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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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四十四節、孤高

その少し前━━

「先生、反応が出ました」

校舎内のとある密室にいたクラフトは、モニターに顔を向けながら背後のグラハムに声をかけた。

「彼は確か…」

モニターに映る一人の男子学生を眺めながら思慮するグラハムに、「一年ハイクラス八組、ジグル・ハディですね」、とクラフトがいった。

「ハイクラスの中では成績は並、ヒューマ族で得意魔法は自己強化のようです」

顔写真つきの資料をグラハムも覗きこみながら、「どう思う?」、とクラフトに訊いた。

「成績は並であるが、彼の戦いぶりは凄まじい。単独であるはずなのに、ギガクラスより下層にいる。彼はこれまでにもこれほどの豪快な戦いっぷりをしていたのか?」

「それほど注目してなかったので分かりませんね…」

モニターの中ではそのジグルという男子学生が、数十体はいるであろう大量のモンスターを一瞬で消滅させていた。

浄化魔法を駆使し、浄化が効かないモンスターには光矢の魔法、魔法の効かないモンスターには強化した拳をぶつけ、粉砕していた。

歴戦の軍人以上の派手な戦い方だった。大量のモンスターを目の前にしても一切動じることなく、薄ら笑いすら浮べながら難なく処理している。

「彼のクラスメイトから聞いたところによると、ある日突然膨大な聖力が宿りだしたようです」

「突然…?」

「はい。それまでは平々凡々とした毎日を送っていたようなのですが…」

相変わらず派手に戦うジグルを見つめながら、「その彼の友達がいうには、まるで…覚醒、したようだと」、クラフトは神妙な顔でいった。

「…覚醒、か」

「異界の力を手に入れたようだともいわれてましたね」

「これは単純な興味本位なのだが、授業態度は?」

尋ねるグラハムに、「良くはないですね」、クラフトはきっぱりといった。

「名医である親から半ば無理やり入学させられたケースのようで、座学の点数は下の方。授業中は友達との会話に夢中で何度も注意を受けたことがあり、魔法すら覚える気はなかったようです。不真面目で委員の仕事はサボりがちで、担任のスミリア先生はなかなか手を焼いているとか。俗にいう不良のようなものです」

