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第6話 最強魔導士、無双

 黒いモンスターの群れが目の前を流れている。

 サルが村人を襲い、食い散らかしている。

 ()()()()、俺はこの光景に身の毛もよだつほど恐怖した。

 

 だが、今は怖くなんてない。

 俺にはもう、「魔法」がある。


 行かせまいと強く抱き止めるセロの腕を振りほどくと、俺は笑みを浮かべて夜空に飛び上がった。


 それからは一方的。

 ()()()()でやったとおり、翼を持たないサルでは決して届かない安全な空中から、サルどもを蹂躙じゅうりんしてやった。

 【念動力ねんどうりき】の炎、氷。【マインド】。【シーフ】。

 全部倒しきるのに十分もかからなかっただろう。


 間違いない。

 俺は最強。異世界で無双だ。


 魔法を放つ合間をみて、眼下のセロの状況を確認していたが、彼女は俺を見上げつつ、襲い来るモンスターには炎の魔法をお見舞いしていたようだ。俺が教えたとおりに。

 彼女は異世界の仲間、第一号だ。

 そして、俺を好きになった最初の人。

 きっと、彼女を幸せにしてみせる。

 でも、なんだか罪悪感がスゴいから、あとで【マインド】は外してあげよう……。


 サルをすべて撃退したあとは、片付けで村中を飛び回った。

 このままではサルの死骸で足の踏み場もないし、見た目も気持ち悪いから、【異空間魔法】で消していったのだ。ちょっとやりすぎて倒壊した家とかも。モンスターの全滅より、こっちのほうが時間がかかったくらいだ。


 それも終わり、朝日が昇りはじめた頃、ようやく空中から降りてきた俺に、セロはキラキラとした目を向けてきた。


「シュンは……、天からの使いだとでもいうの……」

「セロ、ケガはない?」

「ええ。私は……」


 そう言うと、セロの表情は暗くなり、辺りを見回すようになった。

 村人の心配でもしてるのだろうか。

 

 残念ながら、村人をすべて救えたわけではなかった。

 死んでしまった人間は多い。

 それでも、うめき声を上げながら倒れている男だったり、家の陰に隠れて血だらけになりながら震えてるおばさんだったり、チラチラと無事な姿もある。

 セロはそういうのにひとつひとつ目を配り、何か確認しているようだった。


「……シュン、私と同じくらいの歳の子を見なかった?」

「セロと同じくらいの……?」


 表情が暗いままのセロは「そう」とうなずく。


「肌が浅黒あさぐろの女の子なんだけど……」


 そう言って、セロは村内に駆け出していった。

 そうか。

 セロはその女の子のことを心配していたのか。友達かな。


 セロのあとを追った俺は、まもなく、彼女が地面に倒れるように座り込んでいるのを見つけた。

 すぐそばにあるのは、人の体だ。

 村のはじっこ、柵のそばのあの位置にあるのは……。サルを片付けていたとき、俺にも見覚えがある。

 思わず目を背けてしまったほど、一番ひどかった死体だ……。


「ロス! ロス! あぁあぁッ! ロスッ!」

「セロ……」


 掛ける言葉も見つからず、俺は()()()に歩み寄る。

 「ロス」という女の子はサルに食われてしまったのだろう。

 顔面はボロボロで見る影もない。銀色の髪が血や肉片にまみれ、片手と片足は食いちぎられ、持ち去られたのか、近くにはない。

 そんなひどい有り様にも関わらず、セロはロスの体に抱きつき、むせび泣いていた。

 

「ごめん、ごめん! ロス! 私、私だけが!」

「セロ……」


 俺は彼女の肩に手を置く。

 それでも彼女は止まらず、ロスをきつく抱きしめたまま泣き叫んでいる。

 よほど、「ロス」が大事だったんだろう。


「セロ、安心してよ」

「……シュン」


 ようやく向けてくれた涙顔に、俺は微笑みかけた。


「ロスは助かるよ。俺は最強の時魔道士なんだから」

「……?」


 涙でグシャグシャのまま、首を傾げるセロにうなずくと、俺は「時間逆行リトライ」とつぶやいた。

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