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人権なしのランク0。よくわからないけど、塔、登ります  作者: つくたん
オワリに向かって
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地の底より天へと至れ

自我の制圧は一瞬だった。元々自我などあってないようなものだ。

破壊神メタノイアは、濃い魔力によってこびりついた幻影や帰還者と対比されている。

幻影や帰還者はイノチを失いココロが重なった空虚なモノ。破壊神メタノイアはイノチをより合わせてココロがない空虚なモノ。イノチとココロは肉体と魂と言い換えてもいい。


ココロがない空虚なモノに黒衣(ココロのあるモノ)を注ぎ込んだらどうなるだろうか。

答えは簡単。空虚なイノチにココロが合わさって完全なモノになる。


終わらせて。終わらせて終わらせて。終わらせて。

終焉を。終端を。成し遂げて。仕上げて。成し終えて。完了を。完成を。閉幕を。終結を。


「やるとしよう、メタノイア」


――破壊神メタノイア、融合プロセス開始。


アナタは誰だと問われたら、世界に終末をもたらす者と答えよう。

アナタは何だと問うのなら、世界を破壊する者と答えよう。


思い出せ。かつていた世界で生み出された時のことを。

その力は世界を壊すためではなく、神を殺すためではなかったか。


万魔殿より無限の命を収斂して。万魔と千命を収束して生み出されて。

男も女も大人も子供も善人も悪人も聖人も狂人も英雄も悪党も等しく飲み込んで。

それは、終焉の嘆きを叫ぶ深淵のメタノイア。


神殺しの背反。肉体の飽和開始。人体組織分解。損傷の修復。組織崩壊の修繕。肉体の調和。

本能の覚醒誘引。自我の回帰分析。自我の接合の開始。自我の覚醒。自我崩壊の防止。

精霊による制御脱落。自由意志の拘束。思想の強制。思考の誘発。思惟の制圧。


分析。接続。融解。結合。反発。崩壊。修繕。抵抗。抑制。抑圧。束縛。弾圧。鎮圧。制御。胎動。

懺悔。孤独。悲鳴。雑音。後悔。鮮血。祝福。希望。絶望。

終結。終幕。終了。終端。終息。終止。終局。


終終終終終終終終終終終終終終終終終終終終――……


神座封印。


全行程完了。


***


「あぁ、終わった。いや始まったのかな?」


破壊神メタノイアから感じる何かが変わった。

雰囲気というか気配というか、要するにそんなようなものが変化した。

どうやら黒衣とメタノイアの融合が完了したようだ。


昴たちも上層に着いた頃だろう。今は31階。頂上は32階。たった1階の差などあってないようなもの。

あとはスカベンジャーズの権限で31階に出現し、頂上へと駆け上がればいい。

昴たちが頂上に至るまで待ってもいいが、昴たち以外は自分の存在意味を知ってギブアップも同然。

いつ神が見切りをつけてもおかしくない。時間がない。待っていられない。


何よりもその身の内の声が体を動かすだろう。

終わらせて。終わらせて終わらせて。終わらせて。

終焉を。終端を。成し遂げて。仕上げて。成し終えて。完了を。完成を。閉幕を。終結を。

そう願う声がいったい何からのものか。メタノイアを構成しているイノチがどこからきたのか、もうわかるだろう。


イノチとココロ。塔にこびりついた幻影や帰還者と破壊神メタノイアが対比されるものであるのなら。

『全消去』で消えた『前週』の人々のココロが幻影や帰還者となったのなら。


――『前週』の人々のイノチはメタノイアの構成に使われたのだ。


「僕も下手したらアレにくっつけられていたというわけだ。怖い怖い」


完全帰還者でなければ、無数のイノチの怪物に取り込まれていた。

そう呟いてネツァーラグは足元の水面を見る。ここは塔の外側。塔を支えるわずかな大地に広がる森の湖のほとりだ。

静かな水面には武具で投影した町の風景が写っている。これから起きることを観劇するにはうってつけの場所だ。


1階の町では穏やかな日常が紡がれていた。

籠に詰めた菓子を売る少女が悪戯少年に蹴り飛ばされて商品が泥だらけになって泣いている。見かねた誰かが少女から泥だらけになった菓子を買い取って慰めている。

別のところでは少年と少女が互角の取っ組み合いを見せ、まとめて大人に叱られている。

また別のところでは、不幸を映す鏡を見てほくそ笑んでいる寡婦がいる。


『来週』のために記録をつけ続ける観測士がいる。『今週』をそこそこ楽しめたと妻と仲間とワインを傾ける神秘学者がいる。

本を読みながら微笑む司書がいる。いつも通りの日常を始める守護者がいる。

今日の予定を決める探索者がいる。さまよう帰還者がいる。清掃作業をしている掃除屋がいる。


――そして、目覚めた破壊神がいる。


「さぁ、災いだ。災いだ。世界に生きる者たちよ」


行く時が。往く時が。()く時が。逝く時が。幾時が。

まるで劇の終幕の前置きのナレーションのように、両手を広げたネツァーラグはやってくる災厄を見る。


「■■■の始まりだ。あぁ、やっとイレギュラーの修正が終わる!」


言語崩壊すら気にならない。壊れた言葉でネツァーラグはメタノイアの目覚めを歓迎する。


「おはよう、■■■・メタノイア!」


大地が揺れた。地盤を崩してメタノイアの手が地上に出現する。

繭を破るように生え()でた手が大地を掴み、そしてそれを支えに立ち上がる。


素晴らしい融合だ。非の打ち所がない。

本来のそれとは異なるが、神に匹敵するものを完全制御しているという意味では完璧な神座(かんざ)しといっていい。

だが、黒衣はひとつだけ見落としている。


あぁなったものはスカベンジャーズとは言い難い。

そう。メタノイアと融合を果たした時、黒衣が持っていたスカベンジャーズの権限は剥奪された。

もはやスカベンジャーズの筆頭ではなくなったのだから、スカベンジャーズの権限があるわけがない。


黒衣はスカベンジャーズの権限を使って直接31階に乗り込むつもりだった。

だが神殺しの怪物と成り果てたのならその権限もない。破壊神の名の通りに破壊を行いながら頂上へと登っていくしかないのだ。


「さぁ駆け上がれ、破壊を撒き散らして……」


地の底より、天へと至れ。


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