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後編① 潰える希望

 

「つ、償う……機会、だと……!?」

 ラックの怒りは既に頂点に達していた。しかしティノンは変わらずソファに腰を下ろしたまま、ラックを睨んでいる。

「まさかとは思うが、俺の言葉を嘘だと思っているんじゃあ……」

「こんな場所でハッタリを言える程、肝が太い男だと思っていない」

「だとしたら、お前は状況をまるで理解していない! そんな大口を叩ける様な……」

「お前の思う通りに事が進めば、の話だろう」

 さして焦る様子もなく、ティノンは懐から電子タバコを取り出し、口にくわえた。しかしそこでラックが掴みかかり、口から電子タバコが落ちる。

 ナドーは静かにラックの横に回り、拳銃に手を掛ける。

「何を企んでいる、ティノン、ハスト……!?」

「はぁ…………」

 掴んだ腕を、逆に掴み返した。太く浅黒い腕を、細く血色の良い腕が捻じ伏せていく。

「何にも学ばなかったんだな。こんな奴等に、何の罪もない民間人が殺された……私の所為だ……」

「何を言っている……何の話を!?」

 開かれたティノンの瞳。人の手で造られた義眼から殺意の光が放たれる。ラックはおろか、ナドーの背にも刺し貫かれる様な悪寒を感じた。


「今すぐにでも、お前達を殺してやりたい」


 不気味な静寂に包まれたのも束の間、ラックの耳につけられた通信機に音声が流れた。

『ラック……ミサイルサイロに、機動、兵器…………がはぁっ!!?』

 たったそれだけの言葉。それだけの言葉で、ラックは自分達が負ける未来を見てしまった。

「何にも見えていない。お前達はあのテロを仕掛けた時から既に負けている。戦い方を間違えたんだよ」


 電子タバコを拾い上げる。溜息と共に吐き出された蒸気が、ラックの視界を遮った。



「何で、何でここを嗅ぎつけたんだ!?」

「ぁぁぁ来るな来るな来るなぁ!!」

 アクトニウムミサイルを整備するサイロ。そこはミサイルを置く場所を除き、高さは7メートル程。機動兵器など入る余地はない。

 しかし、現実にこの狭い空間で、2機の機動兵器が虐殺の宴を開いている。

「グラス、ミサイルの発射制御装置は見つけた?」

「待ちなさいホッパー。焦れば装置を破壊してしまうわ」

 整備場を走り回る2機の内、1機は上半身のみで這い回る人型。もう1機は小型機銃が備えられた4本の小型アームと、巨大な逆関節脚部を持ったバッタに似た戦闘車両。グラスが駆るサイロ内を這い回る人型は阻もうとする兵士を腕で潰し、ホッパーが駆る戦闘車両は施設の壁に大量の風穴を開けていく。

「早く見つけてよグラス。これじゃ弱い者虐めよ」

「煩いホッパー。……ん、ようやく見っけ」

 壁をマニピュレーターで引き裂き、電装室へ侵入。指からハッキングコードを射出し、コンピュータを操作する。

「んっしょ、さてさて、ゲームスタート」

 グラスの細い指が次々とパネルを弾く。ウィルスバスターを解析し、潜り抜け、セキュリティを徐々に解除していく。

「じゃあ私は兵士を殺すわ。いっぱいいっぱい殺してお姉様に褒めてもらうの」

「ホッパー、白衣を着たおじさん達は生け捕りにしなきゃダメよ」

「うん、分かった」

 ホッパーの機体の側面から小さなミサイルが発射。空中で炸裂するとネットが開き、科学者達に絡みついていく。

「な、んだこれ、ぎゃっ!?」

 ネットからは微小な電流が流れ、科学者を気絶させる。ワイヤーを射出すると、背部の格納ユニットへ回収していく。

「じゃあ、兵士おじさんは死のうね」

 小型アームと脚部から伸びた機銃は一切の躊躇いも狂いもなく兵士を射殺していく。

「グラスー、まだー?」

「せっかちだから男にフラれるのよホッパー。……何で解除コードが無いの? 欠陥兵器め。ん〜面倒臭い。じゃあ一から作る」

 指がパネルで踊り狂う。背後で響く銃声と悲鳴を作業用音楽にし、強制停止用のプログラムを作っていく。ミサイルを制御する複雑なプログラムに噛みつくコードは、グラスの手によってものの数分で完成した。

「ん、ん、ん〜……よし、出来た。ミサイルさん、ねんねしましょうね〜」

 即席の停止コードが打ち込まれる。パネルに文字が浮かび上がった。


《コードが入力されました。発射シークエンスを緊急停止します》


「はい終わり、帰るよグラス」

「オッケー、ホッパー」

 2機はサイロを後にする。血の海と化したサイロからは、もう何も音は聞こえなかった。


 だがサイロの外はそうはいかない。騒ぎを聞きつけた少数の部隊によって取り囲まれていた。

「あー、外が包囲されてるー」

「仕方ない、ホッパー、適当に撃破して逃げるよ」

「あいあいさー」

 ホッパーの戦闘車両がグラスの人型の上に覆い被さる。腹部の接続端子に戦闘車両の小型アームが接続、側面の装甲が開いてその部位を覆う。

 下半身は腿の部位からブースター、スラスター、冷却装置が露出。上半身は両肘の装甲が開き、マニピュレーターが格納、代わりに赤熱した鎌を出現させた。


 《ドールジン・ホッピングサイザー》。潜入、強襲に特化した機体である。


 弾幕の中をステップ、起伏の激しい地形を難なく走破していく。

「ホッパー跳んで。上の2機をやって離脱する」

「ほい、グラス」

 ブースターが点火、スラスターからも火を噴き、地面を穿つ大跳躍。山の頂上まで一気に到達する。

「ギールアイゼンか」

「私あれきらーい。パパとママ踏み潰した奴。グラス、念入りに潰そ?」

 向けられたライフルへ脚部の機銃を掃射。破壊された隙をついてスラスターを噴射、ギールアイゼンの1機を踏みつける。

「潰れちゃえ!!」

 再び大跳躍。反動でギールアイゼンの上半身が潰れ、山から転げ落ちていく。

「お前の方は……斬る!」

 ホッピングサイザーは空中で前転。回転と落下の勢いと共に振り下ろされた両腕のヒートサイズが、もう1機のギールアイゼンの両手両脚を切断した。

 最後に背中を蹴り抜いて山を一気に落下。背後の爆発音をしっかり聞き、ホッピングサイザーは着地。脚部の冷却装置が爆音を鳴らしながら放熱する。

「ブイブイ。気持ち良かったわねグラス」

「帰りは迷彩を起動していきましょうホッパー。疲れたわ」

「賛成」

 ホッピングサイザーの装甲が周りの風景を反射。透き通る様にその姿を消し、戦場から去るのだった。



続く

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