住処は何処に さくらの案内
「で、さくら、何処へ連れて行ってくれるの?」
今日はさくらの案内で、私の住処(住居、部屋?秘密基地!)となる、場所探しをする。
いつも協力してくれる3エルフには、さくらの『念話』で、私の場所探しは、今日は私達で行う事を伝えてもらった。いつもありがとうのお礼を加えて。
「リーザ、リーザの希望は有る?」
リーザには、私が抱く住処の場所の情景のイメージを共有してもらった。
これから作りたい、住む予定の場所は、リーザと過ごす新たな住居でもある。だからリーザの意見も取り込められたならな、と思う。だって『何処でもいい』のだから。それと、もしかしたら私の“終の住まい”となるのであろうか。
「トキヒコさんのイメージに映ります景色、私も同意と成ります。」
ええ、いいのかなぁ。私の好み、私の都合以外の何ものでも無いぞ。
チラッとさくらを見ると、小さく頷いた。
エルフは嘘をつかない(つけ無い。嘘が苦手)。だけどリーザは無理して私に合してくれているのではないかと、思ってしまう事が有る。多々有る。
リーザに対しては信頼しか無い。だけど種として劣り、特に何も持たない私に、こうも寄り添ってくれる事が何時まで経っても信じられない事は続く、、、夢なら、有り得るのだけど、現実だからな。
「ではお父さん、お父さんが思い描く、ぴったりな場所に行きましょう。」
「へぇ~そんなに言い切っちゃっていいのか?広げる風呂敷は、小さい方がいいぞ」
私達はさくらの左右に立ち、さくらのその手をそれぞれに握った。
さくらは『魔力』を行使した。
さくらは『翔ぶ』。何処であろうと、自分の望む場所へと向う(そうだ)。
さくらの『翔ぶ』は、ザーララさんの『ラタッカー』のように時間も空間も超越してしまう(そうだ)。
何も感じる事もないまま、私達三人は到着した。
「ここは、、、」
一瞬、まるで音が忘れ去られてしまったかの様な静けさの中に私達三人は立った。
背の高い多くの樹木に囲まれているが、陽の光は地面まで届き、花や草が溢れんばかりに咲き乱れている。そして私が飛び越えられる程の小川が、緩やかなカーブを描いて森の奥から先へと続いている。
(エルフの里国の森は不思議な森。樹木は陽の光を反射して、その光を地面まで届ける。)
気候もいい。
「どお?」
さくらが口を開いた途端、周囲が動き出す。
緩やかな風が流れ出し、花や木が揺れる、小川の流れる音が届く。鳥達のさえずり、小動物達の息吹を感じる。
「夢でも見ているようだ、、、」
私が想像した景色が目の前に現れた、そしてその場に立っている。
それは絵や写真の中に実際に入ってしまった様な不思議な感覚であった。
空想が可視化された、、、いや、言葉が当てはまらない。
「さくら、想像した通りの場所だ、、、いや、想像以上だ、何か言葉が出ない、、、」
狐にでも化かされた感じ。あっ、化かされた体験は無いけど。そう、現実として受け入れ難い程の想像(妄想)との一致。
戸惑う私の姿をリーザとさくらが微笑みを携え立っている。
あっ!今っ!この景色!今の二人の姿、今の二人の表情!
写真を撮れないのが悔やまれる!
私の瞳に写し出された、今の二人の姿をしっかりと目に焼き付けた。
「さくら、申し分ない!もうココでいいんじゃないかな」
あつ、猛獣の出現とか、リーザの住居からの距離は?
「そうね、距離に関しては程々かしら」
魔力での移動が適う、さくらの距離感が分かんないけど。
「猛獣に関してはゼロでは無いわね。彼らも生きる者、彼らの行動に関しては誰にも決められないでしょう。」
そうだよなぁ、だってオレだって、『自分の都合』で動き回るからなぁ。
「でも、お父さんが心配する程、彼らは現れないわ。」
そ、そう〜?
「ただねぇ」
「えっ、何かあるの?」
イメージのリクエストとしては、距離と猛獣ぐらいしか言って無かったけど。
「何て表すべきか、水の”気“が感じられるの。」
「水〜?」
「そう、水なの。」
「“水”って、今そこに流れている川の水?」
「そう、水は水、同じよ。」
さくらは何を言い出すんだ?
