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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
89/240

八十九節、豪華な放課後

数日後━━


翌日に週の休みを控えたその日、ディエルと決めていた通り、学校の授業が終わってからダインたちはディエルの別荘に招待してもらうこととなった。

ダインたちが訪れたのは、デビ族が統治するディビツェレイド大陸沿岸にあるリゾート地、『ゴールデンサンセット』。

金持ちしか別荘の購入を許されない煌びやかな場所だ。

平地から見る景観ですら、建造物に沢山の金やプラチナがあしらわれており、陽光に照らされ全てが光り輝いて見える。

まるで宝石で作られたようなその場所はまさにリゾートと呼ぶに相応しく、ダインたち平民には来ることはまずないであろう超高級観光地のようだ。

右手奥にはさらに豪華で派手な建造物が建ち並んでいるのが見え、さすがにキラキラしすぎて目にうるさいが、ディエルの話によるとそこは遊興施設が集中した場所らしい。

「ショッピングモールにゲームセンターにカジノ。遊びたいならまずあそこね」

一通り経験したのか、学校帰りで制服のままだったディエルは笑顔のままいった。

「さすがデビ族の大陸だなぁ」

周囲を何度も見回すダイン。シンシアもニーニアもティエリアも、滅多に目にしたことのない豪華すぎる建造物に目を見開いている。

「私たちには縁遠い場所だよねぇ…」

シンシアが呟くと、隣にいたニーニアとティエリアはこくりと頷く。

一旦家に帰り私服に着替えていた彼女たちに、ディエルは何やら悪戯っぽい笑顔を浮べる。「あの遊興施設街は、あなたたちには少々刺激的過ぎる場所かもね?」

「どういう意味だ?」

ダインが尋ねると、「何しろデビ族の大陸は“夢と欲望の大陸”っていわれてる場所よ?」、ディエルはリゾートの景観を背にダインたちに両手を広げた。

「ここに訪れる人たちはそういった夢と欲望に満ちているの。一攫千金を夢見てカジノに没頭したり、“遊び”がしたくて大金を握り締めて渡航してきたり」

「遊び?」

どんな遊びだと再び問うと、「あの辺かしら」、歓楽街の辺りを指差しながら、彼女は続ける。

「“大人向け”の遊び場が集中してるわ」

そこでディエルがいった意味に気付き、シンシアから「あっ」、という小さな声が漏れる。

ニーニアもティエリアも顔をみるみる真っ赤にしていき、ダインも同じように「そ、そうか」、と、ついその歓楽街から視線を逸らしてしまう。

「あなたたちも大人になったらお世話になることがあるかも知れないわねぇ?」

からかい続けるディエルに、「お、俺はどうなるか分からないが、シンシアたちには絶対に無縁な場所だろ」、ダインは真面目に断言した。

「金に困ってるんなら協力するつもりでいるし…」

「いや、そっちじゃなくて、大人の女性向けの遊び場もあるっていう意味で…」

「い、行かないよ。そういうのは間に合ってるから」

シンシアも大真面目に否定し、ティエリアも頷いている。

「ま、間に合ってる、から…」

呟くニーニアはいつの間にかダインの側にいて、彼の手を握り締めていた。

まるでダインがいるから間に合ってるといっているようにも見えてしまい、ダインはさらに顔を赤くさせてしまう。

そういえば、最近ニーニアの行動が大胆なものになってきたような気がする。

以前は恥ずかしがるだけだったのが、いまはダインに自然に触れている。前回の同化騒ぎがきっかけなのか、彼女との距離がかなり近づいたのかも知れない。

「ほほー、相変わらずあなたたちの反応は見てて微笑ましいわぁ」

ディエルはにんまりと笑っている。

「あ、あのな、そういうややこしい話題を持ち出して微妙な空気を作るんじゃない」

「えー、だって盛り上がるじゃない」

