七十三節、騒がしい朝
「すごいことになっちゃったわねぇ」
シエスタが驚いた表情のままいうと、ニーニアの姿をしたダインは小さく唸る。
リビングで朝食の席に座る彼女(彼)の両隣には、サポートするようにシンシアとティエリアがいて、彼女たちだけでなくその他大勢の視線が彼女(彼)に集中していた。
野菜に魚、米に汁物と、シンシアたちにとっては滅多に経験しない和の朝食であるはずなのに、みんな一様に黙り込んでしまっている。
見た目はどう見ても女のニーニアであるはずなのに、中身は男のダイン。彼らが困惑するのも当然だろう。
「たべないのー?」
ルシラだけはばくばくとご飯や味噌汁をかき込んでいた。
「あの…す、すみません、こんなことになって…何といえばいいか…」
当事者であるダインが最も困惑しているはずだが、とりあえず謝るしかない。
「何いってるの、素敵なことじゃない!」
やけに目を輝かせていたシディアンは、そのままそう声を上げた。
「昨日シエスタさんから吸魔についての特殊な現象を聞いていたんだけれど、こんなに早くにお目にかかれるなんてビックリだわ」
事の顛末は、ニーニア(ダイン)が彼らに説明した。
精神世界やダインの本能に襲われていたことなど、とても信じられる内容ではなかったはずなのだが、ニーニア(ダイン)のあまりに深刻そうな表情に疑う余地もなかったのだろう。
「“向こう”のルシラがいうには、原初の石に触れたせいだろうって…触手の能力がアップしたみたいなこといわれたんだけど…」
「まぁ確かに、心まで吸い込むのはこの長い歴史の中で一例か二例ほどしかなかった事柄だったわね」
考え込むシエスタも、珍しく驚いた様子でニーニア(ダイン)をジッと見ている。「まさか吸い尽くした結果こんなことになるなんて…」
「あの、疑問なんですけど…」
朝食を食べ始めながら、シンシアが手を挙げた。「ダイン君がニーニアちゃんの心を吸っちゃったのなら、ダイン君の中にニーニアちゃんがいるようになるはずじゃないですか?」
確かにそれはダインも思った。
あの精神世界はダインの本能だった。その本能がニーニアを襲い、全てを飲み込んでしまったはずなのに。なのに、いま彼はニーニアの姿をしている。
「そうねぇ…きっと、直前で逆転したんでしょうね」
シエスタがいった。「いまのダイン…ニーニアちゃん? の姿は、想いの力の結果でしょうから」
「想いの力?」
「ええ。お世話好きのニーニアちゃんなら、きっとダインに何もかも差し出そうとしていたはず。けれど飲み込まれた瞬間に、ダインが欲しいという欲求が勝ってしまった。だから二人の心が融合した間際に、ダインの心がニーニアちゃんに吸われてしまったということ」
想いの力が強すぎた結果、心だけでなく肉体までも、物理的な常識を飛び越えて己の器に閉じ込めてしまったとシエスタ。
「それで俺の体がないってわけか…」
「ちなみに、ニーニアちゃんはいまどうしてるか分かる?」
シエスタにきかれ、ニーニア(ダイン)は集中して心の中に探りを入れる。
「内側からニーニアの気配は確かに感じるから、俺の中にいるのは間違いないんだろうが…」
しかしいくら心の中で呼びかけてみても返答はない。すやすやという寝息が聞こえたので、「…多分、寝てるなこれ」、といった。
「じゃあずっとこのままってわけでもないのね」
ホッとしてシエスタはいうが、早く事態を収めたかったダインは「分離する方法はないのか」、ときいた。
「ないわね」
シエスタはきっぱりといって首を横に振った。
「私が触手で無理やり引っ張り出すっていう手もあるけど、やらない方がいいでしょう。完全に融合したものを無理やり剥いだら、傷がついちゃうでしょ?」
「つまりあいつが目を覚ますまで待つしかないってことか…」
そう会話するニーニア(ダイン)とシエスタ以上に複雑な表情でいたのは、ジーグとペリドア、ギベイルといった男親たちだった。
「どちらか一方がなくなったわけではないし、じきに戻るというのならば問題はないが…」
ご飯を何度もかみ締めながら、ジーグは唸っている。
「いつも息子にしてるようなスキンシップをすれば、セクハラになってしまうのではないだろうか…」
