表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
6/240

六節、小さな変化

「総監、測定器に異常が見られました」

秘書の制止も聞かず総監室に飛び込んできた若い男の顔は青ざめている。

「レッド、グリーン共に数値がマイナスです」

手に持っていた用紙には細かいグラフが描かれており、数値を示す棒線は下限を振り切っている。

総監と呼ばれた大柄で白髪の男は、大きな窓ガラスから見える夜景に体を向けたまま動かない。

その目だけがこちらに向けられたのが、反射したガラス越しに映った。

「またか」

男の重々しい声が、静かな室内に響き渡る。

「他は問題ないのか」

「い、いえ、それは…」

若い男は用紙の束を何枚もめくる。

慌ててデータを読もうとするその動きだけで、事態は良くない方向へ進んでいるのを老齢の男は悟った。

「安定しないな」

そう声をかけた先には、長い袖をした白装束に身を包む別の男がいた。

彫りの深い目から鋭い眼光が放たれたが、初老のその男は薄く笑いながら肩をすくめる。

「こちらとしても初の試みだったのです。失敗もございましょう」

そう言って若い男から用紙を受け取り、データに目を通す。

「失敗があるからこそ成功がある。次は安定しての供給をお約束しますよ」

見た目の割りに高い声をしたその男は笑う。

表情こそ笑顔だが、その目は笑ってない。失敗したことに苛立ちを感じているのは彼も同じのようだった。

「なに、まだ余裕はあるのです。焦らずじっくり進めましょう」

総監と司祭の会話に、どうしても割り込まなければならないと口を開いたのは若い男だった。

「あ、あの、ですが数値の著しい低下が見られました。これまでにない下がり幅です。まるで何かがごっそりと抜け落ちてしまったような…」

そこまで言いかけ、男は息を呑む。

彼を見つめる司祭の顔が、とてつもなく不気味に見えたのだ。

「し、失礼いたしました」

若い男は一礼し、早足で部屋を出て行く。

「問題ないですよ。“アレ”はまだ沢山あるのですから」

男が立ち去ってから、司祭は言う。

「要は確立させればいいだけです。その方法を相談するために、今回はお邪魔させていただいた次第なのですから」

細目が開き、総監を見つめる目には虚ろな中にも妄信に似た強い思想が煮えたぎっていた。

「いまは我々は協力関係だ。運命共同体と言っても良い。痛めるときはお互い痛め合いましょう」

「派手なことはしてないでしょう?」そう続ける台詞の裏には、組織に害が及ばせまいとしているではないか、という条件取引の思惑が見え隠れする。

「…何人か派遣させよう」

やや間を置いて総監の男が言ったところで、司祭は口元を歪めにんまりと笑った。

「ありがとうございます。では、私も“研究”に付き合うといたしましょう」

「よろしく頼むよ━━モルト卿」

総監から望んだ返答を得られたのか、一礼しそのまま部屋を出て行く。

ドアの傍にいた秘書も頭を下げて退室し、部屋には男一人になった。

「…うまくいかないものだな…」

独り言を呟く声は、ガラスと赤い絨毯に溶け込んでいく。

「抜け落ちた…か…」

再び夜景に目を向けたとき、誰も入室してないはずの部屋から別の声がした。

「探してきましょうか?」

姿のない若い男の声が響く。

「近いうちに“指導”のため外出することになっております。そのついでに目星でもつけておくことが出来れば、総督の手を煩わせることもないかと」

総督はすぐに返事をせず、しばし目を閉じた。

極秘裏に進めている計画だ。

表沙汰になれば厄介なことになる。

だが、抜け落ちた“アレ”を放っておくことによって、何か影響が出てしまうのではないか…。

かねてからの悲願の成就に、放置することのデメリット。

脳内で天秤にかけていた男は、長い間を置いた後目を開く。

「目立たんようにな」

そう言ったところで、「はっ」という短い返事と共に気配が消えた。

今度こそ部屋に一人になり、総督は息を吐いた。

眼下では照明を手にエンジェ族が空を行き交っており、地上では仕事帰りと思しきヒューマ族が手近な店を探しさまよっている。

「…理想とはまだ程遠い…」

男は言う。今度はどこからも返事が返ってこない。

「だが、何も懸念のない世界へ…何の脅威もない世界への道は、見えつつある」

手にしていたワイングッラスを傾ける。

「もう少しだ…もう少しで…」

総督と呼ばれた男の目もまた、計画が第二段階に入ったことにどこか酔いしれているようだった。







ラビリンスのバグ騒ぎは、新入生を危険に晒したこともありさすがに看過できない問題だった。

とは言え継続しての利用を求める在校生の声も多く、そのため授業には盛り込まれないものの希望者には利用できる半封鎖という、なんとも中途半端な結果に落ち着いた。


「あー、つまんないわねぇ」

いつもの体育館裏で昼食を食べていると、ディエルがいかにもつまらなさそうな顔で愚痴る。

バグ騒ぎから数日経過してのことだった。

事態を重く見た校長が封鎖を決断し、あれ以来一度もラビリンスには入れていない。

放課後には利用できるそうだが、昨日までは動作テストのため完全に利用できなかった。

運動場や体育館で体を動かす機会はあったが、防衛設備の整ったラビリンスほど暴れられるわけではない。

パンを食べ終えたディエルは、もう一度つまらないと呟きながら上体を逸らし、空を見上げる。

「あ、で、ですがみなさん何事もなくて良かったです」

と、ティエリアが言う。

「先日の騒ぎはこれまで聞いたことがないほど深刻なものでしたし、怪我を負った生徒の方も何人かいらっしゃったようで…」

そう、結局回復装置は作動せず、駆けつけた先生の回復魔法で事なきを得た。

怪我は回復したがショック状態から気を失ったままの生徒もおり、保健室へ運ばれていく生徒も相当数いたらしい。

「私もそこにいたらもっと暴れられたのに…!」

ディエルは悔しがっている。よほど暴れ足りなかったのだろう。

ダイン達より下層にいたディエルとシンシアペアは、バグが発生したときシンシアが持っていた帰還クォーツで地上へ脱出したらしい。

身の危険が迫っていると感知した瞬間に自動で発動するアイテムのようで、強制的に外に出されたため中の様子が分からなかったそうだ。

「確かラフィンさんがトラブルの解決に貢献したんだよね?」

シンシアの台詞に、ダインは「そうだ」と頷く。

「強そうなモンスターが滅茶苦茶湧いてたんだが、あいつの魔法一発で全部消えたんだ。倒れる生徒を運んだのもあいつだよ」

先生方に何度も説明したことと同じ内容を話すダイン。

フォークを口に持っていきながらニーニアが何か言いたげな視線を向けるものの、彼は片目をつぶるだけ。

種族バレを防ぐために真相は話さないでおこう。

そうニーニアと決めたはずだが、人助けに奔走し自分を助けてくれた彼の手柄が横取りされたような心境なのだろう。

シンシアとティエリアにはこっそり真相を話してもいいかも知れない。

だがどこで綻びが生じるか分かったものではないので、黙ってることが一番だ。

ギガクラスで生徒会長のラフィンがトラブルを解決したというのも事実だし、人助けの件も彼女の実力を考えれば誰もが納得しやすい。

結果としてラフィンの生徒会長としての資質は磐石なものになり、いまやラフィンに対するイメージは新入生より生徒会長の方が濃くなっている。

それがまたディエルの機嫌を損ねている要因の一つのようで、あの場に自分もいれば、と未だに後悔しているようだ。

「ま、ラビリンスの完全封鎖も昨日までなんだし、放課後限定だが今日から解禁なんだろ? 溜まった鬱憤は放課後解放すりゃいいじゃねぇか」

「そうだけど…やっぱりまだ腑に落ちないのよねぇ」

空を見上げたままディエルは言う。

「何がだよ」

「人助けよ。湧いたモンスターを浄化したのは確かにあいつかも知れない。でもあれだけ大勢倒れてた生徒をあいつ一人で助け出すのは無理なんじゃないかしら」

みんな納得しているダインの方便だというのに、ディエルだけは未だに懐疑的だ。

ラフィンの性格を知っているから余計にそう思っているのだろう。

「本当なの? ダイン。本当に、あいつが一人で生徒を助けてたの?」

疑わしげな視線がダインに注がれる。

「本当だって」動揺一つ見せることなく、ダインは言った。

「まぁ実際には俺もニーニアも大量のモンスターに阻まれてたから、現場は見たわけじゃねぇけどさ。でもあの時あの場には俺たちとラフィンしかいなかった。俺等は助ける暇なんてなかったし、ラフィンがやったとしか思えねぇだろ」

