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白い紫陽花 まとめ  作者: 有馬裕太
5/6

彼岸花 after story

本編では書かれなかったさくらとのさくらとの授業です。言葉と自由についての内容になってます。

本編では一切喋っていなかったさくらはここではちゃんと話してます。

最後まで読んでいただきたいです。

よければ評価の方もお願いします。

彼岸花 After story


さくらとの最後の授業


授業終わりにさくらに呼び止められた。

「先生。ちょっといいですか?」

どこか幼さが残る可愛らしい声で呼び止められた。その子はニット帽をかぶっていた。

「どうしたさくら?」

「ここだと色々な人がいて話しにくいので時間がある時に私の病室までお願いできますか?」

「そうか。わかった。今日の閉店後にまたくるよ。」

「ありがとうございます。」

車椅子の上で頭だけを下げて、器用にUターンして、待たせてたであろう隼人のもとに向かって行った。今までの自分に対して少し思うことがあったのだろうか。確かに急に自分の様子がおかしくなったのはさくらと、隼人から手紙をもらってからだ。それを気づくことのできないような子ではない。さくらに呼び止められて自分は少しドキッとした。

約束通り、閉店後さくらの病室に向かった。愛には先に帰ってもらっている。もしかしたら長くなるかもしれないから。時刻は7時過ぎ、本来なら患者でない限り病院には入れてはもらえないのだが、警備の人に事情を話したら入れてもらえた。ここまであっさり入れると防犯は大丈夫なのか心配になる。エレベーターで4階にあるさくらの病室に向かう。さくらの病室は複数人数が入る大部屋ではなく、個室の病室だった。病院によって様々だが個室は症状が重い人やお金持ちが使っているイメージがある。さくらの病室につき、ノックをしてさくらの返答を待つ。

「入っていいですよ。」

さくらからの返答があったので部屋に入る。どうやら夕食後だったようで食べ終わった食器がテーブルの上に置いてあった。

「先生。わざわざ来てもらってすいません。」

「いいよ、そんなことは。大切な生徒の頼みだから。」

もしかしたら顔が引きつっているかもしれないができるだけの笑顔を作る。こうやって2人で真剣な感じで話すことは今までなかった。病室内が微妙な空気に包まれる。すると、扉を叩くとが聞こえた。

「さくらちゃん。食器片付けにきたよ。」

「はーい。お願いします。」

看護師さんが病室に入ってくる。

「あれなんで渡邉さんがいるの?」

「少しさくらと話したいことがあったので、警備の人に事情を話したら入れてくれました。」

「困るわぁ。そう言うことは事前に言ってもらわないと。」

「すいません。」

「でも、まあ、今回だけは許してあげる。私から看護師長に言っておくね。でも、そんなに長くはいないと思うけど9時にはしっかり帰ってくださいね。さくらちゃんも時間になったら先生にバイバイするのよ。先生のこと好きだからって規則は破っちゃいけませんからね。聞いてくださいよ。さくらちゃんったら最近は渡邉先生の話しかしないんです。隼人くんがいながら。」

「そうなんですね。嬉しい限りですよ。こんな可愛い子に好かれるんですから。」

「もう、そんなことは今いいでしょ。早く片付けないと怒られちゃいますよ。」

「はいはい。邪魔ものは出て行けってね。では渡邉さんさくらちゃんのことお願いしますね。」

「はい。任せてください。」

元気な看護師さんは部屋を出て行った。その後、病室内はさっきとは違う感じの微妙な空気に包まれていた。静寂に耐えきれなくなった自分は自ら少しだけ思い口を割った。

「そういえば話って何かな?」

恥ずかしさで忘れていたのか、はっとした表情で自分を見てきた。

「そうだった。忘れてた。看護師さんが余計なこと言うから。」

「そうか?嬉しかったけどなぁ。隼人には少し悪いけどね。」

「隼人の好きとは違くて。もう、なんていえばいいか。」

「わかってるって。隼人はLoveの方だもんな。」

さくらは顔を赤くして俯いてしまった。最初にあった緊張感は何処へやら。それにしてもこの2人は本当にいじりがいがあって面白い。似た者同士だから何か通じ合うものがあってお互いに求め合っているのだろう。

「そろそろ本題に入らないと看護師長さんに怒られそうだから、本題をお願いしてもいいかな?」

少しだけ自分の纏う雰囲気を変えた。真面目な雰囲気を出した。その雰囲気を察したのかさくらも顔を上げて自分の顔を見て話し始めた。

「先生。私の病気のこと気付いてるでしょ。それに私の今の状況まで。」

「ああ。知ってるよ。ほんとは知りたくなかったんだけどね。なんとなく雰囲気で察していたところはあったけど、この前直接日向さんに聞いて真実を改めて突きつけられると少し辛くてね。考えちゃうことがあったんだ。」

