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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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六十二節、狙われたダイン2

「うわああぁっ!?」

シンシアが突然大声をあげ、その声に側まで来ていたティエリアが「ひゃぁっ!?」、とびくりと全身を飛びあがらせる。

半分捲れていた上着を正すと同時に、「せ、せせ先輩!?」、シンシアはあたふたしていた。

「こ、これは、そ、そそその…!」

激しく動揺するシンシアだが、ティエリアは不思議そうに彼女を見ている。

「あの…そちらの方は…?」

シンシアの挙動不審な態度よりも、彼女が抱っこしている男の子に疑問が沸いたようだ。

どうやら授乳まがいの瞬間は見られてなかったらしい。

ほっと息を吐くシンシアは、「え、え〜と、この子はその…ダイン君、です…」、どうにか動揺を落ち着けながらいった。

「え…?」

しかしティエリアは案の定困惑した表情を浮かべる。

「私も状況が良く分かってないんですけど…」

シンシアはダインを抱っこしたまま、見てきたままの不可思議な出来事を説明した。

「ついさっきのことなんですけど、ダイン君寝ちゃってて、つい触れちゃったら突然こんな姿になってしまいまして…」

「は、はぁ…」

一応返事をするティエリアだが、表情は困惑したままだ。

「確かに、お召しになられているものはダインさんのもののようですが…」

俄かには信じられないというティエリア。

「あ、ちょ、ちょっと待っててください」

証拠を見せますと、シンシアは眠った“フリ”をするダインを持ち上げて隣の椅子に座らせた。

そしてシンシアの手が離れていった瞬間、ダインの体はみるみる成長を始める。

「こ…これは…一体…」

元通りの姿になったダインを見て、ティエリアは目を丸くさせたまま固まっていた。

彼女が驚愕するのも当然だろう。日常生活の中ではまずあり得ない現象な上に、ダインには魔法が効かないはずだったのだから。

「な、何が起こっているのでしょう」

その問いかけに、同じく困惑した様子のシンシアは「私にも分かりません」、と答えた。

「ニーニアちゃんが作ったアイテムの影響を受けているようには見えませんし、私自身に何らかの魔法がかけられているような気配もありませんし…そもそも、身体を伸縮させる魔法なんて見たことも聞いたことも…」

「ヴァンプ族特有の症状か何かなのでしょうか?」

ティエリアはきいた。「光が苦手だったり、夜行性であったり、種族にはそれぞれ特有の性質がある場合がございます。ヴァンプ族にもそのようなものがあるのではないでしょうか」