ディエルは相変わらずだ。

彼女だけが笑い声を上げているところで、「あ、着いたわ」、ディエルの足が止まった。

そこは他の別荘と比べると、とりわけ大きな建造物だった。

一瞬高級ホテルか何かのように見えてしまい、「さ、入って」、ディエルは門をくぐって先に歩いていく。

噴水のある中庭を抜け、これまたどでかい扉の前に立つ。

そこが玄関だったようで、ディエルが立った瞬間にその重たそうな扉は自動的に左右に開かれた。

その内装はまさに豪邸と呼ぶに相応しいもので、あまりの煌びやかさにダインたちは度肝を抜いた。

「お帰りなさいませ」

まず左右に数十人は並んでいるメイドたち。

「はいただいま」

ディエルはそのメイドにカバンを手渡し、足を踏むのも躊躇われそうな超高級絨毯の上に立つ。

「ほら、あなたたちも」

「あ、ああ」

天井には宝石類がこれでもかとあしらわれたシャンデリアが光り輝いており、メイド隊の後ろに置かれた動物の剥製や絵画も見るからに高そうだ。

目に映る何もかもが、一般的な庶民暮らししかしてなかったダインたちにはまずお目にかかれないものばかりだった。

「…ほえ…」

あまりに場違いな光景にシンシアたちはぽかんと口を開けっ放しで、そのリアクションを見てディエルは可笑しそうに笑う。

「それより、夕飯はいらないって家の人たちには伝えてあるの?」

ディエルが尋ねる。今日は日帰りでこの別荘に世話になる予定だった。

メイド隊の何人かに荷物を預かられながら、「う、うん。いってあるけど…」、ニーニアが頷く。

「じゃあ日が暮れる前に石版を見に行って、お風呂入ってから夕飯にしましょうか。ラステ」

ラステと呼ばれた長身でポニーテールのメイドが、「畏まりました、準備いたします」、といってディエルに一礼した。

そしてダインたちの方に体を向け、「ダイン様、シンシア様、ニーニア様、ティエリア様」、とそれぞれの名前を呼ぶ。

「短い間ですが、どうぞよろしくお願いいたします。お嬢様より仰せつかっておりますので、ご用命がありましたら何なりと申し付けください」

ラステが一礼し、後ろに並ぶ数十人のメイドたちも四十五度の角度で、一斉にお辞儀してきた。

「あ、こ、こちらこそ…」

ダイン含めシンシアたちもどう反応したらいいか困っているところで、そのメイド隊はそれぞれの持ち場へと移動し始める。

「す…すごいね…いつもこんな暮らししてるの?」

シンシアが尋ねる。「漫画みたいだよ」

「そりゃまぁ、お嬢様だし?」

ディエルは例のお嬢様ポーズで答えた。

「お前の学校での態度からじゃ考えられないんだけどな」、と、ダイン。

「体を動かすことが好きで使っている筆記具は普通だし、座学の成績もそこそこ。昼飯は菓子パンばっかりだし、とてもお嬢様には見えないんだよな」

苦笑しながらいったところで、「な、何よ、悪い?」、ディエルは少しムッとした。

「ギャップでがっかりしたんならあなたたちが悪いわよ。私はそういった面白そうなこと思いつかないから、芸能人呼ぼうかって聞いたのに、いらないなんて…」

大富豪の娘でありながら、自分に特色のないことに若干のコンプレックスがあったのだろう。

スウェンディ家の長女として、特別であるはずだという期待に応えられなかった過去でもあるのかもしれない。

また一つ、ディエルの本当の顔が明るみになったところで、「別に悪かねぇよ」、ダインは再び笑った。

「お嬢様に見えなかったから、俺たちはこうしてお前に普通に話しかけられているんだから。家柄自慢を振り撒くような奴だったら俺たちはこの場にいないよ」

シンシアたちはまったく持ってその通りだといいたげに、大きく頷いている。

「大金持ちのスウェンディ家の長女だからといって、俺たちはお前を特別視しているつもりはないし、今後するつもりもない。ディエルもそれが分かっているから、こうして俺たちを招待してくれたんだろ。違うか?」

