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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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二十九節、歓談

「今日は付き人いないのか?」

公園の中央で早速不可視のバリアを発動させるティエリアを見ながら、ダインは隣にいたラフィンに尋ねた。

「先に帰ってもらったわ」

シンシアとニーニアはテーブルにせっせとお茶会の準備を進めている。

待っている間お茶でもどうぞとニーニアから紅茶を受け取り、ラフィンは「そもそも送り迎えなんて意味ないんだけどね」と続けた。

「転移魔法でひとっ飛びなんだから、手間が増えるだけじゃない」

「そりゃ確かにそうだな」

「お父様がいうには、魔法は万能じゃないし、途中で何があるか分からないから、らしいけど…」

「愛されてるじゃん」

笑いながらダインがいうと、ラフィンの横顔に赤みが差す。

「そ、そういうんじゃないと思うけど…」

身内の話題を逸らしたかったのか、目の前で広がるお菓子を前に、彼女は「美味しそう」と素直にいってきた。

お茶を飲み、目を輝かせながらお菓子を見る目は年頃の少女そのものだ。

最初とは大分印象が変わってきたラフィンを見て、ダインも同じく紅茶を飲みながらくすりと笑う。

「あ、ほ、ほら、番号。後はあなただけなんだけど」

遅れてダインにだけ通信機の番号を聞いてなかった彼女は、自分の携帯を取り出しいってきた。

ちなみに彼女の顔は真っ赤なままだ。

「ああ、ほら」

ダインは笑顔のまま携帯を差し出し、お互いの番号を交換する。

交換後、ラフィンは無言のままその自分の携帯を見つめていた。

赤い顔はそのままだが、お菓子を見たときよりも目が輝いている。

口元がにやけそうになり、はっとして引き締めるといった表情の変化を何度も繰り返していた。

途中でダインにじっと見られていることに気付き、「な、何よ」と、今更携帯の画面を見られないよう隠しだす。

「いや、ラフィンも可愛くなったなって」

素直にそんな感想を述べると、ラフィンの顔面がより一層真っ赤になり、「は、はぁ!?」、怒ったような表情で甲高い声を上げた。

「か、可愛いって何よ!」

「そのままの意味だ」

ダインはゆっくりとした動作で紅茶を飲む。「最初はとっつきにくそうな奴だと思ってたんだけどな」

「どっかの誰かさんとは大違いだ」続くその台詞が誰を指しているのか分からないようで、準備を終えたシンシア達が長方形の椅子にかけながら、不思議そうな視線をダインに送った。

