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人権なしのランク0。よくわからないけど、塔、登ります  作者: つくたん
中層『受難の層』
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それはただの価値観の違いだから

精霊峠を出て、イルートがいる物見塔に戻るまでの道中。


「コレガルッカノ仲間ナノネ!」

「へ? ……あ、精霊!?」


フォルの肩から何やら声が。

不思議に思って見てみればそこには金色の光。

まばゆい金の光を抑えて片手を挙げたのは白とも水色ともつかぬ淡い色の光。


「ドウモ! 氷神ノ子、ネージュッテイウノ!」


フォルに名付けてもらったのだと得意げに語る。

イルートのところまでついてくるつもりらしい。


「ついてきてもいいのか、それ?」

「イイノ! ワタシノコトハ気ニシナイデ!」


気にしないでと言われても。

これはいいのかどうかと、困ったように頬を掻く。

戸惑う昴に対してネージュはのんびりとしている。本当についてくるようだ。


「あの……リーゼロッテさん」

「あ?」

「昨日はごめんなさい……わたし、その……」

「アタシも悪かったよ。言い過ぎた」


言い方に関しては、だ。意見自体は曲げる気はない。

リーゼロッテにとっては終わった話。フォルにとっては終わっていない話。

ただそれだけだ。


「その、昴さんやサイハさんは……どう思いますか……?」

「うん? そうだなぁ……」


昴としても概ねフォルと同じ意見だ。

伯珂たちのことは残念に思う。だが、フォルほどこだわりはしない。

だってもう伯珂たち自体は死んでいる。ダレカに変じてしまったのではなく、彼らの感情が焼き付いてそこにいるだけ。

故人を惜しみはすれど、その残滓までどうこうしようと思えない。


「私はどちらでも。どんなことがあっても旅の経験と思えばいいのだしね」


伯珂のことも旅の思い出のひとつだ。そこにオチがつくかどうかの違いで。

だからどちらでも。フォルの好きにしたらいいと思う。


「あの……じゃぁ、もし、みなさんが嫌でなければ、ですけど……」


精霊峠で得た情報をかいつまんで語る。

ダレカを浄化する力。それを得ることができれば。

この世界にこびりついてしまった伯珂の思いも昇華してあげられるのではないか。

その力の習得と実践に付き合ってほしい。


「あのっ、お願いします! どうか……」

「んな必死に言わなくてもいいって。付き合えってんだろ?」


いいぜ、と一番に了承を示したのはリーゼロッテだ。

揉めた当人があっさりと。てっきり反対でもされるかと思ったのに。

いや、付き合ってくれるのはありがたいのだが。


「心残りとわだかまり作ったまま先に進みたくねぇってだけだよ」


あの時の話し合いではあぁだったけどやっぱりこうしていればとか、皆に反対したからやめたけど実はやりたかったとか、そういうことで揉めるのが嫌なのだ。

自分の行動の責任を押し付けられるのが嫌ともいう。どん詰まりになって、お前らのせいでと責められたくない。


それに、リーゼロッテに利益がない話でもない。

自分は度胸ある方だと思っていたが、その自負をひっくり返すほどにダレカの存在は恐怖を煽る。

それを浄化し消すことができるのなら、もう怖がる必要もない。


「それに、ダレカの浄化は史上誰もしたことがねぇんだろ? ……初めてって、最っ高じゃん?」


その名誉を得るのは気持ちいいことだろう。

不敵に笑うリーゼロッテにフォルもほっと安堵する。


「昴さんたちは……」

「もちろん!」

「経験は思い出になるもの。いいんじゃない?」


そう意見がまとまったところで、白い物見塔が見えてきた。


***


「ようこそおかえりなさいませ。……そちらが探し人様でしたか。はじめまして。イルートと申します」

「はいっ、はじめましてっ、フォルです」


事情は知らされた。激情にかられて飛び出していった自分を探すために協力をしてもらったのだとか。

ずいぶん迷惑をかけた。感謝を述べ、頭を下げる。


「ハァイ、イルート」

「おや。氷の精霊が……ご無沙汰しております」


ここまでフォルの肩で大人しくしていたネージュがひらりとイルートへ手を挙げる。

気さくな様子のネージュに対してイルートは丁寧に頭を下げる。

本人の気質もだろうが、この関係が本来の精霊と人間の関係なのだろう。


「事情はすでに水の精霊から伺っております。浄化の力が欲しいとか」


