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『トキヒコハウス』建設が始まる

 さくらが選び出してくれた場所に私(私とリーザ)の住むべき『トキヒコハウス』を建てる事を決めた。

 リーザに聞いた所、エルフの王宮(リーザの住居)からは、私基準の表現で80km程離れる事となり、私の足では歩いて行くにはちょっと遠い、行けないよ。さくらぁ〜オレが言った程々の距離が遠くないか?

 エルフの里国の王、女王ユーカナーサリーにして言えば、私を『近くに置きたい』範囲なのだそうだ。エルフ達の距離感が分からん。

 ザーララさんは少し機嫌が悪そうであった。(弁解とか言い訳はしません。山岳城に私の住む場所を設けて頂くお話しは、ありがたいお話し。お願いはしてませんでしたが、、、あー、いいも悪いも、まともな返事をしていなかったから、そりゃ怒るかもな。)



 今、『トキヒコハウス』の建設予定地に、多くのエルフ達が集まってくれた。

 ザドエッタ(ザドエッタ・ブドゥワックはストラシィ~建てる者、エルフの大工相当者)は、逞しいエルフ達に囲まれている。

 彼らもストラシィ(大工)達なので有ろう。その数5エルフ。

 そしてザドエッタが今回の『トキヒコハウス』を作る他のメンバーを集めてくれた。

 

 先ずはズレヅノォグロマジチキシェ~木材で組む者、建具屋さんで家具とかも作ってくれる。

「ストラーカ!久しぶり~来てくれたんだ!」

 ストラーカとはサッカー仲間だ(無理矢理付き合わせた感が有るが)。エルフは基本、球技の始まりは苦手、下手(見た事が無いから)。でも、競技の内容、動作、仕組みを理解すると、プロスポーツ選手みたいになってしまう。だけどストラーカはサッカーが余り上達しなかったみたい。でもその姿を見たら、エルフの皆が万能ではなく、得手不得手が有るんだなぁと、知る事にはなった。スマン。

「ストラーカ、ボールは蹴ってるのか?」

「そこはトキヒコ流である。程々と成ろう。」

 そっかそっか、全然いいよ、ホント久し振りだ。


「私の出番はのちと成ろうか。だがこの場に来ねば造作に向かおう採寸は不明であるからな。トキヒコ、何を望む?」

 望むってなぁ、大袈裟なんだけど。

「あ~そうだなぁ、この『トキヒコハウス』は、大きい窓を幾つか作りたく思う。それと明かり取りの天窓とかも。だから窓枠を作ったり、そうそう、オレの机が欲しい。少し大きいヤツ、それと椅子に食卓に本棚に、」

 あっ、一気に言っちゃった。これじゃあただの欲張りなだけじゃんか。

「トキヒコの多かろう望み。でも良いぞ、全てを揃えるが私の任だ。もっと出すのだ。」



 次にカニエンプラツァ~石工作や、石を切り出す者達。

 少し前に、エルフの里国の外に位置する、彼らの暮らす里『シェシイエ・カニエニイア』へと、ザーララさんとロウを伴って訪れた。そこの連中も来てくれてるのかな?

 相変わらず、上半身が異常に発達した、ゴッツイのが揃ってる。見た目怖い。

「ザドエッタ、今回カニエンプラツァ達の活躍の場って?」

 大きなお風呂場や洗面所、石畳が必要なスペースを考えてなかったけど。

「カニエンプラツァ達為れが行いし任は、建物の土台造りとなりましょう。ピジェツシェチ・シャタレイ(54)の場に組石を行い、建屋を乗せ様組み込み、固定と成ります。」

 へぇ~基礎は石を54ケ所も組んで、建屋の固定用の土台作りを行ってくれるんだ。

 確かに高床式とまでは行かないけど、土間を持つエルフ達の家と比べれば、(『トキヒコハウス』の設計図(イメージ図)は)床が一段上がった、地面から浮いたような感じなのかも。

 はっ!もしかしたら、それが『奇妙』だとか言われちゃった所以だったりして?


