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人権なしのランク0。よくわからないけど、塔、登ります  作者: つくたん
下層『受難の層』
12/75

世界を知らなさすぎるので情報収集に費やすことにした

朝。半信半疑で図書館に行ってみると、順番待ちの列を整理する受付嬢が即室内に通してくれた。

情報を提出し、上がったレベルの確認をする。レベルは5から一気に26に上がった。どうやら純結晶の発見によりかなりのボーナスがついているらしい。レベル20以上ともなると中堅探索者と扱われるそうだから、数値だけでいえば中層に到達した探索者と変わりないレベルとなった。

中堅探索者に引けを取らないレベルとなったせいか、受付嬢の腰がますます低くなった。1人ずつ順番に提出を待っている間、茶まで出た。


「やっぱりレベルが正義なんだな……」


今、探索者の力量を示す尺度がそれしかなくなってしまったからだろうか。露骨に、あからさまにレベルで待遇が違う。

編成所が活動してランクアップができていたのなら、これほどまでに変わらなかっただろう。ランクとレベルという2柱のうち片方を失ったぶん比重が偏って、レベルが異常なほどに重要視されてしまったようだ。

編成所が復旧して運営が再開されれば落ち着くだろうが、それまではこの状況が続くだろう。


「あれは何だったんだろうな?」

「調べてみましょうか」


帰還者といったか。あれはいったい何なのだろう。その答えは後付けの知識にもない。情報を集積する図書館ならば情報もあるだろう。


「すみません、情報の閲覧とかってできますか?」

「はい! レベル26探索者様ですね! 了解しました! 何の情報が知りたいんですか?」


レベルにより閲覧できる情報が変わるようだ。それもそうか。最初からすべてを知ることができるのなら探索の意味がない。

とりあえず、このレベルで閲覧できる帰還者の情報を。受付嬢にそう告げると、了解しましたと受付嬢が案内する。情報の閲覧は漏洩を防ぐため、専用の部屋に通される。高レベルの探索者が閲覧している情報を低レベルの探索者が盗み見ないようにだ。


「こちらの部屋でどうぞ!」


通された部屋には椅子と机、そして中央には分厚い辞書のようなハードカバーの本があった。

カバーの縁が銀で装飾されているこの本も武具だ。触れれば、レベルに応じた情報がページに浮き上がる。わざわざ膨大な資料から該当の記述を引っ張り出してくる必要もない。知りたいことを知りたいだけ。知りたいように見ることができる。


「えーっと、帰還者とは……っと」


帰還者の情報が見たい、と頭の中で思い浮かべつつ、昴がハードカバーの本に触れる。

本の中でぞろりと何かが動いた気配がして、直後、本がひとりでに開かれる。ぱらぱらと表紙がめくれ、日に焼けて変色したような茶色のページが現れる。

その紙の上に、じわりとにじみ出るように文字が浮かんでいく。


帰還者とは。ヒト型全般の魔物を指す。ヒトに似ているが自我や感情はない。何らかの意思はあるようで、それに沿って行動する。

意思疎通は不可能。人語を話す個体もいるが、喋る言葉はヒトの模倣であり発声する言葉の意味はない。

特徴のある個体は判別のために見た目や能力から連想される名称がつけられる。例として、10階に生息する『ダレカ』が挙げられる。ダレカは10階を縄張りとする帰還者であるが、稀に2階、1階まで降りてくる。町を徘徊し、目についた人間を■■■する。


「ここは?」


黒く汚れている部分がある。まるで塗り潰されたようだ。黒く塗り潰されていては読めないじゃないか。これは、まだ閲覧にかなうレベルに達していないので伏せられているということだろうか。

伏せられている部分が何なのか予想できなくはないが。あの無謀な馬鹿野郎が『どうにか』なったことが詳細に書いてあるのだろう。読みたいとも思わないので伏せたままでいよう。

それよりも重要なのは、あれが10階を根城としていることだ。昴たちの探索はまだ3階と4階の地理を覚えきって今から5階に挑もうもというところだが、いずれは10階に到達する。その時待っているのは、あれだ。

きっとあれは正面から戦うものではないだろう。勝てるビジョンが見えない。10階を歩き回るダレカの目をかいくぐって11階に駆け込むしかないだろう。それか正面切って倒せるまで8階以下で鍛錬を積むか。


「うまく町に行った隙に……といきたいなぁ」

「そうね。……その前に、まずは5階だけど」


ダレカは脅威だが、それよりも目の前のことだ。あれに遭遇するためには5階、6階、7階、8階、9階と5階層を乗り越えなければならない。

遠くの目標を見て近くの目標を見失ってはいけない。サイハが気を引き締めるように警告する。


「そうですね。まずはそれまでの敵ですよね」


敵、というかギミックなのだが。どうやら5階以上は何らかの仕掛けが迷宮にあるようだ。それを解かなければ次の階への階段は現れない。そして、生息する魔物もそれまでに比べて強くなるという。それに比例して探索中に命を落とす探索者の数も増える。

