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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百七十四節、『ディエル・スウェンディ』

ディエルが指示した集合場所は、ディビツェレイド大陸西側の海岸だった。

“ゴールデンビーチ”という地名の通り、その扇形に広がった海岸は砂浜も海辺も太陽の光を受けて、黄金のような輝きを放っている。

間もなく夕方になるので、その輝きはさらに激しいものになることが予想され、そのためか砂浜を歩く人はカップルが多い。

そんなロマンチックな海岸の出入り口に、肩を露出させたドレス風ファッションに身を包むディエルが立っていた。

彼女と落ち合ったダインは、早速ディエルの可愛らしい服装にコメントしようとしたのだが、彼は口を開いた状態のまま固まっている。

ディエルが掲げてみせる携帯の画面を直視し、その内容に驚いて硬直しているようだった。

「え…と…?」

ダインはようやく反応しだす。「あの…これは…?」

声をかけても、ディエルは携帯をダインに見せたまま動かず、彼の反応をじっと窺っているようだ。

「あの、ディエルさん、その画像は一体…?」

ディエルが見せてきた画像は、“五連続デート”の締めにあたる場面だった。

シンシアとはキスをしており、ニーニアとは抱き合っていて、ティエリアとは“マナ・コンタクト”の真っ最中。眠っているダインに、ラフィンがそっと口付けしている。

それら印象的な場面を加工アプリか何かで結合しており、ダインに見せ付けていた。

「な、なんでこんな画像があるんだ?」

恐る恐る尋ねてみる。

「ミレイアのときに使ったやつと同じものらしいわよ」

と、ディエルはニヤリと笑ったまま答えてくれた。「肉眼で見えないドローンだっけ? みんなの初デートの記念にって、ニーニアが気を利かせて撮影してくれていたらしいの」

「ど、ドローンか…」

確かに気配はあった。まさかあんな場面を撮影されているとは思わなかったが…。

「で、それを俺に見せて何をしろと…?」

問いかけると、彼女は携帯をしまいつつ、「全部盛りでお願い」といった。

「え?」

「私って結構欲張りだから。こういうの見ちゃうと、全部やってみたくなっちゃうのよね」

つまり、これまでのデートの締めを全部やれといっているのだろう。

いかにも欲望に忠実なデビ族…いや、ディエルらしい要求だ。

「ま、まぁ、そういう雰囲気になればな? さすがにこんな人目のつく場所でできないだろ」

冷静にダインはいって、「とりあえず何をするんだ?」と尋ねる。

「本当はものすごく美味しいレストランでディナーを洒落込みたいところだったんだけどね」

ディエルは少し残念そうにいった。「でもこの後みんな集まって晩御飯でしょ? さすがに先に食べるわけにはいかないか」

「まぁ仕込みも済ませてあるしな。今頃みんな準備してくれてるはずだ」

そこで、はぁ、とディエルからため息が漏れる。

「じゃんけんで勝ったけど、選択間違えたかしら」

今更悔やみだしたようだ。「夕方って一日の中で一番ロマンチックだと思うんだけど、時間が短いから損か得かでいえば損してるわよね、これ」

「いや、まぁでも、海岸ってのはいい選択だと思うぜ」

ダインは笑いながら手を差し出した。「夕方の海岸ってのはロケーションとしちゃ最高じゃん。だからこんだけ人がいるんだろ」

「あまり他人と同じことはしたくないんだけどね」

ディエルはそういいつつも、ダインの手を掴む。「ま、“一般庶民”として楽しんでみましょうかしら?」

お金持ちなお嬢様感を醸し出したディエルに、ダインは「今更なにいってんだよ」、とまた笑ってしまう。

