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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百八十四節、最悪の選択

「こ、これは…何が起きている!?」

目の前に広がる“大災害”に、ガーゴ戦闘員の一人であるロドニーは困惑していた。

いや、彼だけではない。隣にいた部下のクレスも、あまりに壮絶な光景に狼狽を隠せないでいる。

つい先ほどまで、戦況は圧倒的にガーゴ側に傾いていたはずだった。

戦闘員たちの集中攻撃によってダイレゾは瀕死状態で、いまにも倒れそうになっていたはずだったのだ。

なのに、大きな翼が裂け身体にいくつもの深手を負いながらも、ダイレゾは暴れまわっている。

いや、それどころか先ほどよりも明らかに強くなっている。

全身の筋肉が異様なほどに盛り上がっており、体格が二回り以上巨大化しているようだ。

それは“誰か”の干渉を受けて強化させられているようにも見え、周りに群がる戦闘員たちの攻撃をものともしない。

どんな攻撃も効いている素振りはなく、爆煙の中からとてつもなく巨大なレーザーブレスが吐き出された。

それはカインとサイラが張り巡らせていたバリアと衝突し、耳をつんざくほどの音が鳴り響く。

「うわぁ…!?」

悲鳴と共に、隊員たちが衝突の衝撃波によって吹き飛ばされていく。

エンジェ族二人分の強力なバリアは一瞬で打ち破られてしまい、標的の“遺物”に何度もぶつかってしまっていた。

その遺物にもある程度強力なシールドが張られており、そのおかげで一撃で壊れるようなことはなかったのだが、しかし消し飛ぶのも時間の問題だ。

「さ、左舷、もっと火力を上げて!! このままじゃ押し負ける…!!」

ジーニもこの異常事態に戸惑った様子で、誰にどんな指示を出せばいいのか分からなくなってきたようだ。

「ろ、ロドニーさん、これは一体何なんですか!?」

混沌としてきた現場を見つつ、クレスはロドニーにきいた。「突然ダイレゾが強くなったような…先ほどの謎の文字と何か関係が…!?」

「し、知らん! 私が知るわけないだろう!!」

ロドニーが混乱しながらそういったとき、

「あ、あなたたち!!」

二人に向け、狼狽していたジーニが声をかけた。「とにかくマスコミを退避させて! 邪魔よ!!」

「わ、分かりました!」

ロドニーとクレスは大慌てで逃げ惑うマスコミたちに声をかけていき、半ば無理やり小船に乗船させる。

数分かけて部外者を全て逃がすことができたのだが、彼らが戻ってきたときにはガーゴ戦闘員もばたばた倒れていたことに気がついた。

どうやらダイレゾのブレスにやられたようだ。

そのレーザーはより凶悪に、強力なものとなっていたようで、バリアとぶつかった衝撃と音で耐え切れずに気を失ってしまっているようだ。

「クレス!」

ロドニーが彼に目を向けると、「は、はい!」、上司のいわんとしてることが伝わったようで、クレスはすぐさま倒れた隊員たちも小船に乗せていった。

「ぐっ…! 他の者たちも退避しろ! もう生半可な攻撃は効かなくなっている!!」

バリア魔法を繰り返し張りながら、カインも指示を飛ばした。「巻き添えをくらいたくなければ退け!!」

そこで動ける戦闘員たちも避難を始め、気づけば封印地にはカインたちナンバーの面々と、ロドニーとクレスだけになった。

攻撃の要であったシグはといえば、島の端で気を失っている。彼もまた、暴れまわるダイレゾに巻き込まれてしまったようだ。

「はぁ…はぁ…ぐ…」

