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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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八十一節、生徒会長の権限

「絶対騙されてるよ!」

昼休み、いつもの体育館裏で昼食を摂っていたシンシアは、ダインから朝の出来事を聞いた瞬間にそういった。

「も、もう契約を交わされたのですか?」

開けかけた弁当箱の蓋を閉め、ダインに真剣に尋ねるティエリア。

「ああ」、とダインが頷くと、「そ、そんな、どうして…」、ニーニアに至ってはショックを受けたような顔で彼を見つめていた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

そんな中、一番大きな反応を見せたのがラフィンだった。

「特例制度って…ほんとに? もう契約を交わしたの?」

ラフィンの顔は驚愕に満ちている。その制度のことは詳しく知っていたようだ。

「一通り目を通して、問題なさそうだったからサインしたけど…」

ダインがそういったところで、ラフィンは空を仰ぐ。「なにやってるのよ…」

「え、いや…そんなに問題なことか?」

「大問題よ!」

再びダインに顔を戻し、真剣な表情のままきいた。「ちゃんと読んだっていったけど、“想定外事象に関すること”っていう項目のところは読んだの?」

「え? ああ、任務中別の事件に巻き込まれたり、危険な案件だと感じたときには、その契約を破棄することができるっていうあれだろ?」

「その下の項目は?」

ラフィンはさらに尋ねる。「“乙が判断できなくなった場合など、さらなる想定外の事柄が起きた際には、生徒の代表にその判断を委ねる”って書いてあったでしょ」

確かにそう書いてあったことはダインにも記憶がある。

「あったけど…それが?」

どうしてそこまでラフィンが怒っているのか、ダインにはいまひとつ分からなかった。

「この学校は歴史が長い分、特例制度を用いた事例は沢山あるわ」

ラフィンはため息と共に続けた。「沢山あるから、その分想定外に厄介なことが色々起こってしまった。だからあんなことが書かれてあったのよ」

「厄介なことって?」

昼休みに入ったばかりでみんなお腹が減っているはずなのに、誰一人弁当に手をつけてない。

シンシアたちの不思議そうな視線を受けつつ、「その制度を使った生徒が悪い事をした、または悪い事を覚えてしまった場合よ」、と、ラフィンはいった。

「特例制度を使ってガーゴが生徒に頼るのは、難事件や凶悪なモンスターへの対処が多い。“悪い事”への接触が増えるのよ。禁忌種とされるモンスターは軒並み希少価値の高い素材でできていて、それを無断で回収して売りさばいたり、犯罪者が悪事で稼いだお金を横取りしたり、口車に乗せられて共犯に引き込まれたりといった事例が沢山あった」

悪いものに頻繁に触れるから、若い生徒達は影響を受けやすいとラフィンは続けた。「そうして悪い事を覚えた生徒はもちろん自分から契約を破棄するはずもないから、生徒会長がその生徒の処遇を決められるのよ」

「へぇー」

「へぇ、じゃないでしょ。強制力があるの、あの契約書には」

「そうなのか?」

「魔法が込められた契約書なの。処罰が自動的に決行される強いものなのよ」

そういえば、あの紙に触れたとき魔法力を感じたことをダインは思い出した。

「え、じゃ、じゃあ、もし…」

シンシアは緊張した面持ちでラフィンに尋ねた。「もし、ラフィンちゃんがダイン君を退学っていっちゃったら…」

「…強制的に退学になるのよ」

ラフィンは静かに答えた。「ダインに自動的に魔法がかかって、この学校を包むバリアに弾かれて中に入れなくなる。または見えなくなる。双方の同意があった上でのジャッジメントの魔法は絶対的な効果を持つから、いくらあなたでもあの魔法にかかれば本当に退学になってしまうことになる」