そして二人は手を繋いだままビーチに繰り出した。

ちょうど太陽の色が濃くなりだしていた時間だった。水平線のやや近いところに太陽があり、眩しいまでの光がビーチのあらゆる物を照らしている。

夜が近いということもあって、砂浜ではテントやパラソルが次々と片付けられていく。今日は何を食べようかと、家族連れが帰路につきながら笑顔で話し合っていた。

ビーチに残っていたのは数人のサーファーと、後はダインたちと同じく夕日を待つカップルたちだけになった。

「は〜、磯の匂いって、何だかいいわね」

まばらになった人たちを眺めながら、ディエルはいった。「海に来てる! って感じがするのよね」

「そのまんまじゃん」

ダインは笑って、砂浜を踏みしめてキュッキュッという音を響かせた。

「まぁ俺も海…っつーかビーチは好きだけどな」

「そうなんだ?」

「ああ。なんかボーっとしてても罪悪感がないっつーかさ、ずっと見てられるんだよな。海を」

ダインの言葉に、ディエルは笑いながら「そうそう」と同意する。

「確かに、ボーっとしちゃうわよね」

ふと足を止めた彼女は、水平線の遠くを見つめだした。

「嫌なことがあったときとか、よくここに来てぼけーっとしてたなぁ…」

何かを思い起こしているような横顔だった。

「そうか」

ダインも頷いたきり、特に何もいわず同じように海側に目を向ける。

しばらくお互い無言になってから、

「…え、それだけ?」

何故かディエルから意外そうな声が上がり、ダインを見た。

「どんな嫌なことがあったのかって、普通尋ねないかしら?」

そう話す彼女こそ、ダインには意外に聞こえた。

出合ったばかりのディエルなら、“上辺だけ”の会話しかせず必要以上の接近を拒んでいたはずなのに。特に過去のことなど、絶対に話さなかったはずだ。

「嫌な思い出なんだから、根掘り葉掘りきくもんじゃねぇだろ」、とダイン。

「別にあなたなら構わないんだけど」

と、ディエルはあっけらかんといった。「それに、私だったら知りたいわよ? ダインの嫌な思い出」

「俺のって…知ってどうするんだよ」

「どうもしないわ。ただ知りたいだけよ。だってそういうものでしょ?」

落ち始めた太陽をバックに、ディエルはダインに身体を向けた。「好きな人のことは何でも知りたくなっちゃうじゃない」

…少し、間が空いた。

やがて告白されていることに気付いたダインは、「え…」と徐々に顔を赤くさせていく。

「シンシアたちから一歩遅れちゃったからね」

固まるダインに向け、ディエルは続けた。「あなたと初めから仲が良かったシンシアたちとは違って、私は一歩遅れてるから。だからどうにかしてその遅れを取り戻したいの」

「い、いや、早い遅いの問題じゃないような気がするんだけど…」

「ふふ、そうかもしれないけど、でもあなたのことを何でも知りたいと思ったのは本当よ?」

ディエルはいった。「あなたのいまも過去のことも、それにヴァンプ族のことだって。あなたの全部を知って、もっと好きになりたいの」

だから、と彼女は続ける。「私のことも知って欲しい。中には悪いこともあると思うけど、私の全てを知って、その上であなたの本心をきかせて欲しい」

「ま、まぁ、それは話が長くなりそうだから、後の楽しみに取っておくよ」

ダインはそういって、「それより明日は大丈夫なのか?」と半ば無理やり話を逸らせた。

「本当だったらディエルは戦う必要のない相手だ。お前にメリットは何もないんだぞ?」

「ええ、そうね」

「それに相手は死の属性を持つドラゴンだ。怖くないのか?」

「好きな人のためだもの」

ディエルはまた話を戻す。「あなたのためだったら、ダイレゾの中にだって飛び込んであげる」

少しメンヘラじみた台詞に聞こえた。

「ちょ、ちょっと重たくないか?」

