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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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八十七節、瞬光

「なんだお前」

この楽しい“遊び”を邪魔されたと思ったのか、シグはその闖入者に向けて鋭い目線を送った。

「あなたこそ誰ですか」

答えるシンシアも、睨むような眼光をシグに向けている。「ダイン君をこんなにして…」

倒れているダインは動く気配がない。怪我はないようだが、制服がボロボロになっているところを見てさらに怒りがこみ上げた。

「邪魔するんならお前もタダじゃ…」

シグが言い終える前に、その視界に聖剣が迫ってきていた。

「っとぁ!? いきなりかよ!?」

咄嗟にかわしつつシグは叫ぶ。

「はああぁ!!」

シグが避けた先に向かって、シンシアは連続して斬りかかった。

頭に血が上って対話する余裕もないのだろう。破竹の勢いでシグに斬撃を浴びせていく。

「ちょ…! いきなり容赦ねぇなおい! なんなんだよ!!」

さすがに避けきれなくなって、創造魔法で盾を作り攻撃を受け止めた。

鉄と鉄のぶつかり合うような音が鳴り響き、シグは押される一方だ。

そのとき、シグの視界の端にちらっとラビリンスの出入り口が見えた。そこにはまだ結界が張られていたようで、外に出れない生徒たちがこちらの様子を食い入るように見つめている。

出入り口は結界で確かに蓋をしたはず。ゴッド族ですら通過できない特殊な結界は、見た感じまだ生きているようだが…

(こいつ…どうやってあの結界破って入ってきたんだ…?)

