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人権なしのランク0。よくわからないけど、塔、登ります  作者: つくたん
中層『受難の層』
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おかえりなさい!

"修練の門"を出る。

イルートに教えられながら文献を読み解くフォルと、その様子を微笑ましそうに見守るネージュが顔を上げた。


「昴さん、おかえりなさい」

「ただいま……あれ? なんかすぐ出てきちゃった?」


異次元の中では1ヶ月ほどだったのだが、この様子だとたった数時間しかかかってないのでは。

時間の流れが違うとは聞いていたがここまでとは。面食らう昴にイルートが鈴が転がるような声で笑う。

初めて"修練の門"を使う人間はその時間の流れの差異に驚くのだ。


「他のお二方もそのうち出てきますでしょう」


それまではしばしこちらで休憩でも、と茶菓子を差し出そうとした矢先、がこんと"修練の門"が開いた。

すっきりした顔のリーゼロッテと晴れやかな顔をしたサイハがそれぞれ門から出てくる。

おかえりと言い合って、さて。


「フォルの方はもう大丈夫なのか?」

「はい! なんとか……どうにかできそうです!」


お互い情報共有をしよう。ちょうどイルートが茶菓子を用意したところだ。

この場を借りてお互いの経験やら知識やらを共有しようじゃないか。


「では私は退席していますので」

「ありがとうございます」


***


成程。そういう話だったのか。

ふむふむとお互いの話を聞きあって話を共有も終わり、さて、と話がこれからのことに移る。


「図書館に行きたいな。色々と経験したし、いっぱいレベルアップしそうじゃないか?」

「あとチェイニーさんも何かつかめているかもしれません」

「そうだな。フォルがあの……なんつったか、完全帰還者のヤツから聞いた話もしておきたいしな」


塔の真実を求めるチェイニーに『前週』の話は衝撃的だろう。

事実、自分たちにとっても衝撃的だったのだし。フォルから話を聞いても実感が足りない。

そもそもこの話自体、ネツァーラグの騙りの可能性だってあるのだ。

塔の研究をしているチェイニーに話して、事実なのかどうなのか裏付けを探したいくらいだ。


「じゃぁ、まずは図書館で、次はチェイニーのところだな」


よし、行く道も決まった。イルートに挨拶をして出るとしよう。

立ち上がり、広間の横の書庫にいるイルートへと声をかける。


「えぇ。わかりました。どうぞ行ってらっしゃいませ」


ご武運を、とたおやかな微笑みに見送られて物見塔を後にする。

フォルの肩には相変わらずネージュが乗っている。


「ネージュさん、ついてくるんですか?」

「ダメ?」

「いえ、だめではありませんけど……」


精霊というものは特定の個人に肩入れしないものだとイルートに教わったばかりだ。

気まぐれに協力的になるが、基本は中立的でどの勢力にも味方しない。

塔の維持に邪魔であると判断した場合はそれなりに手厳しくするくらいで。

それなのに、ネージュはやけにフォルについてこようとしている。

その目的にまだ気付かないフォルには不思議でしょうがない。


「ワタシ、図書館ニハ入ッタコトナイモノ! 中ガ気ニナルノヨ!」

「そ、そうなんですか?」

「蛇ヲ間近デ見テミタイノ!」


蛇、と聞き返す。

ネージュの言うことを要約すると、どうやら司書のヴェルダのことのようだ。

フォルにはいまいちヴェルダに蛇というイメージが結びつかないのだが、精霊の間では彼女のことをそう呼んでいるらしい。


「イタズラしないようにしてくださいね」

「ハァイ! 大人シクシテルワ!」


そうこうしているうちに転移装置に着いてしまった。

順番を待って転移装置に触れ、1階へと飛ぶ。

路地を曲がって見慣れた図書館へと向かう。


「なぁ知ってるか? どうやら編成所の再開の目処が立ったらしい」

「へぇ、どういうわけだ?」

「ヴェルダさんが編成所の所長を発見したって」


不意に往来から聞こえてきた会話に顔を見合わせる。

編成所が再開するとは。それは興味深い話だ。

ちょうど今からヴェルダのところに行くのだし、本人から詳しい話を聞きたいものだ。

なにせランク0(人権なし)のままだ。中層に到達し、条件の上ではランク2相当であるとはいえ。

もし編成所が再開するなら、さっとランクを上げてしまいたい。


見慣れた門をくぐって図書館へ。相変わらずの喧騒だった。

受付に割符を見せて待ち時間と順番を飛ばして応接室に入る。

