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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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九十八節、六翼

客室で寝ようと二階の薄暗い通路を歩いていると、奥にあるティエリアの部屋のドアから光が漏れていたことに気がついた。

時間はもう深夜を回っている。ティエリアたちはまだパジャマパーティをしているのだろうか。

とりあえず就寝の挨拶だけでもしようかと、ダインはノックをしつつドアを開けてみる。

「あ、ダインさん」

開けた瞬間に、部屋の中央にいたティエリアの顔がこちらに振られた。「ようやくパパ様が解放してくださったのですね」

「ああ、そうだけど…」

布団を敷いていたティエリアを見つつ辺りを見回すが、部屋には彼女しかいない。

「あれ、みんなは?」

確かパジャマパーティをしていたはずだ。

「それがこのお部屋で三人で寝るのは手狭だったので、シンシアさんとニーニアさんが客室で寝ていただくことになってしまいまして…」

「あ、そうなのか」

確かにティエリアの部屋は決して広くはない。ベッドやテーブル、タンスといった家具もあるので、新たに布団を一つ敷くだけでもう余裕がなくなる。

「あの、ですから、その…」

布団の上に正座しつつ、ティエリアはもじもじしだす。

話の流れ的に、ダインはこの部屋で寝てくれと彼女はいいたいのだろう。

妙なところで紳士っぽさを発揮し、だったらリビングで寝るよと、普段のダインならそんな空気の読めない発言をしていたところではあったのだが、

「あ〜、じゃあ、まぁ…俺はここでいい、のかな?」

若干の胸の高鳴りを覚えながら、彼はいった。ニーニアとの一件から、さすがに学習したようだ。

「は、はいっ!」

そこでティエリアの顔にパァッと笑顔が広がる。

「せ、狭いですが、どうぞこちらへ…!」

と彼女が案内しようとしたのは、何故か自身のベッドだ。

「い、いやいや、それはさすがに悪いって」

ダインは丁重に断って、地べたに敷かれている布団の上に座った。

ふぅ、と息を吐き、ベッドの端に腰掛けているティエリアに笑いかける。

「いやぁ、先輩の親父さんってなかなかのゲーマーだな」

ゴディアのコントローラー捌きを思い出し、いった。「リアクションが面白いし、失敗できない場面になれば集中力を発揮する。ゲームをやり込んできただけのことはある」

素直にゲームの才能があると褒めるものの、「もっと別の方面でその集中力を発揮して欲しいと思うこともあるのですが…」、父に対する娘の評価は今ひとつのようだった。

「お料理や大工仕事といったものの方が、喜ばれる方も多いと思うのです。いくらゲームが上手だとしても、実生活ではあまり役立つ場面はないと思いますし…」

なかなかにはっきりとした物言いだ。

「ま、まぁ、そうだ…な…」

ダインはつい、微妙そうな表情で返事をしてしまう。

彼の脳裏には、先ほどそのゴディアから“守人”に関して聞いていたことを思い出していた。

死のドラゴン、ダイレゾ。

その存在に関しては特に厳重に管理されているらしく、ゴディアがその守人に任命されたことは、例え身内であってもいってはならないようだった。

そのためティエリアもマリアも何も知らないようだったが、彼は定期的にダイレゾの封印地に赴いては、封印の状態を確認し、場合によっては再構築をしていたらしい。

バベル島に住むゴッド族の中でも、ジャスティグ家のバリア魔法は類を見ないほど強固なものだったらしく、そのため守人を任されることになったのだ。

ゴディアの話によると、ダイレゾの封印地は、かつては下界のどこかにあったらしい。

しかしその危険性を重視したゴッド族が、封印地ごと大陸から引っこ抜き、隔離された世界を作り出し、そこに閉じ込めた。

人知れずダイレゾを管理し続け、大規模な封印を施しているゴディア。

酒とゲームが好きな彼とどちらが本当の顔なのかは分からないが、ティエリアのいい父であることには変わりない。

しかしそんな女王神でしか知らないような秘匿すべき情報を、何故他人であるダインに打ち明けたのか。

ティエリアが信頼を寄せるダインが七竜対策に抜擢されたと聞いたのがきっかけだったと、ゴディアはいった。

ダインを危険な目に逢わせたくないとの思いから、守人であることを告白したそうだ。

ゴディアの気持ちは嬉しかったが、しかしガーゴが七竜対策に乗り出しているのは、その七竜の影響を受け困っている人がいるからだ。

完全に世界から隔離されているダイレゾは誰も何の影響も受けていないはずで、だから討伐されることはまずないとは思う。そもそも、ゴッド族が…いや、ソフィル女王神が許可するとは到底思えない。

