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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百六十三節、絆の魔法

「ダインにーちゃん、またなー!」

ダインに向け、数人の男の子たちが手を振りながら走り去っていく。

「こけんなよ〜」

手を振り返しながらダインがいうと、

「彼女連れのダインにーちゃんこそなー!」

という返事が返ってきた。

「…マセてんな」

ダインはそういって笑いながら、隣に立っていたラフィンを見る。

地元に愛されている激安スーパー『マゼリア』を出たばかりの彼女の手には、アイスキャンディーとトロピカルジュースが入った紙コップが持たれていた。

「よ、良かったのかしら…」

彼女の学生カバンには沢山のお菓子が詰められており、少し困惑した様子だ。「子供たちに混じってこんなにお菓子もらっちゃって…」

彼女祝いだとか何だとかで、ダインの顔見知りだった店員が沢山オマケを付けてくれたのだ。

他にも色々からかわれラフィンは真っ赤になるかと思っていたのだが、初めて見るエンジェ族だと子供たちにわっと囲まれ、それどころではなかったのだろう。

「この村に客なんてほとんど来ないからな。おもてなしみたいなもんだから、素直に受け取っとけ」

ダインはそう笑いかけ、「歩きながら食おうぜ」、と歩みを進める。

「あ、歩きながらだなんて、ちょっと行儀悪くない?」

「買い食いってのはそういうもんだ」

ラフィンを横に並ばせ、夕方前の村の風景を眺めながら適当な場所を歩いていった。

村の工芸品を作っている工房前のベンチでは、機械油にまみれた職人たちがたむろしており、笑い声を響かせながら今日の終業を待っている。

百メートルもない短い市場通りでは主婦と思しき女性が行き交っており、露店にある野菜や魚を前に真剣に献立を考え込んでいる。

公園近くには大きめの池があり、子供たちが水遊びに興じている。

広い田んぼに木組みの民家。どこを見ても、のどかな田舎の風景そのもので、夕日の光と相まってなんともノスタルジックな気分に陥った。

「いいところね…」

水車小屋の近くにあったベンチに腰を降ろしつつ、ラフィンが率直な感想を漏らす。

「聞こえてくる音が全部静かで、どこか優しくて…ずっとこうしていられそう…」

子供たちの楽しげな笑い声に、さらに遠くからは何かを建築中なのか、トンカチで木を叩く音がする。

「この良さが分かるのか」

ラフィンのすぐ隣に腰を降ろし、ダインは笑った。「金箔まみれの建物とか宝石で出来た道とか、ラフィンならそういったもの沢山見てきてそうなのに」

「だからこそ、なのかしら…」

ラフィンは呟くようにいった。「派手すぎるものを見過ぎてきたから、こういうなんでもない風景が特別輝いて見えるのかも…」

「なるほどな」

板チョコを割って食べながら、ダインは頷く。「レベルアップしたな、お前」

「え、そ、そう?」

「ああ。悪いことも覚えたしさ」

ラフィンが手に持っているチュロスを指摘した。「買い食いはなかなかの校則違反だろ」

「な…!? だ、だってこれはあなたが…!」

反論しかけたが、「うまいだろ?」、というダインの切り返しに、「え、えぇ、まぁ…」、と素直にそういった。

それこそ色々贅沢なものを食べてきて舌も肥えているはずなのに、彼女はジャンクフードに近い駄菓子を美味しいといいながら食べている。

「…あなたと再会するんじゃなかったわ」

嘆息し、ツンとした表情で彼女はいった。「なんでもない景色に感動させられたり、買い食いとか外泊とか、悪いこと色々教えられて…学校じゃ模範的な生徒で通ってるのに…」

文句をいってはいるが、後悔してるような素振りは一切感じられない。

「俺は提案してるだけだ。元々ラフィンにはそういう一面もあったってことだろ」

