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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百九十八節、顔合わせ

カールセン邸が未だかつてないほどの“重厚感”に包まれたのは、週が空け二日目のことだった。

その“会合”は、長椅子に居並ぶ面子の割には、非常に質素な部屋であったことには違いない。

カールセン邸の本邸から少し離れた場所に、急ごしらえで作られた木組みの小屋だった。何の装飾品や調度品もなく、セッティングされたのは長椅子に長いテーブルのみ。

そこに少し狭そうに身を寄せ合っていたのは、もやは顔なじみといってもいい“パパ友”の、ジーグ、ペリドア、ギベイルの三人。

そしてテーブルを挟んだ真向かい側には、セブンリンクス校長の“グラハム・シーカー”と、同学校の教員“クラフト・アーカルト”。そして、珍しいことにラフィンの父にして、ウェルト財団理事長の“ロディ・ウェルト”がいた。

「このような狭苦しい場で申し訳ない」

各々が自己紹介を済ませた後、ジーグが口を開いた。「もっとあなた方に相応しい場を設けようと考えてはいたのだが、如何せん準備する時間がなく…」

世界的に有名なリステニア工房の重鎮と、世界均衡保持組織“グリーン”の幹部、そして各国に無数の大企業を抱える財団理事長。

これほどの重役が集まる場だというのに、質素な小屋しか用意できなかったジーグは、少し落ち込んだ様子だ。

「場所なんてどこでもいいさ」

と、口を挟んだのはジーグの友人でもあるクラフトだ。「このような知見に富んだ方々と情報交換できるのなら、馬小屋だろうと文句はない」

彼がそういったところで、同意見だったのか全員が頷いてみせる。

全てはグラハムの提案から始まった。

ガーゴの狙いやレギリン教の全容が見えてきたいま、そろそろ“主要な人々”を集めて、情報を交換しないかと。

顔合わせの意味もあったので、ジーグの一声によってこれだけの面子が揃ってくれたのだ。

「ロディ殿まで来てくれるとは思わなかったよ」

ジーグがそういって、ロディに笑いかける。「駄目元で声をかけてみたのだが、都合を付けてくれたのだろうか」

「それもあるんだけどね」

そういって、ロディは少し申し訳なさそうな顔をする。「でも先に謝っておきたいんだけど、私は情報を交換したくて来たわけじゃないんだ」

「おや? そうなのか?」

「ああ。そもそもそういった“裏の情報”は持ち合わせていないしねぇ。起業の仕方とか、経済の方面ならいくらでも話せるんだけど」、といって笑う。

「今回私が来させてもらったのは、単純にジーグ君にお礼を言いたくてね」

と、ジーグに晴れやかな笑顔を向ける。

「それは一体…」

「娘のことだよ」

突然立ち上がった彼は、ジーグに頭を下げた。「重ね重ね、ありがとう、ジーグ君」

何のことかすぐに思い至ったジーグだが、「あ、あーいや、あれは私では…」、と、少し困惑したように手をひらひらさせた。

「あれに関しては息子も至らない部分があったからな。すまなかった」

いきなりプライベートな話になり、事情を知らないグラハムとクラフトは不思議そうな顔になる。

が、すぐに何の話なのか察したグラハムは、「ああ、あのことか」といって笑い出した。

「先生、分かるんですか?」

尋ねてくるクラフトに、「我が校にも関係のあることだよ」といって笑顔を向けた。

「“ある生徒”が不登校から復帰して、その変貌っぷりに度肝を抜かれた生徒が多数いると、君も耳にしたことがあるだろう?」

「あ…ああ! ラフィンですか!」

クラフトが膝を叩いた。「誰に対しても優しい笑顔を向けるようになり、そのギャップにとてつもない人気が集まっているらしいと聞きましたが」

「ダイン君のおかげだね」

ロディがいった。「あの子には本当にお世話になりっぱなしだ。娘の笑顔を取り戻し、娘の心をも救ってくれた。今日こそは彼にもお礼の一つや二つ、いわせて欲しいんだけど…」