「そ…そんな…」

特例制度のことはティエリアは知らなかったのか、青い顔をしていた。

「いや、でも俺がそんな悪事に手を染めると思うか?」

ダインは笑いながらいった。「そりゃ顔面はこんなだし、悪いことしてるように見られなくもないけどさ」

「か、顔のことはいいわよ。あなたがそんなことする人だとも思ってない」

「だろ? それに今回はドラゴン退治に限定された話なんだし、悪い奴と絡むこともない。ラフィンが心配するようなことにはならないと思うぞ」

お前がいきなり、退学だーっていわない限りはな、とダインが冗談めかしていったところで、シンシアたちはラフィンに詰め寄りだした。

「そ、そんなことダイン君にいわないよね!?」

「お、お願いしますラフィンさん、ダインさんの退学だけはどうか…!」

「ら、ラフィンちゃん、この焼きおにぎりあげるから、ダイン君だけは…!」

体がぶつかるほどの勢いだったので、ラフィンは悲鳴を上げつつ後ろに手をついて彼女たちをなだめた。

「ちょ、ちょっとまっ…待ってったら! 色々突っ込みたいところあるけど、私だってそんなこというはずないわよ!」

どうにかシンシアたちを引き剥がし、落ち着かせる。

「退学なんていわないから…だから安心して」

「ほんと? 本当だよね? 私たち親友同士だもんね? そんな裏切るようなこといわないもんね?」

念を押すシンシアの脳裏には、入学式でダインに冷たく当たっていたラフィンの姿が浮かんでいた。

あのときのラフィンならば、きっとダインが契約書にサインした瞬間に退学を宣言していたに違いない。

「い、いわないから…本当だから…」

ラフィンは何度もいって、シンシアを安心させた。

「ただ、その危険性があるっていう話をしたかっただけよ。強制退学の事例も過去に何例かあったらしいから」

「ラフィンさんが生徒会長で良かったです…」

ホッと息を吐くティエリアは、ようやく弁当箱の蓋を開け食べ始めた。

「そんな心配してくれてありがたいことだけど、不安がらなくていいよ」

ダインは彼女たちに感謝しつついった。「俺の役割は例のドラゴンが出てきた場合に保護するだけだからな。奴らにとって俺は戦力としてカウントされてないんだ」

「え? そうなの?」

意外そうにラフィンがいった。「特例制度は何かしらに秀でた能力を持った生徒にしか適用されなかったはずだけど…」

「異例中の特例らしい。ドラゴン退治には一切参加しなくていいらしくて、身の危険を感じた場合には逃げてもいいってさ」

契約書に書かれた注意事項を思い出しつつ彼女たちに伝えると、「そ、それだけ?」、ニーニアも意外そうな表情でいった。

「俺は戦力として見られてない。まぁ魔力がないから当然といえば当然だけど。だから気楽なもんだよ」

そういって余裕のある笑みを浮かべるダインだが、「かといって納得したわけじゃないけどな」、表情が真顔になってウィンナーを頬張った。

結局ガーゴには不信感しか残ってない。今回接触してきたことにより、直接対決の気配を感じずにいられなかったのだ。

とはいえ、“耳”の魔法が仕掛けられているかもしれない学校内では、おおっぴらに相談することはできない。

ダインの考えは全員が汲み取ることができたようで、放課後例の公園で集まることをアイコンタクトで伝え合い、それからは取りとめの無い世間話へ切り替えた。







「いやぁ、なかなか面白いことになってきたわねぇ」

公園のベンチに腰掛けるなり、ディエルはにやついたままの顔でいってきた。

今日のダイン部も全員が揃っていた。

同じノマクラスであるダイン、シンシア、ニーニアは先に公園にやってきて、部活を断ってきたディエルがミーナを引き連れてやや遅れて合流し、最後に生徒会の仕事を手伝っていたティエリアは、ラフィンと一緒に公園にやってきていた。

