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中編② 再燃する世界

 2週間という時間は、刹那だった。


 作戦開始日、ティノンは端末から聞こえる特殊部隊の状況を聞きながらある場所へと向かっている。

「そっちは万全なのか?」

『エリーザが持ってきた情報のおかげで少しはマシな配置に出来そう。でも万全じゃない。何をするか分からないのがテロリストだから』

「正規部隊の方も出来うる限りの精鋭で進行する筈。しっかりサポートしてやってくれ」

『あれと殺り合ってる回数は私達が勝ってるからなー。ていうか、お前の方こそしっかりやれよ』

「分かってる。…………まぁ、今更奴等と話す事なんかないが」

 通話を切る。扉をくぐる前から、ティノンの眼は冷酷な光を帯びていた。

「ティノンくん、大統領が君を交渉……いや、対談役に任命した理由。それは……」

「分かっています。今回は交渉じゃない。どんな要求にも応じない。たとえ逆上されて殺されようとも」

「君を失わない為に私も呼ばれたのだ。一切口は出すつもりはないよ。君の邪魔になるだけだろうからね」

「……さぁ、私達は私達の戦いを、始めましょう」

 扉が開く。その先にいたのは、元アルギネア軍所属、そしてテロリスト集団の一人である、ラックだった。

「待っていた。紅いEAの元パイロット」

「さて、知り合いだったか?」

「あぁ、お前が俺を知らなくとも、俺はお前を知っている。元アルギネア軍少佐、ラック・バンプ。それが俺の名だ、ティノン・ハスト」

 戦いの火蓋が切って落とされた。



「さぁてと……開戦だ。デスワームとあれは大丈夫か?」

「予定通り動かせる」

 ヴァランは斥候から届いた政府軍本隊の座標を確認する。ヴァラン達の部隊は首都から離れた位置に存在する廃棄された軍港都市を根城としていた。位置がバレる事は織り込み済みではあったが、正規ルートで奥地へ向かう算段らしい。

「お行儀良いねぇ。こっちがちゃんと迎え撃つのを信じてますってくらい王道な戦術」

「だがお前の出番はまだだ。あの兵器を守る最後の防衛線。戦力に余裕が出るまで前線には出るな」

「はっ。分かってるよ、んな事ぐらい。てめぇこそちゃんとやれよ、ジップ」

「あぁ。もう自爆なんて情けない真似はしない」

 自虐する様に呟き、ジップは自らの機体の元へ向かう。


 一人シートに深々と座り、ヴァランは愛機のコンソールを撫で回した。

「なぁデスワームよぉ、俺達の出番、あるといいなぁ」



『敵部隊に動きあるか?』

「いいや、彼奴等動こうとしねぇぞ。何考えてんだ?」

 前線に位置する軍港跡地。哨戒を行う2機のガルディオンのパイロットは遠方で動きを見せない陸艦に違和感を感じていた。

「怖気付いたんじゃねぇの?」

『冗談言う暇があるなら真面目に見張れ』

「わーったよ……はっ、軍人上がりは真面目過ぎる」

 元傭兵だった男は悪態を小さく吐き、ガルディオンを少し後退させる。望遠モードで政府軍の動きを観察する為だ。


 機体が僅かに海へ近づく。


「あー、まだ近くて見え辛え。距離調整しとくべきだった」


 更に一歩。機体の膝丈が海へ浸かったその時だった。


 背後から伸びた4本のアームがガルディオンを挟み、一瞬で水中へ引き摺り込んだ。

「なぁ!? 何だよおい、ひぃっ!?」

 僅かに振り向きかけた時、更に4本のアームが機体を貫いた。動力を外し、コクピットブロックのみを貫かれたガルディオンは爆散すらせず、海の底へ消えていく。


「…………ん? おい、今何処……ぁぁっ!?」


 もう1機の呼びかけに応答したのは、海から撃たれた大量のミサイルだった。

 咄嗟に盾を構えて防御。だが海から現れた異形の機動兵器のアームによって腕ごと盾を奪われ、脚部と胴体を掴まれる。

 目の前に突きつけられた水中銃を見たパイロットは悲鳴を上げる。

「ぅわぁぁぁっ!? や、やめ ──」

 直後、銛がパイロットごと装甲を撃ち貫き、ガルディオンは鉄屑と化した。


 2機のガルディオンを仕留めた機動兵器は《ドールジン・マリンデビル》。全点周囲モニターと換装可能な武器腕、様々な武装を搭載可能なバックパックを持った上半身ユニットと、戦地やパイロットの特性によって換装出来る下半身ユニットを持った機動兵器、ドールジン。

