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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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三十一節、繋ぐ力

「なぁシンシア、セブンリンクス七不思議ってどういうものなんだ?」

シンシア、ニーニア、ティエリアと揃って登校しているとき、ダインは早速シンシアに尋ねてみた。

今日のお菓子は何を作ってきたかを報告している中での唐突な質問だ。シンシアはニーニアのカバンを覗きこむ顔を上げ、「へぇ?」と妙な声を上げている。

「急にどうしたの?」

「いや、少し気になることがあってさ」

こちらの会話に耳を傾けている者はいないことを確認して、シンシア達に昨夜の話を打ち明ける。

「なるほど。ガーゴの狙い、ですか」

一通りダインから説明を受けたティエリアは、真剣な表情でなにやら考え出す。

「七不思議から何かヒントがないかと思ってさ。先輩は知ってることあるか?」

「噂程度には…ですが、去年はいろいろと忙しかったので…」

申し訳なさそうにいってくる。やはり彼女は生徒会の仕事が忙しく、噂話を気にする余裕も無かったようだ。

「ニーニアはどうだ?」

「わ、私はそういうこと話せる友達は少ないから…」

ニーニアからも予想通りの返事が返ってくる。ダインは笑いながら「俺もだ」といった。

「んじゃ頼れるのはシンシアだけだな」

どうだろうか、という全員の視線を受けつつ、彼女は「う〜ん」と腕を組んだ。

「私が知ってるのは七つもないよ。それほど詳しいわけでもないしなぁ…」

「あ、ではグラハム校長先生にお尋ねしてみては?」

名案だとばかりにティエリアは手を叩く。

「長らくセブンリンクスに在籍されていたようですし、七不思議のことは全て把握していらっしゃるのかも知れません」

確かに知っていそうではある。目の魔法も精度がかなり高いらしいし。

聞けば協力してくれるかもしれない。だがガーゴに目をつけられている自分がそう頻繁に校長室に訪れるわけにもいかないだろう。

改革派の存在は知られないようにしなければならないし、自分の行動一つでその牙城が崩れる恐れもある。

「極力無駄な行動は避けるべきだからさ、内々に調べたい」

素直にそういうと、ダインの心情を察してくれたのかティエリアは納得した様子で頷いた。

「シンシア。知ってるやつだけで良いから、教えてくれないか?」

「え〜と」空を見上げながら、彼女は七不思議のいくつかのタイトルを話してくれた。

「私が知ってるのは、『幸せの魔法』、『虹の竪琴』、『黄金色の恋人』…ぐらいかなぁ」

なかなかに興味をそそられる題目だ。

概略だけでいいから話してくれないかとシンシアに詰め寄ったとき、彼女はまた「ん〜」と唸りだす。

「私が説明してもいいんだけど、それを話してくれた本人から聞くのが一番じゃないかな」

確かにシンシアのいうことも一理ある。

「誰なんだ?」

「ダイン君もニーニアちゃんも、ティエリア先輩もよく知ってる人だよ」

全員がハテナマークを浮べた、そのときだった。

「わぁっ!?」

ダインの隣を歩くニーニアから大きな声が上がる。

うろたえる彼女の首には、誰かの腕が回されていた。

「何か面白そうな話してるわね?」

ディエルだった。ニーニアを後ろから抱きしめていた彼女は、好奇心に駆られた視線をダイン達に向けている。

「ん〜♪ ティエリア先輩も気持ちよかったけど、ニーニアもなかなかの感触ね〜」

頭に頬擦りまでしだしたようで、ニーニアはわたわたと手を動かしている。

「でぃ、ディエルちゃ…」

最後に力いっぱいニーニアを抱きしめその感触を堪能してから、ようやくニーニアを解放した。

「いつも俺らより早いのに今日は珍しいんだな。寝坊でもしたのか?」

いつもならすでに教室にいるはずだとダインが聞くと、「今日は朝錬がなかったから」、手をひらひらさせていった。

「いつもどおりの時間に起きたんだけど、漫画読みふけっちゃってね。慌てて出てきたのよ」

なんともディエルらしい理由だ。笑っているダインに向け、「で、何の話?」と尋ねてくる。

「セブンリンクスの七不思議の話だ。ちょっと知りたいなって思ってさ」

「ほほう?」

「シンシアに情報提供してくれた奴から直接聞こうかと思ってたところで…」

「あ」ディエルは途中で手を挙げ、「それ私」といってきた。

「なんだお前かよ」

途端にダインは眉をひそめる。七不思議自体疑わしくなったと言いたげだ。

ディエルの話は最初から嘘だと決め付けているかのようなダインの態度に、ディエルはむっとした表情になる。

「噂話大好きな私だけど、嘘は嫌いよ。ちゃんとソースも持ってるんだから」

「噂も嘘も似たようなもんだろ」

取り合わないというかのように顔を背けるダインだが、「だからソースはあるんだって」、ディエルは前に回りこんでまでいってきた。

「同じく噂大好きな、ある先輩から聞いた話なんだもの」

「まったく根拠になってないんだが」

冷静に突っ込むダインの脳裏には、あるフェアリ族の顔が浮かんでいる。

「まぁまぁ、聞くだけならタダだしいいじゃない」

ディエルはまた回り込んできた。

やけに絡んでくる彼女の行動心理に疑問を抱いていると、ディエルがすぐに理由を打ち明けてくれた。

「実はその七不思議の真相を確かめたいから、近々メンバーを募って調査しようと思っていたところなのよ」

「調査?」

「ええ。題して、放課後探検隊!」

仰々しくいうが、ありきたりな命名にダインは呆れた表情だ。

シンシア達の微妙な空気も感じ取ったのか、ディエルはすぐに声を潜めていってきた。

「でもその矢先に例のガーゴでしょ? 監視の目は厳しくなるでしょうし、メンバーの選抜はどうしようかと思って」

ディエルの目はやけに輝いている。期待に満ちた目は、シンシア達に向けられていた。

「シンシアとニーニアはノマクラスだけど優等生で通ってるし、ティエリア先輩はそれこそ元生徒会長なんだから、色々嗅ぎまわっても疑われる心配は無い。あなた達が協力してくれれば、このメンバーだけで全部解明できそうなんだけど」