「それは私も考えたんですけど…」

シンシアは真剣な様子で答える。「これだけ不可思議な症状があるんだったら、ダイン君が知らなくてもサラさんから説明してくれたはずですよね…」

ダインの世話係という枠をはみ出すほど、サラはヴァンプ族という種の知識については豊富なはずだ。

わざわざ勉強会まで開いてくれたのだし、子供化という症例があるのなら、そのときに説明をしてしかるべきだったことだ。

しかし何の説明もなかった。それはつまり今回のことはサラですら予測できない事態ということになる。

「直前までダイン君やけに暑がっていたんです。いまは落ち着いているようですけど、そのことが何か関係しているのかも…」

いいかけて、「あ、そうだ」、シンシアは手を叩いた。

「念のため、ティエリア先輩も触れてみてくれませんか? ひょっとしたら私の聖力が影響してしまってるのかも知れませんし」

あらゆる可能性を考慮する必要がある。

同意見だったティエリアは、「で、では…」、うつ伏せで眠ったままのダインの腕に、軽く触れてみた。

すると、ダインの身体がまたみるみると縮んでいく。

「あ…!」

驚いたティエリアが手を引っ込めると、ダインの姿は元に戻った。

その一連の出来事を確認したシンシアは、「これで私たちに状態異常系の魔法がかけられていた可能性はなくなりましたね」、そういった。

「ダイン君自体に、縮小化の魔法なのか症状なのか現れてるとみていいですね。私たちが触れるのをきっかけに、というのが良く分かりませんが…」

「だ、大丈夫なのでしょうか」

ダインの身を案じるティエリアだが、ダインの寝顔を注視していたシンシアは「大丈夫です」、と言い切った。

「苦しそうにしている様子もありませんし、呪いや禁術系統の魔法を受けているようには見えません」

そのとき、実は起きていたダインは僅かに身をよじる。

シンシアの言う通り苦しくはない。暑さもいつの間にかなくなっていたが、しかし身体が伸び縮みした際に若干の痒みがあったのだ。

気にならない程度のものだが、むずむずするためどうしても動いてしまう。

ダインが起きるタイミングを窺っているところで、「あ、ニーニアさんとご家族の方をお呼びしてきます」、ティエリアはいった。

「異常なのは異常なのですし、場合によってはお医者様に診てもらった方が良いと思いますし」

作業室を出て行こうとしたティエリアを、「あ、ま、待ってください」、シンシアはやや慌てて呼び止めた。

「え、どうかしましたか?」

「いえ、あの…原因が分からない以上、緊急を要する可能性があるのは否定できないんですが…」

シンシアはダインの寝顔をちらりと見て、声を潜めて続けた。「ニーニアちゃんにいまのダイン君を見せるのは、もう少しだけ待ちませんか?」

意外な提案に、「ど、どういうことでしょう?」、ティエリアも思わず声を潜めて聞き返す。

「先々週、ダイン君のお家にお邪魔したときのことなんですけど…」

シンシアは当時の様子を思い出しながらいった。「そこで、サラさんからダイン君のアルバムを見せてもらったときのことを覚えていますか?」

「は、はぁ…覚えてますけど…」

「そのとき、ダイン君の成長記録を収めた写真を見ていたニーニアちゃん、ちょっとあれで…」

「あれ…?」

「すっごく羨ましそうな顔をしていたんです。多分…ううん、きっと、強い母性本能が出ちゃってたんだと思います」

強い世話好きに加えて、強い母性本能を持つニーニア。

「食い入るように子供時代のダイン君を見ていたニーニアちゃんだから…」

そこでシンシアのいわんとしていることが伝わったティエリアは、「な、なるほど」、と納得したように頷いた。

「現実にお子さんになってしまったダインさんを目にすると、暴走してしまう恐れがある、ということですか」

「はい」

こくりと首を縦に振ったシンシアは、「子供のダイン君、本当に可愛いから、私もつい…」、続く台詞をいいそうになったところではっとした。

「つい?」

「あ、い、いえ、と、とにかく様子見しましょう。一過性の症状かもしれませんし、余計な心配をかけるわけにもいきませんし」

「そう…ですね」

