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国宝の剣はドラゴン産

作者: 煽り虫

「ここがそうなのか?」

「はい、エスタンシ様。麓の集落及び冒険者達からの情報によると間違いございません」


 岩肌がゴツゴツと剥き出しになっている山頂付近に、エスタンシと呼ばれた高貴なオーラを纏う男と付き添いの者たちがいた。事実エスタンシはこの国の王族の血を引く者で、国王からの命を受けこの山に来た。出された命は


【ヴィエイチエス山に住まうドラゴンの元に行き、王家に伝わる剣を鍛え直して来ること】


というもの。剣を鍛え直すだけなら、宮廷鍛冶師に任せるか名工が多いドワーフに任せた方が良いのでは?という疑問を喉元で止めて了承。馬車でヴィエイチエス山の近くまで行き麓から山頂までは歩いてこの場所に来た。

 国王から渡された地図を元に大きな洞窟の前まで行き口上を述べる。


「ヴィエイチエス山に眠るドラゴンよ。剣を鍛え直して貰いたくて参上した。顔を出してはくれまいか?」


本当に出てくるのか?半信半疑の空気が流れる。その時


『誰だぁ?』


とても人間が出せるとは思えない低い声で返答があった。


「私はデッキ国第一王子のエスタンシ王子だ」


暫し間が空き


『あぁ、デッキ国かぁ?ディータンシは元気かぁ?』

「我が国の国王の事について聞いているのか?陛下は健全である」

『そうかぁ、もうそんなに経つかぁ。今出る』


今出る?


 ノシノシと黒いドラゴンが洞窟から出てきた。大きさは中級程度だが恐ろしいのは変わりない。緊張した空気が辺りを包む。


『まぁ、肩の力を抜けやぁ。で、剣は?』

「これだ!」

『ちょいと王子さんよ。その剣、振ってみてくれやぁ』


ドラゴンに言われるがまま剣を振る。それを真剣な眼差しで観察するドラゴン。


「如何だろうか?」

『あぁ、わかったぜぇ。鍛え直してやろう』


 ドラゴンは剣を掴むと深呼吸をし…


『【炎息吹】』

「「えぇーーーー?!」」


 刀身にブレスを吹きかけた。ドラゴンのブレスと言えば街一つ破壊するのもわけ無い程の威力を持つ。それをたった一つの刀身に当てたのだから驚くのも無理はない。原型を維持できるギリギリまで熱せられ真っ赤になり、人ではとても持ちきれなそうな大きなハンマーでドラゴンは剣を鍛え始めた。一撃一撃は強力で大地も揺れるほど。そして頃合いを見て、今度は【氷息吹】で瞬間冷却、それらの3工程を数回繰り返し最後の仕上げに入った。


『仕上げに入るぜぇ』

「あぁ、頼む」

『ハハハ、この振動に耐えられなくちゃ魔王が出た時にやられちまうぜぇ?』


 ドラゴンは自身の鱗を1枚剥がすとそれを砥石代わりに剣を研いだ。ドラゴンの鱗は世界有数の硬度を誇る。それで研がれた剣は以前より素晴らしい物に仕上がった。


『出来上がったぜぇ』

「おぉ…な、なんと素晴らしい…」

『振ってみなぁ』


早速、手に取り振るとまるで生まれた時から手にしているような一体感があった。そうこのドラゴンは、先程のエスタンシの剣の振りを見て彼の癖・好みを把握してそれにあった剣に仕上げたのだ。


