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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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九十四節、短かった水着回

巨大温泉地、エデン━━

バベル島唯一の観光名所であるそこは、露天の風呂場であるにもかかわらず、とてつもなく広大な面積があった。

約十ヘクタール。陸上競技場が十個分ほどの広さがある場所に、水溜りが点在しているかのように様々な温泉が口を広げている。

入り口にある看板の説明文によると、温泉は十種類ほどあるそうで、乳白色の温泉や赤褐色に染まったもの。常に気泡が湧き出たものや、独特の匂いを放つ温泉もあるようだった。

特に人気があるのが温泉に魔法力を滞留させている“癒しの泉”で、回復の魔法が常に湯船に流れているらしく、湯船に浸かった瞬間に心身ともにオーバーヒール状態となってしまい、どんな者でもたちまちため息が出てしまうらしい。


まだ午前の時間であったため、人はまばら。

溶岩帯のように湯煙の漂う中、水着に着替えていたダインたちはその“エデン”の入り口に集まっていた。

「すっごい広いねぇ…!!」

入り口から前を見て、まずシンシアはその広さに驚きの声を上げた。「初めてだよこんなとこ」

早くもテンションが上がってしまったようで、「そ、そうだね…」、頷くニーニアもきょろきょろと辺りを見回している。

「じ、実は私もここに訪れたのは二度目でして…」

最初に来たときはかなり前だったのか、ティエリアは当時の記憶が薄かったようで、珍しそうに看板の説明文に目を通していた。

「ダイン君、どこから入ろうか。どこも気持ち良さそうだけど…」

みんな温泉を目の前にしてハイテンションだが、「そ、そうだな…」、ダインだけは何故か遠くを見たまま硬直していた。

まだ湯船に浸かってもないのに、彼の顔は真っ赤。

彼が固まって恥ずかしそうにしているのには理由がある。

視線の先には、偶然にも素っ裸で歩く貴婦人がいた。おおらかな人が多いゴッド族なので、まったく人目を気にしない人もいる。

が、ダインは別にその人に驚いていたわけではなかったのだが、シンシアは分からなかったらしい。

「わわ、そっち見ちゃ駄目だよ!!」

彼女は咄嗟にダインの両頬を掴み、自分の方を向かせた。

目の前にぶら下がる大きな二つの果実が目に入り、「ふおぅっ!?」、ダインは素っ頓狂な声を上げつつまた顔を逸らしてしまう。

「い、いや、ち、違くてだな…!」

不思議そうにするシンシアたちに、ダインは顔を逸らしつつ正直にいった。「お、俺にはちょっと…刺激が強すぎる…」

素っ裸で歩く貴婦人が、ではない。近くの湯船で胸を浮かせた若いゴッド族の女性に対してでもない。

シンシアたちの水着姿を、ダインは直視できないでいたのだ。

これまで散々彼女たちから魔法力を吸い上げてきた仲だ。吸魔衝動に駆られ触手を絡めてしまったり、ニーニアとは同化までしてしまったこともある。

精神的に恥ずかしい目に遭わせてきてその感覚も感じ取っていたのに、今更シンシアたちの素肌を見て恥ずかしがるのは妙な話だが、しかし半裸に近い彼女たちの水着姿は、色々とクるものがある。