サイラまでとうとう聖力が切れてしまったようだ。座り込み、そのまま気を失ったように後ろに倒れる。

戦況が完全にひっくり返ってしまった。ジーニはたじろぐばかりで、冷静な判断ができなくなっている。

そこでまた死のブレスとバリアが衝突しあい、衝撃波の直撃を受けて彼女までもが倒れた。

「ちっ…!!」

カインは余裕のなさそうな表情と共に舌打ちをする。

「ガルルル…!!」

山そのものとなったダイレゾは、何を思ったのかブレス攻撃を止め歩き始めた。

カインが張ったバリアの手前に立ち、爪を振り下ろす。と、それは脆くも崩れ去ってしまった。

そしてまたズシンズシンと地響きを轟かせながら遺物へ向けて歩みを進める。ブレスではなく、直接叩き壊すつもりのようだ。

「させるかッ!!」

ダイレゾの狙いが分かったカインは、全身を輝かせて敵の目の前へ一直線に飛翔した。

ダイレゾの進行方向に立ちはだかり、素早く詠唱を始める。

「シャイニング・スパイラル!!」

突き出された両手に、極太のレーザー光線がらせん状に撃ち出された。

激しい衝突音と共にダイレゾの前面にぶち当たり、ダイレゾの歩みが止まる。

「グガ…!!」

「そのまま、大人しく…!!」

カインはさらに別の魔法でダイレゾを吹き飛ばそうとしたようだが、

「グルルッ!!」

途中でダイレゾが素早く身体を捻った。

光線を撃ち出すカインの右側に巨大な尻尾が迫り、そのまま彼の右半身に直撃する。

「ぐ…!!」

ドッという音と共にカインは左へ弾かれていき、勢いの余り地面の上で何度も跳ねた。

やがて棒立ちになっていたロドニーとクレスの前で停止し、とうとうカインまでもが動けなくなってしまう。

彼が気を失ってしまったことにより、遺物に施されていたプロテクトも解除されてしまい、ダイレゾはその物体へ向けてブレスを放った。

轟音が鳴り響き、大事に守られてきた遺物はとうとう崩壊してしまう。

「あ…」

状況は最悪だといってもいいはずなのに、ロドニーもクレスも何をすればいいのか分からず動き出すことができない。

そんな彼らに、ダイレゾはゆっくりと身体を向けた。その両眼が、“生存者”である彼らの姿をはっきりと捉えている。

「ろ…ロドニーさん…俺は…どうすれば…」

クレスは上司に判断を仰いだ。その顔面は青ざめている。

どうすれば生き残れるのか。クレスは上司に問いかけているのだが…

「す…すまん…」

この絶望的な状況を打破する術など思いつくはずもなく、ロドニーは謝るしかなかった。「俺にはもう…どうすることも…」

ダイレゾは上体を大きく上に逸らし、胸を膨らます。

死のブレスだ。

それは分かっているのに、ロドニーもクレスも足がすくんで動けない。

脳裏に“死”という文字が何度もちらつき、全身が震えてくる。

が、ダイレゾが次に取った行動は、彼らを再び硬直させるものだった。

大空にダイレゾの顔が向けられたまま、ドンッという射出音と共に死のブレスを吐き出したのだ。

「え…?」

その黒いレーザー光線は暗雲が立ち込めていた雲を割り、さらに上昇していく。

「な…なんだ…?」

一体何をするつもりなのかとロドニーが疑問に思った次の瞬間、そのレーザーは空中で大きく曲がり始めた。

それは空から地上へと方向転換し、ロドニーたちのいる場所から離れた島に直撃する。

カッと眩い光が周囲を照らし、同時にとてつもない爆発音が鳴り響く。

「は…?」

ダイレゾの行動に何の意味があるのか、図りかねているところで、また上空へ向けてブレスを放った。

それは再び空中で方向転換して、別の地上へと落下する。

「な、何をしてるんだ…?」

