百六十節、成長する絆
「うぅっ!?」
突然襲い掛かってきた“何か”を感じ、ダインはつい体を震わせてしまった。
「どうした?」
テーブルを挟んで正面にかけていたジーグが不思議そうな表情で見てくる。
そこはジーグの書斎だった。昼食後ここで朝の話の続きをしていたのだが、途中でダインは急激な寒気に襲われたのだ。
「いや、なんか急にぶるっと来て…」
「ほう? いきなりか」
「あ、ああ。何だろ」
「誰かが何やら企んでいるのやもな」
ジーグはにやりと笑った。「例えばお前を巡って色仕掛け合戦とか」
愉快そうな彼に、「んなわけねぇだろ」、とダインは冷静に突っ込んだ。
「いまはそんな話はどうでもいいんだよ」
食後の紅茶を飲みつつ、ダインは手元の書類に目を向ける。
「んで親父、繰り返すが…ここに書いてあることはマジなのか?」
尋ねると、
「マジだ」、同じく食後のコーヒーを口にして、ジーグは答えた。
「古の忘れ形見…“遺物”は、七竜の行動を制限し力を縛り付けている、“ジャマー”のような役割を持っていたのだ。あの存在は彼らにとってみれば自身の体に纏わりつくクモの糸のようなもので、七竜の復活時に討伐隊の妨害がなければ、真っ先に破壊に向かっていたであろうな」
ジーグから寄こされた書類には、ギベイルと協力して調査した“遺物”についての詳細なデータが書かれてある。
そのデータが示しているものは、数千年もの長きに渡って謎とされていた物体の真の姿といってもいいものだった。
七竜の“ジャマー”の役割を持つその遺物の内部には、七竜自身が宿していた“負の魔力”と同等の力が備わっていたらしい。
「世界的な大発見だ。論文を発表したら、たちまちあの遺物に世界中の注目が集まることだろう。七竜と遺物には密接な関連性があり、彼らを縛り付ける役目を担っていたのだから」
ジーグはそういうが、「しかしだ」、と続けた。
「遺物の役割については解明したが、ここでまた別の疑問が生じる。ダインは分かるか?」
しばし考えた後、ダインはいう。「…あの遺物は作られたということ。誰が、どういう目的で…っていう疑問が沸くな」
「そうだ」
ジーグは頷く。「あんなものが自然現象で発生するわけはないからな。誰かの意思によって生み出され、いま現在もその役目を全うしている。オーパーツに近いアレは、一体誰が作ったものなのか」
「エレンディアじゃないのか?」
書類を眺めながらダインはいった。「対七竜用に作られたんだとしたら、少しでも有利に戦えるようにって、エレンディアか、人類側の誰かが作ったって考えるのが自然だと思うんだけど」
「もちろんその可能性はあるが…ダインは覚えておらんか?」
「何を?」
「遺物には“矢印”があったことを」
「…そういや、そんなのあったな」
ディエルの別荘があったディビツェレイド大陸で、遺物にダインが触れた際に矢印が出てきたことを思い出す。
「あの遺物には、まだ何か秘密があるような気がするのだ」
腕を組みながらジーグはいった。「七竜を妨害するだけではない、重要な何かが…」
「秘密ねぇ…」
「うむ」
頷くジーグは、まだ何か話したそうにしている。
「何か思い当たることでも?」
尋ねると、「あの遺物についての名称は様々あるが、ここへきて引っかかる名称があったことを思い出したんだよ」といってきた。
「何だそれ」
「ダインは聞いたことはないか? 解放の鍵、という名称を」
もちろん初耳だった。
「封印の、じゃないんだな」
ダインの指摘に、ジーグは顎に手を添えながら唸りだす。
「私個人の意見だが、そこにこそ何か秘密があると思うのだ」
「確かに…」
遺物に刻まれた矢印。そして解放の鍵という名称。
それら事実から何かきな臭いものを感じ、ダインは眉をひそめた。
「んで、親父はどう見てるんだ?」
ジーグの考えを尋ねると、手元の七竜に関する資料を眺めつつ、「恐らくは…」、ジーグは答える。
「いや、十中八九、解放とはレギオスのことを指すのであろうな」
