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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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六十三節、ランチタイム

ダインが子供化してしまったら、それを見たニーニアが暴走してしまう恐れがある。

リステン邸へ行くついでにシンシアたちからそう説明を受けたダインは、誰とも接触しないよう注意し、その中で昼食会が始まった。

特にニーニアに対して警戒していたダインであったが、そもそも普段から引っ込み思案であるニーニアなので、用も無く自らダインに触れようとすることはまずない。

ものの数分ほどで警戒レベルを下げたダインは、疑われないためにもあえてニーニアからのお世話を受けることにした。

料理のおかわりにお茶を注ぎ足してもらったりと、献身的なニーニア。

美味しいというダインの素直な感想を聞いて、かなり満足げだ。

嬉しそうなニーニアを見てダイン達も嬉しくなり、料理の説明やレシピを教えてもらったりと会話も弾む。

そうして楽しい昼食会は過ぎていき、その途中、別室で職人たちと昼食を摂っていたカヤが、ニーニアたちのいるリビングに顔を覗かせてきた。

「ニーニア、午後からはどういった予定なんだい?」

ニーニアと今後の展開について相談があったようだ。「この後夕飯の買出しに行くつもりだけど、メモの通りでいいんだね?」

「あ、えと…」

立ち上がったニーニアは、一瞬ダインに視線を向けてすぐに戻す。「お泊りがなくなったから、夕飯は…」

「私とティエリア先輩は泊まらせてもらうよ?」

シンシアはいい、「あ、ほ、ほんと?」、尋ね返すニーニアに、ティエリアと一緒に頷いて見せた。

「あ、じゃあ、えと…」

カヤの前まで向かったニーニアは、手帳をポケットから取り出し内容を確認している。

何を見てるんだろうとダインが気にしてるところで、「予定表だよ」、シンシアがこそっと耳打ちしてきた。

「私たちをおもてなしする予定表を、数日かけて作ってたみたいなんだ」

「え、そうなのか?」

「うん。今日をずっと楽しみにしてたんだろうね」

そのとき、ダインは彼から泊まれないと聞いてショックを受けたニーニアの顔を思い出す。

途端に罪悪感に駆られてきたダインは気持ちが揺らいだものの、ああもはっきり泊まらないと宣言した手前、いまさらひっくり返すことなどできない。

「これでお願い」

ニーニアは新たなメモを用意し、カヤに手渡した。

「ふむ、ちと多すぎやしないかい? ダインは夕飯前に帰るんだろう?」

と、カヤがいうものの、「お土産だよ」、ニーニアはいった。

ダインにはどこまでもお世話する気でいたのだろう。

「昨日から仕込みを頑張っていたものねぇ」

カヤは笑い、恥ずかしそうにするニーニアを見てダインはまたさらなる罪悪感に襲われた。

やっぱりニーニアにはちゃんと話しておくべきだった。

軽く後悔している間に、「じゃあいってくるよ」、カヤはリビングを出て行った。

その姿が見えなくなってから、「あー…ごめんな、ニーニア」、ダインは改めてニーニアに謝罪した。

「ちゃんと話し合っておくべきだったな。手間取らせちまってさ」

「あ、う、ううん。私が勝手にしてることだから」

「この埋め合わせは絶対にやらせてもらうからさ」

「ふふ、大丈夫だよ」

笑うニーニアだが、その笑顔すら罪悪感に駆られていたダインには突き刺さった。

せめてもの罪滅ぼしにと、ダインはいつもの流れでニーニアの頭を撫でようと、

「あっ!?」

ニーニアの頭に触れた瞬間、突然シンシアが声を張り上げた。ティエリアも口をあんぐりと開けたまま固まっている。

どちらも表情に「まずい」、と書いてある。

一瞬どうしたのだろうと疑問に思ったダインだが、全身のかゆみを感じた瞬間、

「うおっと!?」

咄嗟にニーニアの頭から手を離した。

忘れてた。人に触れたら子供化してしまうのを、ニーニアには知られてはならないんだった。

まだ効果が続いていることと、魔力でも反応してしまうことにダインもシンシアたちも驚きを隠せなかったが、

「…え?」

ニーニアは目を丸くさせた顔でダインを見上げている。

「だ、ダイン君…」

「ど、どうした?」

もしかして気付かれたか…?