死んでもいいという意味に捉えたダインは、若干引き気味だ。

「そうかもしれない」

ディエルはあっさり認めた。「どうも私、こう見えて重たい女みたい。いま知ったわ」

太陽の輝きはさらに強くなり、黄色からオレンジ色に切り替わっている。

黄金色の光と波音を全身に受けつつ、「うん、本当に私、重たいみたい」とダインから少し離れていった。

「ディエル?」

「…ね、ダイン。手っ取り早く私のことを知ってもらうために、少しだけ付き合ってくれない?」

「ん? どういうことだ?」

ダインが詳細を尋ねた、そのときだった。

ディエルの頭上…十メートルほど先に、巨大な炎の塊が浮かんでいたのだ。

それは燃え盛るような音を立てており、まるでもう一つの夕日がそこにあるかのようだ。

「…は?」

ダインは思わず裏返った声を上げてしまう。

「いまの私の全力よ」

炎の塊を作ったディエルは、ダインに向けて笑顔でいった。「私の愛…受け止めて☆」

振り上げていた手を下ろす。

と同時に、その頭上に浮かんでいた巨大な炎の塊がダインに向け迫ってきた。

「ちょあっ!?」

ダインはすぐさま飛び退いて、その塊を避ける。

それは砂浜と接触し、蒸発するような音と共に巨大な穴が開いてしまった。

「ちょっと」

ダインが避けたのを見て、ディエルは表情に不満を浮かべる。「どうして避けるのよ。受け止めてっていったじゃない」

「こんな雰囲気の中でいきなり攻撃する奴がいるか!!」

ダインは突っかかる。「何したいか分からねぇが、周りに人がいるんだぞ!?」

そう彼がいうが、「いないわよ」とディエルは答えた。

「ラステたちが人払いを済ませてくれたわ」

「え…?」

ダインはすぐに周囲を見回す。

彼女のいう通り、ダインたちの周囲だけでなく、ビーチ全体のどこにも人の姿がいなくなっていた。

「だから少しだけ付き合って」

ダインを真っ直ぐに見据えたまま、彼女は続ける。「シンシアのように創造魔法が使えなくて、ニーニアやティエリア先輩のように料理が得意なわけでもない。私には“これ”しかないの」

身構え、腰を深く落とした。

「“これ”しかできない私の全力を受け止めて。そして知って欲しいの。私という存在を」

地面を踏みしめ、ダインに向けて突進を始めた。

風の魔法で勢いをつけたのか凄まじいスピードで、「うおっ!?」とダインは驚きつつ咄嗟に身をかわす。

ディエルが通り過ぎていき、その進路上には炎の道ができていた。

「はあああぁぁぁ!!」

たじろぐダインに向けてディエルは再び彼に突進し、ぶつかる寸前で拳を突き出す。

彼の腹部を捕らえようとしたところでダインは身をかわし、空を切った彼女の拳から凍てつくような冷気が発せられ、巨大な氷塊を形作った。

「ちょ、ちょっと理解が追いつかないんだが!?」

デートからいきなりバトルが始まってしまい、ダインは混乱している。

が、その間にもディエルはお構いなく蹴りやパンチを繰り出す。

ダインが避けてはディエルは追いかけていき、距離が開けば魔法で追撃した。

まさに雨のような手数と魔法の多さだった。

多属性を楽に扱えるディエルの魔法は多岐にわたり、避けるダインに岩石やカマイタチ、火柱や氷の矢が次々と襲い掛かってくる。

ディエル本人がいっていた通り、彼女はいまの実力の全てをダインにぶつけようとしていたのだ。

彼女にはスウェンディ家というプライド以上に、かつて戦闘民族であり、多くの種族を震え上がらせてきたという“エンド族”の末裔だという強い想いがあった。

何の才能も特技もない自分というものを、彼女は戦闘スキルを磨くことによって表現しようとしていたのだ。かつてラフィンのライバルだと公言し、彼女に対抗できる唯一の手段だと考えていたこともある。