少しダインを探すような素振りをした彼に、「息子はいま小屋作りで忙しそうにしているからな。会合が終わり次第、声をかけてやってくれたらいい」とジーグがいった。

「そうだね。裏の情報は何も持ってこれなかったけど、でもなかなかいい“表の情報”は持ってきたから。そっちを先にしよう」

「表の情報?」

「ジーグ君にとってはそれほど大したものじゃないとは思うけど、なかなかのビッグニュースだよ」

ロディはそういってちらりとグラハムを見る。そのグラハムは何やら訳知り顔で口の端に笑みを結びつつ、お茶を啜っていた。

「さらっと流せる情報だから、私のことは一番後回しでいいよ」

そういって椅子にかけ直す。

少し呆気に取られていたジーグだが、「では何から話そうか」といって男たちを見回した。

「ワシからいこうか」

手を上げたのはギベイルだった。「まずワシとこの息子が“七竜の残骸”や“古の忘れ形見”を解析し、それらのデータから知り得ることのできた事実をここに公表していこうと思う」

そこでペリドアが立ち上がり、準備していた資料をグラハムたちに配っていった。

「ワシらのことはジーグ殿から聞き及んでいるはずであろうが、改めて説明させてもらうと、ワシらはダインが拾ってきてくれた七竜の残骸から、彼らがどのような存在なのかを調査していた。その仕組みや構造などある程度のことは分かってきたのだが、“遺物”にも不可思議な現象が発生したことを聞きつけ、同じく調査していたのだが…」

配った資料と共にギベイルは説明を始め、グラハムたちは静かに聞き耳を立てていた。


「━━以上が、我々が現状で知り得ることのできた情報だ」

数十分に及ぶギベイルの説明が終わり、椅子にかけた彼は静かにお茶を啜り始める。

「…俄かには信じられないな…」

驚愕した顔のまま、クラフトがいった。「七竜と“古の忘れ形見”に、そんな繋がりがあったとは…」

「結局のところ、ガーゴもレギリン教も狙いはレギオスだったというわけか」

グラハムの声に、ジーグが頷いた。

「古の忘れ形見…遺物は、レギオスを封印から解き放つカギの役割を持っていた。レギリン教がどこからかその情報を得て、ガーゴに協力を仰いだ末、七竜討伐作戦なるものが計画、実行される運びとなった」

「でも、最後の遺物は破壊されたんだよね? 確か」

ロディが口を開いた。「映像でしか見てないんだけど、最後の遺物…“触れざるもの”だったかな。ダイレゾに破壊されたように見えたんだけど…“カギ”は七つ揃わないと役割を果たせないんじゃないのかい?」