そうまで言っても、ディエルはまだ目を細め疑惑のこもった表情をしている。

「随分と信用してないんだな」

ため息混じりに言うと、彼女から一言「怪しいのよね」という声が漏れた。

「怪しい?」

「ええ。今回のことで、あいつの生徒会長としての人気はかなり上がった。目安箱にはあいつに対する感謝や期待する言葉がかなり入っていたわ」

ディエルはふいに声を潜める。「それが狙いなんじゃないかしら」

「どういうことだ?」

「だから、人気を得るためにあえて普段やりもしないことをしたんじゃないかってこと」

なんとも穿った見解だ。

「か、考えすぎでは…」

ティエリアも困惑している。そんな彼女にディエルは顔を向け、持論を言った。

「あいつは典型的なエンジェ族ですよ? 効率重視の、人命と優先事項を天秤にかけるような奴なんです」

「いやでも例えそうだとしても、人助けしたことには変わりないんだからそれでいいじゃねぇかよ」

「評判気にして動くなんて、悪徳政治家と一緒じゃない。いずれ足元すくわれるわね」

シンシアはニーニアと弁当の交換をしている。「おいしいね」と笑い合うその2人はこちらを気にしている様子はない。

ディエルの話は基本的に面白いが、ラフィンが絡むと途端に滅茶苦茶な理論になる。

だったら聞かない方が良いというのが、これまで何度かディエルと昼食を共にした末の結論なのだろう。

「それにあいつ、この間ラビリンスに入ったとき妙な動きを見せてたのよね…」

ディエルの話はまだ終わらない。ダインは一応聞く姿勢を見せた。

「ずかずか一人で下層目指してたけど、ついでに何か探してたようなのよね」

「何か?」

「ええ。何か、というより、誰か、と言ったほうが正しいのかしら。モンスターと戦闘するグループを一通り見て回ってたみたい」

「探している…」

「あのときのあいつ、怪しさしかなかったわ」

ティエリアがどこか深刻そうな表情をしていたのはそのときだった。

彼女の様子に気付いたダインが声をかけようとしたが、直後に頭上から甲高い声が聞こえた。

「あー! いたいた! ディエル!!」

聞きなれない声に全員が頭上を見上げる。

陽光に反射し、七色に光る小さな羽が目に映った。

こちらを見ながら飛んできたのは小さな生徒…フェアリ族の女子生徒だ。

「あれ、セレス先輩じゃないですか」

「もー、探したよディエル」

緑色のツインテールをなびかせながらディエルの近くまで移動し、空中で静止する。

「放課後、また生徒会で取り決めることがあるからHRが終わり次第生徒会室に集合するようにだって」

「うえー、またですかぁ」

「嫌そうにしないの。副会長でしょ?」

活発なフェアリ族らしい彼女は、そのまま周りを見回す。

「う、うわ、ティエリアさん!?」

その目がティエリアを捉えた瞬間驚きの表情に変わった。

「ど、どうしてこんなところに?」

フェアリ族の彼女の制服は青いリボン。

先輩のようで、だからティエリアのことも知っていたのだろう。

「いつもお昼はどこかに行くな〜って、ティエリアさんと同じクラスの人が話題にしてたよ?」

校内で唯一のゴッド族であるティエリアは、どうやっても目立つ。

「後輩たちと食べていたんだ。それは予想つかなかったな〜。どうやって知り合ったの? そもそもどうしてお昼ごはん一緒にすることに…」

どうもおしゃべり好きらしい彼女は、早口でティエリアに質問を浴びせていく。

ティエリアの周囲をぐるぐる回っているのは、興味本位から出る癖なのだろうか。

「はいストップストップ。ティエリア先輩困ってるから」

ディエルがすかさず助けに入る。

彼女の言うとおり、ティエリアは何度も「えと」と言いおどおどしている。

「おっとそうだった。ごめんごめん」

セレスは舌を出しながら謝り、再び空中に静止した。

「ティエリアさんが誰かと一緒なんてあまりに珍しすぎてね。だから知り合った経緯とか色々知りたいな〜って」

そこでセレスの興味はダイン達に向く。

一応名乗った方がいいかと思い、ダイン達はそれぞれ名前を言った。

セレスも自分の名前をフェアリ族の『セレス・アナスタ』だと言い、フェアリ族流の挨拶の仕方なのかダイン達それぞれの頭上で一周する。

「にしてもみんな種族違うんだね。これだけ混在してるのも珍しいな〜」

「面白いでしょ?」

と、ディエル。

「うん、面白いね!」

セレスは笑顔で返す。

「さらに面白いのは、私たちみんなノマクラスだってこと!」

ディエルは上体を逸らし高らかに言った。

「胸張って言うことじゃねぇだろ…」

ノロマクラスと揶揄される俺たちなので、セレス先輩は途端に興味を失うかと思いきや、

「お…面白いね!!」

と、全身を上下に揺らし興奮し始めた。

「混在グループで元生徒会長でゴッド族のティエリアさんと知り合いで、副会長のディエル含めみんなノマクラス…いいね!」

何が良いのか分からないが、セレスはダイン達の周りを忙しなく飛び回っている。

「いや〜、てっきりティエリアさんが夢のことでもしてるんじゃないかと思ってたんだけど、どうも普通に知りあったっぽいね」

再び知り合った経緯を知りたがっているようだが、夢、という単語にダイン達は引っかかる。

「あ、あの、セレスさん、そのことは…」

ティエリアは眉を寄せ困った表情でセレスを見る。

「あ、これオフレコだったね。ごめんごめん」

セレスはまた頭をかきながら舌を出す。

「何の話…」

ディエルが口を開いたところで、昼の終わりを告げるチャイムが鳴った。

「あ!? 早く戻らなきゃ! ティエリアさんのところも午後の授業は校外訓練でしょ?」

「あ、そうでした!!」

たったいままで忘れていたのか、ティエリアは大慌てで立ち上がる。

質問しようとしていたダイン達にぺこりと頭を下げ、教室へ走っていった。

「…夢のことも気になるけど、慌しい先輩だったねぇ」

のんびりとした口調で、セレスの印象を話すシンシア。

「フェアリ族もなかなか悪戯好きが多くてね。だからセレス先輩とは気が合うのよねぇ」

確かに先ほどの会話からも、セレスとディエルの仲の良さを窺い知ることが出来る。

そのとき、ニーニアがハッとしたように声を上げた。

「あ、わ、私達も早くも戻らないと!」

慌てて弁当箱と水筒をカバンに詰め込んでいく。

ダインとシンシアも手早く弁当箱を片付け、ディエルはすでに飛び立っていた。







またバグが起き利用できなくなる可能性もあるので、可能な限りラビリンスを利用しようとシンシアが言ってきたのは放課後になってからだった。

ディエルはかなり行きたがっていたが放課後は生徒会の用事のため、渋々教室を出て行ったのはついさっきのことた。

「ニーニアちゃんも来るでしょ?」

前回ラビリンスに入ったのはディエルとのペアだ。

初期メンバーでラビリンスを探索したいというシンシアの台詞に、ニーニアは申し訳なさそうに頭を下げてきた。

「じ、実は今日の放課後はティエリア先輩と家庭科室で落ち合う約束があって」

意外な展開だ。

ダインは思わず「へぇ、そうなのか」と言ってしまう。

「ティエリア先輩、料理が得意だって聞いたから教えてもらおうかなって」

「え、そうなの?」

「うん。お弁当も自分で作ってるらしくて、いつも美味しそうだったから気になってて」

確かにニーニアの言うとおり、ティエリア先輩の弁当は見た目も華やかで美味しそうだった。

肉類は好まず野菜類が食生活の中心らしいゴッド族で、先輩の弁当も例に漏れず野菜ばかりだったがそれでも美味しそうだったんだ。

家庭菜園が趣味なだけにダインも野菜は好きだったので、いつも気になっていた。

「え〜いいな〜」

シンシアが羨ましそうにしたところで、3人しか残ってない教室に別の小さな声が聞こえた。