とそこでようやく、シンシアが持っている武器が聖剣だということに気付く。

再び斬りつけてきた攻撃を受け止め、強く押し出すと同時に彼女から距離を取った。

「そうか。お前もクリエイタラー(創造術士)か」

シンシアも創造魔法を使えることに気付いたシグは、注意をダインではなく彼女に向けた。

「今年の新入生は活きがいいのが多いなぁ。まさかクリエイタラーまで…」

「ダイン君を傷つける人は許さない…!!」

シンシアは再びシグに向かって突進した。

彼女が持つ聖剣が一回り大きくなり、「激しいなお前」、やれやれとした態度のシグに対し、下段から斬りかかる。

彼が飛び退き宙に浮いたところを狙って、今度は上段から斬りつけた。

「鳳牙ニ刃!!」

素早い上下の二段攻撃をシグはかわすが、シンシアはさらに追い打ちをかける。

強化魔法で爆発的にスピードを上げ、離れた位置にいるシグに突きを放つ。

「鳳牙激迅!!」

神速に近い速さと威力の突きだった。

寸でのところでシグがかわした瞬間、背後の地面が抉れ土ぼこりごと衝撃波が壁に激突する。

「スジはいいんだけどな」

再び飛び退いたシグに、シンシアは聖剣を二刀に分け、上段に構えた。

「滅来!!」

袈裟懸けに斬るモーションをした瞬間、聖力を含んだ斬影が衝撃波となってシグに襲い掛かる。

突然の飛び道具に咄嗟に盾で攻撃を受け止めるシグだが、その威力が高すぎるのか数メートルも後ろに押しやられてしまった。

「ひゅ〜、やるねぇ!」

シンシアはその優しい性格が故、こうして対人戦で本気の技を使ったことはない。

だがダインが倒されたという怒りから、相手を気遣う気持ちは完全に抜け落ちていた。

メガクラスでも受け流せない攻撃だったかもしれない。しかしシンシアの遠慮のない攻撃は、どれもシグには効果がない。

数多の場数を踏み、戦闘のスペシャリストとしてガーゴの特殊部隊を纏める彼にとっては、シンシアの攻撃はまさに教科書通りで予測することは容易だったのだ。

「う〜ん、お前も後ろの奴も、違うのか…」

シグはどこか残念そうにいった。「少しだけ“あの人”の気配を感じたんだけどな…」

「ふっ…!!」

聖剣を握り締めたシンシアは、再び駆け出す。その表情と構えから、何か技を使うつもりなのだろう。

「お前の技はもう見切ったよ」

突進してきたシンシアに向かって、シグは腰を落とし両腕を彼女に突き出した。「女に手を上げることはあまりやりたくねぇが…」

彼の全身が光ったと同時に、その両腕からいくつもの銃器が姿を現す。その沢山の銃口はシンシアにだけ向けられていた。

「そろそろ俺のターンだ」

無数の銃口に光が集まり始める。「派手にいくぜぇ…!」

シンシアに向けて一斉掃射をしようとしたときだった。

「はあああぁぁぁ!!」

裂帛の気合を込めたシンシアの全身が眩く輝く。

そして彼女から波紋のようなものが広がり、次の瞬間、シグが創り出していた銃火器から、パリンッとガラスが割れるような音がした。

「…は?」

なんと銃がひとりでに霧散していた。

「え…? は…?」

何が起こったのかとシグが混乱している間に、シンシアはもう目の前まで来ていた。

「破魔一刀流奥義━━」

刀を鞘に収めるような仕草でいた彼女は、その鞘から刀を引き抜く。

「天来終滅・破砕陣!!!」

それは規則性のない乱れ斬りだった。

無数の光の刃が入り乱れ、空気が何度も震動し、叩きつけるような音や空気を切り裂くような音が滅茶苦茶に響き渡る。

「うおおおおおおぉぉぉぉぉッッ!!!!」

衝撃と爆発のうねりの中から、シグの悲鳴に似た叫び声がした。

「ま、待て…ちょま…ッ…! 待てって…!!」

必死な様子ながらもかろうじてかわしつつ、何度もシンシアに待つように声をかける。

とそのとき、シンシアの攻撃がぴたりと止んだ。別にシグの言葉を聞き入れたというわけではない。

「はぁ…はぁ…はぁ…!」

シンシアは酷く疲弊していた。連続して技を使った末に奥義を放ったので、さすがに聖力が持たなくなったようだ。

呼吸を整えながらも敵意だけはシグに向けており、睨んでくる彼女に向け、シグはやや驚いたような表情で問いかけた。

「破魔一刀流の聖剣使いって…お前、まさかあいつの妹か?」

どのタイミングで切れたのか、結界はいつの間にか解けていたようだ。

ラビリンスと闘技場の出入り口ですし詰め状態だった生徒達が、何があったんだと闘技場に押し寄せてくる。

「シンシアさん、ダインさん!!」

その人垣の中からティエリアとニーニア、ディエルが走ってダインとシンシアの元へやってきていた。

片方には倒れて動かないダイン。その前方には疲弊したシンシアがいて、その先にいる赤髪の男を睨みつけている。

状況が飲み込めず何があったんだとニーニアが問おうとしたとき、遠巻きに見ていた生徒たちからワッという歓声が巻き起こった。

「シグ様!? シグ様ですか!?」