デビ族は好奇心の塊だ。楽観主義で、楽しそうなことには全力で取り組む傾向がある。

ディエルも多分に漏れず、七不思議というものに強く惹かれたのだろう。

だがダインは、「話聞くだけでいいんだけど…」と難色を示した。

ダインが知りたいのはガーゴがセブンリンクスで何をしようとしているかだけなので、七不思議の真相を知りたいわけではない。

「教えてくれるだけで良い」

「駄目よ」

ディエルはすぐにぷいと顔を横に向けた。

「協力してくれるっていうまで教えてあげない」

彼女の目的は七不思議の調査らしく、意見を変えるつもりはないようだ。

「だったら別の知ってそうな奴から話を聞くだけ…」いいかけたダインは、ふと表情を笑顔に変える。「つってもいいんだけど、いいぜ。乗るよ」

ノリの良いディエルのことは嫌いではない。七不思議のことも面白そうだったので、そういいなおした。

「さっすがダイン!」

ディエルは途端に上機嫌になり、何か思いついたのか「あ」と手を叩く。

「じゃあついでに一つ勝負でもしましょうよ。シンシア達を賭けて。私が負けたら無理に引き込まない。けど私が勝ったら探検隊のメンバーね」

勝手にそんなことをいいだし、ダインは思わずシンシア達に顔を向けてしまう。

「いいよ」

シンシア達は始めから協力する気でいたのか、笑顔のまま頷いていた。

「ふふ、決まりね」

「で、何の勝負なんだ?」

「今日は一学年全てで校外実技があるわよね?」

そこでダインは、昨日クラフトから今日の授業内容を聞かされていたことを思い出す。

今日は午前から校外にある森に出て、そこで実際のモンスター相手に魔法の講座をするらしい。

その後はモンスターとの実戦を兼ねた小テストがある、といっていた。

「小テストの得点方法は、モンスターを倒した数による。その点数で競いましょう」

確かにそれは勝負としては面白そうだ。

だがニーニアが「で、でもダイン君は…」何事かいいかける。

ダインの強さはディエルも認めているところだ。彼女はすかさず、「分かってるわよ」とニーニアの先の台詞を手で制した。

「何でもありならまずかったでしょうけど、今回は魔法で敵を倒した数のみ加点されるらしいから、そこまでこちらが不利ってこともないわよ」

「え、そうなのか?」

その情報は知らないというと、ディエルは肩をすくめて「じゃないと魔法の授業として成り立たないじゃない」といってきった。

「魔法はダインの苦手分野だけど、シンシアとニーニアの協力もあるから条件としてはイーブンのはずよ」

そこでダインは再び「う〜ん」と唸ってしまう。

小テストは内申に響く。シンシアとニーニアも同じ小テストを受けるわけだし、あまり負担を強いるわけにはいかない。

別の勝負にした方が良いんじゃないだろうか。

そういいかけたところで、「良いんじゃないかな」とシンシアがいってきた。

「ダイン君部の延長みたいなものだし、楽しそうだし、ちょうど良いよ」

「そうだね」

シンシアもニーニアも乗り気だ。

「まぁ二人がそういうんだったら…」

「よしよし、じゃあそれでいきましょう」

ディエルは満足そうに頷き、ダインの横に並んで歩き出した。

「限られた条件下で切磋琢磨するのは、お互いの刺激になり大変良いことですね」

始終微笑ましくダイン達のやり取りを見ていたティエリアは、そういって笑顔を向けてくる。

「この学校はそういった実戦を意識した模擬戦が多いので、進級にも影響がございますし慣れておくことは重要です」

「下克祭も近いですからね」

シンシアが続く。

「実力テストに大規模な模擬戦もあったりして、魔法学校といわれてはいますけど、結構体育会系なところありますよねぇ」