「そうだったんだ。」

「このこと受ける時に日向さんには教えないでくれってお願いしてたんだ。他の子と対応が変わってしまうことがあるからって。それから隼人経由でさくらとも仲良くなった。特別扱いするつもりはなかったんだけど、正直なこと言うと2人に会いにくるために授業していたのかもしれない。2人が可愛くてしかたなかったんだ。」

思いもしなかった自分の言葉に少し照れているさくら。

「嬉しい。」

しばらく沈黙があった。さくらが覚悟を決めたように大きく息をはいた。

「日向先生から聞いてると思うけど、私あまりよくないみたいなの。今までもお薬はうってたんだけど今度からさらに強いのに変えるんだって。だから今度からあまり授業にいけなくなっちゃうかもしれないの。」

「なら、今度からさくらのためだけに授業しにここにくるよ。」

「それはいいや。元気になってみんなと先生の授業受けたいもん。それに先生に迷惑かけちゃうし。」

元々、さくらのために始めた授業だからさくらのために何かしてあげたい気持ちでいっぱいだ。でも、元気のない姿を見せたくないのかなと勝ったに解釈した。

「そっか。さくらが言うならそうしようか。」

「体調が良ければ絶対先生のところに行って授業受けるから、心配しないで。」

正直心配しないのは不可能だ。でも、自分には何もできない。

「先生にお願いがあるんだけどいいかな?」

「うん。何かな?」

「私に何かあったら隼人のことお願いしていいかな?隼人のこと守ってほしいなって。」

なんでそんなこと言うのかと思ってしまったが、さくらの顔は覚悟を決めたのかしっかりと自分の顔を見つめていた。9時までまだ時間がある。それなら。

「さくら今限定でさくらと先生だけの秘密の授業しよっか?今先生ができる最高の授業。」

「でも、先生帰らないと。」

「まだ時間はあるし、今はさくらと少しでも一緒に話していたいかなって。」

「先生がいいなら、お願いします。」

そして、さくらとの秘密の授業が始まった。


急いで自分の鞄の中から小さめのホワイトボードを出した。さくらにはノートの準備をさせた。

「さくら準備はできた?」

「できたよ。なんかこうして2人っきりで授業するって緊張するね。」

自分と生徒の取り決めで授業中はタメ口でいいと言う事になっている。親近感も湧くし、質問しやすくなる。

「緊張してるのは俺の方だよ。いつもなら徹底的に準備してからみんなの前で授業しているにもかかわらず、今回は完全にアドリブだから余計なこと言わなければいいけど。」

本来の自分ならこんなことは絶対にしない。完璧主義で自分が発した言葉に対して全て責任をとりたがる自分ならこんなリスキーなことはできない。しかも、自分で最高の授業と言ってハードルもめちゃくちゃ上がっている。でも、今回ばかりはさくらとの時間を大切にしたいと思っている自分が勝ってしまった。

「でも、楽しみだなぁ。誰もまだ受けたことない授業を先生直々にしてもらえるんだもん。」

「ああ。多分だけど他の人にはしない授業だと思う。」

「なんで?」

「俺の人間としてのコアのことの授業だからかな。恥ずかしくて今のところさくらとか隼人くらいしかできないよ。」

これから自分がやろうとしていることは自分の思想の核になる部分。気持ちとしては自分の裸を見られた上でさらに、口の中まで裸にされて気分。これは真心にも愛にも正直見せられるかどうか。2人だから見せにくいのもある。少しかっこつけた感じの思想だから。

「じゃあ始めようか。2人だけの授業。よろしくお願いします。」

「よろしくお願いします。」

自分はまず、ホワイトボードに文字を書き始める。

「今日は、言葉について考えよう。人間は主に言葉をコミュニケーションのツールとして使っている。今現在使われている電話やSNSアプリはこれの延長でしかない。電話で普通は会えない距離にいる人と会話できたり、SNSでは不特定多数の世界中の人に対して自分の言葉を届けることができる世の中になった。でも、昔はどうだったかな?自分の言葉を届けるには直接会うか、前授業でした手紙を書くことしかなかった。言葉を伝えるってかなり重労働なことだったんだ。」