全員が入り口に顔を向けると、ティエリアがちょうどニーニアを迎えに来ていたようだ。

「あ、あの、ニーニアさん」

「あ、ティエリア先輩!」

ニーニアはすぐに立ち上がり、ティエリアの元へ小走りで向かう。

「あの、ティエリア先輩、シンシアちゃんとダイン君も誘っても良いですか…?」

そう小声で尋ねている。

「実は料理部の方々に打診してみたのですが…」ティエリアは困った顔になった。

「実習スペースは2人分しか用意できなかったとのことで…」

「あう、そうですか…」

「す、すみません。材料の確保も難しくて…」

肩を落とす二人に、シンシアは「大丈夫ですよ!」と言った。

「ラビリンスに入るつもりでしたから。使えるときに使っておかないともったいないですし」

「すみません…」

「あはは、全然問題ないです」

下校時間に再び教室に集合することを約束し、ニーニアとティエリアは並んで家庭科室へ歩いていく。

「あぁ…お料理教室かぁ…」

2人の小さな背中が消えるまで眺めていたシンシアは、ぽつりと呟いた。

「厨房でニーニアちゃんとティエリア先輩がちょこちょこ動くんだろうなぁ…可愛いんだろうなぁ…」

早くも妄想にふけっている。

ダインは笑いながら言った。

「やっぱラビリンスは中止して見学者として同行させてもらおうか?」

シンシアはしばし「う〜ん」と腕を組んで悩むが、すぐに顔を上げ首を振った。

「ラビリンスに行こう! 少しでも強くなってお姉ちゃんに追いつきたいもん」

「そうか」

そして2人は何も持たないまま校舎を出て、生徒の出入りで賑わう闘技場からラビリンスへ歩いていった。



「ダイン君、そっち行ったよ!」

シンシアが仕留め損ねたモンスターが、ダインめがけて突進してくる。

「ほっ」

ダインは敵の腕を掴み、そのまま振り上げた。

巨大なゴーレム型のモンスターは天井に激突し、粉々になって砕け散る。

「はっ!」

残ったオーガ型のモンスターに聖剣を持ったシンシアが斬りかかり、一振りの斬撃で敵は消滅した。

そこで周囲に群がっていたモンスターの群れはなくなる。

「ふぅ…こんなもんかな」

十分以上もの連戦が続き、ようやく落ち着けるとばかりにシンシアは息を吐いた。

「ちょっと休むか」

ちょうど近くにセーフティゾーンがあったので、2人してバリア内に入りベンチに腰を下ろす。

「はぁ〜、良い運動だよ〜」

シンシアは手にしたハンカチで汗を拭っている。

ずっと動き続けていた反動なのか、何度ハンカチで拭っても額や首筋からは玉のような汗が流れ出ていた。

「魔法で空調が整ってるとは言っても、地下ダンジョンと変わりねぇからな。こんだけ動きゃ汗も出てくるだろ」

「うん。暑すぎるよ…こんなことならニーニアちゃんから涼しくなれるアイテム借りとくんだったよ」

早くも二枚目のハンカチを消費しながら、彼女はダインの方をまじまじと見る。

「でもダイン君は全然汗かいてないんだね」

「俺はシンシアほど動いてねぇからなぁ」

ニーニアのときと同じく、シンシアとラビリンスを探索している現在も彼はフォローに徹していた。

主にシンシアが倒し損ねたモンスターを処理していたんだが、彼女が仕留め損ねることはこれまで数えるほどしかなかったためダインの出番はほぼない。

「やっぱ強ぇよ。さすが名門なだけはある」

「私なんてまだまだだよ」

「んなことないだろ」

聖剣ムンブルグ。シンシアがそれを振れば、群がるモンスターは一撃の下に全てが消滅していく。

創生魔法は当然ながら術者の聖力次第で弱くも強くもなる。シンシアの聖剣は、聖剣の名に恥じぬほどの強さを持っていた。

剣自体の強さもさることながら、彼女の剣捌きもなかなかのものだ。

素早い足運びによる回避行動に、一瞬の隙を突く攻撃の速さ。自身の強化魔法がプラスされるとさらにモンスターの殲滅力が上がる。

まともにシンシアが戦っているのは今回初めて見たことになるが、ハイクラス以上の実力を持っていることは間違いないだろう。

事実ダイン達は現在メガクラスが常駐しているフロアにおり、まだまだ下層を目指せそうだ。

「冗談抜きで、ここまで来たのってほぼシンシア一人の力じゃん。俺は何もしてねぇぞ?」

そう言うと、彼女は含み笑いと共に顔を赤くさせた。

「ダイン君との初めての共闘だから、ちょっとはりきっちゃってる」

退魔師を目指し、名門エーテライト家の次女として、ダインには良い格好を見せたいとはっきり言ってくるシンシア。

「修行の成果、もっともっと見て欲しいなって」

「はは。そうか。お世辞でもなんでもなく、かっこいいぞ?」

素直にそう言うと、彼女はまた顔を赤らめて照れ笑いを浮かべた。

しかし笑顔だったのも束の間、すぐに眉を下ろし困ったような顔になる。

「でもほんとに、私なんてまだまだだよ…お父さんやお姉ちゃんに比べると…」

どこか悩んでいるような様子に、ダインは「そんなに強いのか」と真面目な顔で尋ねてみた。

シンシアは持っていたハンカチを膝の上に置き、そのまま憂鬱そうな表情で頭上を見上げる。

「お父さんは今も大陸最強と言われてる人で、お姉ちゃんは世界各国から討伐依頼がひっきりなしにくる凄腕の大退魔師。2人とも名声が凄すぎてねぇ…」

シンシアの父であるゲンサイ・エーテライトは、現役を引退し道場を営んでいるものの、その強さに一切の翳りはなく武術大会20連覇という記録は今も破られてない。

姉のリィン・エーテライトは天性の戦闘勘を持っているらしく、対人はもちろんのことどれだけ巨大で強いモンスターでも仕留められなかったことはない。

エーテライト家に敗北なし、とは武道を志す者たちの間では常識となっており、変人レベルで強さを追い求める者しか挑戦しようと思う者はいないらしい。

「あんな2人を見ていたら、とてもじゃないけど追いつける気がしなくて…」

そのときダインの脳裏に浮かんだのは、初めてシンシアを見かけたときだ。

入学式当日だというのに、彼女は通学路脇にあったベンチに腰掛けぼーっとしていた。

あのときも今と同じ姿勢、同じ表情をしていたような気がする。恐らく考えていることもあのときと同じなのだろう。

「退魔師を目指してるってことも、あんまり信じてもらえてないし…」

「信じてない?」不思議そうに尋ねるダインに、彼女は顔を向けつつ弱々しく笑った。

「自分では自覚ないんだけど、退魔師を目指してるようには見えないんだって。もっと家庭的な職業が似合ってそうって言われたこともあるよ」

それも彼女の悩みの種だったのか、ゆっくりと首を振っている。

確かにダインもシンシアの第一印象はふわふわとした温厚そうな人物に見えていた。

争いは好まず世話好きそうな印象で、とても剣で戦うようには見えなかった。

「どうやったらそれらしく見えるかなぁ…」

見た目を気にしだしたシンシアに、ダインは笑いながら言った。

「見た目なんてどうでもいいじゃんか。他人にどう思われようと、シンシアが目指したいと思ったことを突き進んでいけばいいだけだ」

「そうかなぁ」

「夢ってのはそういうもんだ。他人にとやかく言われる筋合いもない。言われたところで曲げる必要もない」

「それにさ」ダインは半身をシンシアに向け、柔らかい表情のまま続ける。

「シンシアがどの程度まで姉を目指してるのかは分かんねぇけど、別に同じになる必要はないと思うぞ? 世間に疎くて申し訳ないけどお前の姉がどこまで強いのかは知らない。知らないが、シンシアとはまた違った強さがあるんだろ。逆に、その姉にはない強さをシンシアは持っていると思う。ひたむきに強くなろうとするんじゃなく、シンシアにしかない強さを伸ばしていけば、いずれ姉に追いつけるんじゃねぇかな」