ロドニーが疑問に思っていると、「ろ、ロドニーさん!」、クレスが慌てて彼を呼んだ。

「う、上、上を見てください!!」

いわれた通りに空を見上げる。

謎の文字が浮かんでいたそこには、どういうわけか“地図のようなもの”が浮かび上がっていたのだ。

「あれは一体…」

ダイレゾが再び死のブレスを空へ向けて放出する。

その黒い光はまた方向を曲げ、大陸の一部の森を轟音と共に壊滅させた。

「も、もしかしてあの地図は、ダイレゾの攻撃目標では…!?」

クレスがいった。「映し出されている場所は我々のいるところです! あれに何の意味があるのか分かりませんが…」

「…まずい」

クレスの言葉をきき、ロドニーは戦慄した。「外に危害を及ぼし始めている!! 謎の文字の通り、ダイレゾは地上の破壊に舵を切ったんだ!!」

「そ、そんな…!」

“地図”が自動で動き出す。

移動した先は、ロドニーとクレスの記憶にある場所…オブリビア大陸だった。

「な…!?」

馴染みのある地形を見て、ロドニーの表情は驚愕に染まる。「あ、あの場所は城下町…! ガーゴ本部のある…!!」

次に壊滅させる標的として映し出されていたのは、オブリビア大陸の首都、ルインザレク城下町だった。そこには数十…いや、数百万もの市民がいる。

「ど、どうすれば…どうすればいいんですか!?」

クレスが大慌てでロドニーに詰め寄ったところで、

「ひょ…標的を、ずらせ…」

彼らの下から声がした。

カインだった。どうにか意識を取り戻すことができたようで、よろよろと身体を起こし始める。

「か、カイン様…」

「恐らく、奴は…“誰か”に操られているだけ、だ…」

自身に回復魔法を使い呼吸を整えつつ、カインは続ける。「奴をよく見て、みろ…動きに、まだ…迷いが、ある…」

彼のいう通り、確かにダイレゾの目はぐるぐると動き回っていた。その両目は焦点が定まっておらず、脚の動きもふらふらしている。

「正気を取り戻させるんだ…そうすれば、標的がずれる、はず…」

と、そこでダイレゾが大きく息を吸い込み、目的地へ向けて攻撃を始めようとする。

カインは咄嗟にバインドの魔法を放ち、寸でのところでダイレゾの大きな口を光の鎖で縛りつけた。

「急げ…! いまこの場で動けるのは君たちしかいない!!」

「し、しかし、正気を取り戻させるなんて、どうすれば…!」

ロドニーは戸惑っていた。伝承の七竜であるばかりか、“誰か”の干渉を受け強化されたダイレゾには、とてもではないが対抗できるとは思えない。

「少し気を逸らしてやるだけでいい…! 正気に戻れば、本来の目的を思い出すはずだ!!」

「ほ、本来の目的?」

「遺物の破壊だ! 残骸でもあれば、そちらに注意が…」

とそのとき、ダイレゾの動きを注視していたカインは、「…いや」、何かに気付いたのか、目を見開いた。

「近くに残骸がある…?」

「え?」

「七竜は、それぞれに対応した遺物にしか反応しない!」

力の限りダイレゾを魔法で縛り続けながら、カインはいった。「奴は何度か地図の一部を睨みつけている! ここではない、別の場所に“触れざるもの”の欠片か何かがあるようだ!!」

「で、では…!」

「ああ! 正気を取り戻した瞬間、奴はそちらへ向けて攻撃するはず。我々の本拠地と城下町の人々は助かる!!」

そのまま、カインはダイレゾが睨みつけているであろう地点を指差した。「あの辺りだ…!」

再び暴れだそうとするダイレゾを魔法で強く締め付け、カインは続けた。「奴に攻撃魔法なりなんなりを当て、正気を取り戻させろ! そうすればそちらへ攻撃が逸れるはずだ!! その一瞬の隙をついて奴を倒す!」