「今日赴任してきた奴らのことだよ」

そこでシンシア達はジーニとサイラのきつそうな顔面を思い出したのか、「あー」と声を上げた。

「本当にびっくりしたよねぇ」

シンシアの言葉に「うん」と頷いたニーニアは、そのままティエリアとラフィンに顔を向ける。

「あの、お二人は知ってたんですか?」

元と現生徒会長なら事前に知らされてもおかしくないはずだが、二人は同時に首を横に振った。

「朝礼の予定表は渡されたんだけど、赴任のことは書いてなかったわ」

「どうも学校としても赴任は突然のことだったみたい」そう続けるラフィンは、朝のように戸惑い気味の表情だ。

「私も驚きました」

ティエリアもそういったところで、ダインが「だろうな」と割り込んだ。

「今朝ガーゴ側からいきなり連絡があったらしいな。立場上、向こうの要請には無条件で呑むしかなかったんだと」

そこで意外そうな表情でダインを見たのはラフィンだ。

「詳しいのね?」

「校長先生に呼ばれてな。そう説明受けたんだよ」

「え…ま、また?」

ラフィンはさらに驚いている。無理も無いだろう。セブンリンクスの最高権力者でもあるグラハム校長と会話する機会など、生徒会長のラフィンですらそうそうないのだから。

「そういやお前にはあんま話してなかったな」

俺たちだけに留めてくれ、と釘を刺してから、ダインはラフィンにこれまでのことを全て打ち明けた。

ガーゴがダインを付け狙う理由。グラハム達改革派の存在と、その理念。

ラフィンは始終驚きっぱなしで、ダインが話し終えたときにはカップに視線を落としたまま動かなくなってしまった。

「種族不明の女の子…」

「ああ。特異な魔法が使えてな、連中はそれを狙ってわざわざ赴任してきたんじゃないかと思ってたんだが…」

途中で思慮しだすダインに、ティエリアが「どうかしたのですか?」と尋ねてくる。

「いや、今日の休み時間に、その連中とばったり出くわしたから聞いてみたんだよ」

「聞いたって…え? ちょ、直接?」

「ああ」

ラフィン含め、シンシア達も驚愕したまま固まっている。

あれほど探り合っていた相手に、直接問いただすとは誰も思ってなかったのだろう。

「そ、それで?」

何故かラフィンは緊張した面持ちで続きを促す。

「もちろんまともに取り合ってはくれなかった。だから相手の反応から予測するしかなかったんだが…俺の予想は半分は合っていたっぽい。会話中、まとわり付くような聖力みたいなものを感じたからな」

「気付かれなかったの?」

シンシアがやや心配そうに聞いてくる。ダインは「それは大丈夫だ」と答えた。

「問題は残り半分で、連中はどうも俺だけが狙いじゃないような気がするんだよなぁ…」

勘違いするなといわれたことを彼女たちに伝えると、シンシアは「気付かれないためにそういっただけじゃないの?」といってくる。

「そうかもしれないが…しかし連中がいってることももっともだ」

紅茶を一口飲んでから、彼は視線を落としたまま腕を組んだ。

「奴らにとってどれほどルシラが重要なのか分からないが、それほど重要なら直接俺の家にまで乗り込んでくるはずだ。俺がいるセブンリンクスにわざわざ赴任してまで捜索をかける必要は無い。それも幹部クラスであるあの二人が、忙しい合間を縫ってまでな」

「確かに…理由としては弱いわね」

ラフィンも腕を組んで考え出す。

「じゃああの人たちの狙いがダイン君だけじゃないとすれば、赴任先…つまりセブンリンクスに狙いがあるっていうこと?」

シンシアの推察に、ダインは「可能性はあるな」と頷いた。

「ほら、あの学校って歴史が長いんだろ? 巨大な図書館には禁書があるっていわれてたり、姿の見えない小人がいるって噂もあったりするじゃん」

歴史が長い分様々な事象があってしかるべきだ。

そんなダインの話に、シンシアが「セブンリンクス七不思議だね」と事情を知っている風にいってきた。

「色んな噂があるらしいよ」

シンシアもディエルほどではないが噂好きだ。友達が多いため色々聞いていたのもあるのだろう。

ダインは頷きつつ話を続ける。

「ガーゴは学校の設立に関わっていたらしいし、七不思議とはいかないまでも、学校について何かしら重要な情報を持っていてもおかしくない。今回赴任してきたのはそれが狙いなんじゃないかなってさ」