 マリンデビルユニットは巨大な推進タンクとスクリューホバーユニット、捕縛と切断、刺突が可能な8本のアームを備えた水陸両用ユニットである。これに合わせて上半身のバックパックに水陸両用ミサイルと、武器腕にハープーンガンが装備されている。


「うっし。もしもし姐さん、マリーネだけど、最前線軍港跡地に上陸。2機ぶち壊した」

『ならマリーネはそのままそこにいる敵の相手しといて。今からリコべーを真ん中まで突っ込ませる』

「あーい。……その役割、リコベーで良いの、本当に?」

『むしろこいつ以外に誰がやるんだっつーの。死んでも悲しまない順で私は配置作ってるから余計な心配しなくていい』

「へー。はい、分かりました。じゃあプランは変更なしで。それじゃあ」

 通信を切るマリーネ。コクピットから水も抜き終わり、背後のボンベに繋がるシュノーケルを外す。

「あぁっつい!」

 ダイバースーツの上半分を強引に脱ぐ。水着に包まれた胸元を露わにしながら、操縦稈を握った。



「そんなわけだから、リコベー」

『え、出撃すか!? よく聞こえなかったっすけどそうっすよね!?』

「……そう、出撃。最初はお前1人で」

 半ば諦めた様に告げるフブキ。しかし当のリコべーは浮足だった様子の通信を投げかけている。

『最初どころかずっとあたしがボコしてやるっすよ!』

「是非ともやらせてやりたかったけど、後に続く本隊が控えてるから無理。お前は掻き回し役」

『チッ、出しゃばり組め……!!』

「あー死なねーかなーほんと」

『姐さんもそう思うっすか!?』

「いや違うし」

 わざと聞こえる様に言ってみたが効果は無い。リコベーという女は色々な意味で強いのだ。

「ほら、無駄話してる暇があるなら行け。援護は気が向いたらしてやるから」

『これは……実質姐さんとの共同作業! バッタ姉妹とマリーネにゃ味わえない! よっしゃ、リコベー・アルマ、出るぜぇっ!!』

 丘陵線からリコベーの機体が飛び出した。


 彼女が駆る機体は《ドールジン・ロードプレッシャー》。3つの巨大な車輪とミサイルポッド、機関砲を備えたロードプレッシャーユニットと、回転丸鋸の武器腕、大型ブースター2基を備えたバックパックを持ったドールジン。その姿と特性、そして搭乗しているパイロットから「特攻バイク」と渾名される機体である。


 瓦礫を打ち砕きながら高速で最前線へ1機で突貫するロードプレッシャー。反乱軍が気がついた時には既に前線へ到達していた。

「死ねぇ、テロリスト!!」

 下半身からミサイルと機関砲を放ちながら、両腕の回転丸鋸を振り回す。その間も高速で走り回っている所為で、反乱軍達は反撃も満足に出来ていない。

「何だこいつ!?」

「くそ、狂ってやがる! 早く仕留めろ!!」

 闇雲にロードプレッシャー目掛けて発砲するが、やはり捉えられない。

「ひゃっほー!! 怖いけど楽しいんじゃー!!」

 回転丸鋸がグリフィアの頭部を切断、ばら撒かれたミサイルがジェイガノンを爆散させる。敵の注意は完全にロードプレッシャーへ向いていた。


「……流石特殊部隊。私達も行きますよ、進軍開始!」

 ゼナの号令で、陸艦でスタンバイしていたガルッフ達が一斉に飛び出して行く。

「ライス中尉、フォローお願いしますね」

「了解。快適な初乗りを約束します」

「はいはい、ちゃんと試乗はしてますから。ゼナ・マディオン、ラタトリス、発進します」

 ゼナが駆るラタトリスと、ライスが駆るガルッフも発進。戦場へと参戦する。


 ラタトリスはカラーリングが隊長機を表すシルバーに変更され、バックパックのプラットフォームにはバズーカと予備弾薬を搭載している。今回の作戦ではゼナが搭乗する機体の他にも数機が投入されている。