シンシアは首をかしげる。「私にしかない強さ…?」

それは何なのかという視線に、ダインは頭をかいて謝った。

「何となくで感じたことだから、これだ! って断定はできないんだ。でも確かにお前にしかない強さは感じるんだよ。優しさの中に強さがある、みたいなさ」

「優しさの中にある、強さ…」

心の中で何度も反芻しだしたシンシア。

「でも混ぜ返すようだけど、退魔師を目指してるように見られてないってのは嬉しいことだと思うけどな」

「え」とダインを見る目は意外そうだ。

「いやだってそうだろ? 退魔師とか剣士って屈強なイメージがあるじゃん。シンシアはその真逆に見られてるってことは、女性らしく見られてるってことになんねぇか?」

「そ、そうかな」

「そうだろ。可愛いってことじゃん」

「か、かわ…」

「実際可愛いし。だから俺もそんなイメージ持たなかった」

異性であるダインからストレートに言われ、シンシアの顔はみるみる真っ赤になっていき、「あう」と言葉を詰まらせてしまう。

同級生に対し可愛いと平然と言ってのけるダインは、褒められるところはちゃんと褒めるという母の教えからきているのだろう。

「な? そう思ったら、他人の自分に対するイメージが違ってても嬉しくなれるだろ?」

「う…うん…え、えへへ…あ、ありがと…」

そのお礼は可愛いと言われたことに対してか相談に乗ってくれたことに対してか分からないが、シンシアは嬉しそうだ。

「うし、もう少し下層目指したいところだけど、そろそろ時間だしここらで戻るか?」

ダインも満足げな様子で立ち上がり、「うん」と頷いたシンシアも彼に続く。

「じゃあ…」

再びシンシアが先導しようとしたときだった。

地鳴りのような音と共にフロア全体が揺れる。

「わわっ!?」

シンシアが体をよろめかせ、その間にすぐに揺れが収まった。

「地震か? 何か最近多いな」

「う、うん、そうだね。ここ一週間の間に頻発してるらしいよ」

「ここだけなのか?」

「そうみたい。それで、その地震の後決まって起きるのが…」

シンシアが言いかけた直後、頭上から誰かの声が聞こえてきた。

『機材に故障が生じました。安全のためただちに地上へお戻りください』

そのアナウンスと共にフロア中に流れる警告音。

頭上を指差し、シンシアは「ね?」と言ってきた。

「この地震と関係があるってことか…っつーことは最下層にトラブルの原因がある?」

「だと思う」

そう会話してる間にも、生徒達は慌てたように引き返し始めていた。

すでにバグに乗じてモンスターが湧き出ており、彼らは苦戦しつつ走り去っていく。

「俺らも急ぐか。あ、でも帰還クォーツ持ってたんだよな?」

「あ、うん、持って…」

ポケットをまさぐり始めるシンシアだが、「あ!」と突然声を張り上げる。

「カバンに入れっぱなしだった!」

「そうなのか」

「ご、ごめんね」

彼女の謝罪を、ダインは笑って首を振る。

「いや、そもそも魔法の効かない俺には無意味だからなぁ。せめてシンシアだけでもと思ったんだが」

「え? 帰還魔法も駄目なの?」

「ああ。効かないのは攻撃魔法だけじゃないんだ。魔法全般だ。補助魔法も回復魔法も効果はない」

「え…じゃ、じゃあ、怪我したらしっぱなし…?」

「そうなるな。自然治癒だけだ」

シンシアの口が開きっぱなしだ。よほど驚いていると見える。

魔法なんて効いて当たり前という世の中に於いて、怪我したときの回復手段が自然治癒のみというのは信じられないのだろう。

「まぁ薬やら何やらは効果あるからそっちに頼るかなぁ」

「ふ、不便…だよね…?」

「魔法を使えて効果がある奴にとってみりゃそうなんだろうけど、俺にとっちゃこれが普通だからな。便利そうだなとは思うけどさ」

そう話している間にも警告音は止まらない。

気付けば生徒の姿もないようで、ハッとしたシンシアが早く脱出しようと先を走り出した。

「気をつけろよ。フォローはちゃんとするからさ」

「うん!」

彼女は早速聖剣を創り出し、次々と湧き出てくるモンスターを一振りで消滅させていく。

ダインはシンシアの背後にぴったりと張り付き、彼女に隙を作らせないよう立ち回った。


前回のバグ騒ぎの教訓はしっかり活かされていたようで、ダインとシンシア以外はすでに外に脱出できたようだ。

だが人がいなくなってもモンスターは湧き続けており、フロアを進むたびにその数は増していく。

「ちょ、ちょっと多すぎないかな!?」

探索時よりも明らかに数が多く、上層なのに湧き出るモンスターのランクも高い。

始めよりもかなり密度の濃い連戦状況に、さすがのシンシアも息が上がっていた。

聖力も減ってきているようで、聖剣の輝きが弱まっているように見える。

威力も下がっているのか、一撃では倒れないモンスターも増えてきた。

「平気か?」

ダインだけは平然と彼女が仕留め損ねたモンスターを投げて散らしていく。

「う、うん!」

シンシアは再び気合を込め、前方に群がるモンスターに向かって剣を振るう。

振った軌跡が光の衝撃波となって相手に襲い掛かり、敵の一団を次々と吹き飛ばしていく。

その際に生じた隙間を縫うようにして、シンシアとダインは駆け抜けていった。

やがて一階にたどり着き、大きなフロアに差し掛かったときだった。

「はぁッ!!」

これで最後とばかりに、中央にいた真っ黒なモンスターにシンシアが斬りかかる。

これまでなら、彼女の一振りでどんなモンスターも吹き飛ばせた。