確かに学校行事は実戦が多い。

知識を取り入れ魔法の使い方を学ぶのも大切だが、強くなる一番の近道は実戦をおいて他には無い。

修練に競争。研鑽を繰り返すことこそが、己の魔法力を高める最も効率的な方法なのだろう。

「そうですね」

この一年間、セブンリンクスでの学校行事を一通りこなしてきたティエリアは、過去を思い出していたのか大変そうな表情だ。

「テストも大規模な模擬戦も大変でしたけど、試練だと最も感じたのは奇襲せ…」

いいかけて、彼女ははっとしたような顔になり台詞を止める。

「こ、これはいってはいけないものでした」

忘れてくださいとあたふたしていってくるが、ダインは「いや、奇襲戦のことなら入学式の翌日に聞いてるぞ?」といった。

奇襲戦━━

上半期と下半期に行われる大規模な競技らしく、名の通り事前告知なしでいきなり始まる“何か”らしい。

これもまた内申に響く重要なイベントらしいが、伝統行事の一つとしか説明を受けていない。

「そんな隠すようなことなのか?」

「は、はい。詳細に関しては、下級生の方に教えてはならないという校則がありまして…」

「わざわざ校則に盛り込んでんのか」

驚くダインの隣で、ディエルが悔しがっている。

「もうちょっとで詳細聞けるはずだったのに。他を出し抜けると思ったのになぁ」

残念そうな彼女に向け、シンシアが「奇襲戦っていうぐらいだから、詳細を知っちゃったら奇襲にはならないと思うよ?」、最もなことを突っ込んでくる。

「で、でも、ティエリア先輩が一番の試練だと感じるぐらいだから、きっと過酷なものなんじゃないかな…」

どんな内容を想像しているのか分からないが、ニーニアは不安げだ。

「す、すみません。できることならお教えしたいところなのですが、こればかりは…」

「はは、良いんだよ」申し訳なさそうにするティエリアに向け、ダインは笑いかけた。「知らないほうが楽しめそうだ」

それから話題は勝負の話に戻り、ディエルは細かなルールを設定していく。

そんな彼女たちをティエリアは笑いながら眺めていたが、ふと彼女の笑顔に翳りが差した。

「奇襲戦…今年はどうなるのでしょう…」

そう呟く彼女の台詞が、ダインには少し気がかりだった







校外実習は、新入生が初めて体験する小規模のイベントだった。

校庭には一年生の全クラスが集められ、壇上から生徒会長のラフィンが説明を始める。

これから向かう場所は校舎を出てすぐにある、エリアごとに色分けされた森のようだった。

湿地帯、雪、焼けた森林と、魔法によって様々な環境を作り出した特殊な場所で、通称七色の森。

クラスランクによってエリアが割り当てられており、小テストはその定められた範囲内で行うというもののようだった。

森の中には様々なモンスターが放たれており、モンスターの強さによって得点も違うらしい。

エリアによっては強力で凶悪なモンスターもいるらしいが、ダイン達ノマクラスは森の中でももっとも安全とされるエリアのようだった。

配られたプリントには該当エリアごとに生息するモンスター一覧が書かれており、それぞれ何点なのかも記載されている。

ご丁寧なことに映像つきで紹介されており、一番下等とされるモンスターは見た目にも可愛らしいものばかりだった。

レベル2の小熊のような見た目のバグベアー、レベル3のほぼ狐のコンコン、レベル5のやや大きめの犬にしか見えないベアドッグ。

ノマクラスに割り当てられたエリアには全部で四種類のモンスターがいるようで、一番強いとされるパワフルイノシシはレベル6だ。

「それでは、これよりクラスごとに指定されたエリアへ向かってください。先生方が先導しますので、列を乱すことなく進むように」