「に、似合ってるよ。その…み、みんな、センス良いんだな…」

素直に褒めることは出来るが、また理性にヒビが入ってしまいそうなのでジッと見ることはできなかった。

吸魔を繰り返してきたからなのかもしれない。彼女たちの肌がどれほど気持ちよく、そして可愛いか知っていたからこそ、面と向かうことが出来なかったのだ。

本当に危ない。サラの精神訓練を受けてなければ、今頃どうなっていたのか…。

「や、やったよ、ニーニアちゃん、ティエリア先輩、ダイン君似合ってるって」

「う、うん。悩んでよかった」

「わ、私たちもちょっと恥ずかしいですけどね」

シンシアたちはすぐに輪になって、ダインを悩殺できたと沸き立った。

「た、確かに似合ってる。似合ってるんだけどさ…でもちょっと、その…思い切りすぎじゃないか…?」

ダインは再びチラリと彼女たちに目を向け、またすぐに視線を逸らす。「みんなビキニて…」

時には豪胆になるシンシアはまだ分かる。制服に窮屈そうに収まっていたそのダイナマイトなボディを際立たせるのは、解放的なビキニが一番合っている。

しかし、根っからの恥ずかしがりやだったニーニアやティエリアまでもが、布地の少ない水着を着てくるとは思わなかった。

とはいえ、そのデザインは派手すぎるわけではない。シンシアの水着は花柄模様で、ニーニアの水着は沢山のフリル。ティエリアの水着はリボンがあしらわれていたりと、ビキニにしてはやや控えめなデザインではあるのだが、みんなお腹が見えている。