希望が見えてきた。

「わ、分かりました!」

ロドニーは早速ダイレゾへ向けて攻撃魔法を放とうとする。

が、

「ま、待ってください!」

地図を眺めながら、クレスが慌てて止めた。「あれは…あの場所はまずいです!!」

「ど、どういうことだ? 何がまずい?」

尋ねるロドニーに、「ロドニーさんもまだ記憶にある場所でしょう!!」、クレスは必死な様子でいった。

「あの場所…エレイン村ですよ!!」



「仕方のないことは、世の中いくらでもありますよ」

緊迫した中継の映像を眺めながら、ハイドルの論説は続いていた。

「一方が助かれば一方が助からない。あちらを立てればこちらが立たず。そんな理不尽な二者択一というものがね」

そのまま、彼はヴァイオレットを見る。「そういった理不尽な選択は誰しもが通る道。そのいくつもの難題を選び続け、切り抜けてきた結果、あなたは総監という立場に君臨することができた。違いますか?」

「そうだな」

ヴァイオレットは頷く。「人生とはそういう選択の連続だ。見誤ればあっという間に転落する。私もあらゆる無慈悲な選択を選び、現在の地位にありつけた。沢山の者に恨まれていることだろうな」

「ええ。ですが、それこそ仕方がなかったというもの」

ハイドルはいう。「理不尽な二者択一で、最善の選択というものは存在しませんよ。恨まれこそすれ、それは誰のせいでもない。被害者に所縁ある者も、“仕方がなかったんだ”という自責の念で自戒することもある」

彼の視線は再びテレビ画面へ向けられた。「今回もまた、それと同じことなのです」

「同じ…か?」

「はい。理不尽な選択で、当事者ではない外野からは色々いわれることもあるでしょう。しかし必要に迫られれば、誰しもが選択しなければならない」

「選択か…」

そこでヴァイオレットの表情に翳りが差した。「些か心苦しいことではあるがな…」

「そうですね。ですが…いくらでもいいようはあります」

テレビ画面の中では緊張感が高まるばかりだが、ハイドルの表情は相変わらず涼しげだ。「制御できなかった。予想外に暴れた。何とでも、責任は回避できます。ヴァイオレット総監のような権威と威厳のある方が仰るのなら、そこに疑いを抱く者はおりません」

