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人権なしのランク0。よくわからないけど、塔、登ります  作者: つくたん
オワリに向かって
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頂上にて、終わり

ついに、『それ』が見えた。


「着い、たぁ!!」


階層でいえば32階。頂上だ。

今しがた登ってきた階段の他には、必要最低限のものしかない。

装飾のない床。壁はなく、雲が周囲を囲っている。光る石が明かりとして配置され、あたりを照らしている。


そして、『扉』があった。

石でもない、木でもない、金属でもない。不思議な材質の両開きの扉だ。

見上げても上辺が見えぬほどに高く、つるりとした門扉には掴むための取っ手もない。


その『扉』の両脇から配管のような電線のような複雑なものが伸び、人がひとり入れる程度の箱につながっている。

まるで棺のような箱の数は3。

この中に入ることで探索者は『鍵』へと加工される。そうして『扉』をくぐり神の領域へと至る。願いは叶い、望みは果たされる。


「これが『鍵』への加工装置か、悪趣味だな」

「え?」


リーゼロッテは『鍵』の正体を知っているのだろうか。

フォルの知識では、『鍵』が何なのか知らない。頂上に至ったその時にその正体を知るだろうと本に告げられた。精霊も誰もその正体について教えてはくれなかった。


「フォルは知らないのよね。……あのね、『鍵』は私たち自身なの」


さらりとサイハがとんでもないことを言った。

理解に数秒を要し、そして意味が頭の中を通過して、またもう一度聞き返してしまう。


「昴」

「うん、俺が説明するよ」


書架の本から直接説明を受けたのは昴だ。

サイハから話の主導権を譲り受け、昴は告げる。『鍵』というものとその作り方を。


『鍵』とは頂上に到達した探索者の肉体。それを変化させて『鍵』となす。

こうして目に見える形としてあるものの、『扉』は概念的なものに近く、それをくぐるためには自分たちもまたそれと同じレベルのものに昇華されなければいけない。

そのためには肉体は不要で、不要な肉体を捨てるついでに『扉』を開ける『鍵』とする。


「そんな……」


だとするなら。

フォルの声が震える。だとするなら、色々と話がつながる。


巫女の役割は『鍵』を作り、探索者を『扉』の向こうに送ること。

その役割を拒否したために罰を受け、役割を遂行することで浄罪とする。


頂上で大切な人たちを失うことになるという予言。

それはまさに、浄罪のために昴たちを『鍵』へと変えるということではないか。


だとするなら。嫌でも理解してしまう事実に愕然とする。

なぜ、どうして黙っていたのだ。否。黙っているしかなかったのだろう。

真実を告げれば絶対に足が止まってしまうから。

そうすれば『今週』もだめだったと『全消去』され、また最初からだ。

苦しみが伸びるだけなら、『今週』できっちり終わらせる。そのために黙っていたのだろう。


その優しさはとても残酷なものなのに。


「ここから……どうするんですか……?」


ここからどうするのだろう。

昴は大丈夫だ、作戦があると言っていた。具体的なことは頂上に着いてから話すと。

では何の策があるというのか。問うフォルに、昴はにこりと微笑んだ。


「昴さん……?」


いつもどおりの穏やかな笑みであるはずなのに、なんだか嫌な予感がする。

どうしてそんな顔をするのだろう。見回せば、サイハもリーゼロッテも同様の顔をしていた。


「こうするんだよ。……わかってるよな、2人とも」

「あぁ」

「えぇ」


顔を見合わせ、示し合わせる昴たち。

まさか。『今週』できちんと終わらせる方法とは。

青ざめる。止めなくてはと思うのに、足が竦んで動かない。


どうして。どうして。どうして。


「楽しかったぜ、ありがとな」

「またいつか、どこかでね」


そう言って装置の蓋を開けて、棺に横たわるように入っていく。その蓋を昴が閉めた。

『鍵』にするのは巫女の役割。装置に入れること自体はそれに抵触しない。

フォルは最後のスイッチを入れるだけでいい。あとの罪咎はすべて請け負うから。


「すば――……」

「フォル」


残りひとつ。装置の蓋に手をかけて、昴は振り返った。


大丈夫。つらいのは今だけ。これが終われば、きれいな身になって幸せになれる。

だから何も嘆く必要はないのだ。だから何も怖くない。


「あっちで会おう」


ばたん。と蓋が閉まった。


***


意外と内部は狭くない。目の前に蓋があって多少の圧迫感は感じるが、視覚的なもので体に窮屈さはない。

むしろ寝心地でいえばそのへんの宿のベッドより良い気がする。


――願いを。


頂上に到達した報酬を与えよう。何でも願うといい。

そう告げる声に答える。


昴はフォルを巫女の身分から開放し、あちら側での再会を望む。

リーゼロッテはこのろくでもない世界の破滅を願う。

サイハは巫女の役割の交代を(こいねが)う。


――受諾した。


あぁこれで安心だ。笑っていける。悔いはない。


終わらせて。終わらせて終わらせて。終わらせて。

終焉を。終端を。成し遂げて。仕上げて。成し終えて。完了を。完成を。閉幕を。終結を。


巫女の役目の終了を。

世界の終了を。

友の苦痛の終了を。


終わらせて。


――『鍵』の製造プロセス開始。


心肺機能の停止。身体の活動停止。生命活動の全行程終了。人体組織を分解。

魂の分離開始。肉体からの剥離。魂の存在領域を転送。肉体の破棄。

到達者の願望を受諾。願望の実現化提案。成就条件の達成。実現化の実施。


実行。実行。実行。実行。実行。実行。実行。実行。


実行。実行。実行。実行。実行。実行。実行。実行。


実行。実行。実行。実行。実行。実行。実行。実行。


実行。実行。実行。実行。実行。実行。実行。実行。


「あ……っああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」


『元』巫女、絶叫。生命の途絶。


――すべてのエラーは修正されました。

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