身長が違うし体つきも違う。しかしみんな丸みを帯びた女らしい体つきをしている。

すらりと伸びた腕。真っ白な太ももは彼女たちが動くたびにプルプルと震え、水着を覆った部分のみを隠せば全裸にも見える。

その姿はダインにとっては魅惑を通り越して危険に思えた。

「お、温泉の効能を効率よく得るためには、面積の少ない水着の方が良いと思いまして…」

ダインのリアクションを見てティエリアも恥ずかしくなったのか、少しもじもじしながらいった。

「そ、そうか…確かにそうだよな…」

今回の目的はあくまで温泉。癒しを求めて、この巨大露天風呂にやってきたのだ。

よからぬことを考えてしまいそうになった自分を戒め、ダインは続ける。「水着も良いけど、そもそもの素材が良いからな。気を強く持たないと…」

思わず呟いた台詞だったが、はっきりと聞いたシンシアたちはたちまち顔を赤くさせていく。

彼女たちまでのぼせたような表情になり、妙な空気が漂い始めてきた中、「と、とにかく」、ダインはやや声を大きくさせていった。

「遠路はるばるバベル島の露天風呂まで来たのに、こんなところで突っ立ってるのはもったいない。早く温泉入ろうぜ」

早口のまま彼は歩き出し、手前の体を洗うための流水風呂まで歩いていく。

湯煙で彼の姿が見えなくなり、彼の真っ赤な顔を思い起こしていたニーニアは、「せ、成功…でいいんだよね?」、隣のシンシアに顔を向けた。

「そ、そうみたい、だね」

頷くシンシアだが、「でも…」、顔を真下に向け、自分の姿を確認する。「確かに、ちょっと大胆すぎた…かなぁ」

自分の体で見慣れたものなのだが、ダインには刺激が強すぎたのかもしれない。

ビキニは裸に近い状態なのだと今更分かってきて、それをダインに見られているのだと認識して顔の温度がまた上昇してきたのを感じた。

「き、気合を入れすぎましたね…」

やや体をくねらせるティエリアは、「で、ですが」、ダインがいるであろう湯船に顔を向ける。

「私たちにとっても、ダインさんの水着姿は目に毒…ですね…」

ダインは彼女たちの素肌を見たのは初めてだから照れていたのだろうが、ティエリアたちにとってもダインの半裸状態を目にしたのは今日が初めてだ。

ダインのその強さを裏打ちされているかのように、上半身も下半身も筋肉隆々とした体つきだった。

腕も足もがっしりと太く、ダインが男だということを今日ほど強く意識したことはない。

吸魔されているとき、あの厚い胸板に抱かれていたんだと思いなおし、彼女たちは無性に胸を高鳴らせていってしまう。

「へ、平常心、平常心でいましょう」

このままはまずいと思い、シンシアがいった。「私たちまで恥ずかしがって照れてしまったら、この温泉めぐりを楽しめなくなってしまいます」

確かに彼女のいう通りだった。せっかくティエリアが案を出してくれたプランなのだ。

引っ込み思案な彼女が人目のつく温泉を選ぶだなんて相当な勇気を出したはずだし、ましてやダインに水着姿を見せるなど、最初は恥ずかしすぎて倒れそうになっていたはず。

「なんでもない風を装いましょう。恥ずかしい思い出だけにはしたくないですから」

そうシンシアにいわれ、ティエリアは「は、はいっ!」、と両手を握り締め、気合を込めたポーズをとる。

「い、行きましょう」

ニーニアはシンシアとティエリアの手を取って、率先してダインの元へ歩き出す。


無理に平常心を保っていたシンシアたちは、純粋に温泉めぐりというものを楽しめていたのかもしれない。

しかしダインにとっては波乱の連続だった。

飲み物を買ってきたとシンシアが走ってきては、その動きに合わせて上下に激しく揺れる胸元に目がいってしまい、体温が上昇しすぎて倒れそうになってしまう。

湯船から上がったティエリアの水着が外れかかっており、ダインは飲みかけていたジュースを吹き出しそうになってしまう。

無意識にダインの手を握り締めてきたニーニアに飛び上がるほど驚いてしまい、シンシアたちに覆いかぶさるような形になって、今度こそ意識が飛んでしまいそうになった。

とにかく彼女たちの水着姿が刺激的過ぎて、後半はもう何が何だか分からなくなっていた。

その結果━━心身を癒す温泉に長時間浸っていたにも関わらず、ダインは精神的にひどく疲弊していたのだ。



「あー、疲れた…」

私服に着替え、巨大露天風呂“エデン”の看板を背にしたとき、ダインは思わず呟いてしまう。

「も、申し訳ございません」

ダインの精神状態にいち早く気付いたティエリアは平謝りだ。「ダインさんの精神が磨耗されていると気付くことが出来なくて…」

「い、いや、楽しかったよ。それは事実だ。温泉も極上だったし」

彼女にそうフォローを入れつつ、続けた。「お前たちが可愛いのはもう十分分かった。分かりすぎてるから、今度機会があるときには、もうちょっと露出の少ない水着でな?」

やんわりと注意したつもりだったのだが、シンシアは「え、えへへ」、と照れたように、しかし嬉しそうに笑う。

「次も期待しててね?」

「いや、期待とかじゃなくてだな…」

現在昼過ぎ。ティエリアのプランとしては昼食後も温泉めぐりをしている予定だったのだが、ダインの精神が持ちそうにないということで早めに切り上げたのだ。

「これからどうする?」

ニーニアがダインたちに尋ねる。

「ついでだし、散策しようぜ」

気を取り直してダインが答える。「初めて訪れたところなんだ。色々見て回りたい。先輩もそれでいいか?」

「あ、は、はいっ」

先を行こうとしたティエリアだが、「ノープランで行きましょう」、シンシアは彼女の手を取って隣に並ぶ。

「ぶらぶら散歩も楽しいですから」、ニーニアは反対の手を取って、彼女に笑いかけた。

「ね、先輩」

「は、はい」

真ん中を歩くティエリアはやがて笑顔になっていき、微笑ましく見つめていたダインは彼女たちの後をゆっくりとついていく。

様々な文化を取り入れたようなバベル島の街並みは、見ているだけでも珍しくて楽しかった。

ステンドグラスをちりばめた教会のような建物。

幾何学模様の家々に、かやぶき屋根の家や平屋建て、オブジェが沢山飾られたものやお菓子の家まである。

その空ではゴッド族が雲のように漂っていて、絶滅したはずの有翼馬ペガサスや、伝承上にしか存在しないはずの、炎に包まれたフェニックスが優雅に上空に浮いている。

小さな広場にはゴッド族の子供と思しき人たちがいて、ゲーム機や魔法を使って遊びまわっているようだ。

「何かもう…考えるのすら面倒になる光景だよな」

ダインは正直にいった。「絶対不可侵条約だっけ? あんな条約がなければ、いまごろヒューマ族かデビ族辺りに荒らされてただろうに」

絶対不可侵条約━━要約すれば、バベル島にあるあらゆるものは持ち出せないという法律だ。

宗教的にも聖力的にも、あらゆる面でゴッド族というものは有り難がられる。彼らが触れたものにすら付加価値をつける連中もいる中で、ゴッド族しかいないバベル島産のものがあるとすれば、きっと小石ですら法外な値がつけられてしまうだろう。