自分が喋りながらホワイトボードに書いていることを丁寧に写している。自分の話をちゃんと聞きたいのか、色などは使わずに、黒一色でノートを書いていた。

「じゃあ、昔は今と違って誹謗中傷とかがあまりなかったのかな?」

「いい視点だね。そうだね。昔は今より言葉を伝えるのは手間だし、人の悪口もその人に届くことすらなかっただろうから。簡単に世界が広がってしまっていろんな意見が入手しやすくなった分、心ない言葉も知らず知らずのうちに見えてしまっている言葉があるのかもしれないね。しかも、その人の顔が見えないからどんな状況でどんな感情でそれを言っているかは受け取る人次第になってしまっているから、これがまた厄介。伝えることが大変なら、切実な願いや強い思い以外はなかなか伝えることはないかもね。悲しいことに人間は他と比べてしまったり、人の悪口が好きな生き物だからね。それが小さな世界、近所とか友達間とかで収まるならいいんだけど、今はそうはいかない。時間があればそういう心ない言葉を見られているとも知らずに吐いてしまう人がいるかもしれない。便利になるってことはいいことばかりじゃないんだよ。」

「少し悲しいかも。」

「そうだね。人間って自分に直接害がないと思うと急に強気になったり無責任に人を傷つけてしまうからね。こういうことをする人の中での意見では、日本の憲法では表現の自由と発言の自由を保障している、と主張しているけどこれは自由っていう言葉の解釈が違うととても危険で怖いことなんだよ。」

「自由って聞くととてもいいことのように聞こえるけど。」

「そうだね。自由っていう言葉自体はとても大切な言葉だとは思うよ。それを保証するのも大切なことかもしれない。でも、それは自由であってわがままじゃないんだ。言葉の解釈が違えば大きな差になってしまう言葉でもあるんだよ。自由とわがままでは何が違うと思う?」

「・・・。」

ここまでかなりいいペースでラリーを続けてきたが流石に自分なりの答えを出すとなると少し時間がかかる。さくらには少し悪いが今回は時間がないので早めに前に進む。

「わからないかな?中学生だから無理もないよ。学校では習わないし、憲法について習った時に疑問に思わなきゃまず考えもしない問題だから。今、憲法を学んでいる人間でさえ考えている人は少ないんじゃないかな。時間がないからもう先に進めちゃうね。自由とわがままの大きな違いはその行動、発言に自己責任があるかないかだよ。もしくは自己責任を取れるか取れないか。自由にはすべてのことに自己責任が問われる。わがままは誰かが自分の代わりに責任を取ってくれる。わがままを言うのは自分であってもそのことについて行動するのは自分とは違う人でしょ。わがままはどちらかと言うとお願いに近い。誰かが聞いてくれて初めて成立するもの。一方で自由はすべて自分で考えて、自ら行動、発言することですべての責任が自分に降りかかってくる。さくらたちみたいに学生の間は保護者が大きな責任を持つことが多い。」

さくらは真剣に自分の話を聞いている。今はほとんどホワイトボードを使っていないが気になることについてしっかりメモを取ることができている。

「自由=責任なんだよ。自分で背負える範囲でしか俺たちは自由になってはいけないんだ。それを超えてしまうと法を犯してしまったり、他の人を巻き込んでしまう。大人になると、多額の違約金を払う羽目にもなる。自由を好き放題にできるっていうふうに解釈してしまうと不用意に人を傷つけて取り開始のつかない事になることは多々。最悪の場合、自分の発言で人の命を奪ってしまったりしてしまう。人の命を奪ってしまた責任は誰にも背負えるものではない。だから、表現の自由も発言の自由も自分が背負える責任の範囲で、さらにちゃんと考えた上でないとといけない。」

「そう考えてみると、簡単に言葉はかけられなくなっちゃうね。今の自分が言葉にどれだけ責任を持てるのかもイマイチわかってないし、背負えるだけの自信がないかな。」

「そうだね。でも、人間である以上そんなことも言ってられないんだよ。最初に言葉はコミュニケーションツールだって言ったよね。生物である以上コミュニケーションが取れないのはとても致命的。人間以外でも例えば、猿の毛繕いだったり、犬が他の犬のお尻の匂いを嗅ぐ行為だったり。人間でなくても必ず何かしらの方法でコミュニケーションをとっている。それはなぜかな?」

