める。
そこにはトキヒコ思う互いの意識上での意思疎通、波動による伝播、思考の回転、記憶力の拡大、筋力の補助、各種鉱石の能力の発動等。
トキヒコが言う所の『魔法使い』的な魔力の行使は、外向きな魔力の行使となり、行為として現せられる者は極僅かしか居ない。
それはハイ・エルフと呼ばれ、鍛錬により自身の魔力を高みまで持って行った者。代表的なのは、エルフの里国の東西南に在る門の守護者達。
しかし、実際に外向きに魔力の行使となると、行えるのはエルフ王家の者達、邪竜の血筋の者達だけである。