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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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九十節、古の忘れ形見

海岸を一望できる峠への道中に、その石版はあった。

整地された道を逸れた草むらの中にぽつんと佇んでおり、周辺は草花で囲まれていて、一見すると何の変哲もない墓石のようにも見える。

しかしその表面には不可思議な文字が模様のように羅列してあり、それは確かに噂に聞く“古の忘れ形見”のようだ。

「マジで普通に道端に置いてあるんだな」

混乱期以降から存在する世界遺産であるにも関わらず、そのまま放置されてることが意外だったダインはいう。「古の忘れ形見っていう名の通りにさ。どこもこんな扱いなのか?」

尋ねるダインに、「そうみたい」、ディエルは答えた。

「発見当時は、謎の多い遺物だから研究者がこぞって調べたらしいわ。けれど未だに文字の解読に至らず、その用途も不明のまま。結局みんな匙を投げて、元あった場所に戻して放置してるらしいわ」

「ジンクスもあるらしいですから」、と、ティエリア。

「破壊して中を調べようとした研究者の方が不幸な目に遭われたり、持ち運ぼうとした学者の方が不慮の事故に遭われたりと、曰く付きの遺物もあるようなのです」

「そう。そういったジンクスもあって、触れてはならないものとして遺物への研究は自然とやらなくなったみたい」

「そんなことが…」

ニーニアは話を聞きながらあらゆる角度から石版を眺め、分析を始めている。

頭上にあった太陽は夕日になっており、おかげで辺りは黄金色に包まれていて、なかなか幻想的な光景だ。

岬が近いので絶え間ない波音が聞こえており、「でもガーゴの人たちは、この石版を調べようとしていたんだよね」、とシンシアがいった。

「この石版を所有するために、ディエルちゃんに罠を仕掛けてこの土地ごと奪おうとした」

シンシアもニーニアのように石版をジッと見つめながら続けた。「これに何か秘密があるっていうことだよね」

熱心に石版を注視してその秘密を探ろうとしている二人だが、石版には不可思議な文字が刻まれているだけで、物自体はそこら辺に転がっている岩そのものだ。

「学者の方が研究しても分からなかったのですから、私たちが見ただけでは…」

ティエリアの言葉に、「まぁ、そうですよね…」、シンシアは大人しく引き下がる。

「ここに来てまだそんなに経ってないけど、もう帰る?」

見ても分かんないでしょ、とディエルがいってくるが、ジッと石版を眺めながら、「ディエル、ちなみにこれは何ていう遺物なんだ?」、ダインが尋ねた。

「“知識の石版”ね。どこにその知識があるのか良く分からないけど」

ディエルの返事を聞いてから、ダインは自分が知っている限りの“古の忘れ形見”について考察を始める。

「“戦神の斜塔”、“賢者の心臓”、“知識の石版”…単語だけ並べてみても、それらには繋がりがないように思えるな」

「そう、ですね…名前だけでは何とも…」

呟くティエリアは、「共通点は謎の文字だけかと…」、そう続けた。

「う〜ん…」

ダインはその石版に触れてみた。

何の気なしだった。そこに何か狙いがあったわけではない。

しかし、ダインが触れた瞬間、その石版は夕日の光以上に眩く光ったのだ。

「わっ!? ひ、光ってるよ!?」

とシンシアが驚いて声を上げている間に、その光はすぐに消えてしまう。

「あ…あなた何をしたの?」

ディエルは目を丸くさせてダインを見た。

「い、いや、俺にもさっぱり…」

ダインも同じく困惑していた。「ただ、戦神の斜塔のときも俺が近くに居て反応したから、触ったらどうかなとは思ってたけど…」

「…でも、光っただけ…だよね?」

再び石版を調べ始めたシンシアはいう。「見た感じ何も変化はないような…」

「ううん、あるよ」

そう答えたのはニーニアだ。「このマーク、さっきまでなかったはず…」

「マーク?」

ニーニアの指摘する場所を全員で見てみる。

その石版下側の角には、不可思議な文字ではない、確かにマークのようなものが刻まれていた。

「ダインが触ったからヒビが入ったんじゃないの?」

「んな強く触ってないはずだし、ヒビのようには見えないだろこれ」

「う〜ん…このマーク、矢印のように見えなくもないね」、と、シンシア。

ダインたちは再びそのマークを凝視する。確かに、そのマークは細い棒の先に三角形の模様がある。

「矢印…」

呟きながら、ニーニアはそのマークをジッと見つめている。

鑑定眼の鋭いドワ族だけに何か気づいたことがあったのか、「あの、ディエルちゃん」、ディエルの方に顔を向けた。

「この石版は、本当に発見当時からここに置かれてあったの?」

「ん? ええ、そのはずよ?」

「他のものも?」

「いや、そこまでは…古の忘れ形見が何種類あってどんな形をしてるのかも分からないし…」

良くは知らないというディエルだが、「小型のものは研究のために持ち帰られたこともあります」、と、やや遺物について詳しかったティエリアが代わりに答えた。

「研究中に不穏なジンクスが広まってしまい、気味が悪くなってしまった学者の方々が、被害を恐れて元の場所に戻したらしいと、世界不思議図鑑に書いてありました」

「そう、ですか…」

ニーニアは顎に手を当てて考え込んでいる。

「何か分かるのか?」

