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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百七十五節、デートの末に

カールセン邸の広いダイニングでは、テーブルの上に所狭しと様々な料理が並べられていた。

その品数は二十は超え、それぞれの国の郷土料理、そして創作料理も添えられている。

「はっはっは!」

賑やかで和やかな食卓の中、一際大きな笑い声を響かせていたのはジーグだった。

「いやぁ、美味い! 飯が美味くて酒も美味い! かような何でもない一日なのに、これほど楽しい食事会があっただろうか!」

沢山の料理に沢山の人。ジーグはかなり上機嫌の様子だ。

「おいしーよね!」

同調したルシラも麺を啜ってはご飯を食べ、魚介スープを飲んでサラダにがっついたりと、なかなかに忙しい。

「ルシラ、もう少し落ち着いて食べなさい」

シエスタがテーブルマナーをルシラに教え始め、サラはジーグのグラスに新たに酒を注いでいる。

何とも楽しげなカールセン一家だが、反対側にいたダイン含むシンシアたちは全員が無言のまま食事をとっていた。

料理は確かに美味しい。いつもなら料理談義で盛り上がるところだったが、彼女たちは全員顔が真っ赤になっており、食べる以外に口が開くことはない。

“五連続デート”が無事に終わり、夜になって予定通りカールセン邸に集合したまでは良かった。

風呂に入ってゲストルームで夕飯を待つ間、話題に上がるのは当然ダインとのデートのことで、感想を述べているうちに恥ずかしさが出てしまったようなのだ。

何といっても新鮮な出来事なのですぐにそのときの光景が思い浮かび、そしてニーニアが“隠し撮り”してくれた映像のおかげもあって、思い出を共有したシンシアたちはすっかり羞恥心にまみれてしまっている。

楽しい夕食会のはずなのに会話がなく、傍目には何か悲しいことでもあったかのようだ。

ぼそぼそと食べては「おいしいね…」と小声で感想を漏らし、気まずいことこの上ない。

「な、なぁ、切り替えていこうぜ!」

この微妙な空気を振り払うようにダインがいった。「まず俺たちがいまから考えなきゃなんねぇのは明日のことなんだからさ」

「あっ!? そ、そうよ!」

ラフィンが立ち上がった。「細かい打ち合わせをしておかないと! 失敗は命取りなんですもの!」

ダインは頷く。

「とりあえずこの間の特訓からダイレゾの動きを予測して、それから…!」

調子を良くしたラフィンは続けようとしたが、途中でダインと目が合った。

その途端に彼女が思い出してしまったのはダインとキスしたシーンで、彼の唇の感触や温もりが脳裏を掠めてしまう。

「…ぁぅ…」

弱々しい声と共に椅子に座りなおしてしまい、そのまま顔面を両手で覆う。

「ちょ、ちょっと、何で急に黙るのよ」

すかさずディエルが突っ込む。「あんなことぐらいで真っ赤になるんじゃないわよ。私の国じゃキスなんて…」

いいかけたディエルも数時間前の出来事を鮮明に思い出してしまったようだ。

チラリとダインに目を向けるが、そこでもまたバッチリ視線がぶつかってしまったようで、台詞の途中なのにしばし無言になり、何故かそのまま食事を再開し始める。

シンシアもニーニアもティエリアもまだ普通には喋れない様子だった。カールセン一家のほうは賑やかなのに、シンシアたちゲスト側では妙な緊張感で静まり返っている。

「可愛いからもうしばらく眺めてもいいんだけど、さすがに見てられないわ」

と、そのときシエスタが笑いながら割り込んできた。

「明日は朝早いんだから、ご飯はちゃちゃっと終わらせて早く寝ないと。作戦はもう決めてあるんでしょ?」

彼女は息子であるダインを見た。「とりあえず自分の身の安全を最優先に行動して、ラフィンちゃんの魔法が成功次第ダインが救出に動く…でいいのよね?」

「あ、ああ、まぁ…」

ダインはその通りだと頷く。

「え、ちょ、ちょっとざっくりしすぎじゃない?」

ラフィンが反応した。「もっとこう、隊列はどうするのとか、どんな魔法で足止めするのとか、細かく決めたほうがいいと思うんだけど…」

「いや、前からいってる通り、ダイレゾがどう動くかなんて分からない。分からない以上、形式ばった作戦は立てないほうがいい。臨機応変を心がけてくれたら後は何とかなるはずだ」