とはいえ、何を考えているか未だに読めないガーゴがすることだ。ソフィル女王神の反対を押し切り、いつかはダイレゾを討伐対象にすることがあるかもしれない。

『有事の際には協力するよ』

ゴディアの頼もしい台詞と共に、ゲーム大会は解散となった。もちろん、去り際には「このことは男同士の秘密だよ」といわれた。

「あの、どうされましたか?」

考え込む余り無言になってしまったか、ティエリアの心配そうな顔がダインを覗き込んでいた。

「パパ様に何か妙なことを仰られたのでは…」

またゴディアに対する不満が噴出しそうだったので、「あーいや」、ダインは咄嗟に首を横に振る。

「テレビゲームなんて初めてだったからさ、ちょっと目が疲れてるんだと思う」

瞬きしつつあくびをして見せると、「でしたら、やはりこちらでお休みください」、立ち上がったティエリアがダインの手を取り、自身のベッドを勧めた。

「いや、でもここ先輩の部屋だし…」

「お客様はもてなすものです」

そのときティエリアがダインに見せたのは、また抵抗しづらい笑顔だった。

今日のティエリアはやけに強引なところがある。

自分が住んでいる島に招待したという気持ちもあるのだろうが、ダインたちが来てくれたことが何より嬉しかったのだろう。

朝ごはんを食べているときも、露天風呂に入っているときも、街中をぶらつき、そしてソフィル女王神と謁見しているときも彼女はずっとニコニコしていた。

そんな笑顔を見せられてはダインも断ることなどできなくて、大人しくベッドへ移動する。

体を横にすると、ティエリアが布団を被せてくれた。

「如何でしょうか?」

ベッドの端に座ったまま、笑顔のティエリアがベッドの感想を尋ねてくる。

「ふかふかだな」

先輩の匂いがする…とは変態っぽくていえなかったが、ベッドからは柑橘類に似た爽やかな香りがしていた。

「趣味の少ない私ですが、寝具には気を遣っていますので」

意外なことを彼女はいった。「お布団は毎日天日干ししていますし、週に一度は丁寧に洗っております」

「寝るのが好きなのか?」

ダインがきくと、「いえ」、と首を横に振るティエリアは笑った。

「心地いい眠りは翌日の気分を高めることに繋がりますから。お食事もそうですが、毎日しなければならないことに対しては妥協したくはないのです」

何とも真面目な、ティエリアらしい考え方だ。

「さすが先輩だな…」

呟きながら、少しだけ目を閉じてみる。

背の小さなティエリアに合わせて作られたベッドなので、ダインが収まると少しだけ覚束なさはある。

でも毎日手入れしてるだけあって、布団の感触はまさに夢心地のようだった。

ふわふわでふかふか。今日はやや暑い一日ではあったのだが、布団を被っていても窓から入り込んできた夜風が、そのふかふかの布団に潜り込んできたのが分かる。

一瞬だけ目を閉じたはずなのに、その一瞬だけで一気に眠気に襲われそうになった。

「いや、極上だな。こんな気持ちいい布団は初めてだよ」

ダインがいうと、「良かった」、ティエリアはまた嬉しそうに笑った。

それからダインをジッと見つめてくる。

「あの、もしかして俺が寝るまでそこに…?」

移動しようとしないので尋ねると、「あ、ご、ご迷惑でしょうか」、ティエリアは申し訳なさそうな顔でいった。