だがその黒いモンスターは、聖剣がぶつかる音がしたというのに微動だにしない。

「え…!?」

驚き、困惑する彼女から巨大な木槌で打ち付けられたような衝撃音がする。

シンシアの全身が震え、大きく吹き飛ばされた。

「あ、ぐ…!」

壁に激突しそうになった寸でのところでダインがキャッチする。

「大丈夫か?」

「う…な、何が…」

衝突のショックからか、見た目そんなにダメージを負っているようには見えないが動けないようだ。

「お前にとっちゃ厄介な相手かもな」

シンシアを抱えながら前を見る。

その黒いモンスター…レギオスの残滓は、こちらに照準を合わせたままゆっくりと歩み寄ってくる。

「あ、あれは…」

「噂のレギオスの残滓だ。どうも俺と同じく魔法が効かないらしい。いや、効きにくいのかな」

そう話してる間に、敵の姿が消えた。

瞬きをした次の瞬間、黒く巨大な腕が目の前まで迫っていた。

ダインはすぐに敵の攻撃をかわし、背後に回る。

モンスターはゆっくりとした動作で再びこちらに向き直り、距離を詰め始めた。

巨体が一歩進むたびにフロアが揺れる。その揺れでバグが再発したのか、同じ姿をしたモンスターが次々と湧き出てくる。

先日ニーニアと一緒に行動していたときと同じだ。

「そ、そんな…」

シンシアは絶望的にも見える光景に顔を引きつらせている。

また駆け抜けるか…。

そう思ったダインだが、頭上にある監視カメラが動いたのに気づき足を止めた。

バグの原因を探るため、前回は使ってなかったらしい監視カメラも動作させているんだろう。

ここで下手な動きは出来ない。

「ガアアアアアァァァァ!」

ダインが考えていると、暇を与えまいとするかのように湧き出たモンスターが一斉に襲い掛かってきた。

ダインは瞬時に監視カメラの死角まで移動し、シンシアを抱き上げたまま敵の攻撃をかわしていく。

「う、うわ、うわわ…!」

ダインの動きがシンシアには分かるようで、しきりに声を上げている。

強化魔法を使っても成し得ないほどのスピードに、彼女は驚きっぱなしだ。

「す、すご…すごいね、だ、ダイン君!」

「ん? いや、まぁ…こういうの慣れてるから…」

「な、慣れるレベルじゃないよこれ! それに話しながら動けるなんて…」

敵の攻撃をダインがかわし、相手の腕がそのまま別のモンスターにぶつかったり壁に激突したりしている。

絶え間なく聞こえる攻撃音の中でも、彼は表情一つ変えることなく動き回っていた。

「え、ま、まさか…まさかニーニアちゃんのときも、こうして…?」

先日のバグ騒ぎに考えが及んだシンシアに、ダインは笑いながら「ばれるからできるだけ他言しないようにな?」と言った。

シンシアは思わず息を呑んでしまう。

彼のこれまでの行動は避けるか投げるかのどちらかだけだ。

その単純な動作だけでは彼の強さは測りかねるが、スピードも投げ飛ばすパワーも他とは一線を画してる。

正体を隠すために攻撃しないのは分かるが、そのあり得ないスピードとパワーで攻撃をしたらどうなるんだろうか…。

そのときの状況を想像し、また生唾を飲み込んでしまう。

そんな彼女を見ながら、逡巡していたダインはあることを思いつきモンスターの頭に足を置き動きを止めた。

「シンシア、聖力ってまだ残ってるか?」

意外な問いかけに「ふぇ?」と声を出してしまう彼女だが、すぐに頷いた。「す、少しなら…」

「じゃあちょっとだけもらうな?」

「あ、う、うん。どうぞ…」

その瞬間、シンシアの全身から力が抜ける。

ダインの体がやや光ったような気がした。

「すぐ終わらせるな」

ダインはモンスターの頭を踏みつけ、天井ギリギリまで跳躍する。

天井に手を突き、強く押し出した。

その反動を使い、同じく跳躍して追撃してこようとするモンスターの群れを弾き飛ばし地面に着地する。

着地の衝撃波が周囲に広がり、群がり始めたモンスターを円状に押しやった。

再び群れとなって襲い掛かってくるモンスター達を見回した後、彼は…

「え〜と、確かあいつが唱えたのは…」

何とものんびりした口調で、何かを思い起こすような表情のままダインが何事か呟く。

その詠唱に聞き覚えのあったシンシアは目を丸くさせた。

「え…そ、その魔法って…!!」

突如、ダインの全身が光る。

その光は巨大な閃光となって、遅い来るモンスター達を呑み込んでいった。

「ガアアアアアァァァ…!!」

「ギャアアアアァァァ…!!」

光の中、モンスターの群れから悲鳴に似た叫び声がする。

あまりの眩しさに目を閉じていたシンシアだが、光が収まり目を開けたときには周囲にいたモンスターが全ていなくなっていた。

「……」

口をあんぐりと開けたまま、シンシアは動かない。

何が起こったのかは、ダインが使った魔法で予測はつく。だがその高難度とされる魔法を彼が使ったということが信じられず、しばし反応できないでいた。

「…うん、もう大丈夫そうだな」

ダインは抱えていたシンシアをゆっくりと降ろさせる。

「まだ警報鳴ってるから湧き出るかも知れねぇ。いまのうちに早く…」

「ど…ど、どどどどうやったの!?」

ようやく動き出せたシンシアは、そのまま掴みかかる勢いでダインに迫った。

「うおっと?」

「い、今の上級の破邪魔法だよね!? いつの間にそんなもの使えるようになったの!? う、ううん、そもそもダイン君魔族のはずで、光魔法なんて使えないはずだよね!? 闇も光も使えるなんてそんなの聞いたことないよ!!」