ゆるりとチェアに座ったヴェルダが待っていた。


「お久しぶりです、ヴェルダさん」

「久しぶり。……そっちの彼は1日ぶりね」


そうか。すっかり時間感覚が消失していたが、町の時間では昨日のことだったか。

時間感覚が消し飛んでいることに驚いている昴を面白そうに眺め、ヴェルダは奥の部屋を指す。

前置きなど捨ててさっさと情報の提出に移ろうじゃないか。


***


順番に情報を提出し終わり、あとは情報量に応じたレベルの換算と加算の手続きを待つのみ。

その間に気になることを聞いておこう。編成所の再開の話だ。


「えぇ。そうね。所長は『ほぼ』発見されたわ」

「ほぼ?」


なんだか引っかかる言葉だ。

聞き返すと、居場所の細かな目処は立ったが救出には至っていない、と。

居場所はほぼ確定したが、まだその場所から救い出せていない。

救い出すにはもう少し時間がかかる。そして救い出したからといってすぐに編成所が再開できるわけでもない。

ランク0の昴たちには悪いが、編成所の再開にはまだ時間が必要だ。


「そうなんですか……」

「えぇ。もう少しの辛抱だから待ってね」


できるだけ迅速に行うからそれまで我慢して欲しい。

少しでも過ごしやすいように、レベルアップに少しばかりボーナスをつけておこう。

ランクに代わり、レベルが社会的地位の基準となった今、レベルが高ければ高いほど良い待遇が受けられる。


「呑マレチャッタノニ、ドウヤッテ救イ出スッテイウノ?」

「あら。精霊がいたなんて。……どうやってか? それは秘密よ」


精霊がいたことに驚きつつ、ネージュの横槍に肩を竦めて答える。

門外不出の秘密の方法だ。塔の情報を集積する図書館の司書だからこそできるちょっとした裏技だ。

そう簡単に言いふらしていいものではない。手段については氷に閉ざされた秘密なのだ。


「イジワル!」

「蛇だもの」


秘密主義者なのだ。むくれるネージュにあっさり返す。

さて話が逸れてしまった。編成所の話だ。


「中層の探索でもして経験値をためてまた来る頃には、再開の目処もつくと思うわ」

「わかりました! ありがとうございます」

「えぇ。中層はいいところだからぜひ楽しんでいって」


下層と違って色々といる。

下層の魔物といえばエレメンタルしかなく、他には暴れ砂牛ボロキアの群れやダレカくらいしかない。

そんな貧相なレパートリーの下層と違って中層は多岐にわたる。

精霊峠をはじめとした精霊たち。塔の維持が役目である彼らだが、中には血気盛んな個体がいる。そういった精霊が手合わせついでに襲ってくることもある。

他にも、1階丸ごと住処にして暮らす神の眷属もいる。13階には風神の眷属の大鳥が、21階には土神の眷属の巨竜が。それ以上の階にもいるし、気ままに暮らしている。

20階にはスカベンジャーズの拠点もある。


「25階には私の書架もあるのよ」

「書架?」

「図書館の記録を保管しているところよ」


書架には図書館の情報閲覧などとは比べ物にならない量の情報と知識が詰まっている。

そのため、書架にたどり着くことさえできればどんな情報でも手に入るとされる。

もちろん書架を荒らされないための門番もいるわけで。

これ以上はネタばらしになるので黙っておくが。


「楽しんでね。下層とは比べ物にならない過酷さだけれど」


下層のように1日で何階もクリアできるような仕組みではない。

運が悪ければ、たった数歩進んで町へ引き返さなければならなくなる。

1つの階を踏破するのに何ヶ月もかける探索者もいる。

そのうち、進まない探索に焦れて争いになってパーティを解散してしまう探索者だっている。

パーティを解散したら新たにパーティを組まなければ塔は登れない。単独で登れるほど塔の迷宮は甘くない。

ともに登る仲間を探し、パーティメンバーを募集しなければならないし、見つかったとしても性格の不一致で解散ともなることもある。

中層はそんな場所なのだ。それを乗り越え、上層に至ったパーティはほんの一握りしかいない。


「まるでチュートリアル終わりからラスダン寸前まで全部詰まったような……」


ヴェルダの話を聞いて昴が頭を抱える。

もう少し区切ってほしい。そんな一気に全部乗っけなくても。

ともかくそれが塔なのだ。諦めて全部盛りの中層を少しずつ踏破していくしかない。


「さて、そろそろ手続きも終わるかしら。またの提出を待ってるわ」

「あ、確かに。じゃぁ、ありがとうございました。また!」



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