ヴァイオレットは返事をしない。

構わずハイドルは続けた。「そして全てが終わったとき、惨状を見た民衆は、辛いものを見るような目で口を揃えてこう言うのです」

次に彼が浮かべたのは、これまでで一番邪悪な笑みだった。

「━━あれは不幸な事故だった」



ダイレゾを正気に戻すとどこを狙うのか、クレスから地名を聞いたロドニーは狼狽していた。

が、そんな彼に向けて、「早くしろ! もう持たない!!」、と必死にダイレゾを魔法で押さえつけつつ、カインは叫んだ。

「数百万の命が失われるのだぞ!? 見過ごしていい問題ではない!!」

「で、ですが、ダイレゾのもう一つの攻撃目標には村が…そこにも人が…」

ロドニーはそう訴えかけるが、

「数百万とたかだか数十人の命、どちらが重大なものになるかは考えなくても分かるだろう!!」

カインは問題を単純化して続けた。「いいからやるんだ! このままでは我々ごと消される!!」

そのとき、ダイレゾからガラスが砕けるような音がした。

とうとう、カインのバインドの魔法が引きちぎられてしまったようだ。

「グァ…!!」

束縛から解放され、ダイレゾはすぐさま地図に表示された地点へ、極大な死のブレスを吐き出そうとする。

「早く…やるんだッ!! 数百万の命が失われる前に!!!」

カインの叫び声に突き動かされるように、ロドニーはダイレゾへ手を向ける。

「う、うあああああああぁぁぁぁぁ!!!」

無我夢中で放った彼の“光矢の魔法”は、ダイレゾの頭部へ一直線に向かっていた。



「“ぽーちゃん”、勝手にそとに出ちゃだめだよ!!」

カールセン邸の玄関から飛び出したルシラは、嬉しそうに外を駆け出そうとしていたダイレゾこと、“ぽーちゃん”をがしっと捉え、抱き上げた。

「もーほらー、雨でじめんがぬれてるから、びちゃびちゃになっちゃったよ?」

そういっても、彼には何のことか分かってないようで不思議そうにしている。

ルシラは手に持っていたタオルで、ポーちゃんの泥まみれになった足を拭った。

「みんな、ちゃんとぽーちゃんのことかんげーしたいんだから、一緒にいるの。ね?」

そうルシラが笑いかけると、

「ポー!!」

まるでフクロウのような鳴き声と共に、彼は嬉しそうな鳴き声を上げた。

「うんうん、じゃあ戻って…」

ルシラが振り返ろうとしたとき、何か異変を感じ、つい見上げてしまった。

「ん?」

先ほどまでずっと雨続きだったはずなのに、そこには青々とした空が広がっている。

「わ、いつのまにか晴れてる!!」

気持ちいいぐらいの快晴を見て、ルシラは開けっ放しの玄関を振り返った。

「だいーん! おそとが晴れたよー!!」

そう声をかけると、「いまいくよー」、というダインの優しい声が返ってきた。

「ほら、ぽーちゃん、これがお外だよ? 下のじめんにあるのが土で、あの緑色のが葉っぱ。それで…」

ポーちゃんに外の世界を説明しつつ、虹を探そうと再び彼女は空を見上げる。

が、彼女の目に映っていたのは虹でも青空でもなく…、

「…あれ?」

こちらにとてつもないスピードで迫ってくる、黒く輝く巨大なレーザー光線だった。



「うるあああああぁぁぁぁ!!」

復活したシグは創造した槍を手にしており、ダイレゾの腹部へ深々と突き刺していた。

「ガ…ガ…」

ダイレゾは動きを停止させている。突き刺された箇所から大量の黒い血が噴出し、筋肉で膨れ上がった体が萎んでいく。

「っらあああぁぁぁ!!」

シグは槍を引き抜き、すぐさまそれを横に薙いだ。

ザンッという音と共にダイレゾの胴体と首が分かたれ、シグは止めとばかりに槍を振り下ろす。

胴体までもが真っ二つとなり、そこでダイレゾは悲鳴を上げることもなく地面に沈んだ。

「はぁ…はぁ…」

静まり返る封印地。聖力切れを起こしたカインは地面に膝を着いており、ロドニーとクレスは立ち尽くしたまま。

「どう、だよ…化けもんが…」

満身創痍のシグが吐き捨てるようにいったとき、ダイレゾの残骸は石化を始めた。

黒い肉塊から白い固体へ。

それは、最後の七竜であるダイレゾの討伐が完了した瞬間だった。

船上で遠巻きに見ていたガーゴ戦闘員たちから、わっという歓声が沸き起こる。

大ピンチからの逆転劇にマスコミたちも沸いているようで、その大拍手はしばらく止みそうになかった。



「…どう…して…」

自室にあるテレビ画面を前に、ラフィンは呆然としていた。

画面には、ダイレゾとの戦いによって生じた被害の様子が伝えられていた。

壊滅させられた森。丸ごと消滅してしまった山。

次々とダイレゾのブレスが落ちた地点を映し出していたのだが、最後に映された映像が、ラフィンにはすぐには理解できなかった。

本来、そこには村があったはずだった。のどかな、優しい村民しかいなかった村。

今朝まで彼女もそこにいたはずだったのだ。

なのに、そこには大きな穴が開いていた。

何の残骸もなく、ただ真っ黒なクレーターのみが広がっている。

「なんで…どうして…」

何度も同じ台詞を呟くラフィンは、画面に映されているもの全てが冗談にしか見えず、困惑している。

そのクレーターの近くには、ラフィンと同じように膝を崩している人物が映し出されていた。

その人物はテレビで中継されていることすら気付いていない様子で、彼女は…シンシアは、泣き崩れている。

遠くからの映像なので、彼女が何を叫んでいるのか分からない。

が、その映像は見る人々に強烈なインパクトを与えており、後に“悲劇”として世に知れ渡ることになるだろう。


ヴァンプ族の住んでいた村…エレイン村。

その小村が地図上から消滅するという“予想外な顛末”と同時に、長く続いた七竜討伐作戦は終わりを迎えることとなった。

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