「そ、それはまぁ…」

「だろ? だから芸能人呼ぼうとか考えなくて良い」

「いまが十分、特別ですから」、と、ティエリア。

「ちょ、ちょっと特別過ぎるけどね。あんなに沢山の人にお辞儀されたことないよ」

シンシアは笑っていい、「メイドさんって何人ぐらいいるの?」、とディエルに尋ねた。

「え、え〜と、数えてないけど…八十人ぐらいはいるんじゃないかしら」

「は、八十!?」

ニーニアが目をむいた。「す、すごいね」

「いや、さすがに雇いすぎじゃないか?」

人件費に無駄があるんじゃないかとダインが指摘すると、「お父様の意向でね」、そそくさと働くメイドたちを見ながら、ディエルは答えた。

「雇用の拡大を目標にしているから、まずは自分たちから始めようってことで」

八十人もの使用人を雇い、高級ホテルばりの別荘を持つスウェンディ家。

「お父さんは何している人なの?」、我慢できずニーニアがきいた。

「いまは雇用担当大臣ね」

ディエルは簡単に答えるものの、「だ、大臣!?」、思わぬ単語にティエリアが驚愕する。

「政治家の方なのですか!?」

「ああ、いえ、人手不足問題はこの大陸でもあってですね、企業と求職者とのズレのないマッチング能力を買われ、お父様が選ばれたみたいなんです」

ディエルは唐突に真面目なことを語りだす。「遊興施設とか宿泊地開発とか、お父様の手腕に惚れこんだ国王…ザイール王っていうんですけど、頼まれたっていってました」

「な、なるほど…」

「お父様のおかげで、この広い大陸は潤っているといっても過言ではありません」

ディエルは急に胸を張り出した。どうやら身内のことは自慢のようだ。

「少しの間世話になるんだし、挨拶ぐらいはしときたかったんだけどな」

ダインがいうと、「あー無理無理」、ディエルは手を振っていった。

「大臣任されてからは毎日大忙しだから、私だって会えるのは週に一回ぐらいなの」

「そうなのか?」

「大臣の仕事と事業開拓も兼任してるから、自分の時間なんてほとんどないわ。それにお母様もつき合わされてるからね」

彼女のそのプライベートな話を聞いているうちに、やがてディエルがどのような暮らしをしているのか、何となく分かってきた。

メイドが沢山居て、人恋しさというものはないとは思う。

が、身内が身近にいない生活というものは、案外寂しいものだ。

「何しても口うるさくいわれないから気楽なものだけどね」

ディエルはそういうが、シンシアたちには強がっているように見えたのだろう。

「ディエルちゃん!」

シンシアは突然ディエルの手を掴む。

「ひゃっ!? な、何?」

「呼んでくれたらいつでも駆けつけるからね」

「きゅ、急に何の話?」

「大勢でお食事した方が楽しいですから」

ティエリアがいい、ニーニアは頷いている。

「ミーナちゃんも連れてきたかったんだけど…」

とニーニアがいったところで、「あー、実は今日はあの子には遠慮してもらったの」、とディエルが返す。

どういうことか尋ねる前に、彼女はどこか怪しい笑みを浮かべていた。

「ん?」

「後でお楽しみがあるから、覚えておいてね。ふふ…」

何のことだとダインはシンシアたちと顔を見合わせるが、早く石版見に行きましょ、とディエルは急かすばかりで答えてくれなかった。



「ここを抜けた先に石版があるわよ」

林道を歩き続け、細道から開けた場所にやってきたとき、ディエルが振り返っていってきた。

頭上の太陽は頂点から傾いた位置にあり、辺りを眩しく照らし出している。

そこもリゾート地のようだが、目の前に広がる光景を見て、シンシアたちは固まってしまっていた。

「なんか…モンスターだらけなんだけど…」

そこはあまりにリゾートとはかけ離れた場所だった。

小さな野球場ほどの広場には、所狭しと様々なモンスターが跋扈している。

モンスターハウスといっても遜色ないような光景で、林道の外にある豪華な街並みとの明らかな差に、「こ、これは…?」、ニーニアは戸惑いながらディエルに説明を求めた。

「前にいわなかったっけ? ラビリンスと似せた施設をお父様が作りたがっていたって」

彼女は続ける。「アトラクションとして人気が出るはずだからって。結局完全再現は無理だったんだけど、その研究の名残がこの場所よ。再現されたモンスターのクオリティは低いものの、遊ぶには申し分ないわ」