 今回『トキヒコハウス』の設計に『造する舟の者』ロダッヅストゥルクラが携わってくれる。

 それは私のイメージ図を見たロダッズと同様にザドエッタも“船舶”の印象を強く受けたからだそうだ。別に舟なんて意識していなかったのに。

 ロダッズの仕事っぷりのイメージだが、美しいアールを持つ船体を造り上げるのに、設計から材料集め、実際の製造工程も全て一人イチエルフで行ってしまう。

 一流の造船職人だ。

 そうだ、いつかジエジオラ湖に漕ぎ出す舟を作ってもらおう。


 私の居た世界には、風変わりとも呼べる形の多くの建物があった。

 人が住む家なんだけど、車や電車の型をしていたり、丸いの三角の家。ヒトの顔して作られた一般家屋を見た事が有る。

 また、用途による影響なんだけど、単純に建物の型としてみたら異質と思ってしまう物も在る。半分の球体が屋根になってるプラネタリウム、多くの窓に囲まれた高層ビルなんかも、時代によっては異質な建物だ。

 世界に目を向ければ、建物の形はその地域や文化によって全然違う。生活習慣や気候の環境の違いも有るから。

 寺院とか塔だって、住宅と比べれば異質だな。ピラミッドやドーム球場なんて、異型を放つ典型だったりして。


 と、ザドエッタとロダッズが中心となって、設計と建築を進めてくれる。見知った者が携わってくれるのは、凄く頼もしく安心感が有る。

 だけどなぁ、見た目の印象だったとしても『トキヒコハウス』舟では無いんだけどなぁ。


「でも何か、リーザ、いいのかなぁ」

 私から直接の対価も出ないのに、こうも多くのエルフ達が集まってくれるなんて、それだけでもう感激で涙が出そうだ。

「トキヒコさんは、ご自身の住居を建てます為の任を我らエルフに『頼み』与えました。成らば『頼まれた』者達は任を果たすのみです。」

 う〜ん、その理屈が理解出来ない。だってこっちの希望を誠意だけで受けてくれるなんて、無償でだよ。(私の居た世界では)有り得ない事だから、、、その上、対価を考え無くていいなんて、もっと理解出来ない。これは慣れる事は無いよなぁ。



 先ずは平地を確保する為の樹木の伐採を行う事になった。

 切る木は四本、どれも大木と呼べる立派な樹木だ。

 これらを使えば立派な木造建築の建物は余裕で建つだろう。あ、建材を乾燥させるとかは、いいのかなぁ。

 切られた木は、私の『トキヒコハウス』の建材として充てがわれ、その他残るモノもその後の建築資材となり、この場所に限らず多くの場所へ分散されて運ばれて行く。

 既設住居の修繕や増築先、または備蓄の為の集材場へと運ばれて行く。


 

 私は、目の前に立つ、大きな樹木を見上げた。

「この木を切ってしまうのか」

 樹齢何年とか分からないけど、数人が手を繋いで囲まなければならない程の太さである。


 この第一の伐採の前に、この場に集まったエルフ達による、何か儀式みたいな事が始まった。

 儀式(っぽい事だとしても)、エルフの里国の者達では珍しい、初めて見る光景。

 この場に集ったエルフ達は手を繋ぎ、肩を寄せ合い大きな輪を作り出した。

 そして切り倒す木を囲み、その輪が縮まって行く。

 最前列になった者達は、大木にピッタリとへばり付き、体と頬を木肌に着けた。後ろの者はそこに自身の身体を重ねて行く。皆で一本の木を囲み、それぞれの身体が密着されて行くような、、、その姿、何かの思い、皆の思いを切り倒す木に伝えているかの様に、、、。


「いや、ちょっと、オレもその輪に加えてよ!」

 オレの為に切っちゃうんだから。オレはエルフじゃ無いけどさぁ。

 私に振り向いたエルフ達は、私を迎え入れてくれる。

 私はエルフ達を縫う様にその先頭(木肌)まで進んだ。そして私の為に切られてしまう大木に対して、両手を広げて抱えた。


「それで、何してんの?」

「うむトキヒコ、ひとつの”別れ”と成ろう。成らば我らは送り出す。」

 別れ、、、そうだ、


「そうだ、そうだった、、、」

 オレは、浮かれていた。

「そうだった、、、オレの都合でオレの勝手でお前を切ってしまう事になる、、、だけど、許してくれるのか、、、」

 涙が流れた。

 いいのか?本当に切ってしまっていいのか?