そうアナウンスしたのを最後に、最前列にいた先生達が担当クラスに向け声を発する。

「それじゃあ俺たちもいくか。ちゃんとついてこいよ」

ノマクラスの担任であるクラフトはそういって歩き始めた。

ダイン達ノマクラスは彼の背中を追うようにぞろぞろとついていく。


森の中を突き進む間、そこかしこから爆発音がする。

担当エリアに行くまでは他クラスの様子も見えるが、先陣を切る先生が襲い来るモンスターを魔法で排除しているようだった。

生徒達に向けたパフォーマンスの意味もあるのだろう。

魔力魔法を使う先生は風でモンスターを吹き飛ばしたり、凍りつかせては爆風を巻き起こしたりと相当派手だ。

聖力魔法を使う先生は巨大な英霊を召喚し、取り囲んでくるモンスターに天罰を思わせるような雷撃を浴びせまとめて処理している。

どれも見た目にも派手で、強力な魔法の応酬だった。生徒達は目を輝かせ歓声を上げている。

エル族で精霊魔法を使うクラフトは、そんな派手めな魔法の中では一見地味だった。

主に弱体化の魔法しか使っていなかったためだが、その的中率はほぼ百パーセントといってもいいだろう。

他のクラスではモンスターを蹴散らすために足止めを食らっているが、クラフト率いるノマクラスは一度も足を止めることが無い。

見れば、彼らが通り過ぎた側には大量のモンスターが眠らされたり麻痺させられていたり、全てが戦闘不能状態に陥っている。

弱体や状態異常だけでは、派手さだけでいえば確かに地味ではある。が、その効果は他の追随を許さないといってもいいぐらい絶大だ。

「さすが、セブンリンクスの先生だよね」

ダインの隣にいたシンシアはそう呟き、ニーニアも驚いたまま頷いていた。


やや開けた場所に差し掛かったところで、クラフトが足を止め、振り向く。

自分を中心に生徒たちを円状に集め、そこで彼は改めて魔法の講座を始めた。

魔法をぶつける対象としてモンスターを召喚したとき、それが見た目にも可愛らしいコンコンだったので生徒達がややざわめく。

「安心しろ。残酷な魔法は使わない」

コンコンをバインドの魔法で縛り付けながらクラフトはいった。

「俺がお前たちに教えるのは、相手を無力化する魔法だ。個人差こそあれど、魔法というものは強力なものだからな。その強力な魔法を用いれば、相手を殺したり物を壊すことなど造作も無いだろう」

そこで彼は何故攻撃魔法ではなく、無力化する魔法を教えるのかを説明する。

「誰かの命を奪う。誰かの大切なものを壊す。それは時として悔恨を生み、終わらぬ怨嗟を紡いでしまう」

聞き入っている生徒たちの反応を確認してから、クラフトは続けた。

「これから三年間、お前たちはあらゆる強力な魔法、殺傷力や破壊力の高い魔法を習うだろう。時にはそれを使わなければならないときが来るかもしれない。だが、その魔法を使う前に一度考えて欲しい。その魔法は、いま使わなければならないのか。使ってもいい相手なのか。武器にも薬にもなる魔法は、何のために在るのかをよく考えろ」

それは魔法の講座というよりは、道徳に近いものだった。

向上心の強い生徒にはつまらない内容だったかもしれない。しかしシンシアもニーニアも真剣な様子で、その通りだといわんばかりに聞いている。

召喚されたコンコンは、クラフトの魔法によっていつの間にか眠らされていた。

穏やかに寝息を上げるそのモンスターの可愛らしさに和んでいる中、クラフトは再び話し出す。

「睡眠の魔法は、聖力魔法を使う奴なら基本中の基本だろう。だが、このエリアにいるモンスターは力は弱いが魔法に対する耐性は高い奴が多い。そんな相手にどうすれば睡眠の魔法が通用するようになるのかを教えようと思う。もちろん魔力魔法でも睡眠の効果を出せる方法は存在するから安心しろ」