「あの、で、でも」そのときニーニアが異論を唱えた。

「それなら、どうしてこのタイミングで? 前から情報を持っていたのなら、いまじゃなくてもいいはずなのに」

その指摘は最もだ。ダインが答えようとしたとき、「あ…少し読めてきたかもしれません」ティエリアがはっと顔を上げていってきた。

「ルシラさん、ですね? ルシラさんの特異な魔法力があれば、何かしらの計画を実行に移せると判断し、動き出した」

ダインはまさしくそのことをいおうとしていた。

「ま、全部推察だけどな。つっても、あながち的外れってこともないと思うよ」

そこで全員が黙り込んでしまう。

ガーゴの真の狙いに想像を膨らましていると、ラフィンだけは「私の知らないところでそんなことに…?」と戸惑った声を出している。

「ルシラ関連は完全に俺だけの問題だから、聞かなかったことにしてくれていいよ」

若干ショックを受けたようなラフィンに向け、ダインは笑いかける。

「え、どういうこと?」

「これ以上巻き込みたくないんだよ。ガーゴって何かとうるさいし」

そこで彼はふと、以前ジーニ含む視察団がティエリアに生徒会長職に復帰しろと詰め寄っていたことを思い出す。

「今回厄介そうな連中が赴任してきたわけだけど、先輩、早速何かいわれたんじゃねぇか?」

突然話を振られたティエリアは、「あ、それは…」と、何事かいいよどむ。

「以前と同じこといわれたわよ」

代りに答えたラフィンは、明らかに不満げな様子でチョコクッキーを頬張った。

「ご丁寧に生徒会役員の再編成と、その人選をメモした用紙を渡されてね。私は副会長になるよう勧められたわ」

「ああ、それでさっきまで二人でいたのか」

放課後のことを思い出すダインに、「ええ、どうやって断ろうかってね」、ため息を吐くラフィンは不機嫌そうだ。

「あんな、ガーゴみたいに聖族のみで固められた人選なんて誰が受け入れるもんですか」

ダインは思わず笑い声を上げてしまう。

「なんつーか、ブレねぇな、ガーゴって」

「全く。いくら立場的に上だとしても、こちらのテリトリーに足を踏み入れた以上はこちらのルールに従うのが常識でしょ。あの二人はどちらも中途採用みたいなものなんだから、先生方の中でいえば一番後輩になるのよ? そんな新人が、役員を変えろなんて普通いわないでしょ」

生徒会の再編成の提案はよほど気に障ったのだろう。ラフィンの眉間には深い皺が寄っている。

「ほんと、どこまで自分が偉いと思っているのかしら」

「はは、いうなぁ」ダインは笑いながら、「でも良いのか?」と彼女を見た。

「何がよ?」

「いや、お前の家ってガーゴと多少なりとも繋がりがあるんだろ? きっぱり断っていいもんなのか?」

「それとこれとは別よ」紅茶を飲み干し、木製のフォークをシフォンケーキに突き刺し、そのまま上下に揺らした。「ウェルト家の繋がりと生徒会役員のことは完全に無関係。従う道理も義理もないわ」

