Mission4 その男たち、最強につき その④
「憶えておけ、真野ぉ! 俺の執念深さは蛇よりタチが悪いんだからなぁ! 毎晩枕もとに化けてでてやるから覚悟しておけぇぇぇ!」
発狂したマントヒヒ。そうとしか表現できない態で土門はわめきつづけたが、それも長いことではなかった。
不快そうに顔をわずかにしかめながら真野が部下の一人を呼び、「その猿を黙らせろ」と命じたのだ。
かくして口にガムテープを何重にも貼られた土門は、「フガガ!」となおも何事かをわめいていたが、澤村を含めて視力聴力を向ける者はもはや誰もいなかった。
ひとつ軽い咳払いをしてから、真野は澤村に視線を転じた。
「つまらぬ邪魔が入ったな。さあ、続けたまえ」
「はい。それほど早くウランを手に入れておきながら、なぜ取り引きをすぐにおこなわなかったのですか? 十分にその時間はあったように思えますが」
「簡単なことだよ。派遣されてきたジハード国側のエージェントが、まぬけにも入国の際に麻薬所持で捕まってね。別のエージェントが来るまで待っていたのさ。それで取引きが遅れたというわけだ」
真野の説明に得心する澤村であったが、すぐに別の疑問が生じた。
「すると、容疑者として逮捕されたあのアラブ人は何者なんです? 」
「ああ、あれか。あれは新宿あたりを縄張りにしているケチなドラッグの売人だよ。公調の目をそらすために、われわれが偽のメンバーとしてつくりあげたのさ。ついでだから教えてやるが、君たちが追っていた原黒という男も、今度の計画のために同じ理由でわれわれがつくりあげた人物だ。君たちがビデオで見た男は、ほれ、そこにいるわ」
そう言って真野は、周囲をとりかこむ部下の一人を指さした。
指し示された先には、たしかにDVDで見たあの前頭部が禿げあがった男がいた。「うちの社員だよ」とは、宇羅桐の言葉である。
「ということは、ウランはまだジハード国には渡っていない。そういうことですね?」
「そのとおりだ。今言った理由にくわえ、君たちがコソコソと動き回ってくれたおかげでわれわれも下手に動けなかったからね。だが、かわりのエージェントも来日したし、ようやく取引きができる」
「ウランはまだ国外に出ていないんですね。よかった……」
安堵の息を漏らす澤村を見て、真野の顔にあきらかな驚嘆の色が広がった。
「ほう、見あげた心がけだな。自分の命よりウランのことを心配するとはな。傍らでわめいているボス猿とは天地の差だな」
澤村には好意的な視線を、あいかわらずフガフガとわめいている土門には侮蔑的な視線を交互に向けた後、真野は語をつないだ。
「どうだ、澤村君。われわれの仲間になる気はないか? この状況にあっても顔色ひとつ変えないその胆力はたいしたものだ。殺すには惜しい。君ならわれわれの組織で十分に働くことができるだろう」
「お断りします」
即答した澤村を、真野は糸のように細めた目で見すえた。
「ほう、一考の余地もないということか。よければ理由を聞きたいものだな」
「簡単なことです。まもなくあなたは密輸事件の首謀者として捕まり、刑務所送りになる身だからです。そんなあなたから評価されても嬉しくもなんともありません」
それに対する真野の反応は、またしても「無」であった。澤村の発した言葉の意味をとっさに理解しそこねたのだ。
困惑の光に満ちた目つきで、足下に横たわる澤村をまじまじと見つめることしばし。その口角から言葉が出てきたのは、じつに一分近い時間をかけた後のことだった。
「ほほう、こいつは面白い。私が捕まるというのかね、君は? できればその根拠を聞かせてもらいたいものだな」
「真野課長ほどのお人でも、おわかりになりませんか?」
「ああ。まったくわからんね」
「ではヒントをひとつだけ。課長はご存じなかったかもしれませんが、じつは視力がいいんですよ、俺は。小学生のときから現在にいたるまで、視力検査はずっと二・〇なんです」
わずかな沈黙をはさんで、毒々しい笑いが真野の口もとをかざった。
「ふん、何を訳のわからないことを。殺される恐怖で頭がおかしくなった……」
言いさして真野はふいに口を閉ざし、ふたたび足下の澤村を凝視した。
その端正な面上にみるみる狼狽の色が浮きあがってきたのは、それからすぐのことである。