「いや、そこ心配するのかよ」
ニーニア(ダイン)が突っ込むものの、「いやその通りだよ」、ペリドアもまた困惑した表情でいった。
「外見は可愛い娘だけど、中身はダイン君なんだよね。息子としてみていいのか、娘のまま接するべきなのか…」
「いや、あの、身体はニーニアなので、娘のままでいいと思うんすけど…」
「服装も考えなければならんなぁ」
「ぎ、ギベイル爺さんまで…」
突っ込んで回るニーニア(ダイン)を、シンシアとティエリアは未だに不思議そうに見ていた。
「やっぱりニーニアちゃんの姿と声でその男言葉はすっごい違和感あるな…」
シンシアにそう指摘され、ニーニア(ダイン)は「う」、と固まってしまう。
「確かにニーニアちゃんが目を覚ましたときのためにも、周りの人に違和感を抱かれないようにしなくちゃならないわね」
シエスタは軽く考えた後、「ダイン、ニーニアちゃんになりきるのよ」、といった。
「椅子に座るときは足を閉じて。ご飯の食べ方ももっと女の子らしく」
「い、いや、突然そういわれてもさ…」
いきなり女になれといわれても、ダインは困惑することしかできない。
そんな彼女(彼)に、シエスタは小さく笑った。
「大丈夫よ。“先生”は、意外にも近くにいるから」
ジーグたちが各々会話を始めた中、シエスタが視線を移した先は、どういうわけかペリドアだった。
ダインとシエスタの会話が聞こえていたのか、ペリドアは咀嚼していた動きが止まり、ぎくりとした表情を浮かべる。
そんな彼の背後にススッと移動したシエスタは、彼の耳元で、「シディアンさんから聞いたわよ?」、囁きかけた。
「“そっち方面”のニーズも結構あるそうで。色々モニターしなくちゃならなくて大変ね?」
「い…いや…あの…何の話をしているのか…」
「大丈夫。他の人…特にニーニアちゃんにはいわないから。だから、ダインの先生になってくれないかしら?」
やや離れた位置からでも、ペリドアの額からだらだらと汗が流れ出てきたのが分かる。
「ダインには打ち明けるしかないけれど、あの子も口は堅いから大丈夫。だから…ね?」
とどめとばかりに、シエスタはいった。「ね? ガーネさん?」
シエスタがやや声を大きくし、周囲のシンシアやティエリアが不思議そうな顔を向けたところで、「ごほんごほん!」、ペリドアはわざとらしく咳き込んだ。
「あー、あー、お義母さん、お、おかわり頼めるかい?」
彼はカヤに茶碗を差し出し、「はいよ」、カヤは茶碗を受け取り、台所へ歩いていった。
「あー、ニーニ…い、いやダイン君、後のことは僕に任せてくれ」
と、ペリドアは自分の胸を叩く。「大船に乗ったつもりでね?」
「あ、はぁ…」
ニーニア(ダイン)は良く分からないといった表情ながらも頷いた。
そんなシエスタたちのやりとりを、シンシアは何故か羨ましそうに見ていた。
「いいな、いいなー!」
突然声を張り上げる。「昨日の一晩の間に、こんなに家族ぐるみで仲良くなるだなんて!」
彼女には、カールセン一家とリステン一家が強い絆で結ばれたように見えたのだろう。
「シエスタおば様とジーグおじ様も、今度私のお家に来てください!」
突然の招待だ。「今度こそ、気合を込めたおもてなしをしますので!」
「い、いやぁ、ゲンサイ殿に会うにはまだ心の準備が…」
ジーグは困ったようにいい、ニーニア(ダイン)も、「俺もこの姿見られたらややこしいことになるから…」、いまはまずいといった。
「むぅ…」
膨れるシンシアの傍らでは、ティエリアが熱心にメモ帳に何かを書き込んでいる。
彼女は早くも“おもてなし案”を考えているようで、ダインの食の好みのデータを集めているようだった。
一時は混乱したが、朝日の差し込む中、朝食会は楽しく進んでいき、食べ終えた人たちは食器を重ねて台所へ向かっていた。
シンシアたちが食後にとオレンジジュースを口にしていると、湯飲みを手にギベイルが、「これから予定通りフレイムマントルへ向かう予定なのだが…」、今後の予定を尋ねてきた。
そういえば今日はドラゴンを再封印する大イベントがあったことを思い出したニーニア(ダイン)は、「あー、俺はさすがに行かない方がいいんじゃないっすかね」、といった。