粉骨砕身の思いで彼女が磨き上げたエンド族としての才能は、間違いなく非凡なものだった。

ダインに次々と繰り出される魔法は派手な上に強力で、海岸は凍り、砂浜にはいくつもの穴が開き、かわし続けるダインを攻撃魔法の物量で圧倒していく。

「せっかくの可愛いドレスが汚れちまってんぞ!」

心配してダインが声をかけるものの、あえて無視したディエルはさらに手数を増やしてダインに襲い掛かる。

魔法も派手になっていく一方で、そろそろダインも避けきれなくなってきた。

「はああああああぁぁぁ!!」

一瞬の隙を突いてダインの懐に潜り込むことに成功したディエルは、今度こそとばかりに、渾身の一撃を彼の腹部に当てる。

(ドッ…!)

拳が彼の腹部を確実に捉え、そして風の魔法で空気を爆発させた。

大きな破裂音と共にダインは衝撃波によって遠くまで弾き飛ばされ、彼の体が放物線を描きながら落ちていく。

砂浜に落ちたダインから砂埃が高く舞い上がった。

ディエルが身構え、再び突進しようとしたとき、

「…なるほど」

砂煙の中、ダインはのそりと身体を起こす。

「つまり、俺はお前の“愛”を真正面から受け止めればいいのか」

静かに彼はそういったが、立ち上がったダインの全身から、気配が少し変わったような気がした。

「始めからそういってるで…っしょ!!」

ディエルは巨石のような氷塊を作り、ダインに投げつける。

避けようとしなかったダインはそのまま全身に直撃を受け、同時にガラスが割れるような音と共に氷塊が砕け散った。

「分かった」

短くいったダインは息を吸い込み、吐き出す。「受け止めてやる。好きなだけ来い」

そして彼は一歩ずつ地面を踏みしめ、ディエルへ向けて一直線に歩き出した。

構えていたディエルは両手を大きく広げ、ダインに向けて突き出す。

「インフェルノブレス!!」

風と炎を融合させた魔法を放った。

それはまるで火炎放射のような、超高温の掃射魔法だった。

激しく燃え盛るような音が周囲に鳴り響くが、真っ赤に燃え上がる灼熱の炎の中、ダインの足は止まることなくディエルに迫ってきている。

「くっ!!」

効果がないと判断したディエルは、今度は海を凍らせた。

半径一キロ。重さは数百万トンは超えているかもしれない。

「アイシクルインパクトッ!!」

とてつもなく大きな氷塊がダインに直撃する。凄まじい衝突音がしてまた砂浜の地面が窪むが、ダインの歩みに止まる気配はない。

崩れる足場を身軽に飛び越えつつ、またディエルに迫っていく。

ディエルはすぐさま地面に両腕を突きたて、そのまま念じた。

するとそこから岩石が飛び出した。それは瞬く間に大きな槍を形作り、切っ先がダインへ向けられる。

「タイタン…ストライクッ!!」

目にも止まらぬスピードで放たれ、それはダインの腹に直撃する。

当たった途端に岩の槍は周囲の地気を集め、ダインごと石化を始めた。

巨大な岩石となって一瞬無音になるものの、その巨石にひびが入りだす。

岩石に包まれた中、ダインが腕を振ったのだ。

軽く振り払うような動作をしただけなのに、その巨石は一瞬にして粉々となる。

そしてダインはまた歩き出す。お互いの距離はもう五メートルもない。

「はあああぁぁぁぁ!!!」

迫ってくるダインに向け、ディエルは次々と全力の攻撃魔法をぶつけていく。

氷塊、火球、風圧波、岩石に、爆裂魔法や電撃の魔法、竜巻。

どの魔法も、一般人が受けたら大怪我を負っていたところだ。

が、ディエルの全力の魔法をダインは平然と真正面から受け止めており、服は裂けているものの素肌に一切のダメージは受けない。

戦闘の激しさに、ディエルがつけていた髪飾りが落ち、ドレスの裾は破れ、ズタボロになっていく。

それでも全身全霊の魔法をダインに放ち続ける。

爆発魔法を受けても彼は無傷で、迫る火球は素手で受け止め、海へ放り投げて蒸発させる。無数のカマイタチにも一切動じることはなく、岩石は殴って破壊し、足が凍らされても一瞬で氷が砕け散る。

