死んだよだか
私は化粧でそばかすを消し、ショールを纏ってオアシスへ走っていきました。湖のそばには紅春さんが立っていて、妹が話せなかったことを思い出した私は、手をとってその手に「遅くなってごめんなさい」と書きました。
「気にしないで。こちらこそ、病み上がりだったのに悪かったね。」
私は首を横に振りました。頬がどんどん火照り、鼓動は逸りました。花畑へ行って、許可をとって摘んでは湖に浮かべました。「綺麗ね」と手に書きました。
「星も綺麗だよ。ほら。」
私はここでようやく月の明るさに驚きました。満月でした。星々に、氷の細粒を織り込んだショールを思い出し胸が痛みました。けれどその痛みはすぐに消え、今までにない幸福感にうち消されました。
「よだかの星って話覚えてる?学校の本に載っていた話。私見だけどね、よだかはやっぱり星にはなれなかったんじゃないかと思うんだよ。」
醜いよだかは美しく誰もが見上げる星にはなれない。けれどまさに今わたしは星になったよだかではないか。涙があふれて止まらなくなり、紅春さんの胸を濡らしてしまいました。ひとしきり泣き終えたところで抱きしめられていることに気付き、一気に体温が上がりました。
「もう大丈夫?」
「ええ。」
感動は冷めました。血が凍ったようにも燃えているようにも思えました。そこからはすべての動きがゆっくりしていました。思考は秒も数えられないほど緩慢でした。気付けば花園の真ん中に座り込み、片腕を紅春さんに掴まれていました。
「殺しました。私が、和美を、殺しました。」
そう言って私は再び泣き崩れました。よだかは星にはなれませんでした。凍り付いた翼を引きずって地面を這いながら見苦しく死んでいったのでしょう。