ダレカの浄化まではできるかどうかわからないが、穢れを祓って清める力なら心当たりがある。

精霊の守護者としてそれを教えることもできるだろう。


「いいんですか?」

「えぇ。精霊との正しい付き合い方も学ぶ必要がおありでしょう」

「ナァニ? ワタシノコト?」

「僭越ながら」


イルートがちらりとネージュを見る。

どこまでついてくる気なのかは知らないが、それが善意でないことを知っている。

この氷の精霊がフォルについてきているのは、フォルのことを好いているというよりも、餌を手元に置いておきたいという意図だろう。


「どうせなら皆様も修行などなされては?」

「え?」

「"修練の門"を利用して、武具の扱いの鍛錬などどうでしょう?」


浄化の術をフォルに教えるには時間がかかる。

それまで3人に何もせず過ごしていろというのも時間がもったいない。

どうせならこの時間を利用して鍛錬などしてみてはどうだろう。

それをするためのものもある。"修練の門"という武具だ。


どうする。答えは決まっている。


「お願いします!」

「えぇ。では、そのように」


イルートが錫杖で床を打つ。鈴を鳴らすような硬質的な音が響いて、空中に3つの門が出現する。

ただの石組みの木の扉が宙に浮いているように見えるが、それは異次元への入り口だ。

その中は異次元につながっており、外部に干渉されない領域が広がっている。

時間の流れは外部と異なっており、内部で数十日経とうとも外部からは数時間ほどしか経っていない。


「お一人ずつ、どうぞ中へ」

「はい!」


促され、それぞれ扉を開けて入っていく。

その中には師にあたる人物がおり、それに師事を受けることになる。

合格を受けて出てきたなら、いちだんと強くなっていることだろう。


見た目通りの重い音で閉まる扉を見送り、さて、とイルートはフォルへ向き直る。


「あの……わたしは門に入らなくていいんですか?」

「よほど飲み込みが悪くない限りは平気かと」


説明と軽い実践。それだけなら数時間もあれば済む。

いざとなれば門を出しますから、と少しいたずらっぽく微笑む。

話は長くなるので立ち話もなんだし座りながら。今いる広間の窓際にはテラスがあり、そこには座って占いをするスペースがある。

向かい合って座ったところで、さて、と口火を切る。

長々とした前置きはここまでにして、本題に入ろう。


「私は探索者ではないので……武具などは使いません。精霊と契約し、力を行使する。それが守護者なので」


武具をあげて、はいおしまい、とはいかない。

そもそも武具には適正がある。自分の魔力と武具が合わないとまともに発動しない。

昴の武具をフォルが使うことはできないし、もし発動できたとしても効果は落ちる。武器ならば切れ味や強度だ。


武具は使わない。イルートが行っているのは契約に基づいた精霊の使役だ。

原初の契約に基づいて、神を敬い、そのぶんだけ力を借りる。


つまり、イルート流の浄化の術を使うには、精霊に認めてもらう必要がある。

この者になら力を貸してもよいと認められなければならない。

さて、ではどの精霊に認めてもらうかだ。


「認められるって……誰にですか?」

「精霊に王や首領がいて……ということはありません。力を借りたい精霊そのものとです」


精霊の王などというものはいない。力を借りたいなら力を貸してほしい精霊と直接交渉をするのだ。

精霊は個であり種族でもある。個別の意識を持ちながらも、属性ごとに共通の意識をも持つ。

ネージュがそうだ。ネージュも自身の自我を持ってフォルについているが、また氷の精霊として他の個体との共通意識を持っている。

だからどれか1体の精霊が是と言えばすべての精霊に伝達される。

それでもって契約となし、以後はその精霊の力をどこからでも借りることができる。


「ツマリネ、ワタシト契約スレバ、ワタシジャナクテ氷神ノ子デアレバ、誰デモ協力シテクレルッテワケ!」


氷の精霊の力を借りるためにネージュを連れ歩く必要はない。

その場にいる氷の精霊に呼びかければ誰でも力を貸してもらえるというわけだ。


「属性ごとに契約は異なるので……肝要なのは、どの精霊とどのような契約を結ぶか、ということになります」

「はいっ」


まるで教師と生徒のように、礼儀正しく背を伸ばして返事する。

面映さを感じつつも、資料のための書物を引っ張り出して机に広げた。


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