「ふむ」

「しかし親の威光を笠に着てプライドだけは高いようで、ノマクラスの学生をバカにしたり、喧嘩を吹っかけたこともあったそうです」

「なるほど」、頷いたグラハムは、再びジグルの入学申請書に目を通す。「そのような者が、血の滲む修練を重ねた者にしか訪れない覚醒に至ったと、そういうわけであるな」

彼の表情には多くの疑問が浮かんでいる。同意見だったクラフトは、モニターを睨みつけながら腕を組んだ。

「まぁ、あり得ませんよね」

ジグルは未だに大量のモンスター相手に様々な魔法をぶつけ、消滅させている。

無邪気に笑う彼は本当に楽しそうで、まるで突然手にした力を思うままに振り回す子供のようだった。

浄化魔法を頻繁に使っていた彼だが、いまはもう攻撃魔法ばかりを敵にぶつけている。

「観察を続けるしかないな」

グラハムは静かにいった。

「現状では何ともいえん。問題行動も起こしてはおらんようだし」

「そうですね…」

圧倒的な暴力を振り回し、悦に浸っているような笑みを浮かべるジグル。

彼の背後にとても大きな“影”の気配を感じ、グラハムとクラフトは胸騒ぎを覚えずにはいられなかった。



「やっぱり放っておけないよ」

いつもの場所でシンシアとニーニアで昼食を食べている中、ダインから一通り話を聞いたシンシアが立ち上がる。

「これはもう完全ないじめだよ」、表情には怒りが滲んでいる。「一人ぼっちにさせ、そこに沢山のモンスターを押し付けるなんて、学校の外だったら犯罪案件だよ」

確かに、場合によっては故意の殺人未遂に問われてもおかしくない。

その通りだと頷くニーニアは、どうしたら問題が解決するのだろうかと考え込んでいる。

ちなみにラフィンとティエリアは明日の本番に向けて進行の最終確認をしているらしく、席を外していた。

「担任の先生まで無視してるだなんて…」

ミーナと一時的に知り合いだった故か、シンシアの怒りは膨らむ一方だ。

怖い顔をしていたディエルに、しつこく尋ねて得られた情報だ。

職員室に行きミーナのクラスの担任がいたのでディエルは現状を訴えたのだ。事細かに状況を伝えたはずだが、目の魔法で見ていたはずのその担任は冷たい目をしていた。

『いじめなどあるはずがないだろう』

そう短く一蹴され、職員室を追い出されたのだ。

だからあの時ディエルは怖い顔をしていた。怒りで暴れそうになっていたのを必死に押さえ込んでいたのだろう。

その彼女の怒りは、詳細を聞いたシンシアとニーニアにも伝わったようだ。

「結局その首謀者が誰なのかは、分からないの?」

真剣な表情で尋ねてくるシンシアに、ダインは「ああ」、と力なく首を横に振る。

「どうも警戒心がやたら高い奴のようでな、隠れ蓑をいくつも用意して徹底的に隠れているらしい」

首謀者がいることまでは掴んだが、それが誰であるかはラフィンでも分からないようだった。

「ミーナに対するいじめの内容は軽いものや重いものまで様々らしいが、いじめてる奴らは毎回違うらしい。実行犯が誰かで考えるなら、クラス全体になるだろうな」

「そんな…」

自分のことでもないのに、ニーニアは泣きそうな表情をしている。

ミーナが置かれている現状を自分に置き換えて想像してしまったのだろう。

「親が政治家だから的は絞れそうだが、あのクラスにゃ沢山いるらしいし、おまけに今頃守秘義務だの何だので口を割らなくなって聞き出せないんだとさ」

「…担任の先生まで、その人の言いなりになっているっていうことなんだよね」

クラス担任であるクェイア先生は、宿泊施設の社長の息子であり、そのことに関して首謀者より弱みを握られている。

だからいじめの現場を目の当たりにしても沈黙するしかなかったのだろう。

いつからかは分からないが、ミーナの周りには一切の味方がいない。

「生徒を守るのが先生の役目じゃないの?」、シンシアは相当憤った様子でいった。「身内のために見て見ぬ振りするだなんて、教師以前の問題だよ」

「その通りなんだけどな…」

ダインもダインで表情には苦渋の色が現れており、解決したくても方法が浮かばない現状に歯痒さを滲ませている。

いじめ問題は簡単ではないのだ。

教師より上の立場の人が強く出れば、一時的には収まるだろう。

だが人の気持ちというものはなかなか変わらない。

面白半分でいじめている連中なのだ。相手の気持ちが分からないからそんなことができるのだから、反省することなどまずないだろう。

怒られたという事実のみしかそいつには残らないはずで、後から沸き起こってくるのは反感の気持ちと復讐心だけだ。

怒ったら怒っただけ、罰則が厳しければ厳しいだけ、倍となって再び被害者に返ってくる。

結局引き離すしか方法は無いのだ。どちらかが転学しない限りは、同じ事を繰り返すだけだろう。

「私たちが止めに行くしかないよ」

もどかしさからミーナのクラスに行こうとしたシンシアを、「やめとけ」、ダインは止めた。

「余計にこじれる」

「でも放っておけないよ」、そういうシンシアに、「それは俺も同じだ」、ダインは諭すように話す。

「前もいったが、現状俺たちとミーナは無関係だ。そんな中いきなり踏み込んでいけば、相手にされないだろう。それにいくつも隠れ蓑を作る狡猾な奴なんだ。シンシアのような正義感の強い奴に反撃する手段はたくさん持っていると見た方が良い」

「それは…」

「影からミーナをいじめ、せせら笑ってるような奴なんだぞ? 俺たちが乗り込んだ瞬間に必要以上に騒ぎ立て、ありもしないことをでっち上げ、俺らだけじゃなくてノマクラス全体にまで飛び火する可能性だってあるんだ」