ダインがきくと、「あ、う、ううん」、彼女は顔を上げて首を横に振った。

「まだ仮定の段階で…」

「仮定でいいから、良かったら教えてくれ」

ダインが頼み込むと、「う、うん。じゃあ…」、と、彼女は推測を語った。

「ほら、別の場所にも矢印のようなマークが浮かんでいるの、分かるかな?」

ニーニアが別の場所を指し示し、ダインたちが石版を回りこむ。

そこには、確かに矢印のようなマークが、先ほどの矢印とは別の場所を指すような形で浮かんでいた。

「遺物の種類もどこにあるのかも私も分からないけど、仮に全ての遺物が発見当時のまま放置されてあると仮定すると…」

そう前置きし、ニーニアは続ける。「この石版右側にある矢印が指している先には、私たちドワ族の住むトルエルン大陸があるはずだよ」

ダインたちは頭を上げて、その矢印の遥か先を見る。

岬に近い場所であるため、遠くが良く見渡せる。

草木の間に大海原が見えるが、そのさらに向こう側には確かに大陸が広がっているのが、辛うじて目視することができた。

「そしてこの左側の矢印の先には、フェアリ族がいる大陸…エティン大陸があるはず」

「そう…なのか?」

地理にあまり詳しくなかったダインは、隣にいたティエリアに尋ねる。

「そのはずです」

頷くティエリアは、ニーニアの見解の先を聞こうと真面目な顔で耳を傾けていた。

「確証も何もなくて情報も少ないけど、もしかしたら、このマークの指し示すさらに先には、別の遺物があるんじゃないかな」

「別の遺物?」

「うん。そしてそれら古の忘れ形見には、一連の“流れ”のようなものがあるのかも知れない」

ニーニアはさらに続ける。「どこからか何かがやってきて、この石版に記されたマークを通っていくとか…」

「え、と…つまり、世界に点在する古の忘れ形見には、それぞれ順番があったっていうこと?」

驚きながら尋ねるディエルに、「断定は出来ないけど、そうなんじゃないかなって…」、ニーニアは頷いて見せた。

「その仮定は…どの書物にも載ってませんでしたね…」

「私も初めて聞いたわ…」

「す、すごい発見なんじゃ…」

シンシアがいうと、「お父様に連絡した方がいいわね」、ディエルがすぐに携帯を取り出そうとする。

「いや、まだ待った方がいい」

ダインはすぐに止めに入った。「ニーニアがいってる通りまだ確証はないし、順番があるからといって、『だから?』って話になっちまうじゃん」

「ま、まぁ、確かにね…」

「もっと詳しいことが分かるまで、この話は俺たちの中だけに留めておこう。下手に騒げばガーゴに邪魔されかねないし」

「でもすごく興味深い話だわ」

台詞どおり、ディエルは見るからにわくわくした表情だ。「他のものも調べてみたくなったわ」

「ああ。確かに気にはなるな。さしあたって、次調べるとすれば戦神の斜塔か」

「ええ!」

ピンと背筋を伸ばしたディエルは、オレンジ色の濃くなった夕日を真っ直ぐに指差す。

「私たち放課後探検隊は、学校という狭い枠を超えて、世界の謎に迫る探求者になるのよ!!」

その背中から、ドーン、という効果音が聞こえてくるかのようだった。

「世界はいい過ぎだ」

ダインが突っ込むものの、ディエルは目を爛々と輝かせている。

興奮気味の彼女を落ち着かせながら、そろそろ日が暮れそうだったのでダインたちは別荘に帰ることにした。



「明日のプランはもう決めてあるんですか?」

大きなソファに身を沈めたシンシアが、同じく隣で心地よさそうにソファに沈んでいたティエリアに尋ねる。

別荘のゲストルームは、玄関以上に豪華な内装をしていた。

青や赤の色鮮やかな絨毯に、カーテン。光を散りばめたような天井。

聞くだけで心の落ち着くようなBGMが漂う中、ティエリアは「あ、はい!」、とソファから体を起こした。

「バベル島には有名な温泉地がありまして、明日はほぼ半日を使ってその温泉めぐりをしてみようかと思いまして…」

明日と明後日は学校が休み。約束していた通り、ダインたちはティエリアの家にお邪魔することになっている。

明日はどんな楽しいことがあるのか。心を躍らせていたシンシアは、「温泉!!」、と、がばっと体を起こした。

「え? 温泉?」

調度品を興味深く眺めていたニーニアも、慌てて彼女の側まで走り寄る。

「お、温泉めぐりっていうことは、もちろんダイン君も…ですよね?」、と、ニーニア。

「あ、はい。ですので、学校指定の水着でいいですので持参してくだされば…」

「う〜ん、でもせっかくだし、可愛いの見せ…う、ううん、着たいですよね」

シンシアがいい、ニーニアも頬を赤く染めながら頷く。

「あ、でしたら、温泉街の近くに水着専門の販売店がありますので、そちらで購入しましょうか」

「おお! いいですね!」

賛同するシンシアだが、ゴッド族しか住んでいないバベル島の滅多に聞けない新情報が次々出てきて、「温泉や売店まであるんですね」、やや興奮気味だ。

「はい。宿泊施設も少ない島ですが…」

それからティエリアは彼女たちにバベル島の特徴を語りだす。

驚いたり笑ったりと盛り上がるゲストルームだが、窓を隔てたテラス側には、デッキブラシと雑巾を握り締めたダインとディエルがいた。

罰ゲームの最中だった。

その別荘は数週間ぶりに利用したためか、いくら数十人のメイドがいたとしても、テラスの掃除までは手が届かなかったらしい。

枯葉や枝、雨粒の跡など、放置されていた分テラスはなかなかの荒れ模様だったが、「まぁ見てなさいって!」、と、洗剤で泡立った部分を雑巾で拭こうとしたダインを押しのけ、ディエルは魔法を使っての豪快な掃除をダインに見せていた。

