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中編③ 黒き騎士王

 

 発射炎が噴き、またグリーブガノンが破壊された。

「所詮、雑魚の集まりか」

 廃墟の影から狙撃を続けるヴォイドガルッフ。硝煙と土埃が舞い、機動兵器が乱闘を繰り広げる戦場では狙撃場所の特定まで手は回らない。

『押し込めっ、押し込め!』

『前線を上げていくぞ、補給が必要な者は一度下がって次の部隊に ──』

「……そろそろ移動しなきゃなー。っと、おいリコベー、良い頃合いだから一回戻れ。私を指定ポイントまで送ってもらう」

『あーい、今行きます姐さん!!』

 返答から約10秒、ボロボロな廃墟の外壁を突き破り、ロードプレッシャーが到着した。

 上半身を格納し、高速走行形態へ簡易変形したロードプレッシャーの上にヴォイドガルッフが搭乗。巨大な狙撃ライフルを抱えた機動兵器を乗せたまま、ほとんど変わらぬ速度で走り出した。

『しっかし雑魚ばっかでつまんないっすねー!』

「前線にいるのは頭数揃える為の奴等。奥に行けば元軍人とか昔から傭兵やってる奴等がいるからきっとこう上手くはいかない」

『何で?』

「そりゃ後ろに本命がいるからに決まってんだろ。機動兵器……いや、もっとデカいのが……」

『爆弾とか?』

「爆弾ってお前…………っ!?」

 会話を遮ったのは2機を狙った爆発。


 背後を見ると、高速走行形態のロードプレッシャーに追走する1機の機動兵器。白く輝く装甲を纏い、細い機体には不釣り合いな巨大ブースターを背負っている。手にした武器はハンドバズーカ、腰にはハンドアックス2本を装備している。


「グリフィアとガルディオンを3:7で混ぜたみたいな奴だな……」

『野郎、姐さんとのツーリングに水差しやがって!』

 ロードプレッシャーの機銃とミサイルポッドが反転、謎の機動兵器へ発射。しかし踊るような動きで回避、再びハンドバズーカを放ち、タイヤのすぐ横の道を撃ち抜き、ロードプレッシャーの機体を傾かせる。

『あぁぁやばやば!!』

「ちっ……!」

 ヴォイドガルッフがロードプレッシャーを踵で反対側に蹴り飛ばし態勢を立て直した。

 下手にライフルを撃てば機体が横転する。背部のアサルトライフルで迎撃するが、白い機体は追跡を辞めない。

「…………おいリコベー、ここで降りる」

『うぇ!? 大丈夫なんすか!?』

「心配しなくていいから。お前は本隊と合流しろ」

『ね、姐さんが言うなら……』

 ヴォイドガルッフはスラスターを噴射、ロードプレッシャーを蹴り上げて跳んだ。

 空中でライフルを展開し、着地するまでに牽制射撃。当てるつもりはなかったが、精密な彼女の射撃は牽制ですら敵機体のギリギリを穿った。

 停止したのを確認し、巨大な廃墟へ隠れる。元居住区と思われる地形は、狙撃手にとって有利なものだった。


「……ふん、来いスナイパー。今回は狩ってやる」


 ジップの愛機である機動兵器、《レイブニル》のツインアイが光を放つ。廃墟をハンドバズーカで手当たり次第に破壊、隠れたヴォイドガルッフを燻り出そうとする。

 吹き荒ぶ爆煙の1つからヴォイドガルッフが飛び出す。背部のアサルトライフルを放ちながら狙撃態勢をとるが、今度はレイブニルが廃墟に身を隠す。

「無駄!」

 発射された弾丸は朽ちた廃墟の壁を粉砕。着弾の衝撃で崩れ去る。

 再び狙撃ライフルを発砲。土埃が払われるが、中にいたレイブニルには当たっていない。

「デタラメに撃つか。この距離じゃあ仕方がないがな!」

 ヴォイドガルッフにまともな近接武器は搭載されていない。そう判断したジップはハンドバズーカを格納し、ハンドアックスを携えて突撃。アサルトライフルの弾丸を厚い装甲で受けつつ、肉薄する。