それからコンコンを目覚めさせ、クラフトの指導の下睡眠魔法の授業が始まった。

ノマクラスだが、曲がりなりにも名門セブンリンクスの生徒だ。飲み込みは早く、ほぼ全ての生徒があっという間に使えるようになった。

「はぁ…」

シンシアの隣でコンコンを眠らせたディエルは、明らかにつまらなさそうな顔をしている。

「もっと派手に暴れたかったんだけどなぁ…」

ディエルの本音が聞こえたシンシアはくすりと笑う。

「ディエルちゃんは武闘派だからねぇ」

「いやまぁ脳筋ってほどでもないんだけどね。でも戦闘は派手さこそ華だっていうじゃない」

「ふふ、分かるけど」

そんなシンシアとディエルの会話が聞こえていたのか、クラフトは笑った。

「分かってる。血の気の多い奴はディエル以外にもいるだろう。そういった奴らにも満足してもらえるように、今回はこいつを用意させてもらった」

眠らせたコンコンを魔法で転移させ、その空間にまた新たなモンスターを呼び寄せた。

それは黒い霧状の“何か”だった。

上半身のみの男性を模したような姿をしており、下半身は無い。

「ダークエレメントと名づけた。ミンス先生の力作だそうで、各エリアに配置されたボスクラスのモンスターだ」

「ちなみにレベルは10だ」クラフトがそういった瞬間、そのモンスターは暴れだした。

腕を大きく振り回し、黒い霧が竜巻となり周囲のものを破壊していく。

女子の悲鳴が聞こえ男子が逃げ惑う中、「このようになかなかに強い」、クラフトは一切動ずることなくいった。

「こいつに対しては、無力化ではなく思い思いの攻撃魔法をぶつけてやれ。定期的に湧かしてやる」

そういって、クラフトは何かの呪文を唱え始める。

次の瞬間視界が真っ白に包まれ、衝撃音が聞こえたときにはモンスターの気配は完全に消えていた。

光が収まり、敵がいたであろう場所には光り輝く巨大な槍が地面に突き立てられている。

生徒達が驚く中、クラフトは再び口を開く。

「ちなみにさっきも説明を受けたと思うが、これから小テストを行う。内申にも影響があるが、俺の採点基準は単純だ。ダークエレメント以外は無力化すること。倒してしまった場合には得点は無しだ」

チームを組んだ際には得点は人数分に分割され、得点上位者ほど内申点が高いこと。制限時間は午前中の三時間だと告げ、開始となった。

「おっ先〜!」

小テストが始まった途端、単騎を決めていたらしいディエルはダインに手を振りながら颯爽と森の中へ消えていく。

「私たちも早く行こう!」

シンシアとニーニアが慌てて駆け寄ってきて、ダインも彼女達を引き連れ獣道の中へ飛び込んだ。


チームを組んだら得点は分割されるという制限を聞いたダイン達は、高得点モンスターのみを狙うという作戦を変更し、質より量に舵を切った。

低レベルのモンスターをシンシアとニーニアができるだけ大量に戦闘不能に陥らせていき、数が少ないときにはダインも前に出て魔法で眠らせる。

クラス全員に配られたタブレットには現在のランキングが逐一分かるようになっており、見るたびに数字と名前がころころと変わっていった。

ちなみにトップは予想通りディエルで、二位との差を大きく引き離している。

ダイン達はチームを組んだせいか順位はまだまだ下の方にあり、シンシアもニーニアもやや慌てたようにモンスターを処理している。

本来であれば、シンシアもニーニアもディエルに引けを取らないほどの実力者だ。チームなんて組まずにソロでやっていれば、今頃ディエルと良い勝負になっていたはず。

「悪いな…」

ニーニアが新たにモンスターを五体ほど眠らせたところで、後ろにいたダインは思わず謝ってしまう。

シンシア達から魔法力を奪わないと魔法を使えない現状、彼が一番彼女たちの足を引っ張ってるのは言うまでも無かった。

「楽しいから全然大丈夫だよ!」

焦ってはいるものの、その焦りすら楽しんでいるかのような笑顔でシンシアがいってくる。

「こうしてみんなで一つのことに集中するの、これまであんまりなかったから面白いよ!」

そこでニーニアも「うん!」と大きく頷く。

「一人だと森の中は怖いけど、ダイン君もシンシアちゃんもいるから、頑張れる!」

それが本心だと分かるほどにニーニアも眩しい笑顔をしており、若干安堵したダインは彼女たちの後ろにぴったりと張り付いた。


最底辺であるノマクラスは、そこから一刻も早く脱却しようと向上心の高い者が多い。

そのためほとんどがチームを組まず単騎でモンスターに挑んでいるようだが、三時間という長期戦に加え魔法の使いすぎに、開始三十分ほどで疲労の色が見え始めた。

大量のモンスターを同時に無力化できて喜んでいる女子生徒の傍らで、同じぐらい大量のモンスターに囲まれた男子生徒は逃げ惑っている。

クラフトは目の魔法で常に生徒たちの状況を見ているようで、危険だと判断したときにはすぐに転移魔法で安全地帯に帰還させていたようだ。

モンスターの咆哮やクラスメイトの歓声が響き渡る中、ダイン一行もモンスターがいそうな場所を目指し道なき道を突き進む。

聖力魔法を使うシンシアは睡眠の魔法は得意だったようで、モンスターが湧いた瞬間に素早く詠唱し敵を眠らせている。

ニーニアは熱と風の魔法を融合させ、眠りを誘発させやすい空気を周囲に張り巡らせていた。持参していた香炉から甘い匂いを漂わせており、気配を察知し襲い掛かろうとしてきたモンスターはこちらに近づくこともできず次々と地に伏せている。