「い、いま一瞬…」

ニーニアが続けていいそうになったとき、「あ、あー駄目ですよティエリア先輩!」、突然シンシアがティエリアに向けていった。

「幻視の魔法使っちゃ、まだお昼ご飯の最中なのに」

「は、はい…?」

ティエリアは数秒間きょとんとしていたが、すぐにシンシアの意図を察して「あ、ああ!」、と声を上げた。

「す、すみません、一興を投じようと慣れないことをしてしまいました」

「もー、みんなびっくりしちゃいましたよ。突然ダイン君が小さくなったように見えたから」

その台詞も動き方もたどたどしいが、「え、げ、幻視の魔法?」、ニーニアは素直に信じてくれたようだ。

「ご飯が美味しいから、お返しに私たちで何かできないかなって先輩と相談しててね。ごめんね?」

「あ、そう、なんだ…」

一応は納得してくれてホッとしたが、油断ならない状況なのだとダイン含めシンシアもティエリアも気持ちを新たにさせた。

そして各々再び椅子にかけ、中断していた昼食会を再開する。

「そういえばダインさん、素材白書をご覧なられて、何か分かったことはございますでしょうか?」

ティエリアがダインに話しかけた。

「私も少しばかり拝見させていただきましたが、かなり事細かな情報が記されてあったようなのですが」

ルシラに関することで分かったことはあるか。

その質問に、ダインは「まだ何ともな」、情報が多すぎて時間がかかりそうだといった。

「なんか見てるだけでわくわくしてさ。時間忘れちまいそうになるよ」

「分かる分かる!」

シンシアは興奮したようにいった。

「あの本見てると、それだけで世界旅行してる気になってくるよ。一応ゲーム持ってきたけど、夜のお供はあれで決まりかなぁ?」

「ふふ、ご一緒します」

「じゃあそれまでに俺は読みきらないとな」

ダイン達は笑顔で話し合い、午後からは素材白書を読もうという話でまとまりそうだった。

だが、「そ、そうだね」、とニーニアの声にやや残念そうな色合いを感じ、ダイン達は会話を止めた。

そういえばニーニアは予定表を作っていたんだった。ダイン達で勝手に予定を組んでしまっては、彼女の努力が無駄になってしまう。

ニーニアは引っ込み思案で自分から意見することが滅多に無い。

実際いまも言い出せずにいる彼女に、「ニーニア、俺たちは一応ゲストだけど、お前のやりたいようにやってくれて構わないぞ?」、とダインはいった。

「予定を組んでいてくれてたんなら、俺たちはそれに合わせるからさ」

食べ終えた食器を重ねつつ続けると、テーブルの上を布巾で拭き始めたシンシアとティエリアも頷いている。

「あ、ご、ごめんなさい」

自分の役割だからと慌てて片付け始めたニーニアは、「で、でも喜んでくれるか分からないから…」、不安そうにそういった。

何しろこれだけの人数を家に呼び、一緒に遊ぶという経験がなかった彼女なのだ。

どうすれば彼らは喜んでくれるか、満足してくれるか。予定を組み立ててはみたものの、自信が無いのだろう。

一番は本人たちがしたいことをしてくれたらいい。予定を組み立てたとしても、そちらを優先させるべきだと思っていた。

むしろ余計なことをしてるかも知れない、という彼女に、「どんな内容であれ、このメンバーなら楽しめないことはない」、ダインはいった。

「俺の家には何も遊ぶものなかったのに、みんな楽しかったっていってくれたんだしさ。だからニーニアがしたいことをしてくれていいんだ」

例え、何もすることがないとしても、このメンバーなら楽しい。

ダインのその台詞に、シンシアもティエリアも大きく同意していた。

「素材白書は夜のお供にするし、ニーニアちゃんが決めてくれた予定をなぞっていきたいよ。そっちが最優先で」

何でもいってというシンシアに、ニーニアは「ご、ごめんね、こういうこと慣れてないから…」、申し訳なさそうだ。

「だからいいんだって。ニーニアが嬉しいなら、俺たちも嬉しいんだし」

ダインがいうと、「ニーニアさんのプラン、是非とも実行しましょう」、ティエリアも乗じてきた。

リビングに入室してきたロボットに重ねた食器を渡しながら、ニーニアは「じゃ、じゃあ」、手帳を開き、これからの予定を読み上げ始める。

食後は離れにある祖父母の家に向かい、そこの書斎で読書らしい。漫画や小説が沢山あるらしく、くつろぎついでにドワ族の生態や生活に関する勉強会も開きたいようだ。

そして休憩後には外に出て、街並みを眺めながらのんびりと散歩。

程よく疲れた頃に家に戻り、グレイトウォッシャーのお風呂を堪能し、ケアチェアなどの健康器具で身体を癒しつつ、夕飯まで好きなことをしつつ過ごす。

それらプランは、休日にニーニアが普段からやっていることのようだった。