口の中のものを飲み込み新しく淹れてもらった紅茶を飲むが、まだ彼女の機嫌は直らない。

「何よ再編成って。聖族だけで固める意味が分からない。種族と役職の適正は全く関係ないし」

彼女は始終ぷりぷり怒っているが、そんな彼女を見つめるシンシア達は何故か微笑ましそうだった。

見れば、ティエリアが可笑しそうにシンシアとニーニアに耳打ちしている。

不機嫌なままお菓子とお茶を頬張り続けるラフィンを横目に、「どうかしたのか?」とダインもティエリアに耳を傾けた。

「あの、実は…」

ティエリアが近寄ってきてくれて、真実を話してくれる。

「ラフィンさんが再編成の提案に一番怒っているのは、ディエルさんが外されていたからのようなのです」

「ほう?」

「ちゃんとお仕事しているのに外す意味が分からないと、見て分かるほどに憤慨されておりました」

「なるほど」そこでダインも似たような笑顔で、未だ怒った様子のラフィンを見てしまう。

全員の視線を感じた彼女は、マカロンを掴んだ手を止め、「何よ?」とこちらを見返してきた。

「いや、やっぱお前可愛いわ」

「か…!?」怒りの表情はそのまま、ラフィンの顔はまた真っ赤に染め上がっていく。「だ、だから可愛いって何よ!!」

「えへへ〜、ラフィンちゃ〜ん!」

シンシアはすぐさま彼女の側に回りこみ、抱きついている。

「あ、あーもう、何なのよ…」

ラフィンは迷惑そうだが、抱きつくシンシアを解こうとはしない。

その姿にダインはまた笑ってしまいながら、彼女に尋ねた。

「連中とはこれから毎日顔を合わせることになるんだし、そういうちょっかいは今後頻繁にかけてくるだろ。かわし切れる見込みはあるのか?」

「恐らく問題ないかと」答えたのはティエリアだ。「先生が助けると仰ってくださいましたので」

「先生?」

「はい。ダインさんのクラスを担当している方で…」

「ああ、クラフト先生か」

クラフトもジーニに負けず劣らずの強面だ。

ティエリアも彼の顔を思い出していたのか、笑顔のまま口を開く。

「昔はどうだったか知らないけど、いまは学校に赴任してきた順で序列が決まっていると。あなた方の立場はあくまで教育実習生ですので、と釘を刺しておりました」

「ものすごく悔しそうな顔してたわね」

現場を見ていたのだろう、ラフィンはデビ族のように悪戯っぽい笑みを浮かべている。

「ですので、今後はあまりそういった口出しはされないと思います」

「クラフト先生がついてるなら安心だな」

ティエリアと頷き合っていたところで、「はぁ」というため息がシンシアから聞こえた。

「でもここ最近、こうしてみんな集まったらガーゴとのことばっかり話してるよねぇ」

彼女と同じ気持ちでいたのか、ニーニアが紅茶を口にしながら「そうかも」と呟いている。

確かにガーゴ関連の話題が多い。しかも想像すればするほど悪い方向へいってしまうので、笑顔も少なめだ。

「ダイン君部なのに、せっかくラフィンちゃんもいるのに、もっと楽しいお話したいよー!」

ラフィンを抱きしめながら、一緒に上半身を揺らし始めた。

「ちょ…し、シンシア、食べにくいから…」

困惑するラフィンを眺めながら、「確かにそうですね」とティエリアはいった。

「私も賛成だよ」

せっせと全員の紅茶を注ぎ足しつつ、ニーニアもいってくる。

「ここらでガーゴの話は打ち切るか」ダインも同意を示し、「何の話題がいい?」と、どうにかシンシアを離そうとしているラフィンに顔を向けた。

「え、ええ? 私に振るの?」

また彼女は困惑するが、何か思いついたようで「そもそも」と言葉を続ける。

「ダイン部って何…?」

そこでラフィンを除いたシンシア達はハッとする。ラフィンにちゃんと説明してなかったことをいま思い出したらしい。

「ご説明させていただきます」

ティエリアが柔らかい笑顔のままラフィンに体を向けた。

「ヴァンプ族の特性は特殊なものが多く、ご本人もまだ謎である部分があるようなのです。他種族との日常生活においてどのような影響があるのかを解明、解決するために、ダインさん部はシンシアさんの提案により立ち上げたものなのです」