なおも詰め寄ってくるシンシアに、ダインは両手を見せつつ「どうどう」と彼女の興奮をどうにか落ち着かせる。

「聖力吸わせてもらったんだから、光魔法使えるのは当然だろ?」

「そ、そうだけど、でもダイン君は魔族だから、聖力を吸っても体内で魔力に変換されるものだとばかり…」

シンシアに言われ、指摘はその通りだと思い腕を組む。

「言われてみりゃ確かにそうだな…でも何となくだけど、使える気がしたんだよ」

「な、何となくで使える魔法じゃないよ? そもそも授業で習ってないんだし、どこで詠唱の仕方とか…」

「いや、ほら、この間のバグ騒ぎでラフィンが同じような魔法使ってたからさ。詠唱も聞こえたから試してみようかなって」

実際問題、ダイン本人にもどうして光魔法が使えたのかは分からない。

魔族は魔力を用いた闇の魔法。聖族は聖力を用いた光の魔法。それはこの世に存在する者全てに定められた絶対のルールであり、例外はない。

聖力すら吸収できるというヴァンプ族だからこそできる、常識外の芸当なのだろうか。

ダインはそう思ったが、吸魔自体最近会得したことなので詳しいことは分からない。

「まぁ細かいことは後で話そう。いまはとにかく外に出ようぜ」

急かすように言ったところでようやくシンシアは頷き、共に出入り口を目指して駆け出す。

ダインの魔法が広範囲に影響したのだろうか。ラビリンスの外に出るまでモンスターと遭遇することはなかった。


シンシアと共に闘技場に出た。

空はいつの間にか赤くなっており、広場の所々で生徒達が呼吸を整えたり回復魔法を使ったりしている。

「ふぅ、ふぅ…はぁ、やっと出れた…」

シンシアも外に出た瞬間地面に座り込んでしまい、そのまま呼吸を繰り返していた。

ショック状態からは抜け出せたようだが、聖剣を使い続けた反動なのか体力の限界が来てしまったらしい。

「しばらく休んどけ」

「う、うん…」

素直に休憩するシンシアを見ながら、教室で待っているであろうニーニアに連絡しようと思ったダイン。

携帯を取り出しつつメールがいいか通信会話がいいか悩んでいると、

「どうやって出てきたの」

誰かに声をかけられた。

顔を上げると、腕を組んだラフィンが闘技場の入り口に立っていた。

彼女の背後には戦闘服に身を包んだ大人の男たちがいる。警備隊だろう。

どうやら騒ぎを聞いて駆けつけてきたらしい。

「中は大量のレギオスの残滓がいたはず。どうやって抜け出してきたの」

疑念を浮かべた表情をダイン達に向けている。

監視カメラか目の魔法か、中の様子を確認していたようだ。

相当酷い有様だったから、そんな中からダインとシンシアが怪我もなく帰還してきたことが疑問でならないらしい。

「確かにモンスターがめちゃくちゃいてびびったんだけど、気付けばみんな消えてさ」

弁明しようとしたシンシアを「休んでろ」と手で制し、ダインは答える。

「中はまたバグまみれだからな。急に現れることも、急に消えることもあるんじゃねぇかな」

そう続けて言うが、ラフィンは反応を示さない。

相変わらず険しそうな目からは疑惑しか伝わってこなかった。

「つってもまた湧いてるだろうし、早く処理してきた方がいいとは思うぜ」

気にせずダインが言うと、ラフィンは「そうね」と頷く。

そのまま背後の警備隊に向け、手で合図を送る。

屈強そうな男たちは武器を手に、ラビリンスへ突入を開始した。

男達に続きラフィンも歩き出す。

ダインの傍を通過しようとしたとき、彼女は足を止めた。

どうしたのだろうかと思っていると、

「…話があるわ。明日の放課後、生徒会室に来て」

小さな声だったのでダインは「え?」と振り向くが、彼女の背中はすでに階段の下にある。

こちらを振り向かないまま、警備隊とラフィンはラビリンスの中へ入っていった。

「ど、どうかしたの…?」

未だ呼吸を落ち着かせながらシンシアが聞いてくる。

ダインにも良く分からないことだったので「いや」と首を振るしかない。

相次ぐバグに、謎の地鳴り。地震。

分からないことだらけだが、何かが起きようとしていることだけは彼にもはっきり感じ取ることが出来た。



「すごかったんだよ!」

興奮冷めやらぬシンシアは、公園のベンチに座るニーニアとティエリアにラビリンスでの出来事を話していた。

「私の聖剣すら弾くモンスターをね、攻撃をひょいひょいかわしてたダイン君がいきなり上級の破邪魔法を使って、一発でみんな消しちゃったんだよ!!」

身振りを交え説明に没頭している。

「闇魔法を使えることは前に見て知ってたんだけど、光魔法も使えるなんて、世紀の大発見だよ! 前例がないよ!」

「あはは、ダイン君ならそれが出来ても納得できちゃうね」

ニーニアは柔らかく笑いながら、持ち寄ったクッキーを食べている。

「そ、それは確かに世紀の大発見ですね!!」

まだダインの実力を目の当たりにしたことのないティエリアは、話を聞いただけでシンシアと同じ温度で興奮しだす。

「どうやっているのでしょう? どのようなことをして、そのような器用なことを…」

興味津々のシンシアとティエリアだが、ダインは申し訳なさそうに頭をかく。

「実は俺にもよく分かってねぇんだ。感覚だけで魔法使ってるようなもんだからさ」

説明のしようがない。

素直にそう言うと、女3人は顔を見合わせる。

「か、感覚だけで高度な魔法を…?」

「魔力が薄いだけでダイン君には魔法の才能があったっていうことかな…?」

「そ、そんなこと、ある…のかな?」

ニーニアはものづくりの天才だが、シンシアとティエリアは一応魔法のスペシャリストだ。

3人はしばし聖力、魔力の原理について話し合うが、いくら議論しても両方使えるという結論は出てきそうにない。

「ほら、もう大分暗くなっちまってんぞ」

「そろそろ帰った方が良いんじゃないか?」そう言うと、時間を確認した彼女たちは慌てて立ち上がる。

「そ、そうだよ! 今日の晩御飯当番私だった!」

シンシアはすぐに帰還魔法を展開し、ダイン達に手を振りつつ帰っていった。

「も、門限がもう5分もありません!」

ティエリアも慌てながら詠唱し、魔法陣を足元に出現させる。

「で、ではまた明日」

「ああ」

「あ、ティエリア先輩、レシピありがとうございました」

去り際にニーニアが言う。

「い、いえ、よければまた一緒に…今度はダインさんとシンシアさんの4人で…!」

続けて何か言おうとしたようだが、魔法が発動してしまい帰還してしまった。

「はは。ほら、ニーニアも」

「う、うん」

ニーニアはカバンから一枚の小さなシールを取り出す。

帰還魔法が込められたアイテムのようだが、それを地面に貼ろうとする前にダインの方を見てきた。

「あ、あの、ダイン君」

「ん?」