さすがに任せっきりはまずいとダインも見よう見まねで魔法を使っていた。

だが、ついでに特訓しようというシンシアの提案に乗って、触手を使った最小限の吸魔を試したまではいい。そこそこの成功率で上級モンスターも眠らせられることに喜んでいたが、時間が経つにつれシンシアとニーニアの顔の赤みが増してきたことに気づき、彼は足を止めた。

初めこそ彼女たちは「大丈夫」と笑って見せていたが、残り一時間を切った頃にはさすがに魔法力不足による疲労と、吸魔の副作用による快感に体を震わせている。

「この辺で切り上げよう」

これ以上は色々な意味でまずいとダインがいうものの、シンシアはゆっくりと首を振る。

「ま、まだ大丈夫、だよ…」

いまや見て分かるほどに顔面を紅潮させていた彼女は、強がっているようにしか見えない。

「じゅ、順位はまだ下の方、だから…」

そう話すニーニアも真っ赤になっている。

必死に魔法を使う彼女たちからは焦燥感が窺えるが、恐らく自分ではなくダインにどうにか内申点をつけさせたいから、快感を押し殺し頑張っているのだろう。

だがダイン達が上位に食い込むのは状況的に見て些か難しいかもしれない。

もしかすればダイン一行以上に、他のクラスメイトはノマクラスを脱却しようと必死なのだ。

ソロで頑張る彼らと三人パーティではどうしても得点効率に差ができてしまい、彼らの奮闘によってモンスターとの遭遇率自体も激減している。

質より量といった作戦はここへきて頓挫しかけており、疲労感もあり起死回生の作戦がなかなか思い浮かばない。

対するディエルはずっと一位をキープしている。二位がどう頑張っても追いつけなさそうなほどに点数を獲得しているようだ。

「だ、ダイン君に、勝たせたかったんだけど、なぁ…」

岩場に座り込み、呼吸を整えつつシンシアがいう。

「いや、俺こそせめてものお礼に勝たせたかったんだけどな」

ディエルとの勝負はそこまで重要視してない。ぶっちゃけ勝ち負けはどうでも良かったんだが、せめて上位には入っておきたかったダインは悔しそうだ。

「で、でもすごいね、ディエルちゃんずっと一位だよ」

休憩がてらタブレットを見ていたニーニアはいう。

「こんな長時間魔法使い続けても、魔力が枯渇しないなんて…」

「さすがといったところだな」

ダインも彼女たちの隣に腰掛けながら、カバンから回復薬を取り出し二人に手渡した。

「そういえば、一度もボスモンスターと出会わなかったねぇ」

「あ、そうだね。定期的に湧いてるはずだけど」

他のモンスターには全て遭遇したはずだが、確かにダークエレメントは一度も見かけてない。

「あー、多分ディエルだな」

タブレットのランキングを眺めながらダインは推測をいった。

「俺たちもそうだけど、みんなこんだけ頑張ってるのにディエルだけ点数が桁違いだ。多分あいつボスだけ狙って狩ってるんだと思う」

何を倒して加点されたかはタブレットに記載されないが、点数の伸び方を考えれば間違いないだろう。

「ボスモンスターって確かレベル10だよね。すごいなぁ…」

なおも驚くニーニアの隣で、回復薬を飲みつつシンシアが「一度くらい戦ってみたかったなぁ」と呟いている。

道場の娘であるシンシアも、どちらかといえばディエル寄りだ。

日々鍛錬を怠らない彼女であれば、強いモンスターと聞けば実力を試してみたくなるのだろう。それにシンシアの本来の戦闘スタイルは剣術だ。

「俺はもう大丈夫だから、お前たち二人だけでもボス狩りに行くか?」

もう勝ち負けは諦めた以上、楽しむことだけに専念したい。

「私たちはチームだよ?」

シンシアは笑いながらダインにいった。「やるならみんなでやりたいよ」

「う、うん、私も…」

ニーニアも強く頷いている。

「といっても、いまの状態じゃ倒せないかもしれないけど…」

続けて彼女はいい、シンシアも「そうだね」と笑っていた。

「そうだなぁ…何か必殺技でもありゃなぁ…」

空を見上げながらダインが呟くと、「おお!」、突然シンシアが立ち上がる。

「いいね、必殺技!」

「ん?」

「開発しようよ、私たちの合体技!」

「え、この場でか?」

一応授業中なんだがとダインはいうが、「まだ一時間もあるし!」と、気合を奮い立たせている。

ここまで彼女たちには協力してもらったんだ。今度は自分が彼女たちの力になるべきだろう。

「うまくいったら、その技でボスを倒そう!」