「家で大人しくしてますよ。ニーニアがいつ目を覚ますか分からないし…」
「え〜、せっかくだしいこうよぉ」
シンシアが残念そうな声を上げる。「なかなかないよ? こんな機会」
「いや、でも何があるか分かんねぇし、人様の身体を傷つけるわけにはいかないだろ」
ニーニアの大事な身体なんだ。下手なことは決してできないとニーニア(ダイン)がいうものの、「見てるだけなんだし大丈夫だって」、シンシアは折れない。
「私がバリアを張り巡らせておきますから」
ティエリアも説得してきた。「何でしたら移動中もお怪我しないようにバリアと、常時回復の魔法と強化も…」
「い、いや、でもだな…」
断る理由を考えているところで、いつの間にか外出用の服に着替えていたカヤとシディアンが、ルシラを引き連れてシンシアたちのところへやってきた。
「私たちはそろそろいくよ」
いまから帰ることをシエスタに説明され了承済みだったのだろう、ルシラはニコニコ顔でカヤとシディアンとそれぞれ手を繋いでいる。
「おやしきの案内は、るしらにまかせてね!」
現地での案内を頼んでいたようで、彼女はやる気に燃えているようだ。
「よろしく頼むよ」、ジーグは笑いながらいって、「転送先にも人を置いているので、村の方の案内はその者に任せて欲しい」、とカヤたちに続けた。
「ああ、分かった。じゃあ、シディアン」
「はいはい〜。転送先はお屋敷の中だから、このままでいいのよね?」
「ええ」、とシエスタがいったあと、携帯を取り出しサラと連絡を取り合っている。
「じゃあみんな、またね?」
シディアンがシンシアたちに向けていい、“魔法水”が入ったボトルを開けた。
三人固まった周囲にそれを振り撒いた瞬間、彼女たちは光に包まれる。
「じゃー先に帰ってるね、だにーちゃん!」
光の中から、ルシラがニーニア(ダイン)に向けいってきた。
「ダニー?」
「うん! だいんとにーにあちゃんだから、だにーちゃん!」
なんじゃそれとニーニア(ダイン)が突っ込むものの、シンシアは「あはは、いいねそれ、確かにそうだね!」、と笑い出した。
そしてそのままカヤたちは光と共に消えていく。
「ではワシらも出かける準備を始めるか」
ギベイルは立ち上がり、ペリドアと共に自室へ。ジーグとシエスタも客室へ向かった。
「ほら、私たちも準備しにいこ? ダニーちゃん」
シンシアは笑顔のまま“ダニー”の手を取る。
「行きましょう」
ティエリアも逆の手を掴んできたが、ダニーはそれでも難色を示した。
「いや、あの、行くのはいい。いいんだけど、その…」
躊躇うダニーは自分の身体を見ている。「パジャマ姿のままでいいか…?」
着替えるということは、パジャマを脱ぐということ。ニーニアの下着姿を見てしまうことになる。
ダニーの表情から考えを読み取ったシンシアは、「そういうことは私たちが手伝うから」、と、笑いながらいってきた。
「着替えもお風呂も、何だったらおトイレもね?」
「と、トイレっ!?」
ダニーは素っ頓狂な声を上げるも、「やり方分かるの?」、シンシアは真面目にきいた。
「男の子とはやり方違うと思うんだけど…」
「あ…ぐ…」
ダニーの表情はみるみる赤くなっていく。
「だから不安にならなくてもいいからね? ね? ティエリア先輩」
「はい! ダニーさんのお世話は、私たちにお任せください!」
彼女たちは本気だ。本気で、ダニーの着替えもトイレも面倒を見る気でいる。
シンシアたちにニーニアの自室に連れられながら、ダインは心の中で必死にニーニアが目を覚ますよう呼びかけていた。
ニーニアに早く目を覚ましてもらわないと、ダインの大事な何かを失ってしまうような気がしてならなかったのだ。
「う〜ん…どこからどう見てもニーニアちゃんなんだけどなぁ」
ダニーを着替えさせている途中、その全身をくまなく見ていたシンシアがいった。
「頬もぷにぷにで頭は丸っこくて、腕とか足とか間違いなくニーニアちゃんだし…ニーニアちゃんがダイン君を演じてるだけじゃ?」
「い、いや、そんなわけないだろ。いいから早く着替えをだな…」