総勢七人ものメンバーが公園に集まっており、公園の飲食スペースのあるベンチに所狭しと腰を降ろしている。

「世界に中継され各国のワイドショーを賑わせているガーゴに、一時的とはいえあなたが入るだなんてね。それもドラゴン退治に」

ダインから一通り話を聞いたディエルは、非日常の気配でも感じ取ったのかやけに楽しげだ。

「大抜擢じゃない。一躍有名人になれるんじゃない?」

「んなこと別に望んでねぇっての」

ダインはため息を吐きながら、ニーニアが用意してくれた紅茶を飲んだ。

「連中の疑惑は深まるばかりだ。油断ならない状況なのは変わらないんだから。すごかった、かっこよかったって考えもなく賞賛してるクラスメイトが羨ましいよ」

そのダインの話はノマクラスに限ったことではない。いまや学校中で騒がれていた。

「ほんと、何が何だかよね」

ラフィンは肩をすくめてティエリアが作ってくれたドーナツを食べる。

生徒会長の彼女は学校の現状を憂えていた。

事の発端はもちろん昨日のことだ。今日の朝からトップニュースでドラゴンが退治されたことは報道されていたので、生徒達は衝撃と共にガーゴの凄さを実感したらしい。

特にジーニとサイラに対する尊敬の眼差しが格段に増えていた。廊下ですれ違うたびに生徒達は彼女に敬礼し、過ぎ去った後にはアイドルを見かけたようなリアクションで騒ぎ出す。

まさしく学校全体が浮き足立ったような状況だった。当然授業なんて耳に入らなくて、休み時間に入るたびにジーニとサイラがどこにいたのか、何をしているのか興奮した面持ちで話し合っている。

隠し撮りまでした生徒たちを見て、何のために学校へ来ているのかと問い詰めたい気持ちだったラフィンだが、しかし彼らの心情も分からないわけではない。

伝承のドラゴンは人類には決して適わないというのが通説だった。

魔法が効かず一方的にやられ、エンジェ族ですら歯が立たなかった。

だからこそエレンディアが自らの体を使って封印したはずなのに、現代に蘇ったドラゴンはガーゴ組織のたった一人の男が撃破してしまったのだ。

先日の映像はいまもなお市民の目に焼きついており、同時にドラゴンを討ったガーゴ組織は、世界で最強の警護組織だということが定着してしまった。

学校外からでもガーゴに対する賛辞の声はセブンリンクスの生徒達にも届いてるようで、有頂天になった彼らの中には、進路先をガーゴに変える者も少なくないようだった。

「あのドラゴンを倒したのはすごいとは思うけど…」

眉を寄せるラフィンに、「でも実際に相手して倒したのは、あの謎の男でしょ?」、とディエルがいった。

「自分の何百倍もあるドラゴンをたった一人で倒した。学校全体がガーゴに対する尊敬で賑わっているけど、一番話題になっているのはあの男が誰かっていうことよ」

仮面で顔が隠れたフードの男。

その正体が誰なのかが、いま最もワイドショーを騒がせていると、ディエルは続ける。

「顔も声も、種族すら分からない。謎が多いから、みんな気になって仕方ないみたい」

「確かにそうだねぇ」

紙コップを両手で持ったまま、シンシアは「う〜ん」、と考え込んでいる。

「ディエルちゃんは目星とかついてるの?」

不意にディエルに尋ねた。「ああいう謎を暴くみたいなの、ディエルちゃん好きだよね?」

「ええ。私なりに何度も映像を観察して考えていたわ」

クッキーを頬張りながら、ディエルは「若い感じがしたわね」、といった。

「身のこなしというか、動き方…? みたいのが、手練れに見えなかった」

「ほう、どういうことだ?」

ダインの興味が向く。

「格闘技をかじったことがあるからちょっと分かるんだけど」

ディエルはそう前置きし、続けた。「殴るときは腰に力が入ってなかったし、足の運び方もプロのそれとはまったく違ってた。体裁きなんか滅茶苦茶で、まるで素人みたいな戦い方だったわ」