「1人じゃ生きていけないから。」

「そうだね。正解。ほとんどの生物は1人では生きていけない。もちろんそうでない生物もいる。でも、一部例外を除いてほとんどの生物は大切な役割である子孫を残すという行為はパートナーがいなければ遂行することができない。そのためにもコミュニケーションが必要になるんだ。その中でも人間、特に日本ではコミュニケーションを大切にしなければならない。日本では何か問題がない限り添い遂げることが多い。添い遂げるためには相手のことを知らなきゃいけない。いいところも悪いところも見定めた上で契りを交わした方がいい。後々話が違って離婚って事になったらたくさんの人に迷惑をかける。子供がいるならなおさら。もちろんすべてを知るということはできないよ。結婚してから出てくるものもたくさんある。だから、その都度話し合いが必要なんだ。その契りは決して軽いものではないからね。結婚はその人の人生に大きく作用してしまう出来事で両者に重く責任が降りかかるものだから。その関係性をつなげるのもコミュニケーションツールである言葉なんだよ。」

さくらは少し浮かない顔をしていた。

「私のお母さんとお父さんはよく喧嘩してたんだけどコミュニケーションがうまく取れてなかったのかな?」

さくらの頭に手を置いて言う。

「そんなことないよ。喧嘩もコミュニケーションの1つさ。喧嘩をするってことはなんとかして自分の考えを理解してもらおうとしているからだよ。喧嘩するほど仲がいいって言うでしょ。もちろん、喧嘩がなくて仲良しっていうのが理想かもしれないけど、喧嘩するってことは相手のことを大切に思ってるからこそ。相手のことどうでもいいと思ってたら喧嘩なんてめんどくさくてしないでしょ。はいはいご自由にどうぞって感じになると思うんだ。だからさくらの両親はとても仲良しだと思うよ。特にお父さんは、自分の経験上男はそう言った場がめんどくさくてその場から逃げる傾向の人が多いんだけどちゃんと話し合っているならお母さんのこと本当に大切にしてるんじゃないかな?」

「そっか。」

すこし嬉しそうな顔に戻ったさくら。へへへっと言いながら鼻の下を指でさすってわかりやすくてれていた。

「じゃあ話を戻すよ。夫婦っていう関係以外にも言葉は大事なんだ。例えばさくらと隼人みたいな恋人同士。さくらとご両親の親子の関係。俺とさくらみたいな先生と生徒の関係。さくらが言ったみたいに人間はいろんな人とつながって生きてるし、1人じゃ生きていけない。それはもう死んでしまっている人もそう。俺はね2回家族を失ってるんだ。」

自分の突然の告白にさくらの顔が少し強張った。

「最初の家族はまだ自分が5歳くらいの時で鮮明には覚えてはないけど2人目の両親のことは今でも鮮明に思い出す。2人から自分はいろいろな言葉をもらった。それは2人が目の前からいなくなって2度と会えなくなったとしてももらった言葉は今の自分を支えてくれてる。言葉は使い方を間違ってしまうととても怖いものになるけど正しく使えば他の人を救うものにもなる。俺はね、言葉は薬だと思うんだ。正しく使えば病気を治す道具になるし、間違った使い方をすれば逆に体にとって毒になってしまう。強い言葉には力があるけど、その力に依存して知らない間に多用してしまう。薬も強いものには効果は大きくても依存性があるものが多い。正しく使わないと本当に危険なものなんだよ。でも、薬は病気を治したりするには必要不可欠だよね。言葉もそう。孤独から自分を救ってくれたのはたった1人の幼なじみの言葉だったし、これから自ら命を経とうとしたときに救ってくれたのは死んだ2人目の母さんの言葉だった。たとえ自分の身に何があったとしても自分が思いを込めて人に伝えたことはその人の中で生き続ける。」

少しタイムリーだったのかさくらは自分の顔を見て涙をじっと我慢していた。どこかで自分の死期を予感しているように。その顔を見た自分は少し冷静になって考えた。自分が言っていること、自分がさくらに対して話している内容。自分がさくらに対して話している内容に対してとんでもない罪悪感がこみ上げてきた。

「ごめん。こんな状態のさくらに話す内容じゃなかったかもしれない。この授業はおそらくさくらのためじゃなくてさくらを思っている人のためのものかもしれない。俺では病気は治せないし、さくら側の気持ちは体験してないからわからない。自分が死ぬことの恐怖もわからない。ほんとにごめん。無神経だったかも。」

自分が鼻をすすりながらさくらに対して頭を下げて謝っていたら、自分の頭に優しく手が置かれた。

「先生。泣かないでください。せっかくの2人だけの授業なんです。最後までお願いします。それに、今の先生の言葉は今の私にちゃんと届いてます。無神経じゃありませんよ。おかげでちゃん病気治さなきゃって思いました。もっといろんな言葉を先生からも他の人からも聞きたくなりましたし、何より残したいって思いましたから。」