どうにか平常心を取り戻し、ダインは続けた。「各々ブレス対策だけは万全にしてくれてると思うから、後はぶっつけ本番でいこう」

「ぶっつけって…だ、大丈夫なの?」

「ああ」

「そもそも私、まだどんな魔法にするかも決まってないのに…練習だってろくにさせてもらえなかったし…」

またラフィンの中で不安が膨らんできたようだ。

「だ、大丈夫だよ、ラフィンちゃん!」

気を取り直したようにシンシアがいった。「今回はみんな揃ってるんだし、私たちならどんな作戦でも問題ないよ!」

「み…みんな…?」

そのときラフィンが思い出したのは、裏山で行った特訓の風景だった。

ピーちゃんたちと遊ぶシンシアたちの姿が浮かび、「いや、だからこそ不安なんだけど…」、とまた表情を暗くさせていく。

「ダイン君がいるんだもん」

どうにか顔の赤みを引っ込めて、ニーニアがいった。「だから大丈夫だよ、絶対」

「はいっ」

「そうね」

何度も頷くティエリアとディエル。

何が大丈夫なのか。どうしてそういいきれるのか、根拠となるようなものは何もない。

突っ込みどころしかなかったのだが、しかしこれまでダインが嘘をついたことはない。

彼が大丈夫というのなら大丈夫なのだろう。

「…はぁ、分かったわ」

ラフィンもそれ以上考えることはやめた。

「ぶっつけ本番ね」

「ああ」

「こういうこと初めていうけど…頼りにしてるから」

ダインはにやりと笑い、シンシアたちは満面の笑顔で「うんっ」と頷く。

そこで彼らはようやく普段どおりの調子に戻れたようだ。

どうでもいい話題が続いて笑顔も増えてきて、料理の減りも早くなる。

刺身の大皿が半分ほど減ったところで、「それで?」とラフィンが話題を変えた。

「ダイレゾ救出作戦が成功した後は、ダインは“ルシラ”の居場所を突き止める…んだったわよね?」

「そうだな」

サイコロステーキを頬張りながら、ダインはいった。「ある程度目星はついてる。今度もシャーちゃんに乗せてってもらうよ」

その“目星”がどこかは、シンシアたちにも伝わっていた。

「あの、私たちもいいかな?」

シンシアが期待のこもった視線できいた。「どんなところか気になるし、ルシラちゃんにも会ってみたいし…」

「ん〜、駄目ね」

答えたのは何故かシエスタだった。「もしかしたらその場所は危険な場所かもしれない。安全かどうかも分からない場所に連れて行けないわ」

「そうだな」

ダインが引き継いだ。「だから乗り込むのは俺だけだ。場合によっちゃ、“アイツ”を助けなきゃなんねぇことになるかも知れないし」

続けて説得しようとしたが、

「なんのはなしー?」

いきなりルシラが間に入ってきた。「るしらのこと?」

「ああ。“向こう”のお前のことだ」

彼女の頭を撫でつつ、ダインは笑いかけた。「もしかしたら、もうすぐ会えるかもしれないぞ?」

「えっほんと!? どんな子なのかな!?」

「まぁ間違いなくお前よりは年上だとは思うよ。同一人物だけどさ」

「どーいつ?」

ダインはルシラに、“ルシラ”がどういう人物なのかを説明している。

シエスタはそんな二人をちらりと見てから、

「…ねぇみんな。一つ気になることがあるんだけど」

と、シンシアたちにこそっといった。

「いま目の前にいるあの子と、息子が夢で会ってるっていう“ルシラ”が同じだっていうことは知ってるわよね?」

「え? あ、はぁ、まぁ…」ディエルたちが曖昧に頷く。

シエスタは続けた。「夢の中のほうがルシラの“本体”だとしたら、二人が出会った瞬間、いま目の前にいるあの子は吸収されて消えちゃったりしないかしら?」

「あ…」

彼女の懸念はシンシアたちをはっとさせた。

「た、確かに、元は一つの存在だとしたら、どちらかが消えてしまうのが自然ですよね…」とディエル。

「え…で、では、お二人が出会われたら、いまのルシラさんとはもう二度と…」

ティエリアは少しショックを受けたような表情だ。

「まぁそもそも、ルシラがどういった存在か未だによく分からないから、思う通りの展開にはならないとは思うけど…」

そう話すシエスタだが、表情はどこか難しそうだ。「だけどそういう悲しい展開も可能性として考えられるから、本当にダインを向かわせていいのか、躊躇いがあってねぇ」

ルシラを本当の意味で保護するためにも、彼女がいた居場所を突き止めるのは必要なことだ。

だがそれによってルシラがいなくなってしまっては、本末転倒になってしまうのではないか。

いまになって難問が立ちはだかったような気がした彼女たちだが、

「ん…それは大丈夫だと思います」

と、シンシアがいった。「消えることにはならないと思います。本体のルシラちゃんにはまだ会ったことも話したこともないですけど、いまのルシラちゃんがものすごくいい子ですから。そのルシラちゃんの本体も、きっと同じぐらいいい子のはずです」