「よっと!」

水の魔法を使い、窓や床全面についていた泡を一気に押し流す。

そして火と風の魔法で温風を作り出し、濡れたところを全て乾燥させる。

時間にして五分ほどだったのかもしれない。テラスはあっという間にピカピカになっていた。

「どう?」

そうダインに体を向ける彼女は、胸を張って得意げだ。

「いや、マジで便利だなぁ」

ダインは素直な感想を漏らした。「いいよなぁ魔法って…」

掃除や料理、日常で必ずしなければならないことは、自然を扱う魔力魔法ならほとんどできてしまう。

「そういえばあなたって魔法使えないのよね」

羨ましがるダインに、ディエルは彼の普段の生活はどうしてるのか気になってきいた。

「炊事も洗濯も全部手作業なんでしょ? 大変じゃないの?」

「う〜ん、昔からそういう風に暮らしてきたから、あんま大変だと感じたことはないな」

ダインは正直にいった。「魔法に頼らない生活が定着してるし、そういう道具が揃ってるしさ」

「まぁ確かに、生活スタイルって種族によって違うからね」

「つっても羨ましくはあるけどな」

片付けるよ、とダインはディエルからブラシと雑巾を受け取って、テラスの端に置いてあったロッカーの中にしまう。

バケツも片付けているダインの背中を見つめながら、「…ねぇ、良かったら、私の魔力貸してあげましょうか?」、と、ディエルがそう声をかけた。

「魔法が便利だって思ってるのなら。私だってそれなりに魔力の蓄えはあるんだし」

「いや、ありがたいけど、シンシアたちがいるからさ」

ダインはやんわりと断った。「お前にまで迷惑をかけられないよ」

これ以上負担をかける人数を増やしたくないとの思いからだった。

「でもあの中で魔族はドワ族のニーニアだけでしょ?」

窓の中にいるシンシアたちを見てから、ディエルは再びダインに顔を向ける。「あなたも魔族なんだし、魔力と違って聖力は取り込むのに時間がかかるって聞いたわよ?」

確かにそれはディエルの指摘どおりだった。

ヴァンプ族も一応魔族で、吸魔したのが魔力ならスッと体の中に落ちていくが、聖力の場合は“フィルター”を通さないと取り込むことは出来ない。

魔法力というものは血液と同じなのだ。同型である方が、体に馴染むのも早い。

「効率よく取り込めた方が吸われる方としても負担が軽くなるし、あの子達にとっても良い事だと思うんだけど…」

ディエルの言葉に、「そうなんだけどな…」、同意してみせるダインも、窓の向こうにいるシンシアたちに顔を向けている。

その表情には困ったような笑顔が浮かんでいた。

「あいつ等さ、何故か吸魔に対してあんま負担に感じてないようでな…」

これまでのシンシアたちの吸魔に対するリアクションを思い出していたダインは、小さく息を吐く。「別の意味で困ってるんだよな…」

「あの感覚はクセになりそうだからね…」

先ほどしっかりと吸魔される感覚を覚えたからか、テラスから漏れる光を受けている彼女の顔は、赤く染まっている。

「でも珍しいな。お前が協力を申し出るなんて」

話題を逸らすようにダインがいうと、「あなたたちには色々お世話になっているから」、テラスの先まで移動し、街並みを一望しつつディエルはいった。

高台にあるこのテラスからは、下界のリゾート界隈がよく見渡せる。

すっかり暗くなっているというのに、その街はこれからが本番だというかのように全ての施設に煌々と明かりが灯っていた。

まるで宝石の海が広がっているような夜景を眺めつつ、「あまりお返しできてなかったし、多少の負担ぐらいは受けてもいいかなってね」、心地いい夜風に吹かれながら、ディエルは続けた。