うまそうにクッキーを食べてから、「後は私たちが吸魔の感覚に慣れるのと、ヴァンプ族というものを知るための部でもあるかな」とシンシアが補足する。

「へぇ」ラフィンは感心したように声を上げた。

「個人名義の部だからふざけてるように聞こえてたんだけど、意外としっかりした活動内容なのね」

「まぁ活動つっても、もの食ってくっちゃべってるだけなんだけどな」

身も蓋もないことをダインはいうが、「これもお互いを知るために必要なことだよ」、シンシアは笑顔のまま反論する。

「でも、他にもいろいろとやることができちゃったんだよね」

ニーニアも割り込んできた。

「ダイン君の吸魔の特訓に、魔法の使い方、魔法の勉強。進級テストを乗り切るための活動も盛り込まないと」

何故かダイン以上にやる気を見せるニーニアを見て、ラフィンは「ほとんどダインのためだけの部活みたいね」といってきた。

「ああ。正直なところかなり助かってる」特に反論もせずダインは頷く。「こいつ等の協力がなきゃ、学校にいられなかったのは間違いないだろうな」

そこでシンシア達は照れたように笑った。

「ダイン君の正体はおおっぴらにできないから、部としては申請できないけど、でもその分自由だから楽しいよ」

そのシンシアの台詞に、「はい、とても!」とティエリアは大きく頷き、ニーニアも嬉しそうに笑っている。

「まぁ、楽しそうなのは見て分かるけど…」

そう呟くラフィンに向け、「あ、あの!」ティエリアは思い切ったように話しかける。

「よろしければ、ラフィンさんも入部していただけないでしょうか」

「え、わ、私もですか?」

ラフィンには意外すぎる提案だったのか、驚いたようにティエリアを見返す。

「ラフィンさんもどこのクラブにも属していらっしゃらないようですし、生徒会長はクラブ活動をしてはいけないという校則も無いですし」

「おお、ラフィンちゃんも入ってくれたらさらに楽しくなりそうだよ!」

「うん、そうだね」

笑い合うシンシアとニーニア。

「生徒会のお仕事優先で、他の用事が無いときだけで構いませんので…」

ティエリアは期待を込めた視線をラフィンに向けている。

「いや、その…え、えぇと…」

ラフィンの目が泳ぎ、その視線がダインに向けられた。

「ラフィンさえ良ければな」

口の中のものを紅茶で洗い流し、ダインは小さく笑った。

「クラスとか種族とか、そういう隔たり関係なく、ラフィン自身が入りたいと思ってくれているのなら歓迎するよ」

全員の視線を受け、若干戸惑った様子のラフィンだったが、

「え、えぇと、じゃ、じゃあ、まぁ…暇なときにでもお邪魔させてもらおう、かしら…」

と、顔を赤くさせながらいった。

「わーい!」

シンシアは両手を上げて喜び、そのまままたラフィンに抱きつく。

部員が増えて嬉しいのか、ニーニアとティエリアまでラフィンを取り囲んで抱きついていた。

「ひゃぁっ!? あ、あの、う、動けないんだけど…」

困惑した視線が再びダインに向けられるが、「歓迎の儀式みたいなもんだ。諦めろ」とダインは涼しげな顔でお菓子を食べていた。


「そういえばラフィンちゃんってどこに住んでるの?」

それから改めて自己紹介を済まし、ふと気になったシンシアが尋ねる。

「ガーゴに勤めているエンジェ族の人たちは、本部があるルインザレク城下町近くに住んでるようだけど」

ラフィンの実家がガーゴと関連がある。彼女もこの大陸に住んでいるのかと予測したシンシアだが、ラフィンは「いえ、地元よ」と首を振った。

「地元っていうと…コンフィエス大陸?」

「ええ」

そこでシンシアから「へぇー!」という声が上がる。

「コンフィエス大陸って、確か年中雪に覆われたすごく寒いところなんだよね?」

コンフィエス大陸はオブリビア大陸からずっと北にあり、現代でいう北極のような場所だった。

エンジェ族が統治している大陸で、位の高い者は『北』にいるべきとの言い伝えから、その大陸を住処に選んだという説がある。

「大変じゃないの?」

年中寒いところでどうやって生活しているのか、シンシアは前からエンジェ族に聞いてみたかったらしい。

「寒いとは思うけど、でも大陸全域に耐寒バリア張ってあるから、それほど不便だと思ったことはないわよ?」

「おお…」シンシアの口からまた驚きの声が漏れる。「さすが、規模が違うねぇ」

天候すら意のままに出来るのは、さすがエンジェ族といったところだ。

「そういうの聞くと、つくづく魔法って便利だなって思っちまうな」

ダインはしみじみといった。

「寒暖対策の道具ってほとんど魔法を使ったやつだから俺には効果が無いんだよなぁ」

「あ、そっか、ダイン君、そういう補助魔法とかも効かないんだね」

と、ニーニア。

「まぁ完全に効かないってことじゃなく、極端に影響を受けにくいだけなんだけどな」

魔法の効かないヴァンプ族。

類を見ないその特徴に改めて興味が引かれたラフィンは、「どこまでなら影響を受けるの?」と質問した。

「一重に魔法が効かないといったって、魔法にも色々あるじゃない。魔法で冷やされたものは冷たく感じないの? 属性エンチャントがかかった武器は使えない? 魔法の視覚効果を応用したテレビはどうなの?」