下手に関われば想定外の事態に見舞われる。

慎重にいくべきだというダインを、シンシアは悲しそうな目で「ダイン君はこのままでいいの…?」、と訊いた

「見ることしかできないの? 何か取り返しのつかないことが起こるまで放っておくつもり?」

「いや…」、上手い諭し方を考えているところで、

「そんなことさせないわよ」

上から声がした。

空から降り立ってきたのはディエルだった。手にはビニール袋を持っており、これから昼食を食べるところらしい。

「何だ、今日は食べるの遅いな。どっか行ってたのか?」

「ええ、改めて直談判しにね」

先ほどと同じく、ふて腐れたような顔のまま、パンを食べ始める。

「けど結果は同じ」、彼女の目にはシンシア以上の怒りが込められていた。「もう先生は当てにならない。最初から当てになんかしてなかったけど、もう頼らないことにしたわ」どこか決意したような表情だった。

何をするつもりだと口を開きかけたが、彼女のことだから何も言わないのだろうと思い口をつぐむ。

シンシアとニーニアは少し驚いたようにディエルの様子を見ていた。

怒りに染まるディエルを見たのは初めてだったのだろう。普段悪戯っぽい笑顔ばかり記憶していたから、彼女の急激な変化に戸惑っているのかもしれない。

しかし、それこそがディエルの本当の姿だったのだ。何者も寄せ付けず、頼らず。邪魔をするなら排除する。

「問題が増えるだけだから、あなた達は余計なことしないで」

睨むほどのきつい横顔に、ニーニアは萎縮してしまう。

ディエルは行動を起こしそうなダイン達に釘を刺すために、こうしてやってきたのだろう。

「手も口も出さないで。分かった?」

「で、でも…」

怯えながらも反論しようとしたニーニアを、ダインは片手を出し遮った。

少しピリッとした空気が訪れるが、「お前がそういうんならそうするよ」、ダインは努めて柔らかくいった。

「面倒ごとは少ないに越したことはないからな」

「ええ」、頷くディエルは、「何とかするわ」、もうこちらには興味がないとばかりに地面を睨みつけている。

「あんな雑魚、まともに相手する方が馬鹿らしい」

吐き捨てるようにいうディエルだが、その横顔に余裕の無さが見え隠れしていたことに気付いたのはダインだけだろう。

苛立ったようにも見えるディエルに、ダインは「多くは聞かないし、関わるなっていうなら首を突っ込まない」、そういった。

「でもな、ディエル」、怒りを孕んだディエルの目を見据え、彼は続ける。「どうにもなりそうにないって思ったんなら、一言ぐらい俺たちに声をかけてくれ。一人で対処するよりは、複数の方が良い場合もあるからさ」

力にはなる。協力する姿勢を見せるものの、「別にいい」、ディエルは取り合わなかった。

「あんな奴ら、私一人でどうにでもできるから」

あくまで自分だけの力で何とかするつもりらしい。

「で、でも友達だから放っておけないよ」

たまらずそういったのはシンシアだ。

「いくらディエルちゃんでも一クラス丸ごと相手するのは無理があるよ。だから私たちが…」

「友達っていう言葉ほど信用ならないものはないわね」

ディエルの感情の無い視線に射抜かれ、シンシアは続く台詞を止めてしまう。

「友達だから。そういって私に近づいてきた奴らは、私じゃなく家柄や私に関係する有名人しか見ていなかった。結局、人は自分に有益なものにしか興味を示さないのよ。気持ち悪い笑みを浮かべながらこちらの油断を狙い、あらかた取り尽くした後は不要だとばかりに切り捨てる。絆なんてものは脆いのよ」