やっぱり寝顔を見るつもりだったのかと内心驚きはしたものの、「まぁ先輩がそうしたいのなら…」、ダインは特に咎めもせず笑いかける。

「あ、ありがとうございます」

よく分からないお礼をいわれ、しばし穏やかな“間”が差し込んだ。

そのとき開け放たれた窓の外から風の音が聞こえ、その風が窓から部屋に入ってティエリアの長い髪を揺らす。

髪を手で押さえつつも、優しい笑みを浮かべながらこちらを見ているティエリア。

夜だからか、それとも彼女が見下ろしてくるのが珍しかったからか、その姿はとても…綺麗に見えた。

「あ、そうだ、明日は早いのですよね?」

話すことがまだあったと思ったのか、ティエリアが聞いてくる。「いつ頃に起床する予定なのですか?」

明日はドラゴン討伐の予定だ。

「集合時間が早朝だったからな。夜明け前になると思うよ」

よく思い出してくれたと、ダインは携帯を取り寄せタイマーをかける。

「こっそり出て行くよ」

「いえ、お見送りさせてください。朝食もご用意いたしますので」

ダインがセットしたタイマーを見つつ、彼女は自分の携帯にそれより早い時間をセットする。

「そこまで世話になるわけには…」

また遠慮の虫が騒ぎ出したが、いままでダインが遠慮してそれをティエリアたちが聞き入れてくれたことはあんまりない。

「いや…お願いするよ」

素直にいうと、ティエリアはまた一段と嬉しそうな顔で「はい」、と頷いた。

「ダインさんの勇姿、テレビでしかと見届けさせていただきます」

おまけにそんなことをいう。

「いや、メインはあくまで“ヤツ”だから、俺は裏でこっそり回収するだけだよ。それに学校の奴らに見られたら何かと面倒そうだから、顔バレを避けるために覆面か何かするつもりだしさ」

目立たないように動くつもりだ。

そういうと、「そうですか…」というティエリアはやや残念そうな表情をしたが、すぐに「では探させていただきます」、と笑顔になった。

「お姿ぐらいは映ると思いますし、見逃さないようにします」

ティエリアにそういわれ、ダインは、テレビに映るんだよな、ということを再認識する。

「何か先輩にいわれると緊張してくるな…」

「あ、録画しておきますね」

「いやいいから」

そこでお互いしばし笑い合う。

「終わったら連絡するよ」

「はい、お待ちしております。ですが、相手は七竜ですし、何が起きるか分かりませんので…」

「ああ。気をつけるよ」

と、そこでまた優しい間が訪れる。

「先輩は眠たくないのか?」

ふと気になって尋ねるが、「昨日は早めに寝たので」、という返事が返ってきた。

時間は深夜をとっくに過ぎている。真面目なティエリアのことだから夜更かしなどしてるはずもないので、恐らくもう少し起きていたかっただけなのだろう。

シンシアたちはとっくに寝てしまったようだが、ティエリアはダインともパジャマパーティをしたがっていたのだから。

「あの、今日は如何でしたでしょうか」

ティエリアはふと尋ねてきた。「全てのプランを実行できなかったのが心残りなのですが…」

「いつも通りだよ」

少し目を閉じて、ダインは微笑む。「いつも通り、楽しかった」

それはお世辞でもなんでもないことは、彼の満足そうな表情が物語っている。「バベル島に来る機会なんざ、先輩と出会ってなかったら一生なかったかもしれないし。神殿に入れたりソフィル様と話せたりしてさ、楽しかったよ」