なので経済上の混乱を招きかねないため、バベル島の女王神━━“ソフィル・ハイリス”女王神が制定したもののようだった。

島に入った瞬間にその法律はゴッド族以外の如何なる人物にも適用されるようで、バベル島のものを無断で持ち出そうにも魔法によって元の場所に戻されてしまうらしい。

さすがに食べたものは戻せないが、現地で買ったもの、拾ったものは、基本的には島から外には持ち運べない。ゴッド族においてはその限りではないが、法外な値がつけられそうなものは持ち出せなくなっている。

「ゴッド族の招待状がなきゃ入れない時点でまだ鎖国みたいなもんは続いていそうだが、でもこの特色を考えると仕方ないことだよな」

「そう、ですね…いろんな種族の方にお越しいただけると、他の国のように賑やかなものになるとは思うのですが…」

「バベル島は静かな方がいいですよ」

シンシアがきっぱりといった。「まさに楽園って感じですし」

「うん、このままがいいと思う」

ニーニアも同意した。「人が増えるとその分トラブルとかも増えるから。この島だけは平和でいて欲しい」

二人はもうバベル島の良さを理解したようだった。

「他の国じゃ、こうはいかないもんなぁ」

ダインはしみじみという。彼は空に浮かぶゴッド族をジッと見ていた。

そのゴッド族の成人男性は沢山の鳥たちと戯れている。

「仮にあの人がゴッド族じゃなくて、下界の国でああして動物と遊んでたらそこら中から突っ込みが飛んできそうだ」

彼の言葉は、実力主義である下界の世の中に向けられたものに違いなかった。

下界はどこの国においても魔法力がものをいう時代だ。魔法力が高い人ほど忙しく動き回っており、休日返上で仕事に明け暮れている人もいる。

お金のため、家族のため、生きるため。

仕事というものがなければ自分の存在価値に気付けない。仕事が無いと不安に思ってしまう。そんな悲しい宿命を背負わされた人たちばかりなのだ。

「働いている方々を見て、心苦しさは感じているのですが…」

適当なベンチに腰掛けたとき、ティエリアは不意に申し訳なさそうな顔になる。

「忙しくお仕事をされている信仰心の高い方々に、何か出来ないかと思っているゴッド族の方は沢山おられます」

ですが、と彼女は続けた。「自ら階級を下げてこの世界に降り立った方がほとんどなので、階級を上げて使命を背負おうとするのもなかなか荷が重くて…」

気になる単語が出てきて、「階級?」、ダインが尋ねる。

「あ、はい。以前お話したことがあると思うのですが、私たちゴッド族には階級というものが存在します」

ゴッド族そのものについて、ティエリアは静かに語りだす。

「私たちの祖先に当たる方々は、かつては天界というところに住んでいました。それぞれの家系に、“二級神”、“三級神”という階級が割り当てられていまして、その階級が高いほど重要な使命を与えられていた時代がありました」

「使命というと?」、シンシアが尋ねる。

「人のために力を貸したり、死者の魂を英霊に昇華したり、大罪人に天罰を下す、ということをしていたそうです」

「しかしそれら使命をわずらわしく思う方もいた」、と、ティエリアは続ける。「天上神エレンディア様が下界に降り立ち、長く続いた混乱期を終わらせた。それを皮切りに、使命が生ずる天界での暮らしを逃れるため、続々とこのバベル島に降り立ってきたのが、この世界でのゴッド族という種の始まりといわれております」