そう語るディエルはこちらを見ているようで見ていない。まるで目の前に漂う闇を見つめているような、空虚な目をしていた。

「ただ学校といった集団生活の中では、友達は便利な“手段”だから利用しているだけに過ぎないの。私もね」

それが嘘偽りの無い、ディエルの奥底にくすぶっていた闇なのだろう。

ミーナが窮地に追いやられ余裕のなくなってきたいま、彼女の本心が浮き出てきてしまったのだ。

「だから余計なことはしないで。私とあなた達の関係が、仲の良い“お友達”のままでいたいならね」

言うだけ言って、手早くパンを食べ終えたディエルは再び飛び去っていった。

「どうして…」

飛び立ったディエルを、シンシアは衝撃を受けたような顔で見上げている。

ニーニアも表情を暗くさせて地面を見つめていた。

普段の人懐っこいディエルからでは想像できない冷たい姿に、彼女たちはショックを隠し切れない。

そんな二人とは打って変わり、ダインは「ま、ああいってるのなら任せようぜ」、軽い調子でいった。

「あれだけの演技派なんだ。ミーナのこともうまいことやってくれるだろ」

「だ、ダイン君、驚かないの?」、普段どおりのダインに、シンシアは疑問を向けた。「急にディエルちゃんがあんなこというなんて…」

「いや、予感はあったんだよ」、ダインは笑いながら答える。

「予感?」

「ああ。必要以上に絡んでこなかったし、あいつの中で一線引いているような気がしてならなかったんだ」

証拠としてディエルから一度も吸魔できなかったことを話すと、彼女たちは再び驚愕した。

「あいつの過去を事細かに聞くつもりはないけど、そう思うに至った出来事があいつにはあったんだろうな。ミーナのことだけじゃなく、金持ちの子供として生まれた故の苦悩とか、色々さ」