どうやらガーゴの“ナンバー”のファンらしい。

赤い髪という特徴があったためか、一目で彼がシグだと気付いたようだ。

「はいは〜い」

シグは軽い調子で興奮した様子の生徒達に笑顔を振り撒くが、すぐにシンシアに顔を戻し気まずそうな顔になった。

「マズイじゃん。妹に手を出したことが知れたら何をいわれるか分かったもんじゃねぇ…」

彼は完全に戦意を喪失したようだった。戦闘態勢を解き、頭を掻く。

「あいつキレると怖いし、もう戦える状況じゃなくなっちまったし、この辺にしておくか」

立ち去ろうとしたシグだが、シンシアを再び見て「しかし」、にやりと笑顔を浮べた。

「お前もなかなか楽しませてくれそうだ」

それは何かを予感させるような台詞だった。

「今後に期待しているよ」

そういって再び背後で騒いでいる生徒達に笑顔を振り撒き、「じゃーな」、転移魔法を展開した。

その姿が光りに包まれ、見えなくなっていく。

「ま…待って…! まだ、終わって…」

なおも戦いを続けようと、シンシアは一歩踏みしめようとする。

だが突然彼女のバランスが崩れ、「わ、わぁっ!?」、そのまま倒れてしまった。

彼女の足首に何かが巻きついていたのだ。

「え…?」

自分の足元を見ると、その細い足首を掴んでいたのは倒れこんだままだったダインだった。

「え…え? だ、ダイン君?」

まさか意識があったのかとびっくりして尋ねると、うつ伏せのままだった彼の頭がひょいと上がった。

「やっと帰ったか…」

そう話す彼の表情はいつも通りだ。

「き、気を失ってたんじゃ…」

「いや、あいつしつこそうだったからさ、ああして倒れたフリしてりゃ諦めてくれるかと思ってたんだけど」

ティエリアがシンシアを起こし、ニーニアがダインを起こしているところで、「まったく話が見えないんだけど」、とディエルがいってきた。

「妙に顔を赤くさせたシンシアが迎えに来て、闘技場に行こうとしたら変な結界が張られて出れなくなってたし、闘技場からはなんか激しい物音が聞こえてこっちは大混乱よ」

ディエルの疑問も最もだ。

こちらの容態を心配してくるシンシアにダインは「大丈夫だよ」、と笑いながらいって、彼女たちに説明しようとしたときだった。

「何の騒ぎです」

未だその場に留まり騒いでいる生徒たちの人垣から、通るような声がする。

現れたのはジーニだった。闘技場の騒ぎを聞きつけサイラもついてきたようだが、彼女は群がる生徒たちを散らしている。

「壁や地面がひどく損傷しているようだけど…」

激しい戦闘の形跡を確認しつつ、ジーニはダインを睨みつけた。「あなた、また何かしたの?」

「今回は俺は何もしてないっすよ」

ダインはため息を吐きながら、事情を知らなさそうなジーニに簡単に説明した。「たったいままで、変な人に絡まれてただけっすよ」

「変な人?」

「シグ・ジェスィって名乗ってましたね」

そこでジーニが固まる。

「あれがガーゴなりの歓迎パーティみたいなもんなんすか?」

ダインはやれやれと両手を広げた。「おかげで制服が砂まみれっすわ」

「…はぁ」

ジーニも何故か深くため息をつく。

「まったく、あの人はいつもいつも勝手な行動ばかりして…」

そう呟きつつ、ダインに向けて、「あの人には私から注意しておくわ」、といった。ガーゴに属するものがいち生徒に迷惑をかけたという意識はあったのだろう。

「いって聞くような人には見えなかったんすけどね」

ダインがそういうものの、ジーニから反論はない。その眉間の皺の寄り方から見て、彼女も同意見だったのかもしれない。

どうやらシグという人物は、ガーゴ内でも異端児として認識されているようだ。

「はいはい、いまから業者を呼んで修繕に入ってもらうから、今日はこれまでにして!」

ジーニは後ろにいた他の生徒達に向けてそういった。

これからラビリンスに篭ろうとした生徒もいたのだろう。「えー」、という声があがる。

「明日には使えるようになっているから、解散」

そういってジーニとサイラは職員室へ戻っていった。

素直な生徒たちは仕方ないといった表情で闘技場から出て行くが、中にはまたダインが何かやらかしたのだと思い、悪態をつく奴もいた。

そこでシンシアがムッとして噛み付こうとしたが、ダインが彼女の肩を掴んでその制服に付着した砂埃をはたいてやった。

「色々聞きたいことあるんだけど」、と尋ねるディエルは詳細を知りたがっている。

ダインの制服に付着した砂埃はニーニアとティエリアにはたいてもらいながら、「帰りがてらにな」、ダインはいった。

「変な奴との戦いにシンシアを巻き込んじまってさ、疲れてるだろうから早めに帰らせたい」

後で合流したラフィンとミーナも交え、公園で簡単に事の成り行きを説明した後、その日はいつもより一時間以上も早く解散した。

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