ジーグの言葉に目を見開いたダインは、「…そういうことか」、すっと感情を消した。
「ガーゴとレギリン教が推進する七竜討伐計画は、レギオス復活の足がかりに過ぎなかったってことか」
「まだ憶測の域だがな。しかし仮にそうだとしたら…ダインよ、あまりうかうかしてられんぞ」
ジーグは真剣な両眼を彼に向けた。「七竜の討伐によって遺物は反応を出している。つまり彼ら全てが倒されることによって、遺物は“本来の”動きを見せてくる可能性が最も高い。文字通り“解放の鍵”という役目を果たすわけだ」
「…時間はあまり残されてないってことか」
「そうだ」
ジーグはテーブルの上に置いていた自身の携帯を手に持ち、画面を見せてきた。
そこには、速報のニュースが飛び込んできていた。
「たったいま、プノーが討伐されたらしい」
ジーグの言葉どおり、ガーゴがプノーを苦戦しながらも討伐したと速報で書かれてある。
国が発信している情報なので間違いないのだろう。
「ダインよ。お前は今週中にバベル島にいって女王神に謁見するといったな」
「ああ」
「それも少し急いだほうが良いかも知れん。連中は先を見て動いている」
難しそうな表情でニュースに目を通しつつ、ジーグは続ける。「先手を打たれてこちらの行動を封じられては後々が厄介だ。私は連中の真の狙いや、遺物のさらなる詳細なデータを引き続き調べておく。お前には七竜の保護やルシラのことなど、負担をかけているとは思うが…」
「やるよ」
ダインは即座にいった。「俺は純粋に家族となった七竜を保護したいだけだし、ルシラとは後ろめたさなく一緒になりたいからな。その結果ガーゴやレギリン教を相手することになったとしても、守りたい奴らのために戦うよ、俺は」
息子の強い視線を受け、ジーグは「頼もしい限りだ」、と満足そうにコーヒーを飲んでいた。
「あ、だいん」
書斎を出て中庭に差し掛かると、メイド服を着たルシラが小走りで近づいてきた。
「ぱぱとのお話、おわったの?」
「ああ。終わったよ」
ルシラは手に如雨露を持っている。水遣りの真っ最中だったようで、花壇ではピーちゃんたちがクチバシで雑草を引き抜いてそのまま食べていた。
「みんな頑張ってんなー」
ダインは中庭用のサンダルを履き、花壇まで向かう。
彼の姿を見つけたピーちゃんたちは、それぞれ独特な鳴き声を上げながら近づいてきた。
「ちょっと休憩しようぜ。今日は暑いだろ」
ダインがそういうと、言葉が通じたのか、「ピィ!」、とまた彼らは鳴き声を上げた。
中庭の中央にあるベンチまでダインが歩いていくと、親についていく雛鳥のようにピーちゃんたちが連なって歩いていく。
そのままベンチにかけるダイン。事前に話し合いでも済ませていたのか、早速彼の膝に新人のヒョーちゃん、頭上にニャーちゃんが飛び乗って落ち着いた。
「お、ケンカしないんだな。相変わらずいい子たちだな」
ダインは笑ってヒョーちゃんの頭を撫でる。彼の手にすりすりと長い首を押し付けつつ、ヒョーちゃんは甘えるような声を上げた。
「じゅんばん守ってるんだよ。ねー?」
ルシラがいうと、彼の周囲で翼を休めていた彼らはその通りだと鳴き声を上げた。
足を折って身体を休める彼らを見てから、「あ、飲み物もってくるね!」、とルシラが走り出そうとする。
「いや、俺が持ってくるよ」
ダインが止めるものの、「んーん! るしらはお手伝いさんだから!」、と、中庭からリビングに上がってキッチンまで走っていった。
そこでくつろいでいたシエスタとサラに何か話をしてから、すぐにトレーを手に戻ってくる。
「お…っと…」
二人分の飲み物だけでなく、ピーちゃんたちのミルクも用意してきたのだろう。トレーを持つ手が少し震えていた。
「あールシラ、無理せずな」
「う、うん…!」
やや危うげな様子だったが、どうにかテーブルの上に飲み物を置けた。
「はい、どーぞ!」