「ここには、多くの水を感じるの、それは溢れる様な。洪水なのかも知れない。」
洪水〜って、エルフの里国には、命を脅かすような自然災害は(殆んど)発生しないと聞いているけど。
「そうお父さん、ここでは自然災害の発生なんて皆無よ。稀とも言えないぐらいに。だけど感じるの、10年後なのか100年先の事なのか、この地には多くの水が集まる刻が来る。それはある意味決められた事。だけどそれが”何時“なのかは、分からないけど。」
「それ、ちょっと(相当)怖いなぁ。だけど何時の事なのかは分からないんだよな。でももしも、それが50年位先の事だったら、オレはもう居ないかもな」
さくらの案内してくれた一発目で、かなり気に入る場所である。
だけど水害は恐ろしい。
実体験は無いけど、テレビの向こうから映し出される災害の映像は、荒れる川、氾濫した川、押し寄せる黒い流れ、、、行く先に或る何物も関せず荒れ狂った流れは、突き進む。
止める事など誰にも出来ない。そして荒れ狂う流れの内部も渦を巻き、多くの物を巻き込みながら突進し、見た目以上の獰猛さで流れ続ける。
「だけどさ、実際に洪水が起こって、オレが流されでもしたら、さくらが何とかしてくれるんだろ?」
「う〜ん、そうね、何とか成る、かな?」
「だな」
リーザは私と人間社会を暮らして来た中で、幾ら人間の事を学んで来ても、この会話には加われられない。
さくらが感じた(何か見た?)水が、実は災害であり、多くの水が集まる事は早かれ遅かれ多分確実に起こるのだろう。具体的な日を示す事は出来ないみたいだけど。
それは、いつの日にかのこの先に、何かが起こるかも知れない、、、可能性の問題だ。だが、実際に災害が起こってしまった時、その対処方法は予想外の事が含まれるのは明らかである。
エルフは、予想外の発生も、予想してしまう。
予想外、、、準備が無い、答えが出せない、若しくは解決策が直ぐには見つからない。
それらに対してエルフは戸惑う。
何よりエルフは、曖昧な表現に慣れていない。曖昧な考えなど、持たない方が正確か?
私とさくらは予想外の事に対して適当に言い合った。それは楽観的であり他人事でさえとも聞こえてしまう程に。『たぶん、何とかなるだろう』と。
ある意味リーザが今の会話に加われない事は、エルフとしての性格、性質がその身体に構成されたまま、残っている証だろう。
それは、不謹慎かも知れないが、私は何処かで嬉しく思う。
リーザの本質が人間の性質に侵され過ぎていない、エルフとしてエルフらしくしている証でも有るんだ。
「だけどもし、オレが生きている間に、洪水だか災害が起こってしまったら、リーザを巻き込む事になる」
それだけは、何があっても避けたい!
「トキヒコさん、ご心配無く。」
リーザが一歩、進み出るかの様に胸を張る。
「私も『術』為れで、トキヒコさんをお守りします。」
そう、そしてエルフのリーザは強いんだ。
次に到着した場所は、鏡でも見ているみたい。イメージとしては陽の光の差し込み方、小川の位置などがさっきの場所とは真逆に感じた。
だけどこの場所も、わたしが持つイメージにぴったりと一致してしまう、理想的な場所だ。
「さくらスマン。さっき行った場所と、こことの違いが分からん」
どちかの場所も遜色無い。
その後も、さくらの魔力で多くの場所へ『翔ん』だ。
行く場所行く場所は、どの景色、周囲の環境、過ごし易さが感じられる場所、、、小川もちゃんと流れている。どの場所も、私が望む、希望する場所に間違いなかった。
さくらの広げた風呂敷、、、大きかった。
「さくら、色々とありがとう。でもさ、逆に選べ無くなっちゃったよ」
どの場所にも、これと言った決め手が無いのではなく、どこを選んでも遜色が無い。選びようが無いと言う贅沢。
やっぱりエルフの里国は、何処に行っても私が望む場所なんだ。
でもな、さくらがせっかく連れ回してくれたんだ。そしてそれらの場所から私の(私達の)住処となる場所を選びたい。だって何処も想像した場所、私が求めた場所に変わらない。
うーん、そうなると、やっぱり最初の場所になるかなぁ。
水害はちょっと(凄く!)怖いけど。
「最初に連れて行ってもらった場所、さくらは『多くの水』を感じたと言ったけど、さくらがオレの為に一番最初に選び出してくれた場所だろう。オレとさくらは似ている所が有る」(はず)
「だからさくらも「水」を差し引いても、あの場所が一番いい、オレに適していると感じたんだと思う」
多分な。
「お父さんさんにそう言われると、そうかも知れないわね。」
「リーザはどう思う。さくらが今日、連れて行ってくれた場所の中で」
「はい、トキヒコさんは最初の場を選ばれるでしょう。私も同意です。」
リーザと同意見なのは嬉しい。だけどなんだか、やっぱり私に合わせてくれてないのか?