そう突っ込むダニーはギュッと目を閉じている。自分の身体ではないので、目を開けてニーニアの身体を無断で見るわけにはいかない。
「ふふ、何だか不思議ですけど、可愛らしいことに違いはありませんね」
そう話すティエリアの声は少し遠いところにある。どうやらクローゼットからニーニアの着替えを探しているようだ。
「これ可愛くないですか?」
「あ、こちらもいいですね」
ダニーが懸念していた通り、着せ替えごっこが始まってしまった。
あらゆる衣装をクローゼットから引っ張り出し、姿見の前に下着姿でいるニーニアの身体に被せている。
「う〜ん、どれも可愛すぎて迷うなぁ」
「な、何でもいいんじゃないのか?」
「駄目だよ。途中でニーニアちゃんが目覚めたときのためにも、ちゃんとした服を選ばないと。女の子のお洒落は大変なんだよ?」
「くすくす。その通りです。ダニーさん、もうしばしお待ちを」
「にしたって時間がさ…」
そうして大人しくシンシアたちの着せ替え人形になっていると、「やっぱりニーニアちゃんなんじゃ…」、またシンシアが疑いだした。
「どこからどう見ても女の子なんだし、中身だけダイン君だっていわれても…」
「そ、その話は後でじっくりするから、とにかく着替えを…」
「反応も女の子だし」
とシンシアがいった次の瞬間、彼女はダニーの胸に遠慮なく触れた。
「うひゃぁっ!?」
ダニーは飛び上がるように驚いてしまい、さすがに目を開けてしまう。
「あはは! ほら、ね?」
可笑しそうなシンシアと目が合った。
「こ、こらシンシア!」
ダニーが咎めるも彼女は笑ったままで、白いワンピース服をダニーの頭から被せる。
「お、お前な」
「す、すみません、私も!」
と、油断していたダニーの背後からティエリアも襲い掛かる。
「うひょぁ!?」
ティエリアにまで胸を掴まれ、飛び上がったダニーはそのままシンシアに倒れ掛かり、「うわわっ!?」、バランスを崩したシンシアたちと絡まりあうようにして、ベッドに倒れこんでしまった。
「あ、あのな、先輩…先輩まで無理して混ざろうとしなくていい」
「あ、す、すみません。けれど楽しそうに見えたので…」
確かにティエリアは楽しそうな表情だ。
彼女はそのまま持っていたリボンをダニーの頭部に装着し、「完成です」、と笑いかけてきた。
「とても可愛らしいですよ?」
「そ、そうか? まぁニーニアだからな」
ダニーもまんざらでもない様子で身を起こそうとしたが、一緒にベッドに倒れたままだったシンシアは彼を抱きしめたまま離れない。
「あの…シンシア?」
「ほんとに…ほんっとに、可愛いよね…ダニーちゃん…」
シンシアは完全にダニーをロックオンしている。
「外見はニーニアちゃんで、中身はダイン君…やばい…何かに目覚めそうかも…」
「いや、目覚めなくていいから…」
着替えは済んだし、とにかくシンシアとティエリアの荷物をまとめようとしたときだった。
ベッドの上でいちゃつきあった拍子にか、そこに転がっていたテレビのリモコンを押してしまったようで、テレビに映像が映し出されていた。
そこでは緊急特番が放送されていたようだったが…その内容を見て、ダニーたちは固まってしまった。
画面に映るのは、緑はなく山肌しかない火山帯。
燃え盛る山々の合間から、巨大なドラゴンの姿が映し出されていた。
「え…これって…」
突然映像が切り替わり、リポーターと思しきスーツを着たヒューマ族の男性が慌てたように解説を始めている。
『ご覧ください、あそこに映っているのが伝承上の獄炎竜、ヴォルケインです! たったいま復活を確認しました!』
「え、もう復活?」
シンシアは飛び起きて、ダニーもティエリアもテレビに釘付けになる。
テレビに映っているのは、確かに文献で見たドラゴンだった。
山をいくつも繋ぎ合わせたような巨大な図体をしており、復活したばかりだからなのか動きが鈍い。
鋭い眼光は周囲を窺っているようで、ドラゴンが一歩進むたびにテレビ画面が激しく揺れた。
現地ではさらに激しい揺れを感じているのか、リポーターが体勢を崩している。
突然のドラゴン復活に表情に恐怖を浮べていた彼だが、別の方向を見た瞬間に『あ!?』、と声を出した。