「こ、この間のこと、なんだけど…」

やや恥ずかしそうにしながら、「守ってくれてありがとう」とお礼を言う。

「ちゃ、ちゃんと言えてなかったから…」

「いや、礼言うようなことじゃないだろ」

ダインは笑って彼女の頭に手を置いた。

「ふわ」と声を上げるニーニアに目線を合わせる。

「それを言うなら俺の方こそありがとうだ。後半ばたばたしたけど、楽しかったよ」

「わ、私も…! 私も、楽しかった。さ、最初は怖くて仕方なかったけど、ダイン君と一緒なら…」

そのまま小さな頭を撫で続ける。

ニーニアの顔はみるみる赤くなっていくが、どこか心地よさそうなのが可愛らしい。

「ほら、いい加減帰らないと」

「うん」と頷くニーニアは、帰還シールを使い魔法陣を展開させた。

「ま、また明日…!」

「ああ」

風に抱かれるようにしながら、ニーニアの姿が景色に溶け込み消えていく。

風が収まり、周囲には誰もいなくなった。

「…俺も帰るか」

いつもの流れだった。

シンシア達を全員見送ってから、彼は帰路に着く。

セブンリンクスはエレイン村と同じ大陸にあるが、その距離は遠い。

だがヴァンプ族のダインにしてみればさしたる距離ではなかった。

足に力を込め、大きく跳躍しようとする。

空を見上げ、誰もいないことを確認してから、目的地に向け一息でたどり着こうと…、

「…ん?」

途中何かに気付き、彼は力を抜いた。

シンシア達との放課後の雑談で使わせてもらっている公園は、もう見慣れたものだが…何かが違う。

近くのベンチ、小さな遊具、周囲の木々。

景色は一緒だが、その景色の中から妙な空気のようなものが流れてきていた。

一般人なら気付かなかっただろう。だが魔力が薄い分、魔力という不可思議な力そのものを敏感に感じ取ることの出来るダインだから、その違和感に気付いたのかも知れない。

匂いの元を辿るように、彼は感覚を頼りに足を進める。

そこは木立に囲まれた、一見何の変哲もない場所だった。

地面は落ち葉が積みあがり絨毯のように広がっている。

アマツサクラ。

花を咲かせると甘い匂いを発する、主にここオブリビア大陸に群生している木だが、目の前の一画にだけ満開の花を咲かせている。

この暖かい時期に。寒い季節にしか咲かないはずなのにだ。

違和感の元はこれなのかと近づいたとき、木々の間にある空間に、積みあがった落ち葉でこんもりと小さな山になっているところがあったのに気がついた。

誰かが焚き火をするために落ち葉を集めたのだろうか。しかしそれにしては木と距離が近い。ここで火を起こすと火事になってしまう。

とはいえ、自然に出来たものにしては風だまりのような場所はなく不自然だ。

人為的に作られたように見える小山に興味を引かれ、ダインはさらに近づいていく。

中を覗いてみようとしたとき、その落ち葉の山が僅かに動いているのが確認できた。

モンスターか…?

一応の警戒を抱きつつ、落ち葉を少しどかしてみると、

「う…うぅ…」

うめき声のようなものが、中から聞こえた。

モンスターではなく人だ。それも子供の。

周囲を見回すが誰もいない。気配すらない。

うめき声が切羽詰ったものに聞こえたダインは、すぐに落ち葉をどかしていく。

すると中から現れたのは…、

小さな手足に、長い緑髪。

茶色がかったワンピースに身を包む、一人の女の子がいた。

「お、おい、大丈夫か?」

見た目の年齢は5,6歳ほどだろうか。

横向きに倒れているその目は閉じられており、小さな口から何度も呻くような声がする。

眉間に皺が寄せられ全身が震えており、明らかに辛そうだ。

落ち葉の中に埋まるように倒れていただなんて、誰かの悪戯だろうか?

それにしてはこちらを伺う人影もなく、気配も感じない。

「おい…なぁ…」

何度も声をかけても返事が返ってこない。

相変わらずうめき声を上げ続けており、しきりに腹を押さえている。

見たところ大怪我はしていないようだが、何かの病気かもしれないし緊急を要するのは間違いない。

細かいことは後だ。いまはとにかくこの子の苦しみを和らげてあげなくては。

改めて周囲に誰もいないのを確認し、ダインはその子をそっと抱き上げた。

病院に運ぼうかと思ったが、空はすでに暗くなっており閉館してしまってるだろう。

急患として手当てしてくれるかもしれないが、その前の手続きが例え急患でも時間がかかったことは覚えてる。

「うぅ…う…」

本当に苦しそうな女の子を見ていると、もはや考えている猶予はなさそうだ。

「もうちょっと辛抱してくれな」

できるだけ女の子に衝撃が伝わらないよう気をつけながら、彼はここから一番近かった自分の家へ帰ることにした。



「栄養失調ですね」

自宅に着き早速サラに診てもらった結果、サラからそんな答えが返ってきた。

「極度の空腹による腹痛だと思われます」

女の子はソファに寝かされているが、未だに腹を押さえ苦しがっている。

「要は何か食べさせりゃいいのか」

「そうですね」

「よし」とダインは立ち上がり、制服の裾をまくりながら中庭へ向かう。

「おや、どちらへ?」

「晩飯はもう作っちまったし材料はもうないんだろ? そいつ意識ないようだし、固形よりは流動食の方がいいだろ」

「なるほど」と納得したサラと一緒に中庭へ行き、ちょうど食べごろだった野菜を収穫した。

キッチンへ行き野菜を煮込んだスープを作り、熱を冷ましつつ未だ意識のない女の子の口に少しずつ流し込ませていく。

女の子は素直にスープを飲んでくれて、寸胴鍋の中身が空になった頃にはようやく落ち着きを取り戻してくれた。

「とりあえずは一安心、といったところでしょうか」

ソファで寝続ける女の子の様子を伺っていると、タオルで濡れた手を拭きながらサラが戻ってくる。

食後、サラは枯れ葉まみれだった女の子の汚れを落とし、体を拭いてあげてくれた。

「ああ。悪かったな、突然で」

「いえ、それは全く問題ないのですが」

ダインと自分の分のコップをテーブルに置きながら、サラは椅子にかける。

ダインを見る目は、どこでこの子を見つけたのかと言いたげだ。

「あ〜とな…」

ダインはこれまでの出来事をサラに説明する。

とはいっても、彼自身もよく分からない内容だ。

「夕暮れの、公園から離れた木立の中で、枯葉に埋まっていた女の子…ですか」

難しい顔でダインの台詞を反芻するサラに、「やっぱり異常だよな」と彼女の心情を汲んで言う。

「そうですね。周囲に親か誰かの気配がない、ということは…何か事件に巻き込まれた可能性も否定できませんね」

「そうなるか」

「ええ。どのような状況で、いつからその場にいたのかは全く不明ですが、乳飲み子を脱したばかりに見えるお子様が、一人で周囲に何もない公園にいたというのは不自然すぎます」