ダインは遠い目をしている。「ま、俺も似たような出来事があったから、あいつの気持ちは分からないでもない」

「え、そ、そうなの?」

三度瞠目する彼女たちは、ダインを見つめる表情が一気に不安げなものになっていく。

ダインもディエルと同じく、友達を信用していないのでは…。

そう思っていそうな彼女たちに向け、ダインは「ケアしてくれた身内のおかげもあって、ディエルほど他人に不信感を抱くことは無いよ」、と笑顔を向けた。

「そりゃ多少の疑いは持ってるが、少なくともシンシアやニーニア、先輩のことは本心から信用してる。じゃなきゃ家に呼ばないよ」

頭を撫でつつそういったところで、ようやくシンシアたちの顔に笑顔が浮かぶ。

だが嬉しそうにしたのは一瞬のことで、ディエルに何を言われたかを思い出し、徐々に表情を暗くさせていった。

「ディエルちゃん、私たちのこと信用してない、んだよね…」

深刻そうに話すシンシアを、ダインは「そこまでショックを受けるようなことじゃない」、笑い飛ばした。

「え、ど、どうして? 信用が無いのに友達だなんていえないよ」

「あいつの台詞だけを切り取れば、そうだな」、ダインはシンシアに優しげな目を向ける。「でも一つ大事なことを忘れてないか?」

「大事なこと?」

「ディエルはデビ族だ。それも、デビ族として典型的な特徴の出た、な。悪戯好きで神出鬼没、ムードメーカー」

「それが全部演技だったっていうことじゃ…」

「種族のことに詳しいシンシアなら分かると思うぞ?」

そういっても、シンシアは不思議そうな顔をするだけだ。

そんな彼女に、「お前がいまも退魔師を目指しているんなら、宿題だ」、ダインは笑いながらいった。

「デビ族のことを改めて良く調べてみるといい。すぐに杞憂だったと分かるはずだ」

結局昼休みが終わっても、シンシアもニーニアも首をひねるだけだった。







ガーゴの特務チーム、通称“ナンバー”の一人であるエンジェ族のサイラ・キーリアは、誰もいなくなった職員室で机に向き合っていた。

彼女が見つめているノートサイズの紙には、サイラが書き込んだある図式が描かれてある。

線を引いては消し、文字を書き込んでは消し、その眉間には深い皺が寄っている。

あまりに集中していたため肩の凝りを感じた彼女は、短く嘆息しながら顔を上げた。

窓の外はすっかり暗くなっており、気分を入れ替えようと窓を開ける。

やや冷たい夜風と外の空気の匂いに、サイラはゆっくりと目を閉じた。

「お疲れ様です」

そんな彼女に、背後から声をかける者がいた。

ジーニだった。

手には買い物袋を持っており、それを持ち上げ見せてくる。

「キノコ菜のクリームパスタで良かったんですよね?」

「ええ。ありがとうございます」

サイラが笑いかけ、再び窓の外に顔を戻すと、夜食をテーブルに置きつつジーニが横に並ぶ。

校舎は高台にあるため、一階の職員室でもグラウンドを一望することができた。

グラウンドでは明日の下克祭に向けた準備が着々と進められている。

「…懐かしいですね」

光の魔法で照らされているため教職員の顔がよく見えており、その顔ぶれを眺めながらジーニがいった。

「下克祭を初めて経験した当時は、がむしゃらに下層を目指してモンスターを狩っていましたね」

サイラも同じ光景を思い出したのか、渋面が柔らかくなる。

「あの時はとにかく高得点を稼ぐことに躍起になっていましたからね。私もあなたも」

かつてクラスメイトだった二人は、当時の思い出を語り合い、どちらも他には滅多に見せない穏やかな表情を見せ合っている。

「とにかく得点を得るために必死だったから、単騎で頑張る人たちが多かったんですよね」

「そうでしたね。採点方法はあの時からいまも変わってないようですが…ですが、いまはチームプレイが主流のようです」

ジーニの台詞を聞いて、「情けないことだわ」、サイラは深く息を吐く。

「特待席は限りがあるから蹴落としなんて当たり前だったのに。切磋琢磨してこその成長でしょう」

「競争意識より、協調による成長戦略に方針転換したようです。無益な争いを防止するため、あらゆる境遇を受けられる特待生制度も廃止したとか」

「協調、ね…確かに、昔より多種多様の種族を受け入れている状況じゃ、仕方の無いことだとは思うけど」

柔軟な思考を持つサイラは、グラハム校長の理念に一定の理解を示したようだが、ジーニは真顔のままだ。

「劣等種が協調性などあるはずがありません」

断言したジーニは、そのまま持論を展開した。

「表向きは協調するでしょうが、裏では油断した相手をどう利用しようか考えているはずです。武器の少ない劣等種ほど、見栄を張りたがり犯罪に手を染めがちになる。妙なことをしでかさないよう、連中は我々の目に見える中で囲うしかないのです」

「相変わらずエンジェ族の典型みたいな考え方をしているんですね」

そのエンジェ族であるサイラは笑った。

会話を中断し夜食でも食べようかと振り向くが、同じく振り向いたジーニが机の上の紙を見て、「あ」、と声を上げる。

「図式が出来上がりましたか?」

期待を寄せてサイラを見るものの、「いえ」、サイラの長いブロンドの髪が揺れた。

「行き詰ってますね。既存の方法ができなくなってしまったので、新たな手法を考えてはいるのですが…やはり同じところで詰まってしまいます」

サイラはかつては魔法学研究所に身を置いていた。

魔法力という実体の無い力がどのように作用し、魔法というものが発動するのか。そのメカニズムに詳しい彼女は、いま誰も為し得ない難問に挑んでいる。

「高耐性チューブに代替するものが必要ですね。いえ、それ以上の機能を有する…道、のようなものが必要かと」

「道…ですか」

「もう現存する物質には頼らない方が良いのかもしれません。しかし物質以外で何があるのか…」

グラウンドを眺めながら思慮する彼女に、ジーニが「物質以外…例えば空気のようなものとか?」、おもむろにいった。

空気も物質だ。そう突っ込みそうになったサイラだが、しかしその単語に引っかかるものを感じ、目を閉じて黙考する。

やがてある仮説が脳裏をかすめ、「そうですね…」、目が開かれた。

「魔法力の道、のようなものがあれば、あるいは…」

「魔法力の道…?」

「実体の無い力を閉じ込められる容器があれば可能ということです」

何かを思いついたサイラはすぐに椅子にかけ、中断していた図式を描く作業を再開する。

そこに書かれた意味を理解したジーニは徐々に目を見開いていくが、やや現実離れした内容に、「可能、なのですか?」、遠慮がちにサイラに聞いた。

「理論上は。でも…実験が必要かも知れません」

図式は出来上がったものの、実現可能かどうか分からないとサイラは難しそうな表情をしている。

「実験するだけの材料がなく、人員も割けそうに無い現状、これは廃案かも知れません。例の“テスト”もまだ実行中ですし」

紙を丸めそうになったサイラに、顎に手を添え考えていたジーニが、「いえ…あるではないですか」、そういった。

「え? どこに?」

不思議そうな表情を向けてくるサイラに、ジーニは楽しげな笑顔を向ける。

「ここは魔法学校です。協力者を募ればいいだけですよ」

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