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人権なしのランク0。よくわからないけど、塔、登ります  作者: つくたん
中層『受難の層』
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燃え盛る意思が熾る

22階。


――燃え盛る意思が熾る。


この階もまたスカベンジャーズが行き交っていた。

21階の巨竜の腹で圧縮粉砕したものが詰まっているのだろう木箱を、フロアの中央にいる火の鳥の足元へと押しやっている。

火の鳥の足元で、木箱ごと一瞬で燃えていく。灰すら残らない。


ここはスカベンジャーズが回収した諸々の最終処分場であり、また火の神の眷属である巨鳥の領域でもある。

火の鳥が発する熱でこの階はすさまじく熱い。立っているだけで汗がにじんでくるほどだ。


「神の眷属の扱いがあれでいいのかしら……」


巨竜といい、神の眷属がこんな扱いでいいんだろうか。

サイハがぽつりと呟く。自分はそれほど敬虔ではないが、神は敬うべきものだしその眷属は尊ぶべきだという認識はある。それなのにこんなゴミの処理に利用されていいのだろうか。

確かにこのほどの火力の炉を作るのは苦労するだろう。だから火の鳥の存在は廃棄物を捨てるにはちょうどいいのだろうが。


「あぁ、いいんだよ」


恰幅のいい女がサイハの呟きを聞いて割り込んだ。

曰く、あの火の鳥は自身の主である火神から2つの使命を与えられている。


「1つは、塔に住む者たちの助けになるように」


太陽と月の運行があるだけで季節などない世界に熱を与えて適当な気温を保つ。

塔に住む者たちが夜でも凍えぬようにすること。

そして、火を与えて文明を与えた。人々は火により獣を追い払うことができた。


その古代の約定が始まりだったのだが、人々は火の鳥に迷宮に明かりの灯をともすことを要求した。

火の鳥は『ヒトの役に立つのなら』と自らの炎を明かりとして分け与えた。

そこからさらに要求は発展して、こうして人々の役に立つことなら何でもさせられている。

火の鳥自身はそれを特に不満とも思っておらず、ただ与えられた使命に従順にヒトの助けをしている。


「2つ目の使命は?」

「そりゃぁもちろん……」


なぁ、とスカベンジャーズの女は火の鳥を見やる。

視線をなぞって昴たちも火の鳥を見た。


美しい真紅の炎を宿した火の鳥だ。鳥の体が燃えているのではない。炎が鳥の形をしている。

炎そのものなのだから、形を自由に変えることができるだろう。

事実、瞬きの間に鳥の形状は少しずつ変わっている。


その鳥が昴たちに向けて大きく翼を広げた。

火の粉を舞い上げ、天井に届くほどに大きく翼を広げ、うつむいてじっとしていた頭を持ち上げて空を見、そして開いた嘴から絶叫がほとばしる。


「っ……!!」


声帯どころか肉体を持たぬ炎ゆえ、声はなかった。だがあらん限りの力で吠え立てたことは伝わった。

びりびりと空気を震わせた絶叫は戦いを挑む大鳥の咆哮であった。

火の鳥は、咆哮でもって昴たちへと挑戦状を叩きつけたのだ。

吠え立てた火の鳥はそのまま羽ばたき、天井に開いた穴から上の階へと飛び出していった。


「……2つ目の使命は、この先に進む探索者の前に立ちはだかる試練の役割さ」


この先に進みたければ、力を示すこと。

火の鳥は探索者をふるいにかける役割をも負っている。

火の鳥の試練を受け、許された者だけがこの先に進むことができる。

25階の図書館の書架、31階以降の上層に達するためには火の鳥の試練を越えなければならない。

もし越えることができなければ、炎に包まれて燃えて朽ちるだけ。


「23階はあいつのバトルフィールドさ。障害物なし、小細工なしの真っ向勝負だ」


頑張りなよ。そう言って彼女は23階への階段を指した。

いったい何が待っているのか彼女は知らない。火の鳥が何をもって探索者に試練を課しているのか、探索者でないので関知しない。

探索者は探索者の領分があり、そこに踏み込んではいけない。それがスカベンジャーズというものだ。

あるものといえば、火の鳥が上の階に上がってしまったので廃棄物を燃やす作業が止まってしまったなという思いくらいだ。


「ま、死んだ時はウチらが『掃除』してやるから安心しな!」

「そんな安心いらないんだけど……」

「あはは! スカベンジャーズ的ジョークってやつさ!」


***


一方その頃。


申請書を手に、司書ヴェルダは溜息を吐いた。


「本当に、あなたを引っ張り上げるのは大変だったのよ。聞いてる、所長さん?」


ダレカに襲われ、丸ごと消失してしまった編成所。

影に飲み込まれてしまった所長を苦労して引っ張り上げたのだ。

ほどけて死ぬ間際の感情だけになる前に魂をすくい上げ、肉体を与えて再生させた。

それはもう大変な苦労だったのだ。おかげで図書館はいくらか『人が足りなく』なってしまった。


まったく。溜息を吐くが所長である少女は何も堪えたふうはない。

いつもどおりに棒付き飴をくわえて、陽気に無邪気に笑っているだけだ。


「りょーかいりょーかい、苦労分の働きはするよ」


こうして引っ張り上げてくれたことには感謝している。

ダレカに襲われた時、ついにもうお役御免かと覚悟を決めたのだが、まだまだ役割は続くようだ。

ふぅ、と嘆息して話を切り替え、所長である少女はヴェルダから書類を受け取る。


「よし、展開」


少女が首元のインカムに手をかける。同時に少女の周りに青く透明なパネルが浮き上がる。

これもまた武具だ。所長である少女にだけ許された特別なもので、これにはこの世界に住む者すべてのデータが入っている。

その中から探索者だけを抽出してリストを展開する。パネルが点滅して切り替わっていく。


「データ損失……なし……ま、そうか。あたしは無事じゃなかったけど武具は無事だもんね」


情報の出入り口が潰れただけで、データそのものが壊れたわけではない。

データの損害なしを確認し、少女は棒付き飴をかじりながらヴェルダから渡された書類を見る。

迅速にとの要求だったので、まだ絶対安静の身ながら仕事をするとしよう。


「……昴、リーゼロッテ、サイハ……フォル……フォル?」

「そう、その子よ」

「うわ、マジかぁ……」


そりゃ迅速対応を要求されるわけだ。納得したように少女は呟く。


「よーし、玖天(くてん)ちゃんやっちゃうぞぅー!!」

「腕まくりしなくても、たった1打で終わるでしょう」

「ヴェルちゃんネタばらししないで!」


たった1打でも、相手が相手なのだから気合が入るのだ!

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