それもまた、根拠のない話だった。

しかしシンシアの笑顔と屈託なく笑うルシラを見ていると、それ以上の根拠はないような気がしてくる。

「…確かにそうね」

だからシエスタも柔らかく笑い、なるようにしかならないと考えを改めた。

「…規格外、か…」

ラフィンがぽつりといった。「ダインもなかなかに規格外なのよね…」

「ん? どういうことよ?」

ディエルが顔を向ける。

「いえ、ダインも一応は魔法が使えるようになったから、気になってね…規格外の魔法のこと」

「規格外の魔法?」

どういうことだとディエルが尋ねるが、「あっ」とティエリアが声を上げた。

「“成長の魔法”ですね! 確かルシラさんから吸魔できるようになられたから、使えるようになったと以前お聞きしたことが…」

「ええ、そうです。ですから、その成長の魔法をどうにか応用できれば、“ミラクリ”に頼らなくても明日の救出作戦は安全確実に実行できるような気が…」

ラフィンがいいかけたところで、

「悪いが無理だな」

ルシラとの会話が終わったのか、ダインが割り込んできた。

「俺が使えるのは、あくまで肉体に限った成長ってだけだ。魔力を増幅したり何かを巨大化させたりとか、そんなチートみたいな魔法は使えないよ」

「え、そうなの?」

ラフィンは意外そうにいった。「あなたって魔法使えない割りに魔法自体に興味は持っていたようだから、てっきり応用とか色々考えたりしているもんだと思っていたんだけど」

「考えてはいた。少ない魔力で試してもみたが、成長を操れるだけで転用も応用も無理だったよ。それに仮に応用できたとしても、ルシラからはあんまり魔力を奪いたくはない」

「ん〜、確かにねぇ」シンシアは少し残念そうだ。

「成長を操る…」

ニーニアがちらちらダインを見ている。

「どした?」

ダインが視線を向けると、椅子から降りた彼女はちょこちょことダインの元へ近づいてきた。

「あ、あのね、その成長の魔法についてちょっとききたいことがあって…前から気になっていたんだけど…」

「ああ」

「その魔法って、植物やピーちゃんたち限定ってことでもないんだよ…ね?」

「え? あーどうだろ」

ダインは眉間に皺を寄せながら生春巻きを口にする。「そういや試したことないな。そもそも身近にそういう人がいないしなぁ」

それがどうした? というダインに、

「あの…い、いま、できないかな?」とニーニアがいった。

「へ?」

「わ、私に…」

「…ニーニアに?」

「う、うん。その、いまよりも大きく…」

「…大きく?」

それきりニーニアは黙り込んでしまう。

真っ赤な彼女は、何も身長を伸ばして欲しいといっているわけではない。ドワ族は大人になっても身長は小さいまま変わらないのだから。

なので、彼女が成長させて欲しいといっているのは体の“一部”ということで…、

「い、いや、な? だ、だから、肉体的な成長に限った魔法なわけでさ…」

ニーニアがどこの成長を希望しているのか、察したダインは説得した。「何でもできる魔法じゃないんだぞ?」

「で、でも、一応、“ここ”も肉体だよ?」

そういって彼女が押さえているのは、自身の胸だ。

「その、ぶ、部分的な成長ができるのかどうかも含めて、私で実験を…」

「じ、実験ってな、え〜と、その…」

ダインが困惑しているところで、

「は、はい! はい!」

突然ティエリアが手を上げた。「わ、私もいいでしょうか!?」

ダインとニーニアの会話が聞こえていたらしい。彼女もダインに詰め寄った。

胸を大きくする。

それは、平均以下のサイズしかない女性にとっては永遠のテーマだったのだろう。

「あ、私も立候補するわ!」とディエルまで身を乗り出してきた。