ティエリアもダインの寝顔を確認し、本当にどこも苦しそうにしてないところを見て、緊急性はないと判断した。

「急変する可能性も考慮して、私たちだけでも即座に対応できる準備だけはしておきましょう」

ティエリアの提案に、「はい」、シンシアは同意する。

どうやら話はまとまったようだ。

ここが起きるタイミングだとダインは行動に移そうとしたが、切れ間なくシンシアが「ところで」、と声を出す。

「ティエリア先輩はどうしてここに?」

「あ、そうでした。そろそろお昼ご飯ができそうだったので、お二人をお呼びしようかと思いまして」

「そうだったんですね。じゃあ…」

ダインを起こそうとしたところで、シンシアは一瞬固まる。そして、「あ!」、と突然声を上げた。

「お昼前に分析結果出るから、一緒に見ようってニーニアちゃんと約束してたんだった!」

「え?」、不思議そうにするティエリアに、「携帯に貼られたエクスペストーンの件です」、シンシアはいった。

「ニーニアちゃん待ってるかも…」

慌てたように椅子から立ち上がる。

「ティエリア先輩、先にいってます。少し時間を置いてダイン君と一緒に来てください」

そういい残し、彼女は小走りで作業室を出て行った。

シンシアの気配は消え、部屋にはティエリアとダインしかいなくなる。

起きるならここだ。

そう思ったダインは今度こそ身体を起こそうとしたが、シンシアが座っていた椅子にティエリアがかけた気配を感じた。

すぐ近くから、ダインの寝顔をじっと見ているような気がする。

「ふふ…よく寝てます」

予想通り、息がかかりそうな距離からティエリアの声がした。

どうやら彼女もダインの寝顔を堪能しているらしい。

ダインの見極めが甘かっただけか、運が悪かっただけか、また起きるタイミングを逃してしまったようだ。

そしてふと頭部に柔らかいものが触れてくる。

全身のかゆみと同時に、たちどころに身体が縮んでいくのを感じた。どうもティエリアがダインの頭を撫でだしたらしい。

「もう少し…もう少しだけ、起きないで…」

そんな彼女の声が聞こえたとき、またダインは全身が浮くように感じた。

実際ティエリアがダインを持ち上げ、シンシアのときと同じく抱っこし始めたのだ。

上半身に感じる柔らかな抱擁感。間近から、ティエリアの息遣いや体温を感じる。

尽くしすぎるニーニアの影で隠れがちだったが、ティエリアにも世話焼きな体質は当然あった。

献身的なゴッド族だからというだけでなく、ティエリアの性格上、ダインに対して常日頃からお世話したいと思っていたのだ。

制服のほつれを発見したときには裁縫するタイミングを窺っていたし、汗を沢山かいていたときにはすぐにジュースを買う気でいた。

だがそれらお世話のタイミングを全てニーニアに先回りされていて、正直にいってやきもきしていた気持ちはある。

だが、いまはニーニアはいない。シンシアも席を外しており、作業室にはダインと自分の二人きり。

それも子供化した彼を前にしては、ティエリアも欲を抑えることなどできなかったのだ。

「可愛い…シンシアさんのお気持ちも、よく分かります」

誰にも聞かれてないと思い、ティエリアはいう。「お胸をあげたくなる気持ちも…」

直前のシンシアの行動を、ティエリアははっきりと目撃していたようだ。

そのとき何故かダインの方がどきりとしてしまい、顔が熱くなっていく。

このままでは顔の赤みを見られ、起きていると気付かれてしまう。

ダインは寝返りを打つつもりで上半身をやや捻り、顔をごろりと横に向けた。

その顔面に何か柔らかいものがぶつかったとき、上からティエリアの「あ…」、という短い声があがる。

顔に触れた柔らかい部分から伝わる、小さな鼓動。どうやらダインはティエリアの胸元に顔を埋めるような体勢になってしまったらしい。

気付いた瞬間に緊張からだらだらと汗がにじみ出てきてしまったが、同じく緊張状態にあったティエリアは彼の様子に気付く余裕は無い。

子供のような体型に若干のコンプレックスを抱いていた彼女だが、そんなティエリアよりもダインは小さくなっており、簡単に抱っこすることが出来る。