「んな付け焼刃みたいなもんで上手くいくとは思えないが…」

そういいつつも、合体技という響きは男のロマンをくすぐる。

「よし、いいぜ。どんなのがいい?」

ダインは笑いながら膝を叩き、彼女たちの正面に回った。

「合体技っつっても、魔力の低い俺ができることはそんなにないと思うが」

シンシアとニーニアだけの合体技になる。

そこに自分の入り込む余地は無いと思っていると、「んふふ〜」、やけににんまりとした顔で、シンシアが近づいてきた。

「実は少し前から考えていたんだ。私たちの合体技」

「へぇ?」

「ダイン君は、聖力と魔力を同時に取り込めるんだよね?」

「ん? まぁ、できるよ」

「うん! じゃあ…」

突然シンシアは何事か詠唱を始め、空に向けかざしていた手に聖剣を出現させた。

「ニーニアちゃん!」聖剣を構え、ニーニアの方を振り向く。「四属性の魔法、この聖剣にエンチャントして!」

「え? あ、う、うん!」

シンシアの目的が分からないながらも、ニーニアは素直にシンシアの聖剣に地水火風、全ての属性を宿らせた。

白く光るだけだった聖剣に別種の力が加わり、虹色に輝く。

一見合体しているように見えるが、聖剣にまとわりつくそれは苦しそうにうごめいている。

聖剣もがたがたと震えており、シンシアの腕までその震えが伝わっていた。

それもそうだろう。聖力と魔力は相反する力なのだから。プラス同士の磁石は決して引っ付かないのと同じく、シンシアの腕だけでなく肩まで震えだす。

「だ、ダイン君!」

激しい金切り音が鳴り響き、それでも力の限り聖剣の震えを抑えながら、シンシアはダインを呼んだ。

「こ、これ…これを、このまんま…! 触手で吸魔…して…!! そしてその後、私、に…逆流させて…!!」

見るからに辛そうだ。シンシアの狙いを尋ねる余裕もなさそうなので、ダインは「あ、ああ!」と頷き、すぐさまその聖剣に触手を這わせる。

瞬時にその二つの魔法力を吸い上げると、あれほど反発しあっていた力がダインの中で融合した。

そしてシンシアの両手に触手を伸ばし、融合させた力を逆流させる。

再びシンシアの手に出現したそれは、濃縮された一つの丸い球のようだった。

もはや聖剣でなくなってしまったが、しかし相反するはずの二つの力が融合したその丸い球は、まるで太陽のように眩しい光を放っている。

神々しささえ感じるほどの、夕日を思わせるような輝きだった。

「お…おぉ…!!」

自分で指示しながらもその光景に驚いていたシンシアは、その球を頭上に掲げた。

再び聖剣を形作るよう念じたのか、それは再び剣の形を模していく。

完全に融合したためシンシアの腕に震えは無い。彼女は驚きながらも、黄金色に輝く聖剣を上段に構え、「ふんっ!」と、それを振り下ろした。

その瞬間だった。

爆発音と共にシンシアを中心に巨大な衝撃波が広がり、大地が盛り上がる。

岩石が突出したと同時にそれは炎に包まれ、風に乗って嵐になった。

風音が激しく吹き荒れる中、雷混じりのそれは途端に冷気で固められ、聖剣で浄化されたかのように光の粒となって霧散していく。

シンシアが、融合させた聖剣をたった一振りしただけのはずだった。

気付けば彼女の周囲には大きなクレーターができており、木々は全て吹き飛んでいる。

「は…はわ…はわわ…」

クレーターの中心にいたシンシアはしばし固まっている。想像の何倍もの威力に言葉すら忘れたようだ。

驚きのあまり聖剣を維持することもできなかったのか、彼女の手には何も無い。

「す…ご、い…ね…」

瞬時に範囲外に飛び退いたダインの隣で、ニーニアも大きく目を見開いたまま硬直している。

「確かにこりゃすげぇな…」

ダインもさすがに驚きを隠せなかった。相反する二つの力を融合させただけなのに、これほどの威力になってしまうとは。

そのときダインの持つタブレットから『おい、おい!』という男の声が聞こえる。

どうやらクラフトから通話を繋げてきたようで、『何があった!? さっきのばかでかい爆発音はなんだ!?』と慌てたような声がする。

「あーいや、大丈夫っす」ダインは冷静に答えた。「ちょっと調子乗っただけなんで」

『ちょっとって…あのクレーターはなんだ? お前等がやったのか?』

「説明がややこしいんで端折りますけど、大事じゃないんでそこは安心してください」