よく映像を分析した結果、出た意見なのだろう。

「でもそんなでたらめな動きでも、ドラゴンに勝つことが出来た」

ダインが突っ込むと、「そこなのよね…」、紅茶を飲みながら、ディエルは唸り声を上げ考え込んでしまう。

「正体を隠すためにあえてあんな動きを見せていたのかしら。戦闘のプロだったらそこまでのことはできそうなものだけど…」

「ちなみにそいつと対峙した俺の意見としては、奴に意思らしいものは感じられなかったぞ」

「操られていたのよね。だったらこの分析は無意味か…」

首を捻る一同。

「あ、あの…」

そのとき、やや遠慮がちに声を上げたのは、ずっと聞いているだけだったミーナだった。

「ミーナ?」

「ちょ、ちょっと、近いな〜って思ってたのが一人だけいたような…」

まさか大人しいミーナに思い当たる節があったとは思わなかったので、え、という全員の顔が彼女に向けられる。

「えと…戦う前の歩き方とか所作とか、似てる感じがするって…あ、ち、違うとは思うんだけど…」

遠慮がちにいうミーナだが、彼女は種族の謎に迫る考古学者を目指している。

その観察眼は名探偵並に鋭いようで、「さすがミーナね」、ディエルは自慢げにいった。

「それで誰なの?」

「あ、ほら、一年ハイクラス八組にいる、ちょっと有名な不良グループの一人で…」

「不良…?」

ダインたちは不思議そうにするものの、「あー、あいつか」、ディエルは一人ぽんと手を叩く。

「誰だか分かるのか?」、ダインが尋ねる。

「分かるも何も、以前あなた達とひと悶着あった奴じゃない」

「ひと悶着…?」

首を捻るダイン。

そのとき、校内でやたら高圧的にダインに絡んできた一人のチンピラみたいな男の顔を思い出した。

放課後探検隊として活動しているとき、いきなりケンカ腰でダインに言い寄ってきたんだ。

「ジグル・ハディって奴ね」

噂話に敏感なディエルがいった。「やんちゃを通り越した悪ガキらしくて、担任のスミリア先生はなかなか苦労してるって噂よ」

「ふ〜ん」

気のない返事をしつつ、ジグルとのやりとりを蘇らせていたダインは、「でもあいつ、そんな強くなかったような…」、きっぱりといった。

「ここ数週間の間に、急に雰囲気が変わったらしいわよ」

ジグルのクラスメイトからの情報だとディエルはいい、続けた。「いきなり誰とも絡まなくなって、いまは大人しく授業を聞いてるみたい。でも実技とか体を動かす授業のときは、本性を現したかのごとく暴れまわるとか。どんなモンスター相手にも無双状態らしいわよ」