夢と欲望の街が魅せた魔法なのかもしれない。夜風に靡く髪を押さえているその姿は、悪戯好きで自由奔放とした姿とはかけ離れ、まるで高嶺の花のお嬢様のようだ。

「気持ちだけ受け取っておくよ」

ダインは笑みを浮かべつつ、同じようにテラスの柵に手をかけ、夜景に顔を向ける。

「限られた金持ちしか入れない別荘地に呼んでくれたんだ。こんな貴重な体験をさせてくれただけで、十分すぎるぐらいだ」

「この程度、なんでもないわよ」

そういってディエルは続ける。「ドラゴンのこととか、ガーゴに、学校の進級に、それと…ルシラちゃん…だっけ? 色々と大変なんでしょ?」

ダインが現状抱えている難問を、彼女は心配に思っているようだった。

「私だったらとても一人で抱えきれないわ。そんな中で私とミーナのことにまで首を突っ込んできて、気にするな、なんて格好つけて」

夜景を見ていた彼女の顔が、ダインに向けられる。

「私も協力するわ。エンド族の末裔であるスウェンディの名にかけて」

ディエルの真剣な顔をちらりと見てから、ダインはまた笑った。

「相変わらず大げさにいう奴だな」

肩をすくめるリアクションを見せるものの、「本気よ」、と、ディエルは退かなかった。

「学校の進級以外はあなただけの問題じゃない気がする。だからスウェンディ家の力が欲しいときにはいつでもいって。私がお父様に掛け合ってなんとか…」

続こうとした彼女の台詞を、「遠慮するよ」、ダインが遮るようにいって断った。

「お前の親父さんとは面識がないし、顔も知らない人に迷惑をかけるわけにはいかない」

「は、はぁ?」

ダインの予想外な返しに、ディエルは声を上げる。「何いってるのよ、私のお父様は…」

「ディエルになら、お願いしたいな」

ダインはいった。「本当にどうしようもなくなったときには、ディエルの親父さんじゃなくて、ディエルに、助けて欲しい」

「わ、私に?」

「ああ。親父さんじゃなくて、スウェンディ家でもない。お前に、協力してくれるのならお願いしたい」

彼に真っ直ぐ見つめられ、「い、いや、私自身ができることなんて限られてるし…」、ディエルは戸惑いを見せた。

「何でもいいんだよ」

そんな彼女の頭に手を置いて、優しく撫でながらダインはいう。「吸魔のことはとりあえず保留にして、それ以外にディエルがしてくれることならなんでも嬉しいよ」

みるみる顔を赤くさせていくディエルに、彼はさらに続けた。

「お前がどれだけ友達思いで優しい奴か、俺は知ってるつもりだからな。だから素直に嬉しいよ」

夜景と月明かりに照らされたダインの笑顔は、ディエルにはどう映っていたのか。

ぷいっと彼から顔を背けた彼女は、「あーあ」、どことなく悔しそうな声を上げた。

「傍観者でいるつもりだったのになぁ…結局ミーナのいった通りになっちゃったじゃない…」

「何の話だ?」

尋ねるダインを、今度はジトッとした目で軽く睨む。

「あなたって、ほんと悪い人だと思うわよ」

「え? 何かまずっちまったか?」

気を悪くしたのかとディエルの頭から手を離そうとしたとき、「いーえ」、ディエルはすぐさま彼の手を掴み、両手でそっと握り締めた。

「え…ど、どうした?」

「あの子達があなたの側を離れようとしないのがどうしてか、よく分かったっていうこと」

ダインの手をにぎにぎしつつ、明るい窓の中に顔を向ける。そこで、彼女から「あ」、という声が出た。

「始まったわね」