どこから影響を受けて、どこから受けないのか。

シンシア達も気になっていたことなのか、全員の視線がダインに集中した。

「あんま魔法に囲まれて生活してこなかったから、ざっくりとしか答えられないが…間接なら影響を受けるよ」

ダインは魔法の作用は大雑把に分けて間接作用、直接作用の二種類あるといった。

「間接って?」

「簡単な話だ。例えば風の魔法は俺に直接影響はないが、その魔法で木箱を吹き飛ばしたとしたら、木箱そのものは物体だ。だから俺は受け止めることができる」

「あ、なるほど」シンシアがぽんと手を叩く。「箱がすり抜けちゃったりしたら、魔法が効かないどころの話じゃないよね」

「そう。だから魔法で動く船だって乗れるし、エンチャントのかかった武器だって使える。さっきお前がいっていた魔法のテレビだって、魔法そのものは見ることができるから問題なく認識できるよ」

相手に炎や氷をぶつけたり、筋力アップや回復といった聖魔法は直接作用で効果がないといったところで、ラフィンがまた質問する。

「魔法で作った料理はどうなの?」

「魔法でその料理がどこまで影響してるかによるな」ダインは考えながら答えた。「魔法でカットしただけの肉や魚ならちゃんと味が分かるよ。火の魔法で煮込んだスープだって、スープそのものには魔法の影響を受けないから大丈夫だ。だが人の味覚を刺激するような魔法の調味料があれば、俺には無味無臭に感じるだろうな。あれば、だが」

そこで「なんだぁ」と息を吐いたのは、シンシア、ニーニア、ティエリアの三人だ。

「早く聞いておけばよかったよ〜」

どこか悔しがっているようにも見える。

「ん? まさか弁当作ってきてくれるとき、いつも魔法使わずにやってたのか?」

「うん…」残念そうにニーニアが頷く。「味が分からなかったら申し訳ないなって…」

気遣いのできるシンシア達だ。魔法が効かないというダインに配慮して、食材のカットは包丁で、焼き物はマッチを使ってやっていたと彼女たちは打ち明けた。

「本当に、早く聞いておけば…もっとレパートリーがありましたのに…」

ティエリアは魔法を使った得意料理があったのだろう。ダインに振舞えなかったことが悔しくてならないようだ。

「はは、そうだな。伝えておけばよかったな」

ティエリアに笑いかけるダインを見ながら、「え、あなた…」ラフィンは不思議そうに尋ねる。

「お弁当持ってきてないの?」

もしかしてお金が無くてお弁当すら作ってもらってないのでは。

そんな余計な心配までしだしたラフィンに、ダインは笑いながら「いや作ってるよ」と手を振った。

「弁当を自作する中で、材料が余ったときに俺の分まで作ってきてくれてるんだ。いまはもうそれが当たり前になっちまってるけどさ」

美味しいからいいんだけど、とダインは笑顔のまま続ける。

「そういえば、あなた達いつも同じ場所で昼食摂ってるわよね…」

呟くようなラフィンの台詞を聞いて、「お前はいつも一人でどっか行ってるよな」、たまにグラウンドで目にするラフィンの姿を思い浮かべながらいった。

ついでに彼女に関する噂話も思い出し、「なぁ、噂で聞いたんだけど」、興味ありげな目つきでラフィンに詰め寄る。

「離れの部屋に専属のシェフがいて、そこでいつもランチ食べてるってのは本当か?」

プチシュークリームを咥えたまま、ラフィンは「う…」と固まる。

気まずそうな表情だ。もしかして聞いてはいけないことだったのだろうか?