『い、いま、いま到着したようです! あちらをご覧ください!』
リポーターが別の場所を指差す。カメラがぐるりと動き、ある場所で止まった。
火山帯の入り口にある森の中から、大勢の人影が手前までやってくるのが見えた。
『ここから近隣にある大陸、オブリビア大陸の自衛組織、“ガーゴ”の対ドラゴン用特殊部隊のようです!』
「ええ!?」
ガーゴと聞いて、シンシアが驚きの声を上げる。
ダニーもティエリアもまさかとは思ったが、その特殊部隊は全員がシンシアたちには見覚えのある制服姿だった。
先頭に立つ顔ぶれも記憶にある。どれもティエリア関連でやりあったことのある連中だ。
中央に立つのはエンジェ族のカイン。その両隣に控えているのは、同じくエンジェ族のサイラとエル族のジーニだ。
「え、え、ど、どういうこと? なんでこの人たちいるの?」
シンシアは混乱している。ダニーもティエリアも同じような表情でテレビを見つめていた。
『あちらにありますのが、大型のモンスター戦において現状最強兵器とされている“ダイス”です!』
リポーターにそう紹介されたダイスという兵器は、投身の長いまるで大砲のような形をしている。
『資料によりますとその“ダイス”は第一器種の“砲撃型”のようで、弾に氷獄の力を込めているのでヴォルケインに対応可能とのこと!』
『危ないので下がってください』
ジーニがリポーターにそういい、マスコミが下がっている間に彼らは隊列を整えだした。
不可視の魔法でも使っているのか、ドラゴンはその部隊に気付いてないようで、彼らはダイスを中心に円陣を組む。
ダイスの後ろにいた隊員がその兵器に大きな弾を込め、サイラが何か呪文を唱えた瞬間、発射口の先に魔法陣が広がった。
『ってぇ!!』
部隊長の男が叫び、大きな発射音と共にダイスから青く光り輝く弾が打ち出される。
弾速はゆっくりとしたものだった。
大きく放物線を描いてドラゴンの頭上に向かったが、ドラゴンの頭部に衝突しそうになった瞬間、それは眩い光を放った。
冷気を孕んだ衝撃波と共に凄まじい爆発音が鳴り響き、テレビ画面は白一色に染め上がる。
次第にその光が収まり状況が見えてくると、なんとドラゴンのいる一帯が全て氷に包まれていたのが確認できた。
『ご…ご覧ください! 一瞬です! 一瞬で全てが凍りつきました! すごい…』
リポーターが思わず率直な感想を漏らしていると、氷漬けにされたドラゴンの目が光った。
巨大な氷にヒビが入り始め、ガラスが割れるような音と共に砕け散る。
『ッガアアアアアアアアァァァァァ!!!』
大陸全体を揺さぶるような咆哮を上げ、ドラゴンは瞬時に氷を溶かし、特殊部隊を発見し睨みつけた。
彼らが二発目を放とうと準備しているところで、ドラゴンは長い首を動かし空を仰ぐ。
全身が赤く光り、その光が口に集約した。
『ひっ…!』
ドラゴンが何をしてくるか理解した瞬間、リポーターは逃げ出そうとするが、『動かないで!』、ジーニが止めた。
鋭い声にリポーターが固まった。と同時に、ドラゴンは再び首を振り特殊部隊に向け口を開いた。
その口から圧縮された炎が放たれる。
まるでとてつもなく巨大なガスバーナーが火を出したような音が鳴り響き、灼熱の炎がマスコミ含む特殊部隊に向かったものの、その炎は空中で霧散していた。
カインがバリアを張っていたようだった。バーナーの火が障害物に阻害されてるかのように、ドラゴンの吐き出す巨大な炎は散り散りになっていく。
だがバリア外ではその飛び散った炎の影響を受けているようで、山ですらどろどろに溶けていってるようだ。
そしてダイスに二発目の装填が完了し、氷の弾が発射される。
知能があるのかドラゴンはその弾を炎で溶かし、また特殊部隊に向けて集中砲火を浴びせた。
別の隊列を作り出す特殊部隊。彼らを敵だと認識したドラゴンは、怒り狂ったように暴れだす。
伝承上のドラゴン対ガーゴ部隊の、歴史的な戦いが始まろうとしていた。
思わずダニーたちがテレビ画面に見入っているところで、「入るわよ」、ドアが突然開けられる。
「行きましょう」
シエスタはいつになく真剣な表情でそういった。