「ご、ごめんなさい」

プランを一通り聞かせてから、ニーニアはまた申し訳なさそうにいう。「中央区には沢山遊ぶところあるのに、案内できなくて…」

ニーニアは人ごみが苦手だ。朝にその中央区に向かったのだって、彼女は相当勇気を出したのだろう。

「せっかくここまできてくれたのに…」

また自虐気味になるニーニアに、「だからいいんだよそれで」、ダインは笑いかけた。

「のんびりできるなんてありがたいよ。誘惑の沢山ある都市部に出ちまったら絶対に金使っちまってただろうし、そういう意味でも俺にとっては優しい」

「確かに」

神妙な面持ちでそういったのはシンシアだ。

「有名ブランドの本店があるといっても特別安いわけじゃないし、経済が潤ってる分物価も高いからね」

「シンシアさん、一万クオッツはするぬいぐるみを買おうとされてましたよね」

笑いながらティエリアが指摘すると、「そうなんですよ!」、シンシアは大きく反応した。

「後で携帯で調べてみたら、通販の方が特典もついて半額以下だったんですよ。危なかった…」

息を吐くシンシアは、自制を強く促しているようにも見える。「もっと下調べしてから、モール街に望んだ方がいいね」

「ということだ。午後からはニーニアののんびりプランでいこう」

ダインがいってようやく、ニーニアにも笑顔が宿る。

何も気を使うなという彼らの気持ちがやっと伝わったのだろう。


食後の紅茶を飲みながら、「そういや、携帯の件はどうなったんだ?」、ダインはシンシアとニーニアにきいた。

「エクスペストーンだっけ? 調べてるってさっき先輩から聞いたんだけど」

そういえば説明してなかったことを思い出し、ニーニアはテーブルの上にシンシアとティエリアの携帯を置いた。

「ほんとに綺麗なんだけどね…」

ニーニアは少し残念そうな顔をしている。

「このエクスペストーンという商品自体は、最近開発されたアクセサリーなんだ」

そしてその商品について説明を始めた。

「特殊な加工で所持者の魔法力の流れを一定方向に固定し、その流れに沿って宝石が動くという、ある種で単純な構造をしていたんだけど…」

シンシアとティエリア、それぞれに携帯を返しつつ、彼女は「二人は、このアクセサリーは誰かにもらったもの…なんですよね?」、と尋ねた。

「え、そうだけど…」

「はい」

二人の返事を聞いて、「そう、ですか…」ニーニアはふと真剣な表情で考え込んでいる。

「どうかしたのか?」

何か深刻なものを感じ取りダインが尋ねると、「まだ断定は出来ないけど…」、そう前置きし、続けた。

「このシール、魔法力を感知して動かすギミック以外に、別の細工が施されてる」

「細工?」

「エクスペストーンという商品そのもののことは、最近の流行を調べていた過程で知ってるよ」

ニーニアはいった。「流れ込んだ魔法力は宝石の中に長時間滞留しているのが通常の仕様なんだけど…シンシアちゃんとティエリア先輩の携帯につけられたこれには、出口がある」

「出口…?」

「うん。触れただけで所持者の魔法力を吸い上げる機能もあるし、滞留してるのは短時間みたい」

「つまり持ってるだけで魔法力が流れ出ていっちまうってことか」

ダインはシンシアから携帯を貸してもらい、アクセサリーを眺めながら、「コピー品なんじゃないのか?」、とニーニアに聞いた。

「粗悪に作られたから、不具合として勝手に魔法力を吸い上げたり、出口ができちまってたりさ」

「その可能性はあるけど…」

ニーニアの表情にはまだ疑惑が残っている。

「出口の先に、どこに繋がってるか分からない管のようなものがあってね、使われてる材質も、正規品より高価なものが使われてるようだから…。だからその辺に溢れてるようなコピー品には見えないよ」

確かに、リターンが大きいからこそ、悪徳業者は流行のモノをコピーする。

要は金が欲しくてやっているのだ。正規品よりコストがかかってはコピーする意味が無い。

「魔法力が漏れている…そっか、それで昨日やけに疲れていたんだね」

シンシアは納得したような顔だ。

「ただ綺麗なアクセサリーと思っていたのですが、そのような仕組みだったのですね」

ティエリアはさして驚いた様子はない。

不明瞭なアクセサリーの影響を受けてはいたのだろうが、元々がゴッド族なので吸われていることにすら気付いてなかったようだ。

「ディエルちゃんも疲れていたし、学校中で似たような状態になった人たちもいたし…多分、みんなこのアクセサリーの影響なんだろうね」

シンシアの言葉に、「だろうな。そこそこの金持ちが通う学校で、流行りものだと身に着けたアクセサリーが類似品なのは笑える話だが」、ダインはつい意地の悪い笑みを浮かべてしまう。