ダインはいつの間にかニーニア、ティエリア、ディエルの三人に囲まれてしまった。

「ダイン、好きなだけ実験してよ」

さぁ!、と彼女たちはみんな胸を強調するようにしてダインに迫る。

「そ、そういわれてもな…」

「別に減るもんじゃないしいいでしょ?」

「い、いや、失敗したときのダメージとかでかそうだし…」

「それでも構いませんので!」

「お、俺が構うんだって」

「お願い、ダイン君!」

コンプレックスを抱える彼女たちだけに、ダインに頼み込む姿からは必死なものが伝わってくる。

「も、問題しか発生しないような気がするから!」

どうにか彼女たちから逃れ、近くにいたシンシアとラフィンに駆け寄った。

彼女たちならば助けてくれると信じていたのだが、

「あ、そういえば、ダイン君に聞かなくちゃならないことがあったんだった」

シンシアが思い出したようにいった。「ダイン君は、その…胸が大きいのと小さいの、どっちが好きなのかな?」

…もはや食事どころではなくなってきた。

ジーグとサラ、それにシエスタは相変わらず楽しそうに酒を酌み交わしているが、ダインの周りにだけ明らかな不穏な空気が漂いだす。

「ダイン君の返答次第では、私も胸の“退化”を…」

…シンシアはもう駄目だ。

「ら、ラフィン!」

この場を収めるのは彼女しかいないと、ダインは助けを求めるが、

「………」

ラフィンは真っ赤なまま無言になっていた。俯き加減ながらもダインの方をちらちら窺っており、巨乳好きか貧乳好きか、彼の答えを心待ちにしているかのようだ。

「ら、ラフィン…」

頼みの綱が切れ、また彼は“お悩みチーム”のニーニアたちに囲まれてしまう。

「ダイン、どっちなの?」

「ダイン君」

「ダインさん」

何故身内もいる夕食の席で、胸の好みの話になってしまったのか。

「私たちは席を外したほうがいいかしら?」

顔をニヤつかせながらシエスタがいった。「いきなりここでおっぱじまっちゃうかも知れないし?」

「おっぱじめるか!」

ダインが突っ込む。

サラは珍しく絡んでこず淡々と食事をとっているが、表情には表れてないものの全身が小刻みに震えている。笑っているのだろう。

「くっ…お、親父!!」

この夕食会の中で、唯一の同性である父に助けを求めた。「親父、何とかしてくれ…!」

そう頼み込むダインだが…奥手なダインの親であるジーグが、果たしてこのような状況下で口を挟むことができただろうか。

それも相手は年頃の女子であるばかりか、話題は胸のこと。

センシティブな問題に捉えかねられない議題にジーグが何かいえることはなく、何を口走ったとしても余計にこじれることは目に見えている。それに妻シエスタからの折檻も怖い。

だから、「親父!」、というダインの救難信号に、

「…すまん」

苦渋の表情でそういうしかなかった。

そして存在を消すかのように、静かに夕食を食べ進めていく。

「親父ィ!!」

ダインはジーグに手を伸ばそうとしたが、横からディエルが掴んでそれを阻止した。

「さぁ、早く答えてよ」

“お悩みチーム”だけでなく、いつの間にかシンシアやラフィンも彼を取り囲んでいる。もう逃げ場はない。

「おっぱいはだいじなの?」

状況は悪くなる一方で、ルシラまで会話に参加してきた。「おっきいとかちいさいとか、男の人ってきになるものなの?」

「そうですね。女性の象徴でもある胸の大きさについて、殿方には様々に評価が分かれます」

すっと立ち上がり、専門家然とした口調でサラがいった。「年代、嗜好によっても変化するといわれており、その時々で大きいのが好きだったり小さいのが好きだったり、殿方もなかなか複雑なものなのですよ」

