プロローグ よくわからないけど、塔を登ることになった
目が覚めたら知らないところにいた。
本当に、驚くくらい唐突に。気がついたらここにいた。自分がその前後に何をしていたのかすら思い出せない。寝て起きたのか、落とし穴に落ちたのか、何かの扉を開いたとか。
とにかく認識しているのは『ここは自分がいた世界ではない』ということ。どこか別の世界に連れてこられたという認識が漠然とある。
そして、知識も。
気がついた時にすぐ近くにいた女の子3人がパーティないしチームないしグループないし班ないし、とにかく『仲間』であること。
ここは『塔』で、自分たち『探索者』の目的は塔の上に登らなければならないこと。塔の上には扉があり、鍵が存在すること。扉の先には『何か良いことがある』ということ。過酷な道中を地獄とたとえ、その地獄から解放される一種の解放感もまた褒賞のひとつであること。
歩き方、暮らし方、戦い方。『この塔を登る』ということにおいて必要な知識をいつの間にか知っていた。本に栞を挟むように、明らかな後付けで。後付けであるという直感もまた、『初めからあったもの』だ。
元々、持っている知識に後から必要な知識をくっつけた。機械に『塔』というプログラムをインストールするようなものかもしれない。
ならばこれらの知識はプリセットなのかもしれない。『探索者』とやらのソフトを動かすために、自分というハードに書き込まれたデータ。
ともかく。
自分たちはわからないだらけの塔を意味もわからず登らなければならないのだ。
この先に何があるかも、ここまで何があったかも、今何が起きてるかもわからぬまま。
誰が何の目的でこの塔を作り、そして形を壊さず今まで保持されてきたのか。誰が保持してきたのか。到達した先に何があるのか。自分たちに漠然と知識を刷り込んだのは誰なのか。
塔、鍵、扉。探索者。脱落者。到達者。帰還者。守護者。掃除屋。武具。始原の層、受難の層、安息の層、苦難の層。知らないはずなのに『知っていることとして』刷り込まれた言葉たち。その意味。
誰が、いつ、どこで、どうやって、何故。5W1Hは空白のまま。何もかもが暗闇の中。
とんでもないところに放り込まれてしまった。だが、『元の居場所に戻ることはできない』『逃げ出すことはできない』という概念が頭の中にある。
この塔を登りきって到達者となるか、探索を諦めて塔の安全圏で定住するか。あるいは死ぬか。それしか道はないのだ。生きる上で属する組織で多少の振る舞いは変わるが、どこでどう生きるにしろこの塔なくしては成り立たない。塔から離れることはできない。
それが掟。それが約定。何の? 後付けの知識から引き出された言葉に立ち止まって考えても答えは空白。ただ事実や概念としてそこにある。
まったく、とんでもない話じゃないか。