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 ある森の奥深くに、永遠の命を持つフキの(ぬし)がおりました。

 フキの主は歳をとることもなく、飢えることもなく、ただずっとそこにいるのです。

 遠い昔には獣のそばで暮らしたこともありました。ひとの暮らしに寄り添おうとしたこともありました。

 けれど誰も彼もがフキの主を残して老いて、あるいは病を得て死んでいきます。そのたびフキの主の胸は締めつけられて死んでしまいそうなほど苦しくなるのに、それでもフキの主の永遠の命は尽きることがありません。見送ることこそ、フキの主の役割だったからです。

 そのため、フキの主はもうずいぶん前から何かに寄り添うことも、誰かと触れ合うこともやめてしまいました。


 ただ時がうつろうのを眺めて生きながらえていた、そんなある日。

 フキの元にひとりの女の子がやってきました。

 薄汚れてやせ細った子どもは、フキを恐れることなく見上げます。迷い子だろうか、とフキは久方ぶりに思考を働かせました。


「あなた、ここでくらしてるの?」


 見た目の幼さの割に、しゃんとした口調で女の子が言います。


「ああ」


 久方ぶりに出したフキの声はひどくしわがれていました。幼い子どもを怯えさせてしまうだろうか、とフキは思いましたが、女の子はびくりともしません。

 それどころか、フキを真っ直ぐに見上げたまま続けます。


「だったら、おとなりにすんでもいいかしら」


 フキはぱちぱちとまばたきをしました。それを見て、女の子ははじめて表情を変えました。


「あたしがいたら、迷惑?」

「いや」


 とっさにそう答えたフキは、その瞬間の女の子の顔を見て自分に心があったことを思い出しました。

 いいえ。長い長い時のなかで死んでしまったフキの心が、息を吹き返したのです。久方ぶりに、誰かと交わす会話がフキの心を浮き立たせました。

 ちいさな女の子が自分の望む所へ行けるようになるまでの間だけ。それくらいの付き合いならば、いつか去る女の子の背中を見送ってもほんのちょっとのさみしさを我慢すれば済むはずです。

 フキはそう考えて、女の子に笑いかけました。


「よろしく頼む、ちいさなおとなりさん」


 その日から、フキとおとなりさんの暮らしがはじまりました。

 とは言え、そこは深い森の奥。暮らしを整えるのも容易ではありません。


「あきれた。あなたってあめかぜをしのぐほうほうもしらないのね」


 寝床の作り方をたずねにきたおとなりさんに言われて、フキは肩を落としました。

 返す言葉もありません。無闇と長く生きてきたくせに、フキはただ生きてきただけでした。雨に降られても風邪をひくこともなく、風に吹かれても寒さを感じない身体を持っていたために、フキはずっと、ただ森の奥にいただけなのです。

 遠い遠い昔に獣と過ごしたときも、ひとの間で暮らしたときも、フキはいつも邪魔にならない場所に丸くなって寝ていたのです。


「すまない。だが、言ってもらえれば材料を集めよう」

「だったら、おおきなはっぱがほしいわ。あめをはじくおおきなはっぱ。それから、きのぼうをいくつかと、じょうぶなつるがほしいわね」


 おとなりさんに言われるまま、フキは葉っぱと木の棒を集めます。つるも何本か見つけました。

 集めた材料はちいさなおとなりさんの手で組み上げられ、ちいさなちいさな三角の小屋になりました。ちいさなおとなりさんが寝るのにちょうど良い大きさです。


「つぎはのみみずとたべものね。あなたはいつも、どこからてにいれているの?」


 おとなりさんに聞かれて、フキはまた困りました。食べなくても死なないフキは、食べ物を探したことがなかったからです。

 またあきれられるかと思いましたが、おとなりさんは肩をすくめただけでした。


「たべないひとがたべものこことをしらないのはとうぜんよ」


 そう言っておとなりさんは歩きはじめます。食べられるものを探して森を歩くのだという彼女をフキは追いかけました。

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