高威力の魔法をダインは悉く受け止めては弾いていき、歩く足は全く止まらない。

残り三メートル、二メートル。

彼から攻撃はなく、ただ単にこちらに歩いてきているだけなのに、ディエルには彼の存在がとてつもなく巨大なものに見えてきた。

どんな魔法も彼には全く効かなくて、何をぶつけても押しのけてもダインは動揺一つ見せない。

ヴァンプ族━━“持たざるもの”と揶揄されることのあるその種族の、底知れぬ力をディエルは垣間見たような気がした。

そして残り一メートルになったとき、ディエルはとうとうたじろいでしまった。

ダインが目の前にやってきて、ようやくその足が止まる。

「あ…」

ディエルは動くことができない。

万策尽きた上に、立ちはだかる彼がまるで別次元の存在に見えてしまったのだ。

「終わりか?」

ディエルを見下ろしつつ、ダインはいった。

「じゃあ次は俺の攻撃ってことでいいのか?」

彼はおもむろに両手を広げる。

デート中の突然の粗相に、いい加減怒っているのではないかとディエルはつい身構えてしまった。

が、彼がとった次の行動は、ディエルをぎゅっと抱きしめることだった。

「わひゃっ!?」

まさか抱きしめられるとは思ってなかったようで、ディエルから妙な声が上がる。

「じゃあ攻撃させてもらうな?」

「え?」

ディエルを抱いたまま、ダインは“攻撃”を始める。

「うひっ!?」

体の芯から“何か”が抜かれるように感じ、ディエルはまた悲鳴を上げてしまった。

「ほああああああぁぁぁぁ…!?」

全身から力が抜けていき、目を白黒させながら全身をぶるぶる震わてしまう。

ダインがとった攻撃とは、吸魔のようだった。

一瞬で力を奪われたディエルは立つことができなくなり、そのままへたり込んでしまう。

「っと」

後ろに倒れそうになったので、慌ててダインが支えた。

「まだやるか?」

彼は腰砕けになったディエルに笑いかける。

あれだけの攻撃魔法を受けて服も破けたり焦げたりしているのに、素肌にはやはり傷一つついてない。

彼の突き抜けるほどの涼しい顔を見たディエルは、

「ふ、ふふ…ふふふ…あははは!!」

突然笑い出した。

「あはは! ほんと、強いわね、あなた。訳分かんない強さだわ、相変わらず」

清々しい笑い声だった。

ひとしきり笑った後、やや声のトーンを落とし、「でも」、と続ける。

「でも、そんな強いあなたが私を頼ってくれた。力を貸してほしいといってくれた」

力の入らない腕を伸ばし、ダインの頬に手が添えられる。

「私はね、嬉しいの。スウェンディ家という家柄関係なく、あなたは私自身を見ていってくれたから。私自身に対して、力を貸してほしいといってくれたから。だからあなたに協力したい。あなたの力になれるのならなんだってするわ」

台詞の通りに嬉しそうな顔だった。「私の愛をちゃんと受け止めてくれたしね?」

「お前の愛は結構激しいんだな」

ダインも笑う。「戦うことで分からせようだなんて、昔のドラマやマンガじゃあるまいしさ」

「でも分かったこともあったんじゃない?」

ディエルは笑顔のままきいた。「私が私というものを表現できるのはこういう方法しか思いつかなかったから。あなたはバカと思うでしょうけど」

「いや、そんなこと…あるな」

「ちょっと!」

すぐに突っ込んでくるディエルだが、ダインはずいっと間近から彼女を睨みつけた。

「ミーナを心配して同じ学校を選ぶほど友達想いだし、性格が合わないといがみ合いながらも、影ではラフィンを心配していた。俺たちを巻き込みたくないからって理由で、ミレイアのときはあえて俺たちから距離を置こうとしていた。その三つの情報だけでお前がどれほどいい奴か分かるし、戦い“しか”ないっていうお前の自己評価は間違ってんだよ」

