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八重谷茉莉花はちょっとおかしい。  作者: 犬川くろのすら
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八重谷茉莉花はちょっとおかしい。5

 誰かが訊ねた。

 どうして桜はあんなにきれいなんだろう?


 誰かが答えた。

 それはね、桜の木の下にはきれいじゃないものが埋まっているから。


 誰かが訊ねた。

 それは何?


 誰かが答えた。

 それはね、金城くん……。




………………




 ……これは、ある殺人の話よ。

 大学生の男の子が殺されたの。死体は大学にある大きな桜の木の下で見つかった。

 首を刃物で掻き切られていたわ。絶命に至るまでに、何度も切った傷がついていた。初めて切ったんでしょうね。普通、そうだわ。

 首を切ったら人は死ぬ。けれど、どのくらい切ったら死ぬのかしら?

 犯人は確かめるように、最初は血が(にじ)む程度に傷つけてみる。プツッ。男の子の首筋に、鋭く小さな痛みが走る。

 次は少し深く。ズグッ。弾力のある肉を押し切るように、力を込める。男の子は耐え難い痛みと恐怖で頭がいっぱいになる。

 そう、思い出した。動脈を切ると、死ぬくらい血が出るのだった。でも、動脈ってどれ?これがそう?刃で肉を掻き分けながら、管を探す。その間も男の子の痛みと恐怖は増し続ける。もう死を覚悟する気持ちがあるのに、死ぬほど痛いのに、まだ死なない。

 ようやく見つけた。きっと、これが動脈だ。グッと引っ張ってみると、思ったより頑丈で、生き物みたいに脈打っている。……ああ、そういえば生き物だったわね。生き物の脈、これがそれだった。

 柔らかいのに、固い。おかしな感触に、なんだか笑ってしまった。パチンという軽やかな音を立てて、その管は分断されたわ。蛇口につけたホースが、水圧で外れかけているのを思い出した。不規則に水が飛び出してきて、飛沫が顔にかかる。生暖かくて、なんだか嫌な気持ち。

 それが収まる頃には、男の子は生き物ではなくなっていたし、管も脈ではなくなっていた。


 ……犯人は分かっていない。けれど、周りの人々は噂したわ。彼と仲が良かった4人の内の誰かが犯人じゃないか、って。

 だって、そうでしょう?何かすごい恨みが無いと、何か裏切られでもしないと、そんなひどい殺し方はできないわ。本当は、初めてだったから何度も切ったんじゃないのよ。殺すためだけなら、最初から思い切ってえいっと切ればいいもの。苦しめるために、苦しみの感触を手で感じ取るために、何度も何度も切ったの。

 だから、仲が良かった男の子に裏切られて、それで殺したんだって噂したわ。


 友達の一人は推理が好きな男の子。

 一人は元気で運動好きな女の子。

 一人は怒りっぽくておしゃれな女の子。

 一人は静かで読書好きな女の子。


 ……さて、犯人は誰かしら?

 そんなひどい殺し方をするのは、どの子かしら?

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