ミルクが注がれた皿を地面に置くと、喉が乾いていたのかピーちゃんたちはすぐにそのミルクを飲み始める。
そしてルシラはダインの隣に腰掛け、彼と一緒にオレンジジュースを口にした。
「おいしーね!」
まぶしい太陽のような、可愛らしい笑顔だ。
「そうだな」
ダインも笑顔で返しつつ、中庭をぐるりと見回す。
自分で始めたガーデニングであるはずなのに、最近は全く土を弄ってない。
手を加える箇所がないほど、ルシラとピーちゃんたちの手入れが完璧だったのだ。
花壇にあるいくつかの野菜はすでに収穫を終えており、耕された土からはまた新たな芽が息吹いている。
「ルシラはもう完璧なメイドだな」
ダインはそういって笑いかけた。「いつもこの時間は水撒きしたり雑草抜いたりしてたんだけど、もうやることないよ」
「ふふ、まだまだだよ」
微笑みつつ、ルシラはいう。「たまに勝手に“まほー”使っちゃってるときがあるから、それを使わないようにできないとね」
ルシラは唯一無二の“成長の魔法”というものを使える。
ガーデニングをしているとき無意識に魔法を使って植物を成長させてしまうときがあるようだが、最近では大分コントロールできるようになってきたらしい。
しかし“成長の魔法”というのも仮称で、未だにどのようなものかは分かってないのだが…。
「…ん?」
とそこで、ダインはふと疑問が沸いた。
自分の手を見つめ、そして周囲でたむろするピーちゃんたち、最後にルシラを見る。
「どーしたの?」
ダインの視線に気付いたルシラは不思議そうに見てきた。
「いや…“これ”ってもしかして、ルシラの力なんじゃないかって思って…」
「んん?」
また不思議そうにする彼女に、ダインは説明を始める。
「シャーちゃんが成体になったのは俺が魔力を流し込んだからだと思ってたんだけど、もしかしてルシラの魔力が関係してるんじゃないかってさ…」
「え? そうなの?」
「決定的な何かはないんだけど、可能性としては高い気がするんだよ」
ルシラからはいまもまだ吸魔することはできない。しかしルシラへ魔力を流し込んだり、ルシラからダインへ吸魔することはできる。
それに夜毎ルシラはダインに襲い掛かっていたのだ。一方的にだがほぼ毎日魔力のやり取りをして繋がっていたわけだから、ダイン側にもルシラの魔力の残滓のようなものがあると考えるのは自然だろう。
そしてダインの魔力にも影響が出始め、結果シャーちゃんを成体…つまり成長させることができた。
「まぁ実際はどうかなのか分からないけど…」
「やってみようよ!」
と、ルシラがいってきた。「るしらのまほーが、だいんも使えるかどうか!」
「え、いや…いまからか?」
「うん! なんだか面白そう!」
ルシラがやる気なのだ。断る理由は無い。
「とりあえず、お野菜さんからやってみようよ!」
芝生でくつろいでいたピーちゃんたちを避けながら、ルシラは広い場所でダインに向けて両手を広げた。
「どーぞ!」
どうやら自分の魔力を吸えといいたいようだ。
「いや、ルシラからは吸えないんだ。知ってるだろ?」
吸魔に関してはルシラに報告済みだ。ルシラも理解してくれているはずだったのだが、
「やってみなくちゃ分からないよ?」、と彼女はいった。
「だいんとるしらは、もう切っても切れない? かんけーになったし!」
良く分からないが、前よりもっと仲良くなったといいたいのだろう。
それに関しては彼女のいう通りかもしれない。出会った頃は色々と悩むこともあったルシラだが、最善かどうかは分からないがダインはきちんと対処していた。
毎日一緒にいて毎日笑いあって、ご飯を食べるときも寝るときも一緒。
ルシラのダインに対する信頼は出会った当初から厚くはあったのだが、いまはその厚みにさらに磨きがかかったといってもいい。
「ほら、だいん!」
だからルシラには自信があったのだろう。いまなら成功するはずだと。
「分かったよ」
ダインとしても自分の仮説が正しいかどうか気になっていたので、素直に彼女の目の前まで向かった。
