八重谷茉莉花はちょっとおかしい。2
コンビニに入ると、店員のものではない大きな声が俺達を出迎えた。
「あー、金城先輩、八重谷先輩。デートっスか?」
2年生の大志満桃子は、騒がしい女だ。
年齢の差を2年分加味したとしても、俺や八重谷とは何もかもが違う。運動だけが取り柄のような奴で、性格もまさに体育会系のそれだ。
特に女性として見ても八重谷とは対極にあり、共通項を探す方が難しい。八重谷は日本人形のような長い黒髪で、服装はカーディガンを羽織っていたり足首まであるロングスカートを履いていたり、全体像としては完璧に女性らしい女性だ。一方で、大志満は短く切ったショートヘアスタイル、Tシャツに上下ジャージ姿。今から走りにでも行くような格好をしている。
そんな奴はスポーツ系のサークルに入ればいいものを、何をトチ狂ったのか、専ら推理研究会に出入りしている。頭はあまり働かないが、たまに見せる天真爛漫な発想に感心する事も少なくはない。
「大志満、お前遅いと思ったらコンビニで何やってんだよ。」
「別にずっとコンビニにいたわけじゃないっスよ。自分、さっき起きたんで。」
平然と言う大志満にチョップを食らわせたくなったが、コンビニ店内は人の目があるのでやめた。あとで、よく振った炭酸飲料を与えるくらいにしておこう。
八重谷は大志満に一言声をかけただけで、すぐに店内の奥の方へ消えていった。その方向から「うっす」という別の女性の声が聞こえて、八重谷と入れ替わりに金髪の女性が顔を見せる。
里見香澄。大志満と同学年同学部で、つまり2年生コンビがコンビニに揃っているということだ。向こうから見れば、4年生コンビが揃っているとも言えるが。
「陽光くん、何してんの?」
「何してんのじゃないんだよ。今日発表会だろ?お前らこそ、何やってんだよ。大志満は寝てたとか言うし。」
「別に時間決められてたわけじゃないし……。」
耳のピアスを指で弄りながら、里見は気怠そうに言った。
それはそうだ。そうだが、普段メンバーが集まると言えば午後5時が通例となっている。こちらはそのつもりでいたのに、2年生コンビが揃って不在だったせいで、俺は八重谷と二人きりという気まずい空間を強要されてしまったのだ。
「ていうか、ウチも寝てたし。」
「なんでお前ら二人仲良く寝てんだよ……。」
「は?……なんで知ってんの?」
「あ?」
意味がわからない。二人とも寝てたと言うから、そう言っただけだ。
俺が首を傾げていると、里見はふと何か気付いた顔をした。「あ、そーいう」と呟き、俺に向けて「違くて」と弁解するように言い、最終的に「忘れろ」と呪いのように言って、八重谷の方に逃げていった。心なしか顔が赤くなっているように見えた。
「なになに、今のは何のトリックっスか?」
大志満が俺に興味津々で訊ねてくるので、「お前どこで寝てたの」と問い返した。大志満の住むアパートは、電車で二駅の距離にあるはずだ。
「え?どこって、すぐそこの香澄ちゃんの部屋っスよ。自分、家までは電車で……。」
「オッケー、分かった。深くは訊かないから深くは言うな。」
「なんスかぁー!」
「楽しそうね。」
再び顔を出した八重谷は、かごにいっぱいの飲み物と菓子を入れていた。発表会に備えて、だろうか。
大志満が「お誕生日会みたいっスね」と喜ぶ声にも、「お葬式よ」と無表情に返す。俺はなんとも言えない気分になり、なんとも言わずに黙って聞き流した。