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第四話/巣立ちの日④

 幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。

 しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……


 彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――

 今、試練の扉が開かれる。


【登場人物】

中間爽哉なかまそうや  国宝級イケメン高校生

藤川千絵ふじかわちえ  爽哉の幼馴染にして彼女

木崎優子きざきゆうこ  第三十六代生徒会長。図書委員

小澤詩織おざわしおり  攻守両立のコミュニケーションお化け

本八幡香奈もとやわたかな 大手健康器具メーカーの社長令嬢

宮永遥みやながはるか   陸上部。インターハイ優勝経験者

皆川結衣みながわゆい  第三十七代生徒会長

本条鈴音ほんじょうすずね  第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在

中間涼香なかまりょうか  爽哉の妹

内藤亮介ないとうりょうすけ  爽哉の親友


「結衣!」

 眼前に辿り着こうとする少女へ声を掛けて、足を止める。行列の邪魔にならないように、渡り廊下の端に避けた。


「送辞、良かったぞ! 心に響いた!」

 手を差し出し、握手する。そして、その肩に手を置いた。これくらいのボディータッチなら千絵にも影響はないだろう。


「ありがとうございます! 先輩のご指導の賜物たまものです!」

 結衣はぎこちない笑顔で、俺の手を握り締めて言った。なんだかモジモジとしている。


「どうした? トイレでも我慢してるのか?」

 うつ向きがちだった結衣が顔を上げて、目をむいた。


「ち・が・い・ますよっ! あの、その、こんなこと言うのは何なんですが……」

 結衣は周囲をチラチラと見回しながら、紅潮した顔で口ごもる。


「私たちは先に行ってるね~」

 明るい声を放った千絵は、亮介を促して駆け出した。振り返るそぶりもない。俺を信用してくれているのだろう。二人を見送ると渡り廊下を外れ、柱の陰へ移動する。ここなら誰の目にもまるまい。


「その、職権乱用のようで、気が引けるのですが……」

 泣きそうな目で俺を見上げた結衣は、


「ボタンを、頂けませんか……?」


 一瞬で間合いを詰めると、耳元でささやいた。そのハムスターが餌をねだるような仕草が強烈に可愛い。破壊力抜群だ。


「あぁ」

 俺は冷静を装いながらも、心臓の鼓動と同じリズムで震える指を押さえつけ、袖のボタンをちぎって、結衣の手へ握らせた。


「この後、ホームルームがあるからな、袖のでいいか? 前を開けたままじゃ様にならんだろう」

 俺は茶化すように、努めて明るく言った。結衣は言葉を発することなく、ただ上下に何度も頷いている。


「おいおい、そんなに頭を振ると、気持ち悪くなるぞ」

 破顔して言うと、ようやく上下運動を止めた。手の中のボタンを見やり、まるで宝石を受け取ったように目を輝かせると、そっと胸に抱きしめた。


「一生、大切にします……」


 目を閉じたその姿は、菩薩のような穏やかさをはらんでいた。思わず、見惚みとれてしまう。


「すみません。呼び止めてしまって。私はこの後も職務がありますので、無くなっちゃうかと思って……。自分でも狡いとは思ったのですが……」

 結衣は言い訳するように、早口で述べ立てた。


「そんなことない。結衣にはお願いしてでも貰ってもらおうと思っていたよ。ありがとう」

 そう言うと結衣の眼は一瞬、トロンとけた。


「私……、一生、忘れません……。先輩と過ごした、この高校生活を……」

 結衣の瞳に大粒の涙が浮かぶ。


「おいおい、大袈裟だ。またいつでも会える。困ったことがあったら飛んでくる。俺たちの結束は、卒業くらいじゃ揺るがない、だろ?」


 結衣は口を引き結び、無理やりに笑顔を作ったようだった。一礼して、


「はい! また会いましょう!」


 大きく叫ぶと、綺麗に回れ右して駆け去っていく。

 その足取りには覚悟と力強さが感じられた。もう、昔の結衣ではない。俺たちの高校を、この浮かれるような想いを、新しい世代へと引き継いでくれるはずだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

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