つまり試作品をここで展示しており、ディエルは暇なときに子供特権でここで遊んでいたようだ。

「モンスターもそこそこの強さだし、なかなかのストレス発散になるわよ」

半現実のモンスターだからか、その広場から外には出られなくなっている。

広場の入り口手前にあった操作盤から湧いていたモンスターを消そうとしたディエルだが、「そうだ!」、良いことを思いついたとぽんと手を叩いた。

「せっかくだし、ひと暴れしていきましょうか」

そういい出した。「放課後探検隊もできてないし、体を動かす授業も少なかったから」

「いいね!」

シンシアはすぐに賛成の手を上げた。「これも修行になるよ!」

そういえば最近、シンシアは剣の修行に力を入れている。

どうやら強さを求める明確な目標を持てたようで、そんな彼女を応援するためにも、ダインたちもディエルの提案に賛同した。

「よしよし」

相変わらずノリの良いダインたちに気を良くしたディエルは、「じゃあチーム分けして勝負しましょ」、さらに遊び要素を追加する。

「どっちが多く倒せるか競って、負けたチームはテラスの掃除をしてもらうってことで」

「いいぜ。じゃんけんのグッパーな」

ダインたちは互いに手を出しチームを作る。

その結果、シンシア、ニーニア、ティエリア対、ダイン、ディエルコンビの対決となった。

「よーし、いくわよ、ダイン!」

打ち合わせも何もなく、ディエルはモンスターが蔓延る広場へ突入する。

「ああっ! ずるいよ!」

シンシアは大慌てでニーニアとティエリアに顔を振った。「私たちも早くいこう!」

彼女たちはディエルとは別の場所へ飛び込んでいき、獲物が来たとばかりにモンスターの群れから雄叫びが上がる。

「元気な奴らだな」

ダインは小さく笑いながら、ディエルがいる場所へと駆け出した。


手に火の魔法を溜めていた彼女は、それを群がるモンスターへ放っていた。

前方では炎のカーテンが広がり、中からモンスターの悲鳴が巻き起こっている。

次々と焼け焦げていくモンスターを飛び越え、また大量の敵がディエルに襲いかかろうとした。

「ふっ!!」

ディエルは即座に氷の魔法で敵陣を丸ごと凍らせ、次いで両手に風の魔法で空気を圧縮し、その塊を敵に向けて放つ。

白い爆発が起こり、ガラスが割れるような音と共に、凍らされたモンスター共々粉みじんとなった。

ダインはダインで彼女が仕留め損ねたモンスターを投げ飛ばしていき、数が多くなってきたときには一匹のモンスターの足を掴み、振り回して周囲の敵を薙ぎ倒していく。

「あっははは! あなたとはラフィンと共闘した以来のような気がするんだけど、やっぱりあなたと一緒に戦うのは楽しいわね!」

ディエルは本当に楽しそうに、まるで踊るような動作で様々な属性の魔法をばら撒いている。

「いやいや、楽しいつってもお前一人で十分っぽいぞ?」

エンジンがかかりだしてからのディエルの動きは素早くて、早くも撃ち漏らしがなくなってきた。

処理するスピードも咄嗟の出来事への対処もまったく隙がない。

ペアの意味があるのだろうかと、ダインが疑問に思ったところで、

「分かったわ」、ディエルはそういって、近くにあった台座式の制御盤の前に立った。

「設定がソロ用だからね。パーティ用に変更して、モンスターのレベルもちょちょいっと上げてっと…」

ピ、ピ、と制御盤から機械音が聞こえ、次の瞬間、先ほどよりも屈強そうな、しかも倍の数のモンスターが一挙に沸いた。

秒間にして数十体ほどの凄まじい沸きようで、遠くから『うわぁっ!?』、というシンシアの驚きの声が聞こえる。

「あはは! さぁ、再開しましょ!!」

ディエルはすぐに戦闘モードに切り替え、襲い来るモンスター群を次々に倒していった。