「まずは腕を落とす!」

「馬鹿みたいに真っ直ぐ突っ込みやがって!」

 ここで狙撃ライフルが変形を始める。バレルが畳まれ、取っ手が伸長。ストック部が突き出す。


 取っ手に持ち替えたヴォイドガルッフは狙撃ライフルを、否、ライフルハンマーを力任せに振るった。


「ぐぅぉっ!?」

 グレイブニルからハンドアックスが弾き飛ばされ、右腕のマニピュレーターのいくつかが歪にへし折れた。

「ちっ、こんなもの使わせやがって!」


 ヴォイドガルッフが完成した際、設計したミーシャが勝手にライフルへ搭載したギミック。そんなものを搭載するスペースが余っているのなら射撃面を強化する改造を施すよう言ったのだが、

「いつか必要になるから!」

 といって聞かなかったのだった。


「納得……いかない!!」

 ライフルハンマーを再び振り下ろした。グレイブニルの右手は完全に潰される。

「無茶苦茶な武器を……!!」

 大きく後退し、近づかせないようハンドバズーカを放とうとする。しかし再び狙撃ライフルに戻して放たれた弾がバズーカの砲身を撃ち抜き、破壊した。

「この……悪魔が……!!」

「……まぁいいや。文句はこいつら消してからだ」




「まさか交渉の場にお前達が立つとは思っていなかったよ」

「応じなければ街中でテロを起こすなんて脅されたら、立たざるを得ないだろう」

 ティノンとラックの会話の始まりは、刃物を突きつけ合うように殺伐とした雰囲気だった。お互い、相手を交渉相手ではなく、敵としてしか見ていない。

「だが俺は大統領を交渉相手に指定した筈だが? まさか、俺の知らぬ間にお前が大統領にでもなったか」

「だったらお前達の権利を守って、税で飯を食わせる真似なんかしない。……大統領は人として当たり前の事をしてるんだろう。分かってるんだろうな」

 ティノンは静かに息を吐き、更に目を細めた。

「お前達の仲間を問答無用で処刑しないのは、温情だ」

「戯けた事を吐かすなよ。戦争の中でしか飯を食えなかった俺達から、いきなり平和などと嘯いて戦争を奪い取った偽善者」

 ラックは背もたれに腕をかけ、足先でティノンを指した。

「お前達だって俺達と同じだ。いやもっと質が悪い。俺達を狩る中でその欲求を満たし、平然と人間面しているお前達の方が」

 声は静かだ。しかし内で煮え滾る怒りが目に現れていた。対するティノンは冷め切った目をしている。

「もうやめよう。こんな不毛な議論をする為に来たわけじゃない筈。何が望みなんだ?」

「アルギネアとグシオスの平和条約の解消、そして共和国の解体。再び戦争を始める為の一歩だ」

「…………ふっ」

 嘲るように鼻で笑うティノン。ラックの眉が動く。

「何がおかしい?」

「要するに前の時代に戻せと言いたい訳だ」

「だからそれの何が……」


「笑わせるな。お前達は8年前何を見てきた? 数えきれない程の仲間が死んだ意味を考えたか?」


 ラックの口が閉じられた。言い返せないのではなく、怒りのあまり黙っている事が、眉間に刻まれた皺から分かる。

「戦争がいつか終わった後の未来を想いながら、戦って、死んだ。私はそう考えている。だから歩み続けている。少しでも長い間、彼等が望んだ未来が続く様に」

「死者の考えを都合の良い様に妄想するな!」

「妄想すら出来ないお前達にだけは言われる筋合いはない」

 交渉が纏まる気配はやはりない。会話の様子を見ながらナドーは最悪の事態に備え始める。

 ラックは口を震わせながら、拳をテーブルへ叩きつけた。

「お前達が応じないなら……俺達の切り札を切るしかない」

「切り札?」

「あぁ。お前達、いや、俺達アルギネアが生み出した最強最悪の兵器、EAの技術を利用した……」

「EA……!? 馬鹿な、あれはもう作れる筈が……!」

 その単語を聞いたナドーは思わず息を呑む。対するティノンは続けろと言わんばかりに、眉一つ動かさず聞いている。


「アクトニウムコアを積んだミサイルを……この都市部に打ち込む」


「アクトニウムコアを!? ふざけるのはやめたまえ!!」

「ふざけてなどいない。俺達は本気だ」

 そもそも嘘をついている可能性がある。ナドーは何とか平静を取り戻そうとする。しかしラックの口振りはどうしても嘘には聞こえなかった。