疑問を口にするロディの前に、「このようなものがある」、といってジーグが見せたのは、薄型のタブレットだった。

その液晶画面にはどこかの研究施設の内部が映し出されており、巨大な透明ケースの中に、雷を物質化させたような物体があるのが見える。

「これは…」

「とある情報筋から入手したものだ」

ジーグはいった。「映像に映っている場所は、エティン大陸の南部に存在している、レギリン教が建てたとされる研究施設だ」

映像の右下に日付が記されており、それは二日前のものだった。つまり、ダイレゾが“触れざるもの”という遺物を完全に破壊した後の映像ということになる。

「まさか…復元した、のか…?」

クラフトが驚いて尋ねた。

「恐らくな」

ジーグは答える。「白色化したダイレゾの残骸を集め、それを元に遺物を復元させたらしい。魔力の通り道も忠実に再現してあるようだよ」

「全ては計画通りということか…」

クラフトは腕を組んで考え込んでしまう。

「レギオスを復活させる細かな手筈までは分からないのかい?」

ロディが尋ねる。「このギミックから考えるに、単純に魔力を流せばいいというものでもないのだろう? そんな簡単なもののようには見えないし」

その質問に、「まだそこまでの解析には至っておらんのだよ」、とギベイルが残念そうに首を横に振った。

「せめてそのギミックを解明できれば、何かしら阻止する方法も思いつきそうなものなのだが…」

そこでジーグたちも同様に唸ってしまう。

やがて、

「これは、“組織”の調査員からの情報なのだが…」

資料に目を通しつつ、グラハムが声を上げた。「何やらコンフィエス大陸で怪しげな動きがあるらしい」

「コンフィエス大陸で?」、ジーグの顔が上がる。

「うむ。レギリン教の信者と思しき者たちが、用途が不明な装置や呪術具を多数取り寄せているとのことだ」

「それは…確かに怪しいな」

ジーグがいったところで、「それについては、私も聞いたことがあるよ」とロディが反応した。

「首都に近い空き家に、大きな風呂敷を持ったエンジェ族()()()()人々が何人も出入りしているのを見たらしい」

「ふむ? 首都に近い空き家で?」

「そう。知っての通り、私たちエンジェ族が住まうコンフィエス大陸は、渡航者にも何かと制限を課す。怪しげな動きを見せたらすぐにでも警護騎士団が調べに行くはずが、何故か放置されていたんだよね。どうしてなんだろうって、その知人とつい先日まで話し合っていたところなんだけど…」

一般人でも分かるほどの怪しげな動きをしていたのに、警護団は取り調べに向かわなかった、と彼は続ける。ロディの疑問は最もだった。

「どうもガーゴが一枚噛んでいるらしい」

と、グラハムがいった。「いや、ガーゴというより、“その者”が独断で行動しているといったほうがいいか。その者はどうもソハネ国王から厚い信頼を得ているようで、そのためあらゆる行動に制限がなく、また監視対象にもされてないらしい」

「独断とは、どういう…?」

気になってペリドアが尋ねると、「あちらも一枚岩では無いということだ」とグラハムは答えた。

「当たり前だが巨大組織というものは人が多くおり、人が多い分派閥だなんだと集まってしまいがちだ。それら派閥同士の諍いや足の引っ張り合いなど、良くある話だよ」

「その通りですね」

巨大組織の一端を担うロディは、分かる話だと何度も頷いている。「人を動かすというのはやっぱり難しいよ。感情があるから意見の相違があり、争いが起こる。彼らが感情のないロボットだったらどんなに楽かって、トラブルの話が入ってくるたびに考えてしまうよ」

彼の気苦労というものを垣間見たジーグは思わず笑ってしまい、「では我々もその者を監視したほうがいいだろうか」と話を戻した。

「いや、そちらについては我々に任せて欲しい。“ある有能な者”を派遣したからな」、とグラハム。

「有能な者…?」

「うむ。いざとなれば阻止に動いてくれるはずだ」

「俺はそうは思えませんけどね」

そういったのはクラフトだ。「女のケツしか見てない奴に何ができるんですか」

「ふふ、まぁ見てるといい。きっといい仕事をしてくれるはずだよ」

そこで会話が途切れ、ジーグたちは再び資料に目を通し始める。

「けど…この資料を見れば見るほど、不安を掻き立てられるねぇ」

ふとロディがいった。「遺物の解析や連中の企てを阻止する方法を考えるのもいいんだけど、私個人としては、やっぱり最悪の事態を想像してしまうんだけどね」

そこでジーグたちの視線が彼に注がれる。最悪の事態とは一体何なのかという視線だ。

「レギオスが復活してしまった場合は、どうなってしまうのかな?」

と、ロディは逆に彼らに尋ねた。

阻止することが適わず、本当にレギオスが復活した場合、何か対策はあるのか、と尋ねているのだろう。

そんな問いかけに、「もちろん想定はしている」と答えたのはグラハムだ。

「長老方に提言し、奴に対抗し得るだけの部隊を編成させてもらう運びとなっている。マレキア大陸最強と謳われる、スフィリア女王直轄の精鋭部隊だ」

「へぇ! 女王直轄の、ですか! それは心強い!」

ロディが感心してみせると、「他にも様々な種族へ要請してある」とクラフトが補足した。

「武術大会で殿堂入りを果たした武人や、影の支配者ともいわれる大賢者にも参戦を取り付けた。他にも偉人クラスの魔術師や、歴戦の軍人にも話をつけ、さらに各国の防衛システムを構築しなおしてもらい、対レギオスを想定した強力なプロテクトを作ってもらうよう提言させてもらったよ」

「世界防衛部隊なるものはどうなっているのだ?」

と、ギベイルが声を上げた。「ガーゴの連中もレギオス復活を想定し、そのようなものを作ったと聞き及んでいるのだが…」

「アレは信用ならんよ」

グラハムがきっぱりといった。「ガーゴの体質というか、案の定というべきか、世界防衛部隊はエンジェ族にエル族、おまけとばかりにヒューマ族でのみ構成されたものだった。我が校とのやりとりで散々揉め、いまでも続いているのだが、連中には選民思想が根強く残ったままなのだ」