手を離されたと同時にダインもゲストルームを見ると、そこにはシンシアたち以外に沢山のメイドの姿が見えた。

彼女たちは夕飯の準備を始めていたようで、長いテーブルの上には様々な料理が並べられていく。

数十人ものメイドが一気に押しかけてきたため、シンシアたちは邪魔にならないようにとテラスまで出てきた。

そしてすぐに窓にへばりつき、並べられていく料理を食い入るように見つめている。

「こ、こんな豪勢なご飯、い、いいのかなぁ?」

シンシアはいまにも涎を流してしまいそうだ。

大皿料理が多くどうやらバイキング形式にするようだが、どの料理も色が華やかで、見ただけで高級食材がふんだんに使われているというのが分かる。

高級肉を丸々焼いたもの。魚卵が沢山浮いたとろみのあるスープに、魚介類を詰め込んだキャベツ菜の煮物。高級野菜の天ぷらや、刺身の船盛り。

ダインもニーニアも思わず生唾を飲み込んでしまった中、「メイド隊の方々は、みなさんデビ族の方なのですか?」、ティエリアは彼女たちに興味が向いたようだ。

「まぁ基本的にはそうですね」

持ち前の演技力を発揮し、動悸と顔の赤みを瞬時に落ち着かせながらディエルは答える。「とはいってもエンジェ族みたいに種族に拘りはなくて、有能であれば誰でも採用するというのが私のお父様の考え方らしいです」

「メイドだから、みんな女の人なんだね」、と、ニーニア。

「私の身の回りの世話をしてもらってる人たちだからね」

答えるディエルは、「まぁ、少し“例外”もあるんだけど…」、と何やら思わせぶりに続ける。

「アレか?」

ダインが指し示す先に、沢山のデビ族のメイドに混じって、一人だけヒューマ族がいたのが見えた。

「あーアレもそうなんだけど、ちょっと違…」

「ん? でもあの人、何か見覚えがあるような…」

シンシアがいい、ニーニアも「そういえば」、と凝視し始める。

そこでディエルの口元にニヤリとした笑みが浮かんだ。

「気になるようだし、呼びましょうか」

ディエルは近くにいた一人のメイドに声をかけ、ヒューマ族の彼女を連れてくるよう指示する。

呼ばれた女は顔に明らかな戸惑いが浮かんでいて、こちらに来るのを躊躇っているように見えた。

(は、はぁ!? な、何で私が…!)

軽く押し問答しているのが聞こえる。

明らかに嫌がっているようだが、最終的には数人のメイドに抱えられてダインたちの前まで来させられた。

「な…何か…?」

尋ねるメイド服の女は、顔を背けたまま。

「シャンとしなさい」

腕を組んだディエルに命令され、その女は仕方なく姿勢を正し、こちらに顔を向けた。

その顔をまじまじと見ていたシンシアたちは、「あ、あれ…?」、徐々に表情に驚愕を浮べていく。

「ま、まさか、もしかして…」

「紹介するわ」

そのときディエルが浮べていた笑顔は、なんともいやらしそうなものだった。

「先日うちのメイド隊に入った新人よ。名前は…なんだっけ?」

「…………」

「んん? 聞こえないわねぇ?」

「…み…」

「み?」

「…み…ミレイア…キリノフ…」

と、そのメイド…いや、メイド服を着たミレイアがいった。

思わず固まってしまったシンシアたちに、顔を真っ赤にさせ悔しそうな表情でいた彼女は、「挨拶は?」、ディエルにそう促され、ダインたちにお辞儀をする。

「ど、どうか、よろしく…お願いいたします…」

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