そう語ったサラだが、「へー」、という返事をするルシラは、いまいちよく分かってなさそうな表情だ。

「いいでしょう」

頷いたサラは、どこからかホワイトボードを引っ張り出してくる。

「胸の大きさもまた個性。それぞれにそれぞれの魅力があり、その魅力が殿方にどう影響を及ぼすのか。ルシラにも分かりやすいよう解説いたしましょう」

マジックペンを片手に、また妙な講義が始まった。

シンシアたちもダインに答えを迫ることは一時中断し、ホワイトボードの前に集まり始める。

彼女たちの純粋な興味を確認してから、サラはいった。

「大体の殿方には“手に余るほどの”豊満な胸がお好きだと思われがちですが、どの胸にも一定の需要はあるのです。小さければ小さいなりに体のラインがはっきりとしますし、逆にないほうが燃えるという意見もある程度存在します」

「へー、ほんと!? だいんはどっちなのかな!?」

「ダイン坊ちゃまの場合は、幼少期ですと大きいほう、成長するにつれ慎ましいお胸にも目がいくようになることがありまして、同年以下の女性にまで視線を奪われることがございました。これを私はロリ期と呼んでおり…」

ダインは逃げ出したかった。

が、彼を囲むシンシアたちがそれを許してくれず、強硬手段に出ようものならシエスタが無理やり椅子に座らせ阻止してくる。

ホワイトボードにはダインの昔の写真が次々に貼り出されていき、サラはそのときの趣味嗜好まで暴露し始めた。

ダインにとってはまさに地獄のような時間で、しかし逃げ出すことも適わず、ジーグは完全に存在を消している。

リビングの片隅で固まってご飯を食べていたピーちゃんたちは、食事に夢中で我関せずという態度だ。

ダインはシンシアたちのちらちらした視線をただ受けるしかなく、羞恥心の極みにまで達しようとしていた。

「理性の育ちきってない少年時代におかれましては、酷いときにはロリ期と“デカパイ期”が一ヶ月ごとに切り替わる時期もございまして、お胸の感触に似たものを探し回っていたり、時には創作したりと、それはもう女性の胸に対する興味は尽きることがなく…」

…ゴリゴリ削られていくダインの精神。

地獄の時間はまだもうしばらく続きそうだった。




━━━━




月明かりの届かない真っ暗な森の中、獣道を音もなく駆け抜ける男二人の姿があった。

モンスターが気配を察知できないほど静かに走る彼らは黒い装束を身に纏っており、その身のこなしから相当な手練れだということが窺える。

「…着いたぞ」

やがて男の一人がいい、そっと足を止めた。

彼らが立ち止まった前には、一軒の大きな屋敷があった。

現在は夜更けといってもいい時間だ。屋敷の中はどこも真っ暗で、男二人は足音を殺しつつ、屋敷への侵入経路を探っていく。


………


“用件”を済ませた男たちは、再び来た道を戻っていた。

静まり返った道を抜け、“エレイン村”という看板があった門をくぐり、道なき道を駆けていく。

そうして村から二キロほど離れたとき、

「…くく」

周囲に誰もいないことを確認し、男の一人は思わずくぐもった笑いを漏らしてしまった。目だけがくり抜かれた仮面の下では笑みが浮かんでいる。

「拍子抜けだな」

彼と同じように、片割れの男も喜色の混じった声を出す。「大金を積まれたからどれだけ危険な仕事かと思いきや、な」

「“持たざるもの”の一族なんだろ? 始めから警戒する必要なんざなかったんだよ」

走りから歩きに切り替えた男たち。

一人の男の背には、屋敷に侵入したときにはなかった大きめの風呂敷が背負われていた。

「ガキ一人攫うなんて、“オニワシュウ”の我々にかかればちょろいもんよ」

そういって、男は取得物を改めて確認するため、背負った風呂敷を前に回し、少しだけ布を開ける。

そこには、彼らの目標物であり、屋敷の中に眠っていたはずの女の子…

━━ルシラの顔があった。

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