一般的にいわれる“魔族”を、完全に排除したものだと、グラハムは少し憤った様子だった。

「“魔”を排した清い部隊だと主張したいのか、種族選別に拘る余り、集められたのは烏合の衆とも取れる連中ばかりだったよ。経験が浅く実力も低い。だのにプライドだけは一人前という、防衛の意識があるのかどうか疑問しか残らない者たちだった」

どこからか詳細な情報を仕入れたらしく、グラハムの言葉はなかなかに具体的なものだった。

「そもそも、成り立ちからして怪しいもんですよ」

同じく怒ったような表情で、クラフトが追従した。

「此度の件は、大元を辿ればガーゴとレギリン教の愚かな行動がきっかけです。自分たちで禁忌を犯しておきながら、対策しましたから安心してくださいなんていわれて納得する人はいないでしょう。奴らが動かなければこんなことにはならなかった」

まさしく正論だった。グラハムも、そしてロディも何度も頷いている。

「ですが、我々にしても、ただ部隊を編成しただけで安心しているわけではありません」

クラフトは続ける。「引き続き実力と勇気のある人材を探しておりますし、ゴッド族の方にもお願いして市街規模のシェルター化計画を推進しております」

その話をきき、ロディも一応は安心してくれたようだ。

「援助が必要ならいつでもいって。協力は惜しまないよ」、というロディの言葉に、クラフトは「助かる」と彼にぺこりと頭を下げた。

「そういえば、あっちの方はどうなったのだ?」

と、ジーグがきいた。「もはや伝承上の話になってしまうが、ほら、アレ…なんといったかな」

「七英雄の件か?」

クラフトがいうと、「そうそう、それだ」、とジーグが頷いた。

「創造神エレンディアの力を分け与えられ、レギオスや七竜に唯一対抗できたといわれる七英雄。その血を受け継ぐ者たちは、いまも存在しているのだろう?」

それが切り札ではないかとジーグは期待を寄せるも、

「受け継がれるのは血ではなく、種族ごとに完全にランダムで選任される、“エレンディア様の証”だけだがな」

クラフトはいい、隣のグラハムを見る。

「いるにはいたよ」

そう答えたグラハムは、少し難しそうな表情をしている。「証を持つ者は、そこにいるロディ殿の娘であり、我が校の生徒でもあるラフィン君と、もう一人、エル族のユーテリア君。前生徒会長であったティエリア君から“ある夢”のことを打ち明けてもらったので、もしやと思って校内の人物を総当りで調べさせてはもらったのだが…」

「…校内にはいなかったと?」

グラハムの表情から察してジーグが問うと、「ああ」とグラハムはいった。

「無自覚の線も疑い、定期健康診断の折に保険医にひっそりと調べさせてもらったのだが、どの生徒にも証のようなものはなかった。そのため、捜索範囲を広げて“エージェント”たちに頼んで調べてもらった。有能な彼らのおかげで、全ての種族から証を持つ者を見つけ出すことはできたのだが…」

「結論からいって、どれも子供や老人ばかりだったよ」

クラフトが代わりに答えた。「おまけに誰一人として覚醒に至った者はおらず、身体能力や魔法力にも目立ったものはなかった。中には生まれたばかりの赤子もいて、レギオスが復活したとしても、とてもじゃないが戦闘になど参加させられないな」