 自分が口を出してはいけない。今更になって思い出したが、既にラックには気取られている。彼は小さく笑っていた。

「ティノン・ハスト。お前の決断を聞かせろ」

「…………あぁ」

 ティノンの口が、開かれた。


「もう決断はとっくにしている。お前達には償う機会すら……与えない」




《発進準備が完了しました。ただいまより輸送ヘリの投下ハッチを開きます》


 電話が切れた後、気がつけば既に出撃直前となっていた。ビャクヤはスマートフォンを耳から離し、ホーム画面を見つめる。

 なんということはない日常、庭で遊んでいるエルシディアとシオンを影から撮った写真。


 いってらっしゃい。


 2人に背中を押して貰った。ならばもう、自分も後ろを見ている場合ではない。

 ヘルメットのバイザーを下げ、操縦桿を握り締めた。

『発進タイミングを譲渡。行ってこい、ビャクヤ』


「了解。アルトリウス、発進します」


 ハッチが開く。巨大な盾を左腕に携え、黒い増加装甲と2門のガトリング砲が増設されたアルトリウスが空へと放たれた。


「…………おぉ、見えた」

 望遠カメラで空から降り立つアルトリウスを発見したヴァランは嬉々とした表情を浮かべる。

 言わばあれが政府軍の切り札。他とは明らかに違う雰囲気を纏った機動兵器。その相手にふさわしいのは、自身が駆る最強の機動兵器、EAだ。

「俺も前線に上がるとするか。さぁ行こうぜ、デスワーム」

 射出カタパルトのない格納庫から血を踏みしめ、巨大な黒い巨人が現れる。

 戦略兵器がある場所から少し離れた防衛線には、既に政府軍のガルッフが押し寄せていた。手練れが多い主力部隊を配置していた為に時間は稼げているが、多勢に無勢である。いつかは突破されるだろう。


 こちらの勝利条件は、戦略兵器であるアクトニウムを装填したミサイルを発射するまでの時間を稼ぐ事。それまでに撃破された機動兵器の数など問題ではない。


「まぁ戦線を押し返すには、俺が行けば十分だろうなぁ」

 木々を押し除け、戦闘中のガルッフ部隊の側面からデスワームが飛び出した。あまりに突然の遭遇に虚を突かれ、編隊がバラつく。

 デスワームの肩装甲が射出。蛇腹状に展開し、獲物目掛けて飛びつく大蛇の様に2機のガルッフを撃ち貫いた。

「何だこの機動兵器は!?」

「まさかアレが情報にあったEAか!?」

 すぐに並びを立て直そうとする。しかし次はデスワームの両腕が伸長。悪魔の指の様に鋭利なマニピュレーターはガルッフの頭を引き抜き、それをコクピットの奥深くまで突っ込み、破壊した。

 一瞬のうちに4機を撃破したデスワームはバックパックから2本のマチェットを取り出し、次なる獲物を探す。

「足りねぇんだよなぁ……これじゃ、全く、足りねぇ」

 目指していた戦争はもっと過激で、もっと熾烈。殺すか、殺されるかの瀬戸際の戦いを楽しめる、最高の遊戯場。

 いつ金属の巨人に踏み潰されるかも分からない歩兵時代も悪くはなかったが、壊し甲斐のある敵がいるのはやはりこちらだ。

 伸びた左手で腹を貫いて引き寄せ、首から胸を右手のマチェットが斬り裂く。それを見て駆けつけたガルッフが挟み撃ちを仕掛けるが、鞭の様にしなる肩の蛇腹剣が腕を切断。腰に備え付けられたロケット砲が前後の機体を爆破した。

「おーい、もう降りてるだろぉ!? 早く出てこい!」

 戦線が押し上げられていく。デスワームの圧倒的な戦闘力を前に、テロ集団達は戦意が高揚、政府軍は戦意を喪失している為だ。だがそんな事はヴァランにとってどうでもいい事。彼が求めているのは有象無象ではなく、1体の勇。


 ここで背後から爆発がした。自分達の仲間がガルッフを撃破した物ではないことくらい、既に気がついている。

 待ち望んでいた。目の前に現れた漆黒の鎧を纏う騎士王との謁見を。

「はっはは……ようやく出てくれたなぁ、騎士王様よぉ!!!」

 ロケット砲を放つ。だが騎士王の黒い鎧はその程度の挨拶は意に介さない。

 無礼を働いた悪竜へ、両腕のガトリングを撃ち放つ。アクトメタルで出来た竜の鎧にも傷は付かない。


「来ぉい!!」

「っ!」


 歯噛みするビャクヤの息と、叫び散らしたヴァランの息が同時に吐き出された。



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