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人権なしのランク0。よくわからないけど、塔、登ります  作者: つくたん
中層『受難の層』
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堕ちて足掻いてまた来週

探索、飛んで、20階。


――堕ちて足掻いてまた来週。


「来週……ってのは、やっぱ、そういうことかな」

「また明日みたいなノリで書くなっつぅの」


そんな、遊びのような軽薄さで書くなと言いたくなる。

『全消去』の時どんなことが起きるのかはわからないが、世界を壊して作り直すのだ。

きっとそれは筆舌に尽くしがたい恐ろしい光景だろう。

そんなものをこんな軽薄さで描写すること。それこそがこの塔を作った()の価値観を現している。

吐き気がする思いだ。神はろくでもない。神という言葉のイメージが持つ神聖さや、尊ぶべきものという認識は大きくかけ離れている。


だが、それは本当に正しい情報なのか。チェイニーが言っていた。情報というのは必ず一方の立場からしか発されていない。1つの情報に複数の立場を語るものはないのだ。

事象を観測する視点によって情報は変わる。坂の上に立っていれば下り坂だが、坂の下に立っていれば上り坂に見えるように。

だからこの『神はろくでもない』という情報も間違っている可能性だってあるのだ。この世界のシステムを厭う側であるネツァーラグからもたらされた情報だから、忌々しいと思うような情報なだけかもしれない。