街の建設計画が頓挫し、公園だけ作られたらしい辺鄙な場所だ。

近くにセブンリンクスがあるだけで、一番近いとされる街までは数キロもある。

サラの言うとおり、そんな場所に小さな子供が一人だけ、しかも意識を失うほどの空腹状態の中、枯葉の中に埋まっていたというのはどう考えても異常だろう。

「事件か事故に巻き込まれ、転移魔法か爆発の影響かで公園に飛ばされた…と考えるのが一番自然でしょうか」

「そうだよな…普通に考えれば…」

ダインは静かに寝息を吐いている女の子から視線を上げ、サラを見る。

「明日、自警団に引き渡した方が良いよな」

「自警団…ガーゴですか」

聞きなれない単語にダインが首をかしげる。

「ガーゴですよ。この大陸を取り仕切っている守衛組織」

サラは意外そうにダインを見返した。「もしかしてご存知ない?」

「あ、ああ、まぁ…教えてもらってないから…」

頬をかくダインに、サラが呆れたように肩をすくめる。

「教えずともお知りになる機会などあったはずでしょうに…セブンリンクスに通っているのなら特に」

「どういうことだ?」

サラは「ふぅ」と息を吐き、目を開けてガーゴについて説明を始めた。

「大陸ごとに自治組織は定められていますが、ここオブリビア大陸ではガーゴと言う組織が実質この国を治めているのです」

「治めている? 国王がいるのにか?」

「外交の際は国王が赴き発言されてますが、実質的な統治はガーゴになります。これは、この大陸に住む者全ての一般常識です」

「そうなのか…」

「ええ。ガーゴは表向きは治安維持のための組織で、主に住人の保護や取り締まり、犯罪者の確保や秩序の維持、裁判など、対人トラブルの解決に重きを置く組織ですが、都市開発や病院や介護施設の運営、志願者の育成のための学校建設など、取り締まりだけではない経営を手広く展開している組織でもあるのです」

「ほう」と頷くダインに、サラは続ける。

「飲食や研究開発にまで手を広げ、職場を多く抱えることで就職難問題を解決し、政治にまで手を出し始めたガーゴには、いま現在もその名声は留まることを知らない状況です」

つまり相当に有名な組織らしい。

「本職ではあらゆる難事件を解決し、上層部は魔法のスペシャリストであり賢者に匹敵するほどのエリート。彼らに憧れを抱く方は少なくなく、入隊希望者が連日殺到する現在は非常に狭き門となっております」

「それは分かったが、何故ガーゴとセブンリンクスに関係が?」

「セブンリンクスの創設者は一人ではありません。連名の中にガーゴの創立者がいるからです」

サラは背後の戸棚からセブンリンクスのパンフレットを取り寄せ、ダインに見せてくる。

彼女が指し示した箇所には、確かにガーゴという記述があった。

「その狭き門をクリアし入隊できるのが、セブンリンクスなのです。卒業生は難しいテストも面接もなくガーゴの関連企業に就職できることが約束されているのです」

「そういうことかよ」

ダインはいまようやく、躍起になってノマクラス脱却を狙うクラスメイトの行動に納得がいった。

魔力の向上や上を目指したいだの何だの言っていたのは、全ては無事に卒業しガーゴに就職したいがためなのだ。

「もちろん全ての方がガーゴに入隊したいというわけではありませんが、末端の就職先でもガーゴの関連企業なら衣食住に困らない程度のお給料は約束されてますからね」

「ま、学校でいくら実力を発揮し良い成績を収めたとしても、最終的な目標は就職になるわけだからな。俺みたいな魔力のない奴には縁遠い話だが」

サラの説明に身も蓋もない反応をしつつ、ダインは話を戻す。

「で、そのガーゴにはこいつのこと報告した方がいいよな?」

「そうですね。確かに、ガーゴは迷子の一時保護なども請け負っておりますが…」

サラは顎に手を添え、何やら考え込んでいる。

「身元不明の女の子…通常の対応としては、引き渡すべきなのですが…」

「何か問題でもあるのか?」

不思議そうに尋ねるダインに、考え込んだままサラは言った。

「手続きが面倒なんですよね」

深く考え込んでいる割になんとも正直な返答に、ダインは座っているのにずっこけそうになる。

「いや、面倒だからってずっとここに置いとくのもまずいだろ。あいつも意識がはっきりすりゃ家に帰りたがるはずだし」

「ふむ…では明日、この子の目が覚めたときに結論を出すことにしましょう。帰りたいと言うのならこの子の記憶を頼りに家を探し出し、帰りたくないと言うのなら事件性や育児放棄の可能性も考慮し、ガーゴに引き渡すということで」

普段冗談ばかり言うサラだが、こういうときは常識的に動くはずの彼女だ。

なのに、迷子をガーゴに引き渡すという正しい手続きを渋るサラに、ダインは疑問を抱いた。

「色々あるということです」

ダインの疑惑を、サラは薄く笑いながらはぐらかす。

「決して悪いようにはしませんから」

「いや、まぁサラのことだからそんな心配はしてねぇんだけどさ…」

物心ついたときからの付き合いだ。サラのことは当然信頼しているし、今更疑いようがない。悪いようにはしないというのも本当だろう。

だが、それなら何故…。

「女の勘というやつです」

「はぁ…」

ダインは一応頷く。

こういうとき、彼女は何も言ってはくれない。長い付き合いで信頼関係はあるものの、サラにはまだ謎が残ってる。

「お前がそういうなら、俺は別にいいんだけどさ…せめてこいつの意思だけは尊重してやれよ?」

女の子を指差し言うと、サラは「当然です」と真顔で言ってきた。

気付けばすっかり深夜近い時間になっていて、女の子はサラの部屋で寝かすことにした。

ダインは自室に戻り、明日の準備を終えてからベッドに入る。

女の子のことで就寝するまでバタバタしていたため、彼はすぐに眠りにつくことが出来た。

その夜に世間をにぎわす“ある事件”が起きていたことを知るのは、翌朝学校に行ってからだった。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