気付けば夕日は海岸線に面しており、周りは濃いオレンジの色に包まれている。

まさしく“ゴールデンビーチ”たる景色の中、やや呆れた顔でいたダインは続けた。

「お前は頭が良くて、シンシアたちのように思いやりのある優しい奴なんだよ。こんなバトルまがいのことおっぱじめなくても、俺は最初から分かってたっつーの」

ディエルの額をぺちりと叩いた。

「あいたっ!?」

「ったく、デビ族っつーのは…いや、ディエルは回りくどくてめんどくさいヤツだよ」

「む、むぅ…」

ディエルは無言のまま自身の額を撫でる。

「お、いまめちゃくちゃいい夕日だぞ」

海岸に目を向け、彼は笑顔になった。「確かにここから見る夕日はいいな。こんな景色見たのどれぐらいぶりかな」

沈みかかった夕日に見とれているダインを、ディエルは静かに見つめている。

「…ね、ダイン」

彼に支えられたまま、ディエルはいった。「キスして」

「え…」

ダインはすぐに下を向いて、ディエルに戸惑ったような表情を向ける。

そのリアクションに納得がいかなかったのか、「何よ」とディエルは頬を膨らませた。

「ほんとはエッチしてっていってるところなのよ? それを我慢して、キスで許してあげるっていってるの」

「い、いや、え、エッチってな…」

「私はあなたに負けたの。戦いで男が女に勝ったら、女を好き放題するっていうのがエロマンガの王道なんでしょ?」

「き、きかれても…」

「私だっていつまでも若くないんだから。いまが“食べごろ”だと思うんだけどね」

「お、お前な…じゃあ仮に俺がお前に負けてたらどうしてたんだよ」

「もちろん襲い掛かってたに決まってるじゃない」

「お前はそれしかねぇのかよ!」

突っ込んだとき、海岸からやや大きめの波がやってきた。

波打ち際にダインたちはいたので、ディエルごと安全地帯へ移動しようとしたものの、途中で足をもつれさせてしまう。

「きゃっ!?」

悲鳴を上げるディエルと一緒に砂浜の上に倒れてしまい、結果彼女に覆いかぶさるような形になってしまった。

「あ…」

ディエルのすぐ真上にダインの顔がある。

「え…と…」

キスだエッチだといっていたはずなのに、ディエルは急に大人しくなった。

視線が忙しなく動き、両足がもじもじしている。

「どうしたんだよ」

彼女の心の変化を感じ取ったダインは、にやっとしてきいた。「さっきまで威勢のいいこといってた割には真っ赤じゃねぇかよ」

「う、ううううるさいわね!」

噛み付いた。「きゅ、急に迫られたからビックリしただけよ! 近すぎるとか、唇柔らかそうだとか、全然思ってないから!」

天邪鬼。

いまのディエルを表現するなら、その単語が一番しっくりくる。

「…やっぱ可愛いな、お前は」

思わずダインはいってしまう。

「へぁ…!?」

またビックリするディエルだが、反論の言葉は出てこない。

いや、出せなかった。なぜならダインに唇を塞がれていたからだ。

「んん…!?」

ディエルはまた驚いた声を上げるが、その声もダインの中に吸収されてしまう。

つい数分前までド派手な魔法でダインを圧倒していたはずが、ダインの反撃とばかりの不意打ちのキスだけで、彼女は一瞬にして身も心も陥落させられてしまったようだった。

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