ダインは始終笑顔だ。「というかいまのお前が本当の姿なんだし、そういう“地”を学校でも出せたらもっと友達できるはずだって、前にもいったと思うんだけどな?」

少しからかうようにいったが、ラフィンから返事はない。

無言のまま残ったチュロスを頬張り、ジュースで流し込んでから、

「別に…素顔を見せるのは、あなたの前でだけで、いい…」

そういった。

顔は地面に向けられたままで、その頬は赤い。

「やっぱ可愛いな、お前」

思わずダインはいってしまう。

「か、からかわないでよ」

案の定な返事が返ってきた。

「嘘じゃねぇよ」

ラフィンを見つめるダインの表情は優しげなものだった。「ツンツンしてるように見えて素直で、でも芯が強くて意地っ張り。可愛くないなんて思う奴はそういないと思うぞ?」

思わず手を伸ばし、彼女の頭を撫でてしまう。

「うひゃっ!?」

ラフィンは飛び上がって驚いた。

「伝わってるんだろ? 俺が嘘ついてないってことさ」

エンジェ族の髪は敏感すぎて、触れてくる人の思念を少しだけ感じ取ることができる。

以前ラフィン本人からきいたその説は間違いなかったようで、彼女の顔の赤みはますます強くなっていった。

「そ、そそ、そんなことよりも!」

突然大きな動作で上半身をこちらに向け、真っ赤な顔のままダインを真っ直ぐに見た。

「魔法力の循環…だっけ? あれ、ほんとにできるの?」

そういってきた。「みんなの魔法力を一つにするなんて、そんなこと…」

「できる…っていうか、できたな」

ダインは簡単に答える。「ヴァンプ族の中でも前例はないらしいけど、なんか自然とさ」

「そ、そうなの…」

ラフィンは何やら考え込んでいる。

「どうした?」

「いえ、その…もし本当に魔法力の循環と融合ができるのだとしたら、その融合された魔法力は“無属性”になるのかしらと思って…」

「無属性?」

「個人が体内に宿している魔法力には、それぞれの“属性”が備わっていることは知っているのよね?」

ラフィンはきいた。「光、闇と種族ごとに使える魔法が決まっていて、さらに各々得意分野がある。魔法力は血液のようなものだっていうことは、知ってる?」

「ああ。知ってる」

ダインは続きを促す。

「それで、ダインを介せば個人の“色”がついた魔法力は無色透明…つまり“無属性”になるっていうこと。循環される魔法力は、あなたというフィルターを通して色がなくなる。ここまでは分かるでしょ?」

「分かる」

ダインが頷いたところで、ラフィンはまた考え込んでしまった。

「無属性だからどうだっていうんだ?」

ラフィンの思考を覗き込もうとする彼に、

「…あくまで仮説よ」

ダインにそういって、彼女は食べ終えたアイスの棒を手に、それを土の地面に向けた。

「例えば、この一定の範囲内が私が所有している聖力だと考えて」

棒を使って、何の変哲もない地面に四角い線を描いていく。

「見て分かる通り、この範囲内には小石や雑草があるわよね?」

「ああ。あるな」

「この小石や雑草が、私の属性だと考えて。私はこの小石や雑草の魔法しか使えないの」

そして、と、今度は彼女は別の地面を棒で指し示した。

そこは道路の工事か何かでどかされたのか、白くさらさらした砂が散らばっている。

ラフィンは、その砂しかない地面を棒で四角く囲んだ。

「それで、これが無属性の魔法力。石も草もない」

「そう、だな」

「…ね?」

ラフィンはそのままダインを見上げた。

「ね…って?」

しかし彼女が何を言いたかったのか分からず、首を傾げてしまう。

「分からない?」

見上げるラフィンの表情は、少し得意げだ。「無地の地面。何ものにも染まってない無属性の魔法力。無地っていうことは“何でも”書き込めるということ。無色透明の液体には好きな“色”を混ぜられるということ」