背の大きい“はず”の彼を胸に抱くというのはやや倒錯した状況だ。しかし、ティエリアもまた母性の強い女性だった。

緊張しカチコチになってしまったダインだが、同じく緊張していたティエリアにとっては、そんなダインの寝顔が幸せそうなものに見えてしまっていた。

もっと触れたがっている、もっと包まれたがっていると思ってしまい、母性本能に導かれるまま、「そ、そういえば、そうでした」、ティエリアは呟く。

「ダインさんは、女性のお胸がお好きなのだと、ダインさんのお母様が仰っておられましたし…」

世の男性のほとんどがそうである以上、明確な否定はできない。

実際ダインもその通りなのだが、しかしシンシアたちに何でもかんでも打ち明けてしまった母シエスタのことを、このような状況でありながらもダインは軽く恨んでいた。

後で文句の一つでもいってやろうと思ったそのとき、ティエリアはダインを抱く腕に力を込めた。

「こ、このような私の小さなものでも、満足していただけるのでしょうか…」

遠慮がちに、しかししっかりとした力で、ダインの頭部に添えられていた手が手前に引き寄せられる。

自然とダインの顔面は彼女の胸にさらに埋まる形となってしまい、そのはっきりとした感触と柔らかさにダインは声を出してしまいそうになった。

ティエリア本人も認めているとおり、彼女のそこは決して大きいものではない。

慎ましやかなものだったのだが、その柔らかさは確かに女性でなければ為しえないものだった。

ダインは決して比較するつもりなどなく、その資格すらないと思っていたのだが、しかしこうも立て続けに胸に抱かれるとどうしても対比を思い浮かべてしまう。

胸の大きさだけでなく、その匂いについても彼女たちにははっきりとした違いがあった。

シンシアは花の甘い香り。ティエリアは、青空を思わせるような爽やかな香り。

どちらも女性そのものの匂いのようで、ダインは緊張しつつもその感触と匂いに充てられ途端にまどろんでしまう。

「ダインさん…」

そうしている間も、ティエリアはずっとダインの後頭部を撫でていた。

優しく包み込み、慈しむように撫でられ、ここは絶対に安全な場所なのだと教え込まれてしまう。

この展開は確実にルシラが仕組んだことなのだろう。

『抱かれる気持ちよさを感じて欲しい』

その思いからルシラはダインに特殊な“魔法”をかけ、シンシアとティエリアの前に差し出したのだ。

案の定彼女たちは暴走し、ダインは抱っこされる羽目になってしまったのだが…だが確かにこんなサプライズも悪くは無い。

驚きはあるのだが、悪戯心は微塵も感じないし、誰も損はしていないし、むしろ子供化の魔法をかけられなければ、成長した身なのに抱っこされることなどまずなかっただろう。

「可愛い…ダインさん…」

自分より小さなティエリアに包まれることもなかったはずで、そのまま眠ってしまう体験もできなかったことだろう。

気付けばダインの意識はおぼろげになっており、昼時で寝てる場合などではないはずなのに、身体が重くなる。

ティエリアに寝顔を晒し、その恥ずかしさすら薄れてきた。

頬に触れる彼女の長い銀髪も気にならなくなり、本格的に眠ってしまいそうになったとき、

「…ダインさん…」

ティエリアが再びダインの名を呟く。

その声色に少し真剣なものを感じたダインは、手放しそうになった意識をどうにか繋ぎとめた。

頭の位置から考えて、仰向けにされている。ティエリアは上から彼の寝顔を眺めている。

「ダインさん…すみません…勝手に、このような…こと…」

急に謝りだし、頬に添えられた手が動く。

彼女自身の長い髪がかかった部分を、どかしついでに撫でられたようだが…その間に頭部に添えられた彼女の手がぐっと上にあがったように感じた。

「断りもなく、このような…」

上にあがったと同時に、気配が近づいてくる。

「ですが、もう…我慢が…」

ぐんぐん近づいてくる。

何が起こっているのかと、目を開けた瞬間━━、ダインの胸は思い切り跳ね上がってしまった。

目を閉じたティエリアの顔が、鼻先が当たりそうな距離にあったのだ。

驚愕するダインに顔を傾け、小さいがぷるんとした桜色の唇がダインの口に迫ってきている。

(え、ちょ…)