そして膝立ちになり、目の前で両手を広げていた小さな身体をそっと抱き寄せた。
「ふわ…」
途端にルシラの身体から力が抜けていく。
早速吸魔を試してみようとしたが、彼女の感触や温もりを感じてすぐ、先ほどのジーグとの会話を思い出してしまった。
ルシラとは、何の後ろめたさもなく一緒にいたい。
「…なぁ、ルシラ」
ダインは再び、彼女に過去と同じ質問を投げかけた。「ルシラはさ、将来はどうしたいんだ?」
「ふぇ…?」
「俺がいましてることが全部終わったとして、ルシラがいた場所も分かって、その先はどうしたい?」
「え、え〜と…う〜んと…」
ダインに抱かれつつ考え込んでいた彼女は、「何がしたいかは、よくわかんないけど…」、ぽつりと、しかしはっきりといった。
「でも、みんなと…だいんと一緒にはいたいよ?」
「そうなのか?」
「うん! みんなおもしろくて楽しいし、だいんのことも、もちろん…だ、大好きだもん…」
彼女にしてみれば告白したつもりだったのだろう。
いっちゃった、というかのようなリアクションで照れている。
そんな彼女にまた一段と愛しさがこみ上げ、「…ありがとうな、ルシラ」、とダインはいった。
「ほんとにさ。いつもいつも、ありがとうな」
「ふぇ…?」
「中庭のことだけじゃなくて、サラの手伝いや料理までできるようになってさ。やっぱ天才だよ、お前は」
お礼をいいながら背中を撫でると、「ふわ…ほひ…」、ルシラから妙な声が漏れた。
ダインはそのまま続ける。「でも色々してくれるのは嬉しいけど、無理はするなよ? お前は笑顔でいてくれるのが、俺は一番…」
「…へにゃぁ…」
ルシラの足が崩れていく。
「ど、どうした?」
ダインは慌てて抱きかかえるが、彼女は動かない。
顔が真っ赤になっており、全身がぶるぶる震えていた。
どうやらまだダインに対する緊張は解けてなかったらしい。そんな中でダインの囁きとなでなではルシラには耐え切れなかったのだろう。
「早速無理してんな」
ダインは笑いながら彼女をベンチで寝かそうとしたが、
「だ…だい、じょぶ、だよ…」
ダインの腕を掴みつつ、ルシラは震える声を出した。「このまま…るしらの…すって…」
「いや、でも…」
「だ、だいじょうぶ、だもん…るしらと、だいんは…うんめーの絆、で…」
…良く分からないが、彼女は恋愛モノの漫画かアニメでも観てしまったのかもしれない。
それとも、シンシアたちと同じように、吸魔という行為でお互いの仲の良さを再認識したかったのだろうか。
どちらにしろルシラは折れてくれそうになかったので、「しょうがないな」、とダインは笑いつつ再度ルシラを抱きしめた。
そして吸魔を試みてみる。
ダインは当然失敗するものだと思っていたのだが…
「…ん…?」
何故だか、ルシラの“心”が掴めた様な気がした。
そのまま、吸い取れるか試してみる。
すると、まるで太陽のようなぽかぽかとした魔力がダインの中に流れ込んできた。
「お、おぉ…マジか…」
ずっと失敗続きだったはずなのに。
体内に感じるのは確かにルシラの魔力で、驚いたダインはその喜びを分かち合おうとルシラを見るが、
「ひゃ、ひゃ…ひゃふ…」
ルシラの身体が先ほどよりも大きく震えており、真っ赤な顔で口からは妙な声を出している。
あまりにアレな姿からは犯罪臭しかしなかったので、ダインは慌てて吸魔を中断した。
「だ、大丈夫か? ルシラ」
ベンチに寝かせつつ、彼女の呼吸が落ち着くのを待つ。
「ワンワンッ!」
ワンちゃんが、どうしたのかという目でダインを見上げていた。
他の七竜たちもわらわらと集まってくる。
「あーいや、ちょっと慣れないことをしてさ…」
どうしてか正直に答えてしまうダイン。
「えへ…えへへ…」
ぐったりとしながらも、ルシラは嬉しそうな顔で笑っていた。
「ほら…だいん、いったとおりでしょ…?」
「ん? あ、ああ、まぁ、そうだな…」