「…ん?」

「小石と雑草が散乱する地面には何も描けないし、色が混ざった液体にも別の色は受け付けられず、返って黒ずんでしまうわ」

そこまできいて、ダインは何となくラフィンがいいたかったことが分かってきた。

がしかし、それはあまりに荒唐無稽な“仮説”に聞こえ、

「いや…するってーと、何か…?」

ダインは恐る恐るといった感じにきいた。「無色透明の無属性の魔法力を使えば、好きに色を付けられる…つまり好きな魔法を“創れる”ってことをいいたいのか?」

「そうよ」

ラフィンは頷く。「無属性というのは、それだけ無限の可能性を秘めているということ。“理論上は”何でも出来る力のはずなのよ」

「いやいや、無理だろ」

ダインはすぐに否定した。「神でもないんだから、魔法を創るなんてそんな大それたこと…」

「でも試してみる価値はあるわ」

立ち上がってダインを見つめる彼女は、真剣な眼差しをしていた。

「魔法を創ることができれば、ダイレゾを安全に救出することができるかもしれない」

ダインはハッとする。

ラフィンは、ダイレゾに対抗する手段を考えてくれていたのだ。

魔法を創るなど、まるで夢物語か、年端もいかない子供が思いつきそうなトンデモ理論だが…しかし魔法に精通したラフィンがいうのだったら信憑性はある。

「とりあえず私の理論が成功するかどうかだけでも試してみない?」

「え、ここでか?」

「ええ」

辺りはすっかりオレンジ色に染め上がっている。

遠くで遊んでいた子供たちもいつの間にか帰宅しており、ラフィンの世話係であるサリエラが迎えに来るまで、もう三十分もないはずだ。

明日に伸ばしてもいいはずだが、思いついた理論が実現可能かどうか、いますぐにでも実験してみたいのだろう。

「分かった。どうすりゃいいんだ?」

ダインとしても早い方が助かるので、手短にきいた。

「昨日シンシアたちとやったみたいにしてくれたらいいわ。私から聖力を吸って、あなたの身体を通してから私に戻して欲しい」

「触手で…だよな?」

肌で触れ合っても吸魔はできるが、触手の方が効率はいい。

「我慢するから。お願い」

ラフィンにも時間が差し迫っていることは分かっているようで、空のお菓子袋をベンチ横のゴミ箱に素早く捨ててから、再びダインの元へ戻ってきた。

近い位置でラフィンと対面になるよう移動し、ダインは彼女に両手を差し出すよう指示する。

突き出されたラフィンの両手をダインはそっと掴み、そして背中から透明な触手を出して彼女の腕に巻きつけていった。

「ん…」

ラフィンの顔がやや赤くなる。

「少しずつな」

「え、ええ」

意識を集中し、ラフィンから聖力を少しずつ奪い取っていく。

触手や肌が触れ合った箇所から、ダインへと輝くような奔流が流れ込んできたのが見えた。

そして一定量を吸い取ったところで吸魔を止め、ダインの中で循環を始める。

形のないものを扱うため、なかなかにコツのいる作業だった。

ラフィンの聖力というものを心の中で強く意識しながら、それを自分の体内で転がるようにと念じていく。

ラフィンの“想い”や温もりが徐々に抜け落ちていき、純粋な“力”として認識できるようになってきた。

「ん…じゃあ、戻すぞ」

「ええ」

ラフィンが頷いたのを確認してから、ダインは“逆吸魔”を始めた。

触手を伝って流れていくのは“無属性”の魔法力で、文字通り無色透明の液体のようだ。

「っ…」

魔法力が流れ込んでくる感覚にまたラフィンは身体を震わせたが、心を乱すことなく集中し始める。

が、すぐに「あっ!?」と声を出して目を開けた。

「え、どうした?」

「い、意外とタイミングがシビアね、これ…流れ込んできた瞬間、私の属性に変わっちゃうみたい」

どうやら失敗したらしい。

「魔法力を感じた瞬間から…いえ、その前から意識を集中してないと…」

ぶつぶつ呟いている。

無属性の魔法力をダインがそのまま使ってもよかったのだが、しかし魔法を使い慣れてない彼には難しいだろう。

魔法をゼロから創るのだ。無属性の魔法力がどのように作用し、どのような効果をもたらすか。全てを一瞬の間で思い描き、発動させなければならない。

脳内で膨大な処理を要求される行動なのはダインにも分かっていて、そしてコンピューターのような処理能力を持っているのは、エレンディアの証を持つラフィン以外にいないのも分かっていた。

