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第4話 最強の魔導士、誕生

 次の瞬間には、俺は元の部屋にいた。


 戸口ではドンドンと殴る音。それに合わせてギシギシと揺れるボロ小屋。

 背後の鏡はもう、光っていなかった。

 もしかすると、まぼろしか?

 セロやサルのことも含めて、「俺が異世界に来た」なんてのも全部ひっくるめて夢か?

 あらためて、少し疑いたくなってきたが、意を決して俺は【ある行動】をとることにした。


 まず、左腕をピンと高くかかげ上げる。

 右腕は水平に伸ばす。どちらも手のひらは伸ばすが、親指だけは折る。

 腕で直角を作るような感じ。

 足は肩幅に開き、大きく息を吸い込み――。


「俺はシュン、俺はシュン、シュンシュシュシュシュシュシュシューン!」


 声に合わせて勢いよく、伸ばした右腕を左右に四往復、振る。


「……」


 ハッキリ言って、クソダサい。

 売れない芸人の一発芸みたいだ。

 これが、女神とやりとりしてて、とっさに浮かんだ思いつきの動き。

 けど、だからこそ、だ。

 こんなメチャクチャな動きと掛け声、世界広しといえど、俺以外、するヤツなんていないだろう。

 この「一発芸」が、すべての魔法を習得するための【ある行動】なのだ。


 なのだけど……、これで俺は【最強の魔導士】になれた……か?

 実感ない……。

 そもそも、「心が読める」とか、「システムを作れる」とか、よくよく考えてみるとウソ臭くて仕方がない。


 俺は顔を上げる。

 サルにより、ドアは強く殴られつづけている。

 もうそろそろ破れてしまうんじゃないか?


 どっちにしろ、迷ったり、疑っている場合じゃない。

 女神がちゃんとやってくれたなら、今ので俺には魔法の力が身に付いたはず。確かめないといけない。


 手始めに、俺は自分のズボンに手をかざした。

 今の子どもみたいな背丈には合っていない、このズボン。

 「手をかざす」のを何でしたかは判らないが、俺は自然とそうしていた。


「縮め!」


 すると、ズボンは今の俺の体にぴったりのサイズに縮まった。


 できた……。

 魔法を使えた。

 女神や、俺が考えた【魔法システム】は夢でもウソでもなかった。

 そうなると、あんなに美人な女神ともう会えないかもしれない、というのは少し残念だな……。


 とにかく、だ。

 俺が今、発動したのは【な行】の【アイテムマスター】の魔法。アイテムを自由自在に使いこなせる魔法だ。念じれば、このとおり、ズボンの丈も思いのままってわけ。

 続けて、上に着ていたパーカーもサイズを合わせる。


 動きやすい格好を()()で整えた俺は、ふたたびドアを見る。

 その瞬間、ドアはぶち破られた。

 ゾロゾロと小屋に入ってくるサルども。

 暗いなか、ヤツらにとっての獲物、俺を見る眼がギラついている。不気味だ。


 だが、そんなモンスターを前にして、俺は笑ってやった。


「燃えろ!」


 迷いなく腕を上げ、叫ぶ。

 当然のように手から発射された炎。

 【か行】の【念動力サイコキネシス魔法】、【ファイア】だ。

 轟々(ごうごう)と火に巻かれたモンスターたちは、黒焦げになって次々に倒れる。


「ふふふふ……。よし、よし! 俺は魔法を使えてる!」


 完全に確信した。

 小屋を出た俺は、確信を持って空へと飛び上がった。これも【念動力】。

 地をうサルどもは、もちろん飛ぶことなんかできず、恨めしそうに俺を見上げてくるだけ。


 俺は、サルが妙に集まっている箇所のひとつを見下ろした。

 小屋の入り口の少し前、そこはセロが倒れていた場所だ。

 黒いサルが山のように集まって、おそらくはセロをむさぼっているのだろう。


 ()()()()()()()()

 この世界線では、彼女はもう死んでしまった。

 ()()は練習のターンだ。


 眼下のモンスターどもに、俺は手をかざし向ける。


「凍れ!」


 氷結するサル。


「混乱しろ!」


 同士討ちを始めるサル。

 よしよし、【マインド魔法】も使えてる。

 それにしても――。


「なんかダサいな。もっとそれっぽい魔法の詠唱がいいな……」


 考えた俺は、手をかざして「ファイア」と叫んだ。すると、さきほどの火の魔法が発射され、サルどもを火の海にした。

 どうやら、「掛け声」はなんでもよくて、「こういう魔法を放つ」というイメージの方が大事らしい。


 それから俺は、練習のため、サルを相手に魔法をひととおり試してみた。


 自分の体が家以上に大きくなり、肉体的に無双できる【騎士ナイト魔法】。

 サルを意のままに操れる【テイム魔法】。

 触れるだけでサルの体を綺麗さっぱり消せる【異空間魔法】。

 雨雲もないのに雷を落とす【光騎士パラディン魔法】。

 サルの腕を、足を、狙ったところを【盗み】、自分の体から生やすことができる【シーフ魔法】。生やした腕は自由に動かせたが、見た目が気持ち悪いからすぐ捨てた。

 虫の息にしたサルを回復してやる【僧侶魔法】。もちろんそのあとは殺した。

 【僧侶魔法】では蘇生も試したが、これはできなかった。まあ、【死んだ仲間が蘇る】のは、【時魔法】さえあれば不要だ。こっちのほうが便利だろうしな。

 

 完璧だ。


 あらかた魔法の()()()()が終わって、夜も明けてくる。

 太陽に照らされてあらわになる、タイト村の惨状。

 大量のサルが倒れて死んでいて、ヒトが食い散らかされている姿もちらほら。息があるものはなく、建物もボロボロに壊されてる。

 ま、大部分は俺がやったんだけども。


 でも、大丈夫だ。

 

 この様子なら【時魔法】も当然、使えるはず。俺は【タイムリープ】ができる。

 サルに襲撃される前に戻って、この惨劇をやり直せる。


 俺は右腕を明るくなってきた空に向かってかかげると、「時間逆行(リトライ)」と叫んだ。

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