先ほどよりも強力で広範囲な魔法を使い、一グループを纏めて処理する。

彼女の動きはまさに風そのものだった。

どれほど獰猛で大量のモンスターでも、風と化したディエルが過ぎ去れば、たちまち炎や氷に包まれ消滅している。

大群ごとに相手をする彼女の戦い方は、一見すれば大胆に見える。

しかしモンスターの大きさや強さ、種族に合わせてすかさず属性を切り替える繊細さは、さすがといったところだ。

赤や黄色、青や緑の光に包まれる彼女を見ながら、「前から思ってたんだけどさ」、ディエルと背中合わせになったタイミングで、ダインはきいた。

「普通、人には扱う魔法の得意不得意な属性があると思うんだけど、ディエルってそういうのなさそうだよな」

素朴な疑問だった。自然の力を使う闇魔法といえども、属性というものがある以上不得意なものもあるはずなのに。

「どうも私、そういうのないみたい!」

再び群がってきたモンスターを魔法で蹴散らしつつ、ディエルはいった。「不得意属性のないウィザード。エレメンタラーっていうんだって!」

「すげぇじゃん!」

ディエルの背中を守りつつ、ダインは彼女の凄さを実感する。「やっぱ流石だよお前は!」

「え?」

「何か色々コンプレックス抱えてそうだけどさ、お前もスウェンディ家の名に恥じぬ奴なんだよ!」

「ど、どういうことよ!」

急に褒められて恥ずかしくなったのか、赤面したディエルは一瞬動きが止まってしまった。

ダインの方を振り向いたせいで前方が死角となり、そこへ巨大なモンスターが攻撃を仕掛けてくる。

ダインは咄嗟に彼女の手を掴み、すぐさま手前に引いた。

「ひょあっ!?」

ディエルから素っ頓狂な声が上がったと同時に、ダインは別の手で掴んでいたモンスターを投げ、攻撃をしてきたモンスターごと吹き飛ばしていく。

「ちょま…な、何…」

彼女が途端にへなへなと腰を抜かしていったところで、無意識にディエルから魔力を吸い取っていたことに気付いたダインは、すぐにその手を離した。

「わ、悪い、つい…」

ディエルも何をされたか気付いたようで、驚いたようにダインを見上げている。

「こ、これがヴァンプ族の能力、なの?」

「まぁ…つってもこれが色々と厄介でさ」

「グアアアアアアァァァァ!!」

瞬間的に湧いたモンスターが襲ってきて、ダインはすぐさまディエルから奪い取った魔力を使って火の魔法を放つ。

周囲は高温度の炎に包まれ、中から敵の阿鼻叫喚の声が聞こえてきた。その火柱の範囲も威力も先ほどディエルが使っていた魔法の比ではない。

「す、すごいのね…」

「お前の魔法だよ。俺じゃない」

ダインは笑いながらいって、「この厄介加減は分かってくれたんじゃないか?」、と続けた。

「た、確かに…シンシアたちは毎日この感覚に晒されていたっていうことね」

「ああ。魔法の練習とか授業で毎回吸わせてもらっててさ、負担をかけていつも申し訳なさでいっぱいになっちまうんだよな」

「そ、そう…」

赤い顔でいた彼女は、やがて回復したのか立ち上がって膝を払う。

「…あの、確認のためもう一回いいかしら?」

突然そんなことをいい出した。「厄介加減をもう少し共有したくて…」

「ん? まぁいいけど…」

差し出してきたディエルの手を掴み、また魔力を吸わせてもらう。

するとまたディエルから「ふやっ!?」、という可愛らしい声が漏れ、膝が崩れそうになった。

「き…危険ね、ほんと。あまり連続して受けるものじゃないわ」

「だろ?」

「危険…危険…」

小さく呟きだした彼女は、俯き加減ながらもダインの方をちらちら見ている。

「あの…も、もう一回、いい?」

まさかのおかわりだ。

「…おい…もしかしてお前…」