「ダイン、もう一回お願い」

再挑戦する気でいたのはダインも同じだったので、「分かった」と再びラフィンから聖力を吸い取っていく。

そして自身の中で聖力を循環させ、“無属性”へと変わってからラフィンへ返還していく。

自身の身体にまっさらな魔法力が入り込んできたのを感じ取ったラフィンは、

「ん…っ!」

無属性でいるうちの一瞬の隙を逃さず、目をギュッと閉じて強く念じた。

フルスピードで脳を回転させ、無属性の魔法力の作用、影響、効果を、想像力を働かせながら構築する。

何を対象とするか、それはどのような物質で、その物質のどこに変化をもたらすのか。その判断力の高さや計算力は、天才であるラフィンでしか為し得なかったことだろう。

その結果━━

手を繋ぎあっていた二人の空間に、白い光が発生した。

「ん?」

何の光だとダインが見つめた瞬間、その光はいきなり膨張を始め、そして(パァンッ)という破裂音と共に霧散した。

「うおっ!」

「きゃっ!?」

破裂の衝撃に弾かれるようにして二人の手が離れ、ラフィンはよろめいて地面に膝をついてしまう。

「あ、悪い、つい…大丈夫か?」

「え、ええ」

ラフィンに怪我はなさそうなのでホッとしたが、先ほど光が爆発した辺りには何の変化もない。

「また失敗か?」

ダインが声をかけるも、

「えと…」

ラフィンは何故か四つん這いになって、地面を凝視し始めた。

「どうした?」

「ちょ、ちょっと待ってて」

そういって地面を…いや、転がる小石を一つ一つ確認しているようだ。

「おい、制服が汚れちまってるぞ?」

そう声をかけてもラフィンは立ち上がる様子はなく、それどころか、

「あああああああ!!!」

と、突然叫びだした。

「み、見て!! ねぇ、ほら、これ!!」

汚れるのも気にせずに小石をいくつか掴み上げ、ダインに見せてきた。

その石は単なる小石ではなかった。

赤、青、緑、黄色といった、色とりどりの透き通ったような色を放っている。

「これは…」

「宝石よ!」

かなり興奮した様子でラフィンはいった。「私たちの地面にある小石が、結晶とか透き通った石に変えられるよう念じてみたの!」

確かに、彼女が持っている石は宝石のような輝きをしている。

「…マジかよ…」

これにはダインも驚くしかない。「変化を与える魔法なんて、存在しなかったはず…」

「でもできたの! かなり難しくて頭もすっごい使うけど、魔法を創ることができたのよ!」

自分の説が立証できたからなのか、ラフィンは興奮しっぱなしだ。

「お試しで少しの聖力を使ったから規模は小さかったけど、もっと沢山の聖力を使えば、もっと広範囲に影響を及ぼすことができるはずよ! それも自分が思い描く通りの!!」

「すげぇじゃん」

あまりにラフィンが嬉しそうだから、ダインもつられて笑顔になる。「さすがラフィンだな」

「すごいのはダインよ」

と、興奮した彼女の声のトーンがやや下がった。「こんなこと、あなたがいなくちゃ絶対にできなかったんだから」

「でも実際に魔法を使ったのはお前だ。俺には魔法を創るなんて発想すら浮かばなかったんだし」

ダインの言葉にラフィンはなかなか同意してくれず、「あなたがいたからこそよ」といってくる。

このままでは褒め合い合戦が始まってしまいそうだったので、「二人の力ってことでいいな」とダインがいった。

「二人の力?」

「ああ。どっちもいなかったら今回のことは生まれなかった。それでいいんじゃねぇか?」

ダインがそういってもラフィンはしばし反応がなく、無言のまま。

ダインを見上げるその表情がふと緩み、優しげなものに移り変わった。

「━━いえ、やっぱりあなたの力よ」

手を動かしたことにより、持っていた宝石が地面に散らばっていく。

同時に彼女はダインに寄りかかるようにして、彼を抱きしめた。

「え?」

突然の行動にダインは反応することができず、そのまま後ろに倒されてしまう。

「ちょっ…ど、どした?」

「吸魔は、お互いに信頼がないとできないものなんでしょ?」

なおもダインを抱きしめたまま、ラフィンはいう。「世間の優しさを素直に受け入れられず、強がって突っぱねていた私を信頼してくれた。あなたの優しさがなければこんなことできなかったし、そもそも私はここにはいなかった」

