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 さわやかな風の吹く森の奥で、軽やかな笑い声を拾ってフキは身体を起こしました。

 すぐに駆けていきたいと思ったフキですが、がまんです。

 じっとじっとがまんして、おとなりさんの頼りない足音がすぐ目の前の木の向こうまでやってくると、こらえきれずに顔をのぞかせました。


「おとなりさん!」

「ひいっ!」

「うわあ!!」


 木の陰から顔を出したフキが見たのは、腰を抜かした男たちでした。おとなりさんはそのとなりで腰に手を当てて立っています。


「フキ、彼らは町の人よ。あなたにお礼を言いたいんですって」

「お礼?」


 首をかしげるフキの前で、ふたりの男は地面に這いつくばりました。


「フキの主! あなた様の与えてくださった薬草のおかげで病は去りました! 多くの命が救われたのです。本日は、心ばかりのお礼の品を……」


 言って、男たちはそばに落ちた布包みを引き寄せ、フキに向けて押し出しました。ここまで背負ってきたのでしょう。ふたりの男がそれぞれに荷物を差し出しています。

 その包みを眺めて、フキはもう一度首をかしげました。


「草を運んだのはおとなりさんだ。ひとを救ったのはおとなりさんだ。病に勝ったのはひとがおとなりさんを信じたからだ」


 森で病に侵された子どもを拾ったとき。フキは遠い昔にそれを退ける草を扱うひとがいたのを思い出しました。そして、子どもを助けるために町へ行くと震えながら言うおとなりさんに伝えたのです。

 その草を町に運んだのはおとなりさんでした。

 出会ったときのおとなりさんの姿からして、町のひとに良い思いを抱いてはいなかったはずです。おとなりさんになってからずっと、森を出ようともしない姿をフキは見てきました。


「礼ならば、おとなりさんに」


 フキが言うと、男たちは慌てておとなりさんにも頭を下げます。


「はい! それは、それはもちろん! 魔女どのにも感謝をしております!」


 感謝を、と言いながら青ざめている男たちに、フキは胸がもやもやしました。おとなりさんがうれしくなさそうなのを見ると、もっともやもやします。


「そういうのはいいわ。ありがたいと思っているなら、布と鍋をちょうだい」


 おとなりさんがひらひらと手を振ると、男たちは目を丸くしました。


「そ、そんなもので……?」


 ひとりの男が言いかけたのをもうひとりがさえぎります。


「そんなもので良ければ、すぐに!」


 言うが早いか立ち上がった男の背に、おとなりさんがくちを開きます。


「森の入り口にでも置いておいて。自分で取りに行くから」


 先に行った男の背を追って駆け出したもうひとりが「おっしゃる通りにいたします!」と叫ぶように言って去って行きました。

 森のなかは元のとおり、フキとおとなりさんのふたりだけ。


「良かったのか」

「何のこと」

「礼をくれるというなら、町に寝床を求めれば良かったのではないか」


 フキがたずねると、つんつんしていたおとなりさんはもっとこわい顔になりました。


「あたしがとなりに住むのが迷惑だってこと?」

「めいわく?」


 きょとんとしたフキは、おとなりさんが来てからのことを考えてみました。

 ちいさかったおとなりさんは、フキに寝床の材料を集めてほしいと言いました。ちいさなおとなりさんを連れて森を歩くのは、嫌なことではありませんでした。

 おとなりさんが食べ物を探していたとき、フキは案内してあげられませんでした。けれど何度かいっしょに森を歩いて、今ではおとなりさんの食べ物がどこにあるのか知っています。ひとりで見つけたときは胸があたたかくなり、おとなりさんに持って帰ったときはお腹がほかほかします。

 それがうれしいということだと、フキは知っていました。


「おとなりさんといると楽しい。おとなりさんがいるとうれしい。おとなりさんとさようならをするのは、さみしい。でも……」


 おとなりさんとのさよならを思い描いて、フキはさみしくなりました。けれど、フキはもっとさみしいことがあるのだと知っています。


「おとなりさんが永遠にいなくなってしまうのは、もっとさみしい。生き物はみんな、いつか身体を残して遠くへ行ってしまうから。フキは、不帰の客を見送るのが役目だから」


 フキの目から涙がこぼれます。ほたほたと地に落ちた雫は、敷き詰められた木の葉に吸い込まれて消えました。

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