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平日午後のマクドナルド

作者: べにー

 平日午後のマクドナルドに、人生を生き急いでいる人はいない。

 時間帯からしてセットメニューをがっつり食べる人もいない。ドリンク1つとポテトsサイズ、それらのサイドメニューをちびちび食べるなどして、みな気楽に過ごしている。パート帰りの主婦たちは夕飯のおかずについて話し、年金暮らしの老人はひたむきに文庫本を読み、学校帰りの女子高生はマックフルーリーを食べながらスマホをいじる。


 僕は気楽な彼らとは違う。ホットコーヒーsサイズを注文した僕は、電子マネーで支払いをスマートに済ませ、窓際の席に座る。彼らは甘くて冷たいものばかり飲んでいるが、僕はストイックな飲み物を選んだ。あえて人の少ない平日午後のマクドナルドに足を運んでいるのは、これからパソコンを用いて、仕事という建設的で価値のある作業に励むためだ。


 席に着くなり僕は困惑する。予想に反して、冷房の効きが悪い。最近のマクドナルドは省エネに気を使っているのか。夏なのにホットコーヒーを頼んでしまったことに、かすかな後悔が頭をもたげた。周りをみると彼らはみなコールドドリンクを飲んでいる。僕は彼らを見ないようにし、颯爽とノートパソコンを開く。僕の素早く華麗なタイピング音を聞くがいい。


 ふいに、後ろの席の老人が奇妙な喘ぎ声をあげた。居眠りでもしているのか。すごく気になる。マクドナルドとはいえ公共の場でそんな声をあげないでほしい。僕はイヤホンを忘れたことを悔やんで頭を掻きむしる。さらに老人は、何かしらの液体をずびずび啜る音を立て始めた。カップ麺でも啜っているような、液体と物体が混合して口内に吸い込まれる音だ。一体なにを食べているのか。このマクドナルドにそんな奇妙な音の鳴る食べ物はあったか。


 気づくと僕の指はタイピングをやめ、意識は周りの彼らに釘付けになっている。女子高生がスマホを振りかざし、派手な笑い声をあげる。主婦はマックシェイクを残さず飲み干そうとして必死にストローに吸いついている。後ろの席の老人からは生理的な音が絶えない。ふと、レジにいる母親から離れた子供がハッピーセットを手にやって来て、僕を見上げる。つぶらな瞳。

「おじちゃん、ここでなにしてるの?」


 僕の身体を衝撃が走る。


 平日午後のマクドナルドに、僕はもう用がない。ホットコーヒーsサイズを流しに捨て、ノートパソコンを鞄にしまい込むと、足早にマクドナルドを立ち去る。  

 言っておくが僕は今年で29歳だ。「ここでなにしてるの」だと?それはこっちの台詞である。平日午後のマクドナルドでの時間、建設的でないその時間を、さも幸せそうに過ごす彼らに、僕が大声で訴えたい台詞である。

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