だから別の視点の情報を得る。そこで頼るのがスカベンジャーズだ。

彼らは迷宮の清掃を担う掃除屋だ。『掃除』が専門分野なら、もしかしたら『全消去』のことも何か知っているかもしれない。

死体を片して痕跡を消すスカベンジャーズの仕事を極端に拡大化すれば、世界をひとつ消す『全消去』になる。


そしてそのスカベンジャーズが拠点としているのが、ここ20階だ。

19階から登ってくる階段から、21階に続く上り階段へ、一直線に廊下が敷かれている。

そこ以外は石の壁で区切られており、ところどころにある出入り口には全身黒ずくめの格好の見張りが立っている。

この黒ずくめの格好はスカベンジャーズの証だ。目印である無地の黒いマント以外は各人の自由だが、基本的に黒い服装をしている。


「21階はあっちだぞ」

「通るだけなら好きにしろ」


一直線の廊下だ。通るだけなら自由に行き来ができる。

ただし、ここを中継地として転移装置を使いたいのなら条件がある。

転移装置の前の見張りの黒ずくめの男がそう言った。


「ここは俺たちスカベンジャーズが所有している転移装置だからな。条件さえ満たせばお前ら探索者でも使っていいが」

「条件?」


条件とは。訊ねた昴に見張りの男は答えた。


「レベル50以上の到達さ。図書館で証明書をもらってきな」

「50……」


今、自分たちのレベルは40かそれくらい。10ほどのレベルアップが必要だ。

レベルとは探索の経験を数値化したものであり、そして塔の真実への到達率も示す。

つまりレベルを上げたければ、探索で経験を積んだり、塔の真実に触れることが必要なのだ。

ちなみにこの条件は、寄り道をせずにまっすぐ進んできた場合、微妙に足りないように設定されているのだそうだ。


要するに、塔の再調査が必要なのだ。


「ま、この階は全体的にレストエリアに設定されてるからよ、邪魔にならなきゃ端っこにテント張ってもいいぜ」

「水や食料なんかは有料で売ってやるし……というか、ジョーヤ・マリーニャの店から出張が来るからそこで頼むぜ」

「ありがとう、じゃぁ、必要になったらお願いします」


***


さて、塔の再調査というが。

とりあえず、20階からルフのいる13階までの間の迷宮をもう一度調査してみよう。

先に進むことを優先して、行き止まりなどはすぐに引き返してしまった。

もしかしたら何か見つかるかもしれない。


「とりあえずまっすぐ14階に降りてきたけど……」


途中でレストエリアで休憩をはさみつつ、14階まで降りてきた。

行き止まりなどを丹念に調べてみるとしよう。


「何か見つかるといいけれど……」


あるいは、20階の転移装置を使うことを諦めて、先に進むか。

条件はレベル50以上。この先に進み、経験を積むことでレベルを上げて戻るという手もある。

だが、ルフと約束したのだ。この塔の頂上にあるものの正否を問うと。そのためには、真実の断片を見落とすわけにはいかない。


サイハのマップを見ながら、ひとつずつ確かめるように曲がり角や行き止まりをチェックしていく。

もちろんこの間に妖精たちが戯れついでに襲ってくることは変わらない。

それらに対処しつつ、丹念に調べていくこと、行き止まり5つ目。


「……これ……!」


行き止まりの端にくぼみがあり、そこには赤い箱があった。

探索者が物品を持ち寄って使う共有の箱だ。薬や保存食といったものの下に、古ぼけた手記が入っていた。

共用のものなので中身は別に見てもよい。ぺらりと表紙をめくってみる。


それは、とある探索者の手記だった。彼なりに塔の真実を探し、その手がかりを記したもの。

ここにあるということは、誰でもいいから後続の探索者にこの情報を託そうとしたのだろう。

その思いを受け取りつつ、ページを読み進めていく。


――塔の頂上には『なにかいいこと』があるという認識がある。

これは探索者としてこの世界に召喚された時に植え付けられるもので、この塔の世界の中で生まれた人間には持ち得ない情報だ。

この認識は曖昧な概念で、具体的に何があるのかはわからない。だから、それを調べようと思ったのだ。


ホホロギウム歴50■■年24の月4日。

塔の頂上には何があるのか誰も知らない。最も妥当なのは、元の世界に帰る手段だろうか。

しかし、元の世界のことを嫌っており、この世界に脱出できてよかったと思っている探索者もいる。

こういった探索者には、元の世界に帰ることは『いいこと』ではない。

この『頂上にはいいことがある』という認識はどの探索者にとっても『いいこと』でなければならない。

万人にとっても『いいこと』とは、いったい何だろうか……。


ホロロギウム歴50■■年29の月1日

自らの目で確かめるため、探索を開始する。


ホロロギウム歴50■■年■の月5日

わかった、わかったぞ!

頂上では神の祝福によって願いが叶うと氷の精霊が教えてくれた!

『願いが叶う』。それは確かに万人にとっても『いいこと』だ!

そうか、そうだったのか!


ホロロギウム歴50■■年■■の月3日

頂上に至るには鍵を見つけなければ……。


ホロロギウム歴50■■年■■の月■■

あぁ! 鍵、鍵! 俺の前に巫女が現れた!

きっと頂上へ導いてくれるに違いない。俺は神に選ばれたのだ!


50■■年■■の月■■

俺自身が鍵だ


ホロロぎうム歴50■■ねん■■のつき■■日

鍵、鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵 鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵

鍵鍵鍵鍵鍵鍵鍵 かぎをてにいれる


■■の月■■日

苦難から絶望していたが、気を取り直した。

そうだ、何を悲しんでいるのだろう。

頂上ではどんな願いも叶うのだから、鍵くらいどうってことないじゃないか!

人はもてあそばれる駒。神側に昇格しなければ!!


■■の月■■日

巫女からルッカと呼ばれるようになった!

頂上に至る可能性のある探索者だと認めてもらえた!

やはり俺は神に選ばれたのだ! ああ! 神よ! 感謝いたします!


■■の月■■日

俺はルッカだ! ルッカなんだ!

頂上はもうすぐだ! ああ! ああ! ああ! ああ!

俺が頂上に至れば全消去だ! 俺をパーティから追放しやがったあいつは消える! ざまぁみろ!

俺が! 俺こそが! 神に選ばれたのだ!!

俺は俺自身の願いを叶えてやる! そのための鍵はここにあるんだ!


――以下、判読不可。


支離滅裂な内容が続く手記を閉じる。

盲目的で妄信的。正気を失っていっている。


だが、得られる情報はいくつかあった。

ルッカとは頂上に至る可能性のある者のことを指す。

これまで、ルッカとは神に祝福されるほどの幸運を持つ者だとか、神に通ずる力を持つ者だとかそういう意味合いで使われていたが、そういった意味もあったのだ。


「成程。……フォル、そこだけメモしときな」

「はいっ」


手記の内容を全部丸写しはしなくてもいいだろう。

最後の方の支離滅裂な文章など、書いているうちにこっちまで頭がおかしくなりそうだ。

精神の健康のためにこれ以上この手記を読むのはやめておいたほうがいい。


「次の手がかりを探しましょう。きっと他にも何かあるはずだもの」

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