「そ、そうですか」

ダインの本心からの感想を聞けて、ティエリアはホッとしたように息を吐く。

そのとき、外でまた風が吹いたようだ。

ティエリアのシルバーのロングヘアーがまた風で揺れ、そよそよとダインの頬をくすぐる。

「…なぁ、先輩…」

頭の中に広がっていた眠気に抗えなくなってきたとき、どうにかまぶたを開きつつ彼女にいった。「ちょっと、先輩の羽…見せてくれないか?」

「え?」とティエリアは不思議そうな表情になる。

「先輩って滅多に羽とか出さないじゃん。だから見たくなって…駄目か?」

そう続けると、「わ、分かりました」、ティエリアはすぐに了承してくれた。

そして「んっ」と集中するように目を閉じ、力を込めた瞬間…彼女の全身が光を放つ。

その背中には大きな翼が現れていた。

六翼はゴッド族の象徴だ。

真っ白で光り輝いているようで、幻想的にも見える彼女の姿を見たダインは、

「ああ…」

目が半開きのまま、思わずいってしまう。「やっぱ綺麗だな…」

「え、そ、そのようなことは…」

途端に顔を赤くさせていくティエリアに、「綺麗だよ…」、ダインはボーっとしながら、彼女の方に手を伸ばしてしまう。

無意識に、彼女の翼に触れようとしていたのだ。

しかし寝た状態では届きそうになくて、ティエリアはその彼の手をそっと両手で掴んでしまう。彼女もまた無意識にダインの手を掴んでしまったようではっとするが、その手を離そうとはしなかった。

「先輩…?」

「あ、えと…え〜と…」

何を思ったか、そのときティエリアは…、

「ね、ね〜んね〜ん…」

妙な歌を口ずさみ始めた。

ダインはすでに夢と現実の狭間に彷徨っていたが、「どうしたんだ、急に」、上手ではないが、その可愛らしい歌声にまた笑みを浮かべてしまう。

「じ、実は、プランの最後に歌でダインさんを寝かしつけるというものを入れておりまして…」

ヒューマ族から伝え聞いた子守唄です、といって、歌を続けた。

きっと彼女なりに必死だったのだろう。友達が出来たのが初めてならば、招き入れたことも初めてなのだから。

そんな彼らにどうすれば喜んでもらえるのか。考え抜いた結果、子守唄までプランに入れてしまったということだ。

「ほんと、何から何まで…可愛い人…だな…」

ティエリアの歌が功を奏したのか、ダインはそこで限界がきてしまった。

ダインの目が完全に閉じられ、ティエリアの手を握り締める力が抜けて寝息を吐き始める。

「ね〜んね〜ん…」

もう自分の歌声は届かないだろう。それはティエリアも分かってはいたのだが、元来から生真面目だった彼女はそのまま歌い続けていた。

民謡のような、童話を読み聞かせているような、ティエリアの透き通った歌声がしばし部屋の中に木霊する。

彼女の歌に合わせるように、穏やかで優しい風が吹き込んできていて、ダインとティエリアの髪や、そして彼女の背中にある大きな翼をも揺らしていった。

「おこ〜ろ〜り〜よ、おこ〜ろ〜り〜…」

ティエリアは尚も歌い続ける。夜風のような穏やかな歌声はダインの鼓膜を優しく揺さぶり、彼の眠りをより深いものへと誘っていく。

(サアアアアアァァァァァ…)