ゴッド族そのものが珍しく、そうした情報を得る機会もなかった。

初めて聞くゴッド族の起源に、「そんなことが…」、ニーニアは目を丸くさせて驚いている。

「使命から逃げ出して下界に降りてきたのなら、階級はどうなるんだ?」、ダインがきいた。

「もちろん下がります。このバベル島に住んでいるゴッド族の方々は、祖先がどこの階級にいたかに関わらず、一番下である五級神になります」

「罰則はないんだな。掟破りに近いことなのに」

「元々天界では飽和状態にありましたから。いまがちょうどいい状態だと、女王神さまがお話されていたそうです」

「へぇ〜」

そう感嘆の声を漏らすシンシアたち。

「下がった階級は上げられるもんなのか?」、とダインが話を戻した。

「階級ごとに定められた人数があるのですが、そこに空きが出来たり、多くの方々を救ったりといった多大な功績を残すことができれば、階級を上げることも可能になる…らしいです」

ティエリアの話しにさらに興味が引かれ、「階級が上がったらどうなるんだ?」、ダインはさらに質問を寄せる。

「聞いた話ばかりなので申し訳ないのですが、階級が上がると特別な力を使えるようになるそうです」

「特別…」

ただでさえとんでもなく聖力が高いゴッド族なのに、さらに特別な力が使える。

その力がどんなものか気になったのはダインだけではなかったようで、「例えばどんな力なんですか?」、紙パックのりんごジュースを彼女に差し出しながら、シンシアがきいた。

「あ、ありがとうございます」

受け取って両手で可愛らしくパックを傾けたティエリアは、ごくりと喉を動かしてから話し出す。

「天変地異を起こしたり、人の運命を書き換えたり、種の増減…というのは、さすがに行き過ぎだとは思いますが、それに近いことはできるかと」

「す、すごいですね!?」

驚いていったのはニーニアだ。「もしかして世界を変えることも出来るんじゃ…」

「あ、いえ、運命の書き換えなどができるのは一級神の中でも数えるほどですし、使用するには様々な制約もございます。上の階級にいて使命を与えられたゴッド族の方々は、下界の方々に必要以上に接触したり私情を挟んではならない掟もありますので、簡単に出来るというわけではありません」

確かに当たり前な話だ。

一人のゴッド族に世界を滅茶苦茶にされては、下界の人たちもたまったものではない。

しかしそれほどの力が扱えるという彼らに対し、ダインは思わず息を吐いてしまう。

「やっぱゴッド族なんだな…」

空に浮遊したまま動物と戯れたり、平原に寝そべってダインたちのように日向ぼっこしているゴッド族。

どう見ても何も考えてなさそうだが、彼らには運命力すら操れるという、とてつもない力を秘めているのだ。

「階級を上げるということは使命や掟を背負うということでもありますので、二の足を踏んでしまい上を目指す方がなかなか現れないのが現状でして…」

のほほんとしたゴッド族の人たちを眺めながら、ティエリアは息を吐く。

「まぁ楽すること知っちまったらな」

ダインは笑っていった。「先輩が気にすることじゃない。いまがちょうどいい状態なんだったら、無理して上を目指す必要もないだろ」

「そうですよ。ティエリア先輩が使命とかしきたりとか背負っちゃったら、こうして私たちと遊ぶこともできなくなりそうだし」

ベンチから立ち上がったシンシアはティエリアの背後に回りこみ、後ろから抱きしめた。

「こうしてるときが一番幸せですから。ティエリア先輩が近くにいてくれて、少なくとも私たちには救いになってますよ」

「そうです」

ニーニアは頷いてティエリアの手を取る。「ティエリア先輩は、私たちに必要なんです」

「間違いないな」

同意したダインは、もう片方の彼女の手を握った。「供え物をくれる人たちに感謝の心を持っているだけで、その人たちだって満足しているはずだ。先輩は先輩のままでいたらいい」

「わ、私のまま…ですか?」

「ああ。こうしてめぐり合えたんだ。俺が先輩の立場だったなら、目に見える“縁”ってもんを大切にしてると思うよ」

笑顔をティエリアに向けるダイン。

シンシアもニーニアも笑いかけており、やがてティエリアの顔には嬉しそうな笑顔が浮かび始めていた。

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