リアルな現状を聞き、「そうなのか…」とジーグは腕を組んで唸ってしまう。

「伝承の通りなら、証を持つ者こそがレギオスを倒せる唯一の希望だというのに…こういうときのための証じゃなかったのかな」、ペリドアは少し残念がっているようだ。

「エレンディア様も、まさかこうなるとは予想してなかったんだろうねぇ」

ロディは困ったような表情で笑っている。

「それなのだよな」

と、ジーグがロディを真っ直ぐと見た。「現状で私が最も疑問に思っているのは、そこなのだよ」

「え、どれだい?」

不思議そうにするロディに、「少し話が戻ってしまうが」、と前置きしてジーグは続けた。

「レギオス復活のカギとされる“遺物”だが…そもそも、どうしてそのようなものが存在しているのだろうか?」

その独り言のような疑問は、この会合の場にいる全員の思考を止めさせた。

「レギオスは、創造神とされるエレンディアが自らの身を使って封印することしかできなかったほど、人類にとって凶悪で、強力な存在だったのだろう?」

ジーグは続ける。「そのような存在なのに、どうして復活できるような“道”があるのだろうか?」

確かに…とクラフトが呟く。

「もしそんな道があると我々が知っていたならば、まず真っ先に潰していただろうな」

「だろう? 人類にとって最も復活して欲しくない存在であるはずなのに、件の“遺物”は何千年も前から存在していたと聞く。前々から疑問に思っていたのだが、誰が、どういった目的で“カギ”なるものを作ったのだろうか」

「レギリン教…じゃないのかい?」

ロディが尋ねるが、「いや、奴らの歴史はそんなに古くない」とクラフトが答えた。

「仮に大昔から存在していたとしても、当時は出来上がったばかりだろうしそんなに信者はいなかったはず。数人程度の規模で、世界各地に転がっていた遺物に特殊なギミックを施すなど不可能だろう」

「それは確かにそうだねぇ…そんな技術があったかのかどうかも疑問だし」

「製作者については、こちらで引き続き調査させてもらうよ」

ペリドアがいった。「遺物のギミックを解明するしかできなかったけど、製作者の目的というものは僕としても気になるしね」

「頼む。続報を待っているよ」

ジーグがそういったところで、小屋のドアからコンコンと音がした。

「む?」

ガチャリとドアが開けられ、「会合しているところすみません」と、隙間からサラが顔を覗かせてくる。

「たったいま、ゴディア様がお越しになられました」

サラが顔を引っ込め、代わりにゴディアが小屋の中に入ってきた。

「いやぁ、遅れてごめん。ちょっとある人と話し込んじゃっててね」

砕けた様子で小屋の中を見回したゴディアだが、「おっと、今日は初めましての方々がいるね」、とグラハムたちの方へ歩みを進めた。

「あなたが校長先生かな? 娘のティエリアがお世話になっております」

そういって、グラハムへ手を差し出す。

「おお、君がバベル島の守人の…」

「元、ですけどね」

そしてクラフトとも握手を交わし、ロディと挨拶しようと思ったところで、彼はいつの間にかゴディアに向けて傅いていた。

「おっと?」

ゴディアが不思議そうにしている。

「ロディ殿、どうした?」

ジーグが声をかけたところで、彼はハッとしたように顔を上げた。

「あ、ああ、申し訳ない…ゴッド族の方をお目にすると、つい…」

どうやら無意識だったようだ。

「財閥の長でも、エンジェ族のDNAには逆らえんということか」

ジーグが冗談めかしていうと、「し、仕方ないじゃないか」とロディはやや赤い顔で弁明を始めた。

「ゴッド族であるばかりか、長年ダイレゾを封印してきたお方だ。そればかりか、ゴッド族の長であられる、ソフィル・ハイリス女王神様とも交流があるときいているし…」

「実態はみんなとそんなに変わりないとは思うんだけどねぇ」

ゴディアはいい、用意されていた椅子にかける。

そして彼の手元にも資料が配られ、先ほどまで何を話していたかの説明を受けた。

「なるほど」

一連の流れをきいたゴディアは、「そんな大変な最中に申し訳ないんだけど」とやおら口を開きだす。

「実は、懸念がもう一つ増えそうなんだ」

そういった。

「これ以上何かあるのか」

ジーグが不審にきくと、「そうなんだよ。それをさっきまで話してたから遅れちゃってね」とゴディアはいう。

「どのタイミングで開始するかは分からないが、連中…ガーゴなのかレギリン教なのか、全世界に向けてある“提起”をするらしい」

「提起…? レギオスに関することではなく?」

「完全に無関係じゃないんだろうけど、でも“こっち”のほうは、もしかしたら君たちに直結する問題になるかも知れない」

ジーグに顔を向け、ロディは続ける。「連中は、各国の首脳陣を“マスタエル裁判所”という場所に集め、あることを提起する」

「それは…」

「“カラー大裁判”というらしい」

男たちの会合は、まだまだ終わりを見せそうになかった。

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