ここから本格的な探索になるのだと警告するような仕組みだ。観光気分のピクニックはおしまいなのだ。危険を減らすためにもしっかり学んでおきたいのだが、それに関する記述は本に浮かんでこなかった。予習なんかせずに実際にぶつかりに来いということか。むぅ、とフォルが唸って本を閉じる。

これ以上収穫はなさそうだ。一度出るとしよう。茶請けの菓子を頬張ってから立ち上がる。部屋を出ると、相変わらず廊下まで人でごった返していた。


「おや。奇遇だね。一昨日ぶりかな?」


柔和そうな男性の声。振り返れば見覚えのある銀髪の青年がいた。スティーブ、と昴が片手を挙げて挨拶する。編成所で声をかけてきた以来か。

おはようごさいます、とフォルが頭を下げる。スティーブがここにいるということは何かしら調べ物だろうか。


「まぁ、ちょっとだけね。……そうだ。君たち、『探索者狩り』の噂は聞いたことがあるかい?」

「探索者狩り?」


曰く。探索者を狙った強盗団がいるのだそうだ。被害に遭った者たちは重傷でまともに喋れないか死んでいるか。比較的軽傷の者も、何かしらの武具の効果で記憶が混濁していてその時のことを覚えていないという。

所持金と金目のものが盗まれるだけならまだいいのだが、殺された者の中には内臓や眼球がえぐり取られ、髪や爪などが剥がされていたそうだ。


「うわ……」

「ひでぇ話もあるもんだな」


青ざめる昴に対してリーゼロッテは平然としている。彼女にとってそれらは日常の光景なのだろう。

嫌だねぇとぼやいて話を元に戻す。


「んで、その話がなんだって?」


探索者狩りなんて話を持ってきたやつが一番怪しいというのは定石だ。

この世界に来てまだ3日目だが、そんな物騒な話は聞いたことがない。それほどの被害がある大事件なら編成所なり図書館なりどこかで警告がされていそうなものだが。今スティーブに聞いて初めて知った話だ。もしかしたら探索者狩りなんて噂は嘘でスティーブが犯人かもしれない。


「警告は今朝から発令されててね、聞いたかなと思ってさ」


今まさに受付でビラを配っているところだ。受付をパスしたためにビラの存在に気付けなかったのだろう。なるほどそれなら筋は通る。

ほら、これがビラだとスティーブがそれを渡してくる。探索者狩りに注意と題されたよくある注意喚起のチラシだった。具体的な犯人像は描かれておらず、遺体の状態から複数犯だと推理されているということくらいしかわからない。なるほどなぁ、と呟いた昴がチラシをしまう。


「スティーブさんはこの世界に来て長いのかしら?」

「呼び捨てでいいよ、お嬢さん。そうだね、結構長いかな」


足踏みが多いので期間の割にランクが低いのだが。そう語るスティーブにサイハが具体的な日数を訊ねると、156日と返ってきた。


「8705年の68の月に来てそこから156日だね」

「何その単位」


率直な感想が思わず昴の口からついて出た。

昴の知識では1年とは12ヶ月だ。68月なんてものは存在しない。

疑問は後付けの知識がすぐに教えてくれた。


この年の数え方はホロロギウム暦と呼ばれるこの世界の暦だ。

この世界には昼夜は存在するものの四季は存在せず、ずっと同じ気候だ。それゆえ年月などほとんど意識する必要がなかった。

暦とは畑の種まきや収穫の時期を知る目安として用いられるものだが、いつでも種まきも収穫もできる気候なら時期を合わせる必要もない。だから暦というものは存在意義が薄れ、消えかけていた。

さらには様々な世界から人々が召喚されるせいで暦が混乱する。ある人は1月2月3月と月を数えるのにある人は白雪の月と呼びある人は雷季と呼ぶ。その混乱のせいでますます暦というものが用いられなくなってきた。

その環境をどうにかしようと立ち上がったのがホロロギウムという人物だ。彼はまず曜日を定め、7日を1週間とし、4週間を1ヶ月として制定した。この28日単位を1の月、2の月、と数えていって100の月に達したら1年とする。四季などなくずっと同じ気候だからこそできた数え方だ。


「『知っている』だろう?」


ちなみに今は8705年の73の月、14日目、風の曜日だ。後付けの知識がそれを告げた。


「あぁそうだ、君たちこれから暇かな? よかったらクエスト受けないかい?」

「クエスト?」


特に予定はなく、レベルアップついでにクエストを受けて探索にでも行くかと何となく行くつもりだったが、何かあるのだろうか。

問う昴にスティーブが返す。迷宮内の植生調査に協力してほしいとのことだった。

塔の迷宮の中には様々な植物が自生している。どこに何が生えているのかを調べるのがクエストの目的だ。もし危険な植物があるようならそれを警告しなければならない。場合によっては駆除しに行かなければ。


「僕の依頼じゃなくて僕の知人の依頼なんだけどね」


だから報酬はそちらから受け取ってほしい旨を付け足して、いくつかの小さな袋を渡す。この中に摘んだ植物を入れて持って帰ってきてほしいのだそうだ。


「珍しいものを見つけたら報酬ははずむそうだよ」


それじゃぁがんばって。人当たりの良い笑顔を浮かべ、ひらりとスティーブは手を振った。


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