「ありがとう。これで私の受けた命は達成出来る」

『そうかぁ』

「してドラゴン。報酬は何を望む?」

『お前さんが王になった時、俺の事を討伐依頼に出さないように便宜を計ってくれぇ。あと変わらず食料をたんまりと届けてくれぇ。死にたくねぇからなぁ』

「わかった。エスタンシの名の下に誓おう」

『頼むぜぇ』


 剣をしまい帰路につく。道中何事もなく無事に城に着き、謁見の間にて国王に報告となった。


「エスタンシよ。この度の働きは大義であった」

「ははー」

「してドラゴンの様子は如何であった?」

「声に覇気はないものの元気な様子でした」

「であるか」

「失礼ですが陛下。発言よろしいでしょうか?」

「ふむ、許可しよう」

「あのドラゴンとこの度の剣との関係を知りたいと存じます」


 国王の口から語られた話は驚くべき物であった。まだデッキ国が国ではなく集落であったころ。集落の長の孫、のちの初代国王ケーブルはある1匹の幼竜を保護した。幼竜はグングン成長し孫が青年になる頃には今と同じくらいにまでなった。その時、どこからか魔王が復活したと言う話が出た。ケーブルはその話を聞くと自身が魔王を討つと言った。その時、成長したドラゴンから育ててくれた恩返しとして剣が贈られドラゴンはどこかに飛び立った。

 その剣は岩をもチーズのように切り裂ける優れもの。ケーブルは旅をし信頼できる仲間作り無事に魔王を倒した。その功績を讃えられ当時の貴族から集落一帯の土地を与えられ仲間と共に盛り立てていった。

 ケーブルも歳を取り後継者に次を託す事になった。そこで心配なのは、また魔王の様な危険な存在の出現。その時に頼りになるのはあのドラゴンから贈られた剣。魔王を討ってから久しく取り出した剣は所々刃こぼれしていた。当時、名工と呼ばれた者たちに研ぎ直しを依頼したが誰もできなかった。剣とは硬いだけでは脆く柔らかくては決定打にかける。その剣はそれらを極限まで高めた物で人間の手では如何することも出来ない。

 ケーブルは考え、もしやあのドラゴンなら出来るのではないかと考えた。国中にお触れを出しあのドラゴンを探すと意外とあっさりと見つかった。なんとあのドラゴンは度々、人里に降りては食物と自身の鱗を引き換えに手に入れていたのだ。


『よぉ、随分と歳を取ったなぁケーブル』

「私は人間だから当たり前だよ」

『お前さんと過ごした日々…よぉく覚えているぜぇ』

「私もだよ。でも何故いきなり私の前から姿を消したんだ?」

『そりゃあ、王になる人間のそばにバケモンがいちゃあ不味いだろぉ?』

「私から見れば君はいつでも可愛い幼竜だよ」

『よせやい、照れるじゃねぇか』


ケーブルは早速、剣のことをお願いした。ドラゴンは快く了承したが条件を出した。


・次期国王となる予定の者が此処に来て頼みに来ること

・自身の討伐依頼を出させないこと

・30日毎に食料を供えること


だった。もしこれが破られた場合、その代の国王の為に剣は鍛え直さないだった。事実、ドラゴンに鍛え直された物は使い手は最高のパフォーマンスが出来るからだ。それ以来、代々この引き継ぎ作業は行われてきた。

 ある時は、魔王軍の生存部隊から発生した新生魔王軍を撃破したり、隣国から攻めてきた巨大なゴーレムを倒したり…デッキ国の歴史を刻むのには欠かせない物となった。


「その様ないわれがあったのですね」

「この剣は国の象徴でありドラゴンとの友好の絆でもあるのだ」


 エスタンシはその後、無事にデッキ国の王となりドラゴンが鍛えた剣と共に国を盛り上げていった。そして自分の次世代の者に跡を継がせる年齢になった。


「エイチディエムアイ、只今参上しました」

「うむ。お主にはこの剣を鍛え直して貰ってきて欲しい」

「わかりました。では宮廷鍛冶の者に…」

「あぁ、違う違う。この剣を鍛え直せる者は決まっておるのだ」

「宮廷鍛冶師以外にですか?その者の名前を伺っても?」

「名は知らぬのだが種族はドラゴンだ」

「ドラゴン⁈」

たまには王道な?ファンタジー物が書きたくて書きました。

【ざまぁ】や【追放】ではなく…

でもこれはドラゴンにとっては【スローライフ】になるのか?

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