以前ダインと対峙したときは、ダインが凄んだだけでジグルは尻尾を巻いて逃げた。

当時の様からは考えられない情報だ。

「妙だな」

ダインがいうと、「調べてみる価値はあるかもね」、ディエルはそういってまたバリバリとクッキーを食べ始める。

「ガーゴが絡んでるのなら、厄介なことになるから下手に手出ししないほうがいい。もう少し様子見でもいいと思うけど」

そういったのはラフィンだ。「これ以上問題起こすのはごめんだわ」

「まぁ、そうだな…」

考えるダインは、携帯から現在の時間を確認しているラフィンを見ている。

その携帯からあることを連想し、「あ、そうそう、ディエルにいっておきたいことがあったんだ」、ダインは話題を別のことに変えた。

「へ? 私?」

「ああ。携帯にエクスペストーンってアクセサリー、まだつけてるのか?」

何の話か思い至ったシンシアたちが、「そうだ!」、声を上げた。

「ディエルちゃん、いますぐ外した方がいいよ!」

「え? どうして?」

「呪われてしまいます!」

「い、いや、ティエリア先輩まで…」

「早く取ろう!」

「ニーニアも…話が見えないんだけど…」

戸惑うばかりのディエルに、シンシアたちはそのエクスペストーンに怪しげな細工が施されてることを説明した。

最初は半信半疑だったディエルだが、実際に検査結果を見たニーニアの細かな説明を聞いて、やがて表情を真顔に戻していく。

「確かに、今日も学校に来た瞬間に脱力感に襲われたわ。これのせいだったのね」

携帯から剥がしたエクスペストーンを見て、ディエルは怪訝そうにいった。

「誰にもらったものなの?」、シンシアが尋ねた。

「よくしてもらってる先輩にもらったものなんだけど…その先輩も誰かからもらったようでね」

よく分からないとディエル。

「つまり犯人は出所の分からないように、噂話として広めているってわけか」

魔力だけ吸い上げるというエクスペストーン。

用途も目的も分からないそれにはディエルも気味悪さしか感じなかったようで、「捨てるわ」、その石を持ってゴミ箱へ行こうとした。

「あ、ディエルちゃん、私のところだったらもっと調べられるから…」

「あ、そう?」

ニーニアに石を渡したディエルは、二杯目の紅茶を飲みつつ「はぁ」、と息を吐く。

「不良がいたり怪しいもの蔓延っていたり、セブンリンクスって学校はどうなってんのかしら」

立て続けに起きた不穏な出来事に対して正直に呟くと、ラフィンから「うぐ」、という詰まったような声がした。

生徒会長という立場上、ディエルの台詞に突き刺さったものがあったらしい。

「別にラフィンのせいじゃないだろ」

ダインは笑いながら彼女にいった。「何でもかんでも背負おうとするんじゃない。お前はあくまで生徒の代表であって、規律を正す役目なんてものはないんだからさ」

ダインがしがない一般学生だから、そんなことがいえたのかも知れない。

だがその通りだとラフィン以外の全員が頷いたところを見て、「ま、まぁ、ね…」、彼女は足を組みなおしつつドーナツを頬張った。

「とはいっても、いじめとかは見過ごしちゃ駄目だと思うんだけどね」

ちくりといったのはディエルだ。

「ミーナのことはギリギリ何とかなったからよかったけど…ちゃんとしてよ?」

「わ、分かってるわよ」

ラフィンはディエルから顔を逸らし、また紅茶を飲み始める。

「も、もう、ディエルちゃん、その話はいいから…」

ミーナが止めに入ったところで、「そういえば」、とシンシアが口を開いた。

「ミーナちゃん、お昼前に先生に呼ばれていたようだけど…もう所属先が決まったの?」

そういえばミーナは一時的にノマクラスにいるんだった。ハイクラス五組は今日も活動停止中のようで、別のハイクラスの受け入れ準備が整い次第、ミーナはそのクラスに移動することになっていたはず。