突然すぎる行動と出来事に、さすがのダインも咄嗟に反応できない。

ティエリアはさらに顔を寄せ、お互いの唇が触れそうになった…そのとき、

「あはは。やっぱりティエリア先輩も我慢できませんでしたか」

突然、側から声がした。

「ひゃああぁぁぁっ!?」

途端にティエリアの表情は驚愕に染まり、ダインを抱っこしつつ全身を飛び上がらせてしまう。

驚きすぎて背中に翼を広げてしまった彼女は、「し、しし、シンシアさん、こ、これはあの、その…」、あたふたし始めた。

弁明しようとするティエリアに、シンシアは笑顔を向ける。

「ダイン君、すっごく可愛いですよね。抱っこしたくなる気持ち、分かります」

ティエリアが何をしようとしていたのか、シンシアは見えてなかったのだろう。彼女はなんとものんびりした口調でいった。

「子供になったからか、ダイン君なかなか起きないし」

「あ、そ、そうです、ね。その、す、すごく、気持ち良さそうに寝てらしたので…」

ティエリアの腕の中にいたダインは目を閉じているが、内心ものすごくドキドキしている。

サラの再特訓がなければ、今頃シンシアたちに気付かれるほど顔が真っ赤になっていたところだろう。

早めに手を打っておいて良かったとひとまず安堵したダインであったが、その胸の内では激しく動揺していた。

ニーニアと同じぐらい人見知りで、引っ込み思案だったティエリアであったはずなのに。

初対面であればまず気配を消し決して人前に出ない彼女が、まさかあんな大胆な行動をしてくるとは予想外すぎた。

「もうお昼ご飯できるから、いい加減ダイン君起こしましょうか」

シンシアがいい、「そ、そうですね、そうしましょう」、ティエリアはダインを持ち上げ、隣の椅子に座らせた。

彼女が手を離した瞬間にダインの姿は元に戻り、彼女たちは視線を合わせてからダインの肩を叩きだす。

「ダイン君、ダイン君」

一瞬触れただけでは子供化しないらしい。

ようやく起きれるようになったダインは、「ん、んん…」、自分の演技力に不安を感じつつも上半身を起こした。

「ふわぁ…」

大きくあくびをして見せ、よく眠れたと彼女たちにアピールする。

「寝ちまってたよ。いま何時だ?」

尋ねると、「もうお昼だよ」、シンシアはそういって笑ってくれた。

「よくお眠りになられてました」

笑顔のティエリアもダインの演技に気付いてないようで、本当にいま起きたのだと思い込んでくれているようだ。

どうやら気まずくならないで済みそうだ。

そう思ったダインであったが、彼女たちに抱っこされた感触はなかなか頭から離れない。

思い出すのはシンシアとティエリアの体温に匂い、そして抱擁されたときの柔らかさ。

意識してるわけでもないのに彼の視線は自然と彼女たちの“そこ”へ向けられ、つい無言になってしまう。

シンシアもティエリアもかわいい女の子なんだと再確認してしまい、その認識が、再構築されたダインの理性にひびを入れてしまった。

結果胸の高鳴りはまったく静まらなくて、顔は熱くなり、みるみる赤くなっていく。

「え、だ、大丈夫? 顔赤いよ?」

いち早くダインの変化に気付いたシンシアが尋ねてきた。

「ど、どこか違和感があるのでしょうか?」

ティエリアは心配そうだ。

どうやらダインの“病気”が影響してるのかもしれないと思ってくれたようだ。

「え、あ、ああ、いや、大丈夫だ。まだちょっと暑いからさ」

大げさに自分の顔を手で煽ってみせ、彼女たちの心配を取り払った。

「やっぱりダイン君だけ暑がっているのは、あのせいなのかな…」

と、シンシア。

「あのせい?」

不思議そうにするダインに、「驚かないで聞いて欲しいんだけど」、シンシアは改まっていった。

それから彼女が説明したのは、ダインが予想していた通り、彼の“異変”についてだった。

当然知っていたダインであったが、とりあえず「んなバカな」、と信じられないというリアクションをしてみせる。

彼に信用してもらうためシンシアとティエリアはダインに触れ、実際に小さくなったところを見てから、今度は「マジだな」、と驚いたリアクションをしてみせた。

そこからは彼女たちの質問責めだ。

何か違和感は無いか。痛いところとか、苦しいところはないか。

ダインが心配だからこそ出てくる質問に、彼は「大丈夫だよ」、とお礼と共に笑いかけた。

しかし違和感がないならないで疑問は残る。結局彼のその“症状”は何なのだろう。

「心当たりとかないかな?」

ダインの直近の出来事に質問を寄せたシンシア。

ちなみにシンシアとティエリアに触れられたままなので、ダインの身体は小さいままだ。

心配げながらも子供状態のダインに頬を緩ませていた彼女たちは、何でもないという彼の台詞に安堵して、そのついでに抱っこしようと目論んでいた。

そんな彼女たちの企みに気付きもしないダインは、「実はさ…」、昨夜の夢のことを正直に打ち明けようとする。

その瞬間、作業室のドアが突然開かれた。

シンシアとティエリアはびくりとして、咄嗟にダインから手を離す。

「みんな、お昼ご飯できた…よ?」

入室してきたのはエプロン姿のニーニアだった。

「あ、す、すぐ行くよー」

とシンシアは返事をしてニーニアに顔を向ける。

「うん…?」

近づいてくるニーニアは、不思議そうな表情で元の姿に戻っていたダインを見ていた。

「ど、どうかしましたか?」

内心ドキドキしながらティエリアが尋ねると、「あ、いえ、一瞬ダイン君の背が伸びたように…?」、自分の目がおかしいと思ったのか、目元をこすっている。

「あ、あー、多分この辺のアイテムの影響じゃないかな。視覚ギミック系の置物とか触っちゃってたから」

シンシアはすかさずそういった。

「あ、そうなんだ」

ニーニアに嘘をついてしまった。

素直に信用してくれたニーニアに若干の罪悪感に駆られつつも、シンシアとティエリアは笑顔で頷いた。

「そ、それよりいい加減お腹ぺこぺこだよ〜。早く行こうよ」

「ふふ、沢山作ったよ。自信作ばかりだから期待して」

ニーニアは嬉しそうに踵を返し、再び作業室のドアを開け外へ出て行く。

シンシアはその後ろをついていきながらダインの方を振り返り、立てた人差し指を口元に当てて見せてきた。

ニーニアには“このこと”は黙っていようといいたいのだろう。

「詳しいことは後でお話しますから…」

ティエリアはこそっとダインに耳打ちし、「行きましょう」、笑顔でいった。

「心当たりあるから、俺も後で話すよ」

ダインもそういって、ニーニアの後に続くことにした。

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