さくらの言葉で自分は涙が止まらなくなった。さくらから受けた優しさとまだ未熟な自分にする嫌悪感、拭い切れてない罪悪感からくる涙。自分は膝の上で強く拳を握っていた。さくらはその手をそっと包んだ。

「泣かないでください。もっと先生から言葉がもらいたんです。これから生きていくために。」

自分は涙を拭い、頬を叩き気合を入れた。

「そうだな。先生が泣いてちゃ、何も教われないからな。先生がしっかりしないとな。よし、頑張るぞ。」

さくらの顔が少し笑った気がした。ここから授業を再開させた。

「さくら。俺はね、人間はタネを撒くものだと思うんだ。地球に自分の子を残すていうのもあるし、人間はそれ以外に自分の考えや思想、経験を人に伝えることも重要なんだ。人間の心を大きな野原だとしたら人の考えや思想を聞くとその野原に一つ種が植えられる。それが大きな木になるか綺麗な花になるかはわからない。でも、それを育てるのはその人次第。自分に必要と感じたらたくさん肥料をやったり水をあげたり大切に育てればいい。逆に必要でなかったら水をやらずに枯らせばいい。人は多くの人、環境から影響を受けて自分だけの野原を作る。そして、そこでできた種をまた他の人に植えてあげればいい。そうして人はどんどん繋がっていく。そのための言葉。そのための命だと思うんだ。俺はさくらたちとの授業でみんなの心に種まきをしているんだ。だから、俺の種はもうすでにさくらに少し撒いておいたからそれを育てるかはさくら次第。できればちゃんと育ててもらって、俺より長く生きて俺が死んだ後にいろんな人に伝えて欲しいかな。もちろん、これからもさくらたちにいろんな思想の種を撒いていくから。さくらたちからもらった種も自分の中でちゃんと根を張っているよ。」

「私たち何も先生に教えてないよ?」

「種って教えてもらうこと以外にもいろんなんところからもらうんだ。日常的な会話、授業中の発言、表情。いろんなところから俺はみんなから学んでる。むしろみんなから学ぶことの方が多い。単純に人数分って言うこともあるけど、みんな自分とは違った経験や、思想をしているからそれを人数分俺はみんなに教わっている。それはこれからも俺の中に残って大きなきか、綺麗な花になってくれる。さくらは名前の通り綺麗なさくらの木になるかな。春になるとかわいい綺麗な花を咲かせて俺の心の世界を彩ってくれる綺麗なさくらに。」

「先生。言葉が少し臭いですよ。」

「そうだったかな?」

さくらに向けて笑顔を見せる。もちろんこれが最後ではない。言葉に嘘はない。でも、どことなく悲しさがこみ上げてくる。

「ありがとう、先生。もし自分が死んでしまったとしても自分のこと大切に覚えている人がいるだけでこんなに嬉しいことはないよ。今の自分がやらなきゃいけないことも見えた気がする。でも、私は病気になんか負けないから。負けてられない。私、大きくなったら先生みたいな教師になりたいな。知識を教えるだけでなくて、生き方を教えられる先生になりたい。」

「なれるさ、きっと。俺なんかよりもっといい先生になれるよ。さくらは他の人とは少し違う経験をしてるから、病気で悩んでいる子にもその他の子にも、とても大きな優しさを持てるすごい先生になれるよ。さくらの先生である俺が保証する。」

2人で顔を合わせ笑い合った。すると時間はもうすでに9時になろうとしていた。

「そろそろ時間だね。じゃあ、授業で待ってるよ。」

「はい。先生の授業を楽しみにしてます。」

さくらの頭を撫で、席を立った。病室の扉に手をかけるとさくらに呼び止められた。

「先生。ありがとうございました。」

自分は振り返り、

「こちらこそありがと。じゃあ、またな。」

そうして自分は病室を出た。


読んでいただきありがとうございました。

これで物語としての彼岸花編は終了になります。

表現の仕方が多用的になった今、改めて自由とはなんなのか、自由の範囲はなど考えてもらえる内容にしました。

何か寛の言葉が皆さんの中に残れば嬉しいです。

出来損ないの作者ですが何か伝えられればいいなと思ってます。

過去の話も場面ごとに分けて少し読みやすくしたものもあります。夏の間できるだけ毎晩投稿している短編もあります。よければそちらもよろしくお願いします。

次はさくらが隼人に向けて送った手紙です。寛は出てきませんが隼人がどういった言葉で決心をしたのか、さくらの最後の言葉はなんだったのか。最後まで彼岸花編にお付き合いください。

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