「だいんと、るしらは…つながってる、から…」
ダインの内側ではルシラの魔力が漂っている。
そこから、はっきりとした彼女の想い━━“大好き”という気持ちが、これでもかというほど伝わってきていた。
その気持ちに当てられたのか、ダインは自身の胸が無性にドキドキしていたのを感じた。
ルシラに対する見方もこれまでと違って見えてきたような気がして、つい彼女から視線を逸らしてしまう。
「ちょ、ちょっと試してみるな」
気持ちを切り替え、立ち上がったダインは再び中庭の中央に立つ。
そして意識を集中し、周囲の植物が成長するようイメージしてみた。
すると風も吹いてないのに、辺りの植物がざわざわと葉を揺らし始める。
“奇跡”が起きる瞬間だった。
「ねぇダイン、夕飯のメニューは何に…」
リビングにいたシエスタが窓を開けてダインに声をかける。
その瞬間、突然ザッと枝葉がざわめくような音がした。
周囲の植物は一秒もないほどのスピードで成長し、そして中庭は…ものの数秒でジャングルになった。
「うおっ!?」
いきなり場面転換したかのような光景にダインは驚いてしまい、集中が切れてしまったせいですぐさまジャングルがいつもの中庭へと戻った。
「…す、すげぇ」
自分でやっておきながら、ダインは固まっている。
「…何をしたの?」
シエスタも同じように固まっていた。一瞬のことではあったが、中庭がジャングルに変わった瞬間を目撃したらしい。
「これはもしかして、ルシラの魔法…でしょうか?」
同様にサラも目撃していたらしく、驚いた様子でいった。「ダイン坊ちゃま、ひょっとしてルシラから吸魔を…?」
「あ、ああ。成功…したんだと思う」
「凄いじゃない」
と、二人はリビングから中庭までやってきた。
「でもどうして突然?」
何故吸魔が成功したのかと、シエスタは不思議そうにしている。
「いや、シャーちゃんを成長させることができたから、ひょっとしたらルシラの魔力が混じってたんじゃないかと思って…」
ダインが自分が立てた仮説を彼女たちに説明すると、「なるほど」、とサラは合点がいったように手を叩いた。
「ダイン坊ちゃまはまた一段階レベルアップしたということですね。それによってルシラはベンチで倒れていたと」
「あらほんと。大丈夫?」
ルシラの元へ向かったシエスタが話しかけると、「だいじょぶだよ!」、とルシラは笑って返事をした。
「ちょっとつかれちゃったけど、だいんと繋がることができたもん!」
ねー?、と、心配そうにしていたピーちゃんたちを撫でている。
「身も心も、だいんとひとつになることができたんだよ!」
「ふふ、そう。良かったわね」
「これでるしらも、しんしあちゃんたちと一緒になれたかな?」
「ええ。一緒ね」
笑い合うルシラとシエスタを眺めつつ、「…成功したはいいが、あんま頻繁にはできねぇな」、とダインは呟いた。
「“向こう”のルシラは魔法力が必要なんだから、俺が奪うわけにはいかないし、少し吸っただけで倒れちまうしなぁ」
「ですね。しかし少量程度なら大丈夫なのでは?」
サラは少し微笑んでいう。「ルシラはあんなにも喜んでいるのですから」
確かに、疲れているはずなのにかなり上機嫌だ。吸魔の成功がよほど嬉しかったのだろう。
「犯罪臭がするルシラも、また可愛らしいものですよ」
吸魔の感覚で身悶える姿をしっかり見ていたのか、サラはダインにだけ聞こえるようにいった。「とうとうルシラにまで手を出してしまいましたね」
いちいち突っ込むのもバカらしくなり、「あのな…」、とダインは不満を表情に出すだけ。
しかし、常日頃共に過ごしてきた賜物か、ダインとルシラの間にはそれこそ切っても切れない絆というものができあがっていたのだ。
その結果吸魔が可能となり、心を繋げることができた。
ルシラにしか使えなかった、成長の魔法。
いまはまだ小さなものだったのかもしれないが、その“奇跡”は確実に歩みを進め、やがて彼らを巻き込む大きな力となるのであった。