 これは『犠牲』なのか。

 この大木は、オレに切られてしまう為にここまで育ったのでは無い。

 そう、オレの都合だ。オレはエルフ達だけでなく、この世界で暮らす全てのモノ達に迷惑を掛ける為に存在しているのか?


 木は、穏やかな風を受け、緩やかにその枝葉を揺らしている。

 この大きな樹木からの返事は無い。

 私では聞く事が適わないのだろう。


「だが同時に、新たなる生誕と同意である。」

 何で切っちゃうのに、生まれるって?


「トキヒコ、悲しまなくて良い。このドルゼワゥ・ロドジィシェルスキエ(親木)は役割を果たそう。」

「新たな任を持ちよう事。尚も多くの地へと渡れば別成る役割を持とう。」

「其は生誕と同じく。」

 私の背後を囲む、エルフ達からの声が届く。

「トキヒコの想いは伝わった、それで良い。」

「我らの任は、ドルゼワゥ(樹木)の次成る役割を生かす事。姿は変われど共に進もう道を作る事。」

「トキヒコの任は、それに乗る事。深く大きく構える事は無き。」

 簡単に涙を流してしまう私に対して、エルフ達に慰められてるみたいだ。


 予定通り、四本の大木は切り倒された。

 樹木の伐採は一度だけ見た事が有る(ネット動画でも数度観た)、ココにはチェーンソーなんて無いから、硬度な岩から削り出された薄刃のノコを二組のエルフが左右に持ち、ノコを引く。

 切断され倒れる方向を計算しながら、切り欠きを変えて行く。

 ゆっくりと、スローモーションの様に木は倒された。


 初めて樹木が伐採される場面に出会った時、その木は根元から切り離された瞬間に、多くの水が勢い良く立ち上がり、少し驚いた事があった。

 瞬間的に勢い良く吹き出された水、私はそれを切られた樹木が流した涙に見えた。

 今日はそれが無かった。私は、それが樹木からの『返事』で有ると感じた。いや、自分に都合良く思った。


 切り倒された大木は、枝木が払われて行く。そして真っ直ぐな一本の姿となった。

 ここからは、何にでも成れる!凄い可能性が伝わって来る。

 でも、それも私の都合なのだろう。自分に都合良く思っているだけなのであろう。


 切り残った根の部分も掘り返され、整地が進んで行く。

 あれだけの大木を支えていた根はさすがに大きく長い!

 だけどエルフ達は物ともしない。見ていて解る、効率良く掘り、切るべき場所は切り離し、力強く作業は進んで行く。

 重機などの使用が無いのに、それはエルフ達の力技以外の何者でも無い!


 この後、地面の一部を整えつつ、宿泊も兼ねた建設事務所的な簡易施設を作るまでは、ここを10km程降った先に在るという『ワスカゾワカ・ノガの里』(足先の里?何だソレ?)に滞在する事になるそうだ。

 そう言えば、『エルフ湯』の時は建築中の建物内で寝泊まりしている者もいたなぁ。特に気にしていなかった。薄情だな、オレ。


『トキヒコハウス』の建築が始まる。






 私の為に、エルフによって大木と呼べる樹木を切り倒してもらった。

 だけど後から、数年後になるが、聞かされた。

 エルフは生木を切る事は行わないと。

 エルフは森と共に生きる、いわば樹木は父であり母であり兄弟であり同房であると。

 なのに私は私の都合で、彼らの同房に彼らの手で切らさせてしまった。

 知らなかった。

 しかし、知らなかったからでは済まされない。知っていなければ成らない事は、どの世界であったとしても変わらずに有る事なんだ。

 この事を知った時、私は自分の存在自体が罪深い、人間は罪を重ねなければ生きては行けないのか?

 いや、これは自問では無く、答えなのであろう。

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