しかしニーニアの話が事実だとして、ここで大きな疑問が二つほど生じる。

そのいわくつきの偽物の出所と、何のために製造したのか、という疑問だ。

「このエクスペストーンは、単純な構造だけど作るのはそれなりの技術がいる」

ダインと同じ疑問を抱いていたニーニアはいった。「オリジナルにはない挙動を組み込んで、技術力を駆使して似たものを作ったものだから、安価で粗悪なコピー品とは訳が違う…」

つまり、その偽のエクスペストーンは、何か目的があって作られたものだと彼女は言いたいのだろう。

誰が何の目的で作ったのか。

ダインが考えを巡らせたとき、セブンリンクス内で流行らせたこと自体に意味があるのでは、ということに思い至った。

勝手に漏れ出る魔法力。ニーニアはその出口から目に見えない管のようなものが出ているといっていた。

つまり、狙いは学生たちの魔法力…か?

そういえば、ディエルが例のガーゴの二人もエクスペストーンを携帯に貼り付けていたといっていた。

それが学校内で流行した一因とも言える。

…はたして偶然だろうか。

深く思慮していると、シンシアとティエリアは自身の携帯からそのアクセサリーを剥がそうとしていた。

「やっぱ取るのか」

「だって気味悪いから」

身に着けていると勝手に魔法力が流れ出るのだ。シンシアたちの気持ちも分かる。

「もうちょっと詳しく調べてみるよ」

そういうニーニアに、シンシアとティエリアが剥がした宝石を手渡し、彼女はそれを袋に詰めていく。

「身に着けてない限りは作動しないのか?」

「うん、そうみたい」

袋の中のアクセサリーを見つめながら、ニーニアは答えた。「カモフラージュのためか、隊列の変更は外にいるときもできるみたいなんだけど、魔法力が漏れ出すのは特定の場所にいないとならないみたい」

「特定の場所?」

「まだ実証実験してないからどこまで影響あるのか分からないけど、流行っている場所から考えて、多分学校だけに限られていると思う」

「そうか…そらまたきな臭いな」

「うん。何か分かったらすぐに連絡するね」

会話が一段落し、ニーニアは再び手帳を眺め進行を再確認しはじめた。

シンシアは紅茶を飲みつつ、「綺麗だったんだけどなぁ…」、と、エクスペストーンへの未練を口にした。

「今度、正規のちゃんとしたもの買ってこようかな」

確かに名残惜しくなるぐらい、例のアクセサリーは綺麗だった。

文字通り宝石をちりばめられたアイテムだから、ずっとキラキラしている。女子ウケは良さそうだ。

「それならば私もご一緒したいです」

ティエリアがいい、「じゃあ今度買いに行きましょう。面白いお店知ってるんです」、シンシアの提案に大きく頷き、睦まじそうに笑い合う。

シールを剥がされた二人の携帯を眺めながら、ダインは「やっぱ気持ち悪いよな…」、といった。

彼が想像しているのは自身の能力についてだ。偽のエクスペストーンも、作用は吸魔とほとんど変わらない。

魔法力が勝手に吸い取られるのはやっぱり気持ち悪い。

吸血生物のヒルと同じだ。そう考えるダインに、「ダイン君の吸魔とは全然違うよ」、彼の考えを見透かしたように、シンシアは真っ直ぐにいった。

「信頼関係が必要っていう時点で、勝手に吸われるっていう認識はまったくないよ。それにちゃんと説明してくれたし、気遣ってもくれている」

そのシンシアの言葉に、ティエリアも何度も頷いている。

「副作用はございますが、全く不快なものではありませんし、むしろ、その…こ、心地良いもの、ですから…」

側で聞いていたニーニアと一緒に、二人は顔を赤くさせていた。

「だから、この宝石とダイン君の吸魔は全く違うよ」

シンシアは笑って続ける。「ダイン君に吸ってもらえるなら、お金出してもいいぐらいだよ」

「そりゃまた意味合いが違ってくると思うが」

ダインは照れたようにいって、その反応にシンシアたちはまた笑った。

「それぐらい違うってことだよ」

シンシアはいって、「どうせ吸われるのなら、ダイン君の方がいいに決まってるよ」、とニーニア。

不気味な挙動を見せるエクスペストーンで不安な様子を見せていた彼女たちだが、いつの間にか場には和やかな空気が流れていた。

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