「答えたくなかったら別に…」いいかけたダインに片手を突き出し、「いえ」、あまり噛まずにお菓子を飲み込み、首を振った。

「どうせ、そんな噂話広めたのあいつでしょ? 私のお昼はいつもディナーばりのランチだって」

表情には苛立ちが見え隠れする。その顔つきから、あいつというのはディエルのことだとすぐに推察することができた。

「違うのか?」

「違うわよ!」

反射的に否定するラフィンだが、怒りの表情はすぐになりを潜め、「半分は…」とまた気まずそうにいう。

「半分?」

「わ、私もお弁当はお弁当よ。ただ、その…作り置きは衛生上問題があるってお父様がいって…だから、毎日お昼休みの直前に校門前まで作りたてのお弁当を侍女が持ってきてくれて…」

「…その弁当が、一流シェフの手作りだと?」

「ま、まぁ…」

頷くラフィンを見て、ダインは彼女の昼での行動がなんとなく読めてきた。

いつもこそこそしていたのは引け目があったのだろう。それに一流シェフの手作り弁当なのだから、彼女には食べきれないほどの量だったに違いない。

そんなものを教室で食べてると目立って仕方が無いし、自慢してるように受け取られる恐れもあったため、人気の無い場所で一人寂しく食べていたのだろう。

「ギガクラスで生徒会長ともあろう奴が、ぼっち飯とはな…」

思わずいってしまうダインだが、推理はずばり的中していたようでラフィンはさらに身を縮ませる。

「ラフィンさん!!」

そのとき突然声を上げたのはティエリアだった。

「ひゃぁはいっ!?」

ラフィンは全身をびくつかせながら彼女に顔を振る。

「これからは、私たちとご一緒にお昼ご飯を食べましょう!!」

ラフィンに近づき、その手を両手で握り締め、ティエリアはいった。

「え、ええ?」

「一人で食べるより、多人数で食べた方が美味しいに決まってます!」

断言するティエリアに、「その通りだね」、シンシアは大きく頷いている。

「わ、私も、リステニア学園時代はよく一人で食べていたから、その辛さはよく分かる…」

ニーニアもラフィンの隣に移動しており、ラフィンのもう一つの手を握り締めた。

「い、いえ、特に辛いとは…その…ただ、羨ましいとは…思っていたけど…」

「うんうん。だから、これからは私たちと一緒にね?」

ラフィンは再びシンシア達に囲まれてしまう。

「あ、でしたらラフィンさんのお弁当も作ってくる、というのはどうでしょうか?」

勝手に話まで進め始めた。

「いいですね! お口に合うかは分かりませんけど、駄目だったら私たちで食べればいいし。シンシアちゃん、エンジェ族の好みって…」

「確か穀物だったと思うよ。焼きおにぎりとか、すごい気に入ってくれるかも」

当のラフィンはそっちのけで、どんどん話が膨らんでいく。

「ね、ねぇダイン、この勢いは一体なんなの…」

ラフィンはもはや気圧されっぱなしだ。意見を差し込む隙も無い。

「先輩もニーニアも、個人個人は普段から人見知りで大人しいんだけどな。でも三人揃うと性格が変わったように積極的になるんだよ」

こうなったら誰にも止められない、とダインがいったところでラフィンはさらに困惑した表情を浮かべる。

「ラフィンちゃん、おからって食べたことあるかな?」

「あ、ラフィンさん、雑穀米は大丈夫でしょうか?」

「肉類よりはお野菜が多めの方がいいかな…?」

シンシア、ティエリア、ニーニアの怒涛の質問攻めだ。

三人の視線はラフィンのみに注がれ、両手はそれぞれ握られ、胴体にはここぞとばかりにシンシアが抱きついている。

「だ、ダイン…! ねぇ、ちょっと…!」

助けを呼ぶ声がするが、ダインは笑いながらお菓子を頬張っているだけ。

紅茶を飲みつつ、数分前にいったことと同じ台詞を彼女に投げた。

「歓迎の儀式みたいなもんだ。諦めろ」

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