「いや、そんなことは…」

「そうなのよ」

ダインの言葉を遮って、彼女は続けた。「この力は…この無限の魔法は、絆の魔法ともいうべきものなの」

「絆…」

「ええ。とてつもないことなのよ? こんなの、世界がひっくり返るくらいの出来事といってもいい」

話しているうちにまた興奮してきたのか、ダインを抱く腕に力が込められた。

「あなたの優しさがあったからこそ成功した。あなたの温もりが私の凝り固まった心を溶かし、突き動かしてくれた」

ラフィンの重みや柔らかさを全身に感じていたダインは、みるみる顔を赤くさせていく。

仰向けに倒された彼の目には、夕焼けでオレンジから藍色へグラデーション分けされている空が見える。

風が吹き、周囲には枯葉が舞っている。その枯葉は夕日の光を受けキラキラと光り輝いており、まるで魔法の成功を祝福してくれているかのようだ。

「こんなとんでもないことやってのけるなんて、やっぱり変な人よ、あなた」

囁くように、ラフィンはいう。「私に友達を作らせようとするし、買い食いとか悪いこと覚えさせようとするし。少し前までなら、こんな砂まみれになることなんて考えもつかなかったのに」

「砂まみれは自分のせいだろ」

ダインが笑いながら突っ込むが、

「いーえ、あなたのせいよ」

さらにダインに密着し、その耳元で彼女は囁く。

「砂まみれになったのも、“外”に出れるようになったのも…そして、好きになった…のも」

最後の言葉を聞いた瞬間、ダインの心臓が跳ね上がる。

「え」と顔の赤みが一気に上昇し、何をいわれたのかと一瞬混乱した。

「ね、ダイン…好きよ」

念押しに告白され、ダインは全身を硬直させてしまう。

「いや、えと…」

緊張感でどうにかなってしまいそうだったが、ぐっと落ち着きを取り戻し、そして居所を探すように彷徨わせていた自身の手を、そっとラフィンの背中に置いた。

「その…ありがとう、な」

真正面から彼女の想いを受け止め、ダインからもラフィンを抱きしめる。

本当はいまこの場で返事をするべきなのだが…、

「でも…ごめんな」

と、ダインは謝った。「いまの俺には、まだラフィンの想いに返してやれる余裕がなくて…」

「分かってる」

くすっと笑いながら、ラフィンはいった。「シンシアたちから一通りのことは聞いてるから」

「シンシアたち…?」

「ええ。“こういうこと”は、諸々の問題を解決してからって考えてるんでしょ? 分かってるから」

「そ、そう…なのか?」

「そうなの。ただ単に、私の気持ちをあなたに伝えたかっただけ。あなたの返事を期待してのものじゃないわ」

そういうラフィンだが、「ただね」、と続ける。

「“全て”が終わった後は…ちゃんと答えを聞かせてもらうからね?」

「…答え?」

「そう。私“たち”の想いに対する、あなたの答え。はぐらかしても何度も問いただすし、引き伸ばそうとしても許さないから」

その言葉は重みを伴ってダインにのしかかるが、不思議と嫌な感じはしなかった。きっとラフィンの声が明るいものだったからだろう。

「わ、分かってるよ。ちゃんと話す」

その彼の返事に、「ほんとうよ?」ラフィンは彼の感触と温もりをしっかりと感じつつ、続けていった。

「逃げようとしたってどこまでも追いかけるし、捕まえて幽閉だってしちゃうんだから」

冗談とも本気ともつかない、やや怖い台詞だった。「私“たち”を本気にさせたあなたが悪いんだから。覚悟しなさいよ?」

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