欲望や()()に忠実だというデビ族の特性を思い出したのはそのときで、ダインは「癖になっちまったんじゃないだろうな?」、ディエルからやや距離を置いた。

「だ、だってあなたが悪いのよ!」

ディエルは急に逆切れしだした。「普段それらしい言動とかしないくせに、何なのよこの感覚は!」

「いや、怒られても…」

「あなたがエロいのがいけないの!」

「少しはオブラートに包め!!」

会話に夢中だったせいで、魔法が切れてモンスターに囲まれていることに気付かなかった。

「あっ!? しまった!!」

視界を埋め尽くすほどの量だったので、さすがのディエルでも対処しきれない。

「グオオオオオオオオオォォォォォッ!!!」

大量のモンスターが一斉に雄叫びを上げながら、ディエルに襲い掛かろうとしている。

前も後ろも、頭上もモンスターに覆われて真っ暗だ。

圧倒的な物量にディエルが悲鳴を上げそうになったとき、

(ドゴォッ!!!)

…と、すぐ目の前から凄まじい衝撃音がした。

「…え?」

暗かった視界は一瞬で明るくなっており、側ではダインが殴る動作のまま止まっている。

「ん…? 次湧いてこねぇな」

周囲を見回す彼はいった。「あー悪い、ちょっと壊しちまったみたいだ」

制御盤から、(ビー、ビー)、というエラー音が鳴っている。

「ラビリンスのときもそうだったけど、脆すぎねぇか? もう少し機材の耐久を上げるとかして…って壊した俺がいうことじゃないな」

弁償が必要なのかどうか、内心ドキドキしてきたダインはディエルに判断を仰ごうとしたが、

「ん? どうした?」

ディエルはダインを見つめたまま固まっていた。

「ディエル?」

「あ…ああ、いえ、な、何でも…」

「そうか? どっか怪我したんじゃ…」

「い、いえ、それは大丈夫。大丈夫だけど…」

まだ顔が赤かったディエルは続ける。「め、滅茶苦茶ね、あなた…魔力がないはずなのに、訳わかんない」

魔力が吸えること。妙に艶かしい感触に晒されたこと。一撃で大量のモンスターを消し去ったこと。

どれをとっても、ヴァンプ族の性質というものに理解が追いつかなかったディエル。

「あの、弁償は…」

「測定器が異常を検知しただけだから、故障じゃないわよ…」

息を吐くディエルは、「…ほんと、訳わかんない」、と同じことを繰り返す。

それはヴァンプ族という不思議に対してではなく、また自分のピンチを救ってくれた彼に対して抱いていた、自身の不思議な胸の高鳴りに対してだった。

「どうしたの〜?」

やがてシンシアチームがダインたちのところへやってくる。

「大きな音と共に沢山のモンスターが消えたのですが…ダインさんが?」

尋ねるティエリアに、ダインは「ちょっとな」、そういって笑った。

「え〜? じゃあ勝負はやっぱりダイン君たちの勝ちっていうこと?」

「いや、さっきの衝撃のせいで機材がエラー吐いちまったようだからさ、俺の反則負けってことでいいよ」

「チームなんだから私も負けよ」

顔の赤みをどうにか落ち着かせたディエルはいった。「それよりもう夕日になっちゃってるし、暗くなる前に石版見に行きましょ」

「そうだね!」

ごーごー! とニーニアの手を掴んだシンシアは駆け出していく。

「あ、シンシアさん、ディエルさんの案内をお待ちしませんと…!」

ティエリアは慌てて彼女を止めにいった。

「早く行かないとあいつ等道に迷っちまうよ」

ダインはそういってディエルに笑いかける。

夕日に染まった彼の笑顔にまたドキリとさせられたディエルは、「そ、そうね」、コホンと軽く咳払いをして気を持ち直す。

「ちょっと、待ちなさい!」

ダインたちもすぐにシンシアたちの後を追いかけていった。

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