やや強い風が吹き、窓の外から枝葉がこすれ合う音がして…風が止んだと同時に、ティエリアの歌声も止まった。

静まり返る部屋の中。歌い終わったティエリアは、ダインの寝顔をジッと見つめている。

彼女の手はまだダインの手を握り締めていた。

いつも優しく頭を撫でていてくれた手。抱きしめてくれたり、時には守ってくれる、ダインの大きくて暖かい手。

「…ダインさん…」

…家の側には“バラザクラ”という、赤とピンクの入り混じった桜が咲いていた。

下界ではとっくに絶滅してしまっているそれは、花が千切れやすいのが特徴で、いま風によって花の一部が取れてしまった。

花弁は風の波に乗り、ひらひらと身を翻しながら、窓からティエリアの部屋に侵入する。

舞い降りた先はティエリアの頭上…ではなかった。

彼女は背を屈めており、花弁はその翼に落ちていて、彼女の頭は寝ているダインのすぐ上にあったのだ。

ベッドの上に落ちたダインの手を、指を絡めつつティエリアの小さな手が重なっている。

それと同じように、眠っているダインの唇に、ティエリアの小さな唇が重なり合っていた。




「ふふ、どうかな、気持ちいい?」

そんな声と共に、ティエリアの意識は浮上した。

まず見えたのは、眼下に広がる大海原だった。

自分は空の高いところにいて、どうやら空を飛んでいるらしい。

感覚はおぼろげで、視界に映る自分の手足は妙に長い。

その形も着ている衣服も自分のものではないようで…これは夢なのだということに気がついた。

いや、夢というよりは、これは“誰か”の記憶の中なのかもしれない。

そのとき、あっ、という声が自分から聞こえた。

視界が突然下に振られる。

装束のような衣装を着た男性が、自分から落ちていくのが見えた。

“自分”は慌ててその男性を追いかけ、抱きとめる。

「あはは、ごめんごめん」

自分ではない“彼女”が笑いながら謝罪の声を上げるが、そのヒューマ族のような若い男性はなにやら喚いている。

「ごめんね。今度はちゃんと手を離さないようにするから」

どうやら“彼女”がその男性を空に連れ出したようだった。遊覧飛行の最中、手を滑らせてしまったということか。

「ほら、ちゃんと。しっかり」

彼女は今度こそ離さないとばかりに、手ではなく彼の全身をギュッと抱きしめた。

恐怖と怒りの入り混じった男性の表情は、たちまち恥ずかしさに顔を赤くさせていく。

そこで機嫌が直ったと思ったのか、“彼女”は再び飛行を始めた。

「下界は気持ちいいよねぇ。君もこんな景色は初めてでしょ?」

こくりと頷く男性だが、遥か先を見てから不思議そうな顔になる。

あれは? と、彼は指差しながらこちらを見た。

「あれ?」

男性の指し示す先を眺めながら、彼女は思案を巡らせる。

下界についての知識を総動員したとき、ある一つのことが浮かんだ。

「“不浄の島”…だったかな、確か」

不浄? 男はまた不思議そうに尋ねる。

「まだ良く勉強してないから分からないんだけど、“悪いもの”の溜まり場らしいよ」

確かに彼女の言う通り、周囲は雲ひとつなく晴れ渡っているのに、その島だけは暗雲が立ち込めているかのように暗い。

「天界じゃ考えられないんだけどねぇ。悪いものなんて溜まりようが…」

とそこで、「ん?」、と彼女は声を出し、台詞が止まった。

目を凝らす彼女に倣って、男性もその島を凝視する。

島全体を覆う暗雲のような黒い霧が、徐々に上空へ浮かんでいっている。

「あれは…」

島の上に“何か”が見える。

暗闇の中に紛れていて形までは確認できない。けれど、その“何か”が黒い霧を吸い上げているようにも見える。

得体の知れない光景に思え、身震いしたのは“彼女”が抱いていた男性だった。

離れた方がいいんじゃ…と戸惑う彼に、「ちょっと見てみない?」、少女は好奇心旺盛にいった。

「いってみよう!」

男が止める隙もなく、彼女は彼を抱えながらその黒い島へ一直線に向かう。

そこに何があるのか━━

その真相を突き止める前に、急に視界が白んできた。

“自分の手足”の感覚が戻りつつあるのが分かる。どうやら夢が醒めかかっているようだ。

「うわ、なにあれ!」

少女の驚きの声が聞こえるものの、もはや何も見えなくなっている。

ティエリアはその“何か”を確認したかったのだが、急浮上し始めた意識を沈める手立てなどあるはずもなく…いいところで夢は切れてしまった。

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