「クラス全体の向上心が高い三組ぐらいなら、ミーナちゃんならいけると思うけど…」

シンシアの提案に、「あ、ううん」、ミーナは首を横に振った。

「このまま、ノマクラスにいさせてもらうことにしたよ」

「え? そうなんだ?」、驚いてきいたのはニーニアだ。

「うん。その…居心地がよくて…」

と話すミーナはどこか嬉しそうにしている。そういえば彼女には、最近ノマクラスで新しく友達ができたようだった。

ディエルもシンシアもニーニアもいるし、てっきり友達が多かったからこのクラスを選んだのかと思いきや、「考古学者の血が騒いだみたい」、ディエルがいった。

「こうして他種族でつるんでるのは珍しいから、あなたたちに興味があるそうよ。それに種族の数も、ノマクラスが一番多彩なようだしね」

「ああ、なるほど」

納得してダインがいうと、「でぃ、ディエルちゃんそんな…人のことを研究対象みたいにいっちゃ駄目だよ…」、ミーナは顔を赤くして反論した。

「友達が多いし、みんな楽しそうだったからこのクラスにいたいって思っただけで…」

「でも興味はあるんでしょ?」

「そ、それは…その…」

太縁メガネの奥は何度も泳いでおり、ダインたちを見回している。

「はは、正直にいっていいんだよ」

ダインは思わず笑い声を上げてしまった。

「気心が知れた奴なら、別に調べられても何とも思わないよ。興味を持つことは悪いことじゃないんだから」

な? とシンシアたちを見回すと、彼女たちは笑顔で頷いていた。

「いらっしゃい、ミーナちゃん!」

仲間が増えて嬉しくなったのか、立ち上がったシンシアはミーナの背後に回りこみ、そのまま抱きしめた。

「これからよろしくね」

ニーニアもシンシアに倣い、「わ、私はノマクラスではないですが、みなさんお友達なので…」、ティエリアまでミーナに歓迎の抱擁をし始める。

「あ、あはは…」

シンシアたちに囲まれ、心から嬉しそうに笑うミーナ。

そんな彼女に、羨ましそうな視線を送る者がいた。

…ラフィンだ。

お菓子を食べ紅茶を飲み、こちらを気にしてない風を装っているものの、抱き合って笑い合うシンシアたちに何度も視線を向けている。

そこでディエルはにんまりとした笑顔を浮べる。

「ウェルト家としてのプライドと親友、あなたはどっちを選ぶのかしら?」

と、いった。

「な、何の話よ」

ラフィンはすぐさまそっぽを向く。「何を思ったのか知らないけれど、私はただ見ていただけよ」

そういう彼女だが、その横顔は赤い。

「ダインたちのいるノマクラスなら、ミーナも安心ねって思っただけで…」

「私も混ざりたいと?」

「思ってない」

「ギガクラスを蹴ってノマクラスに行きたいと?」

「だから思ってない!」

茶化すディエルに、ラフィンは犬のように吠え出した。

「生徒会長の私がノマクラスなんておかしいでしょ! 学校中が騒然とするし、そもそも先生方が認めるはずないわよ!」

彼女は反論しているつもりなのだろうが、ノマクラスに移籍するのが嫌だとは一言もいってない。

「だからノマクラスに移りたい気持ちを必死に押し殺してるの〜って?」

「勝手に解釈して付け足さないの!」

「え〜、でも実際楽しいわよ? うちのクラス。ね?」

そういいながら、ディエルは隣でミーナに引っ付いていたティエリアを何故か引っぺがした。

「きゃわ?」

驚くティエリアを膝の上にぽんと乗せる。

「ね、ティエリア先輩」

「は、はい?」

「先輩も、もし可能ならうちのノマクラスに行きたいですよね?」

「おいおい、いくらなんでもそれは…」

ダインも否定しようとしたが、「はいっ!」、ティエリアはなんと元気良く頷いてしまった。

「すごく楽しそうだと思っておりました。ディエルさんの仰る通り、可能ならば私もノマクラスに…」

いいかけて、彼女はハッとした顔になる。

「留年するか、一度退学して再入学すればひょっとして…!!」

「駄目だからな」

ティエリアならば本当にやりかねないと思ったダインは、真面目に突っ込んだ。

「人生には限りがある。もっと有効に使ってくれ」

「ほ、本当ですよ」

ラフィンもダインの意見に賛同した。「ティエリア先輩に憧れを抱く人は少なくないんですから」

「す、すみません」

謝るティエリアだが、考え無しにノマクラスに行きたいといってくれた気持ちは嬉しい。

「いまこの時間だけは、みんなノマクラスですからね〜!」

ディエルは笑顔のままティエリアを抱きしめ、一緒に揺れだした。

「ふふ、はい!」

ティエリアは嬉しそうに笑っている。

「ノマクラスて…いいのかそれで…」

ダインは呟きつつ、携帯から時間を確認する。

話がかなり逸れてしまったが、ディエルにはもう一つ尋ねたいことがあったのだ。

「ま、まったくもう…変なことばかりいって…」

怒ったようにティータイムを楽しむラフィンだが、その横顔は赤いまま。

シンシアとニーニアはまだミーナに歓迎の抱擁をしていて、ディエルに抱きしめられたティエリアはくすぐったそうに笑っている。

真面目な話を再開したいところだが、西日に照らされた彼女たちの可愛らしい笑顔を、ダインはもうしばし眺めておくことにした。

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