「リーザ、私は一番最初の場所を選ばない。これから私達が二人で過ごす事になる場所を選ぶんだ。リーザは個としての住む場所を選んだ事が無かったから、リーザの初めての経験として、私達の住処の場所を選んで欲しい」
エルフとして戸惑ってしまう選択とは成らないだろう。エルフは自身の歩みを自身で決める。
リーザはその場で瞳を閉じた。
「トキヒコさん、私が選びます場所は、最初の地と成りましょう。」
リーザ、、、。
「私は先にトキヒコさんが持たれましたイメージを受けてます。私も良いと思いました。さくらが見させました多くの場、それぞれに違っておりました。」
いや、その違いが全然分かりませんでした。
「でもですね、トキヒコさんが私をエルフと留めますのと同様に、私がトキヒコさんと共に歩む事は同意です。ですのでトキヒコさん、私が選びますのも、最初の場所と成りましょう。」
リーザ、何か完敗だよ。
「トキヒコさんはエルフは嘘が付けないと申します、ですがトキヒコさんは、嘘が下手ですね。」
あ〜。
「お父さん、決まりね。」
さくら、何ニヤけてんだよっ!
「よし、決めた!確かにさくらが感じた『多くの水』が水害を引き起こす事だったら、それは問題だけど、、、住んでみなくちゃな、その時はさくらがなんとかするだろう。なっ」
オレの住処の場所が決まった。晴れ晴れしい!
改めて、最初の場所へと到着した。
今日見て回った他の場所と何が違う?見た目は然程変わらない。だけどココを選んだ事も何かの“縁”なのかも知れない、、、特に何も感じないけど。
「このまま少し、散策しよう」
先ずは流れる小川を辿って、緩やかな丘を登って行く感じ。
息を切らしたり、膝に来る様な斜面では無い。ゆっくりと緩やかに川を辿ったその先にも、まだまだ森が奥へと続いている。
「これ以上先は家が建ってから、ゆっくりと探検してもいいだろう」
そこから今度は少しゆっくりと下って行く。
「ココに『トキヒコハウス』が建つのかなぁ」
緩やかに下った先には平地が広がる。
ちょっとした大木は二・三本切る事になるかも知れないけど、それだけで建築スペースは確保出来そうだ。
「どんな家が建つのかなぁ(いや、設計図(イメージ図)描いたじゃん)、エルフの皆んなは上手くやってくれるだろう」
「リーザ、エルフ達が家を建てる時、向きって決まってるの?」
日本家屋であれば、東西南北、鬼門だとか
「トキヒコさん、我らも方位は尊重します。ですがトキヒコさんの望む向きがございましたら、その様に。後はザドエッタ為れが行いましょう。」
「何となくのイメージなんだけど、長めの家屋の両サイドに出入り口であるドアを付けたいから、(土地の高低として)上方向に向うドアと下に向うドアを真っ直ぐにしたいな。何となくだけど」
方位を無視しちゃってるかもな。
まあ、皆に相談してみよう。
次は小川に沿って下る形になった。
流れる小川の幅は1メートルちょい。軽い助走を着けなくても、土手に足を掛け難なく飛び越えられるけど、歳を取ったら無理かも。
深さは膝ぐらいかなぁ?でも水の深さって、表面で見てるより実際は深いからな。今日は入るの止めておこう。
「あっ」居る。
小魚なのか、エビなのか、何かが居る、住んでる!
これは楽しみだ!家が建ったら『トキヒコ観察記』に記してやるからな、待ってろ!
建築予定地の平面の先は、小川の流れ通りに下って行く。でも緩やかに、緩やかに。
そして視界の先は、まだまだ森が続く。
陽の光が足元に届く、エルフの不思議で美しい森が続く。
「リーザ、この先に誰かの里とかは有るの?」
ああ、それは右も左も、丘の上の先の森も。いやそれ以前に、この場所がどこら辺に位置するのか、全然分からない。
「そうですね、トキヒコさんに分かり易く申しますれば、この先に在りまする里が10kmと成りましょう。」
私の足だと10kmは案外遠いぞ。まあでも、2〜3時間も歩けば、そこへは行ける。丁度いいかな。エルフの誰かに迷惑が掛からない距離、かなぁ。
「お父さん、エルフの里国の皆さんは、10kmぐらいへっちゃらな距離よ。お父さんのご近所感覚と変わらないわ。」
やっぱエルフ、逞しい。
「まあ、今日の所はこんなトコかな。さくらありがとう。さくらのお陰で、大きなひとつが決まったよ」
あー、早く皆に伝えたい!
「それよりさくら、大丈夫か?こうも魔力を使い続けたら、、、夕飯の量が予想も着かない」
エルフ、大食らい。
「何よそれ!でも心配ご無用よ、お父さんが居るからね。」
ああ、ルイラーか。
そんなにもオレがルイラーを集めて、エルフの皆んなの魔力充電に貢献出来るのなら、、、『トキヒコハウス』改め、この場所で『レンタルボディー•トキヒコ』とか『トキヒコ魔力充電所』とかで開業したら、、、当たる!儲かる!一旗揚がる!
「お父さん、エルフの里国で商売は成立しないの。貨幣文化も無いでしょ!」
あー、そうでした。