ダインの声色から本当に大丈夫だと思ったのだろう。『…ならいい』ため息混じりの声と共に、通話が切れた。

「す、すご…すごいよ…すごすぎるよ…!!!」

遠くで一人喜んでいたシンシアは、ダイン達を見つけるなり大慌てで駆け寄ってきた。

「すっごいよ! すっごいよ! なんていうか、もう…すっっごいよ!!」

語彙力すら抜け落ちてしまったのか、同じ台詞を叫びながらニーニアとダインの手をとり、ぴょんぴょん跳ねている。

「う、うん! すごいね!」

やがてニーニアも現実に返ってきたようで、シンシアの手を握り返しダインとも手を繋ぎ、一緒に跳ねだした。

「はは、確かに、めちゃくちゃど派手でかっこよかったよ。これぞ合体技って感じだ」

ダインが笑いながらいうと、シンシアは「でしょ!? でしょ!?」と想像以上の仕上がりに喜んでいる。

「あ、あ、し、シンシアちゃん、名前、名前どうしようか? この合体技の名前」

ニーニアはこれまで見たことが無いほど興奮している。

「あ、うん、名前ね! そうだね、え〜と…すごい魔法って名前でもいいんだけど…」

シンシアも大興奮したまま思案を巡らせ、何か思いついたのか笑顔になった。

「カタストロフィって名前にするよ!」

「あ、いいね、かっこいい!」

「でしょ!」

全く興奮冷めやらぬ二人は、ダインの手を握り何度も上下に跳ね続けている。

しかし突如として二人は力が抜けたかのように「あぅ」と声を出した。

ふにゃふにゃと膝が折れ、そのまま地面に座り込んでしまう。

何があったと一瞬ぎょっとしたダインだが、自分が彼女たちの手に触れていたせいだと気付き、「わ、悪い」と手を離そうとした。

しかしどういうわけか、彼女たちはそれぞれぎゅっとダインの手を強く握り締め離そうとしない。

「お、おい」

戸惑うダインに、「えへへ」、シンシアは照れたように笑いかけてきた。

「ふふ。ダイン君って、やっぱりすごいねぇ」

突然そういってくる。

「いや、あれは元々お前たちの魔法力だから…」

続くダインの台詞を、シンシアが「ううん」と遮った。

「聖力と魔力はどうやっても混ざらないはずだもん。でもダイン君はそれができるんだから。だからすごいよ」

真っ赤なままダインを見つめる目には、嬉しさ以上の感情が宿っている。

「魔法力だけじゃない。ダイン君のその力は、私たちの絆も融合できている気がするよ」

思いがけない台詞にダインが言葉を失っていると、「そうだよ」、そういってきたのはニーニアだ。

「きっとヴァンプ族の力はね、誰かから魔法力を奪う力なんかじゃなくて、融合してみんなを一つに繋げられる力なんだと思う」

ダインを見るニーニアの目には、慈しみや愛しさが篭っている。

「魔力が無いのも、きっとみんなの力を受け止めるために、あえてそうしてるんじゃないかな」

「絶対にそうだよ!」シンシアは頷き、ニーニアと笑い合っていた。

「それは…」

ニーニアの話には根拠も何も無い。単なる理想論といってしまえばそれまでだ。

だが、その優しい考え方は好きだ。

みんなを一つに繋げる力。

吸魔能力はダインにとって不便でしかならなかったが、ニーニアの話を聞いて何か役割ができたような気がした。

幾分か救われる思いになったダインは、そのまま笑う。

「そんな大層なもんじゃないと思うけどな」

「大層だよ」

シンシア達と笑い合い、側に巨大なクレーターがあるにもかかわらず和やかな空気が訪れる。

もうこのまま時間まで休憩しようかとしたとき、「あっ!」、突然シンシアが声を上げた。

「あの黒いの、ダークエレメントじゃない?」

彼女の指先を追うと、木陰に確かに黒い霧の塊が見えた。

「おお、ボスか。よし、狩るか!」

テンションが上がっていたダインは、そのまま立ち上がる。

「あ、そ、そうしたいところだけど、ごめん…ちょっと立てないよ」

困ったように笑うシンシアは、確かに力が入らないようだ。

「だ、ダイン君だけでも…」

そうニーニアがいってくるが、「俺たちはチームなんだろ?」、彼女たちに笑いかけながら、それぞれの身体を片手で抱き上げた。

「う、うわわ!」

「あれをやっつけても順位は変わらないだろうが、最後の悪あがきだ。行こうぜ!」

シンシアとニーニアにいってから、彼はそのまま森の奥へ向かおうとするモンスターを追いかけた。

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