 ライスのガルッフはカラーリングこそ他の機体と変わらないが、大型のカスタムライフルを2丁、両肩にシールドを懸下した特殊仕様となっている。


 陣形が掻き乱された前線へ進行を進める政府軍。早くも弾丸やミサイルが飛び交い始めるが、連携、機体性能、パイロット練度共に政府軍の方が上。

「おい、隊列を乱すな! 狩られるぞ!」

「んなこと言ったって車輪野郎が ──」

「まったく」

 ライスのガルッフが撃ち放った大型カスタムライフルの弾丸がグリフィアとガルディオンを貫く。

「これじゃ本当に一方的だ」

「でも油断はしないでくださいね。元軍人もいるみたいです」

 ゼナのラタトリスがバズーカを2発撃つ。1発はジェイガノンに直撃して爆散したが、隣のグリーブガノンを狙ったもう1発は回避されてしまう。

 グリーブガノンがアックスを抜き、ゼナのラタトリスへと迫る。

「隊長!」

「私の事はいいので」

 分厚い腕部装甲で受け止めると、もう片方の腕の榴弾砲を首に叩き込んだ。内部で炸裂した榴弾で装甲と内部機器が弾け飛ぶ。

「ライス中尉は自分の身を守る事を最優先で、余裕があれば他の機体の援護をお願いします」

「はい、了解いたしました。ははは」

 ライスは笑う他なかった。




「シオンちゃん、何か食べたいお菓子とかある?」

「……」

 意地でもエルシディアの側から離れたくないらしい。首を黙って横に振る。いつも読んでいるハードカバーの小説にも手をつけようとしない。

 ツキミが困った顔をしていると、シオンの側にもう1人の世話役が座る。

「ママの事、心配だよね」

「エリスせんせ……」

「先生も、ツキミ先生も、心配」

「…………パパ、ママが大変なのに、いない……」

 すでに泣きそうな顔で見上げるシオン。

「パパ、ママの事放って、何処行ってるの……?」

「シオンちゃん、パパは……」

 慌てて慰めようと駆け寄るツキミを、エリスは優しく止める。そしてシオンの髪を撫でた。

「シオンちゃんのパパはお仕事に行ったの。ここにいるシオンちゃんと、ママを守る為にね」

「…………」

「あ、そうだシオンちゃん!」

 ツキミは何かを思いついた様に駆け寄る。小さな手に握らせた物は、スマートフォンだった。

「まだパパに繋がるかもよ。お話、したら?」

「…………うん」

 シオンはツキミのスマートフォンの画面にある《ビャクヤさん》の連絡先を押す。


 少しの通話待機音の後、すぐに繋がった。


『はい。どうしたの、ツキミさん?』

「…………パパ、シオン、だよ」

『シオン? どうかしたの、ツキミさんから携帯借りて』

 シオンは震える手でスマートフォンを支えている。やがて細々と自身の思いを伝えた。

「帰って来て……」

『…………』

「ママ、大変なんだよ……パパもそばにいなきゃ、ママ、死んじゃうかもしれないんだよ……?」

『シオン。パパは、お仕事があるから帰れないんだ』

「帰って来てよ……帰って来なかったら、パパの事、嫌いになる……」

『……困ったな…………』

 ビャクヤは小さく息を吐く。電話の向こう側から聞こえるシオンの嗚咽が聞こえた為だ。

『シオン、お願いだからママと一緒に待ってて』

「やだ……やだぁ! パパも一緒に待つの!」


 その時だった。


 シオンの肩に手が乗せられた。エリスでも、ツキミでもない。

 ゆっくりシオンが振り返ると、僅かに目を開いたエルシディアが見つめていた。

「マ、マ……!?」

「シオン……ダメ…………パパを、困らせちゃ……」

 スマートフォンを指で突く。シオンが手渡すと酸素マスクをずらし、掠れた声で話し始めた。

「ビャク、ヤ……っ、ケホッ!」

『っ、エル!? 目が覚めた……いや、まだ安静にしてなきゃ!』

 慌てるビャクヤに、ただ一言だけエルシディアは告げる。


「行って、らっしゃい……」


 スマートフォンをシオンへ渡した。震える手が再び耳元へ運び、涙を流しながら告げた。


「いってらっしゃい……パパ」


 返答を待たず、通話を切った。



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