第二十九話/木崎優子②
幼馴染の彼女と同じ大学への進学が決まり、国宝級イケメン高校生、爽哉の人生は順風満帆だった。卒業式を迎えたその日、第二ボタンはおろか、袖のボタンからネクタイに至るまで、全て取られるモテ男ぶりを如何なく発揮する。自らが築き上げた学園ハーレムの総括とでも言わんばかりに、爽哉の周辺は華やかさに満ちていた。
しかし、そんな彼を神は祝福しなかった……
彼女のストーカーに襲撃され命を落とした爽哉は、稀代のブサメンとして高校生活をやり直す現実を強いられる。学園の抱える問題、断ち切れない因縁、消化不良な想い……。ブサメンの自らと向き合う覚悟を決めた爽哉は、果たして絆を取り戻すことができるのか――
今、試練の扉が開かれる。
【登場人物】
中間爽哉 イケメン高校生→ブサメン高校生
藤川千絵 爽哉の幼馴染
木崎優子 第三十六代生徒会長。図書委員
小澤詩織 攻守両立のコミュニケーションお化け
本八幡香奈 大手健康器具メーカーの社長令嬢
宮永遥 陸上部。インターハイ優勝候補
皆川結衣 第三十七代生徒会長
本条鈴音 第三十五代生徒会長。爽哉の姉的存在
中間涼香 爽哉の妹
内藤亮介 爽哉の親友
大里拓馬 ブサメン高校生→イケメン高校生
その後、俺は図書室へ通いつめた。
梅雨が明けて、気温が上がりはじめた初夏のことだった。その時は、意外と早くやってきた。
「私、自分のこの引っ込み思案な性格が嫌なの。こうやって仲良くなれれば、気軽に話せるんだけど……。視力も悪いから、なんとなく目を伏せちゃって……」
「そうかな。受け答えはしっかりしてるし、よく本を読んでるからか、話の内容も明瞭でわかりやすいと思うけど」
俺は貸出カウンターの中で、優子の隣に腰かけていた。持ち上げすぎないように気をつけながら、話を聞いていた。
「そんなことないよ。そもそも、話し始めるまでの敷居が高すぎるの。すごく意識しちゃって……」
「そんなものかな」
「君は不思議だね。なんだか初対面じゃないみたい……」
俺はギクリとした。心中を見透かされているようで、背筋が凍る。しかし、優子は俺の冷や汗を気にする素振りも見せなかった。
「あぁ。私も本条先輩みたいに誰からも慕われるような、出来た人間になりたいな。生徒会長になるくらいだから、人間の格が違うのかしら……」
「そんなことない!」
思わず俺は声を荒げてしまった。優子のセリフはわかっていたはずなのに。
「そんなことはないよ。木崎さんは聡明で、篤実だ。ただ、一歩を踏み出せていないだけ、だと、思う……」
俺は静かに言い直した。
「一歩、かぁ……」
一瞬驚いたような表情を見せた優子だったが、味わうように俺の言葉を反芻していた。
「鈴ね……生徒会長に会ってみないか。幼馴染なんだ」
俺の腹は決まっていた。優子を生徒会長にする。これだけの才覚を埋もれさせておくことは多大な損失だと思っている。そして、俺が露払いになる。簡単なことではない事はわかっていた。俺は覚悟とともに言葉を紡いだ。
「木崎さんは生徒会長になるべきだよ。その資質を持っている」
「えぇーーーーーー!」
優子の絶叫が図書室に響いた。利用者の視線が一点へ集まる。優子は口を抑えると、立ち上がって一礼した。視線が散ったことを確認すると、ゆっくりと椅子へ座りなおした。
「無理! 無理! 無理! 何言ってるの?」
声を抑えながらも、力強く首を左右に振って否定する。
「なんで? 資質は俺が保証するよ。それに鈴音も昔は、結構抜けてたんだ。生徒会長をはじめて、あれだけ堂々とできるようになったんだ」
少し脚色を施した。
「本条先輩が? にわかには信じられないけど……」
「話だけでも聞いてみればいい。時間の無駄にはならないと思うよ」
優子は逡巡した。俺は黙って答えを待った。
「そうね。本条先輩には興味があったし。君がそういうなら……。橋渡しをお願いできる?」
「あぁ。予定が組めたら、また伝えるよ」
俺は努めて冷静に言った。
しかし、心臓の鼓動は痛いほどに激しく鳴っている。背中は冷や汗でぐっしょりと濡れていた。
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