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absorption ~ある希少種の日常~  作者: 紅林 雅樹
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百五十二節、毒魔の竜

目が覚めたダインは混乱していた。

訳が分からなかった。

気付けば自分は朽木の空洞の中にいて、外は真っ暗。

物音が一切聞こえないが、自身の身体には大量の衣類やタオルが積みあがっている。

いつの間にこんな場所に来ていたのか。自分はどうなってしまったのか。

寝起きで頭が回らず何もかも分からなかったが、一番疑問に思っていたのが自分が裸だったということだ。

両隣にはラフィンとディエルがぴったりと張り付いており、彼女たちはどちらも穏やかな表情で寝息を立てている。

押し付けられている柔肌には衣類めいた感触がなく、しっとりとした汗まで感じる。

積み上がった衣類の中に白く小さな布が見え、それが女物のショーツだったことに気付いた瞬間、彼女たちも裸だということが分かり一気に顔面が熱くなる。

もりもりに盛られた衣類の中、裸で抱き合う男一人と女二人。

汗をかくほど暑かったのは彼女たちの体温によるもので、意味の分からない状況にダインはしばし混乱していた。

いますぐここを抜け出して状況を確認したかった。

が、下手に動くと彼女たちの裸を目の当たりにすることとなってしまうだろう。

「う、う〜ん…」

空洞の天井を見上げながら、ダインは直前まで何があったかを思い起こす。

記憶を遡ってすぐ、自分は倒れてしまっていたんだということに思い至った。

海に落ちて全身ずぶ濡れだったということもあり、凍えそうなほど寒かった。そんな中で毒気に当てられ、気を失ってしまったのだろう。

そんな自分を、ラフィンとディエルがこの朽木の中まで運んで介抱してくれていた、ということか。

自分たちの周囲には光り輝く膜が張り巡らされており、近くにはガスマスクが転がっている。

ラフィンが魔法で外と中の空気を分け、ディエルがガスマスクを使ってバリア内の空気を洗浄し、そして自身の身体を使って自分を暖めてくれていたのだ。

周囲の状況から、自分が気を失っている間に何があったかを理解したダインは、彼女たちを起こさないようそっと衣類の山から抜け出した。

一瞬“色々と”見えてしまったが、極力視界に入れないよう顔を背けつつ、衣類の中から自分の服を引き抜き、袖を通す。

そして二人分の弁当箱が空になっていたのを確認してから、ダインは彼女たちの頭をそっと撫でた。

「…ありがとな」

気持ちを込めて囁くと、彼女たちの寝顔がどことなく嬉しそうなものに変わる。

可愛らしい寝顔を数秒間眺めた後、ダインは自分の分の弁当を手早く食べ終え、そしてふぅと息をついた。

時間はもう深夜だ。案外早く終わりそうだと思っていたのに、まさかこんなイレギュラーなことで大幅に後れを取ってしまうとは。

できるだけ早期に彼女たちを家に帰らせるためにも、いますぐにでも作戦を実行したい。

そう思ったのだが、あまりに気持ち良さそうに寝ている二人を見ていると、起こすことは憚られた。

二人の体力と魔法力は回復したはずなので、ここで声をかけてみてもいいのだが…。

しかし、いま彼女たちは素っ裸だ。ここで起こしてしまっては、パニックに陥ることは容易に想像がつく。

「う〜ん…仕方ない」

あらゆる展開、可能性を考慮した結果、ダインは身支度を整えた。

「…ごめんな。度々さ」

そう彼女たちに謝って、ダインはそっと二人の身体へ手を伸ばしていく。



━━━━



(ドォッ!!!!)

凄まじい衝撃が全身を貫いた。

「きゃああああぁぁぁっ!?」

あまりの物音と震動に、ラフィンとディエルは同時に飛び起きる。

「な、なに!? 敵襲!?」

音の大きさと揺れからただ事ではないと直感し、ディエルは眠気を無理やり振り払って瞬時に戦闘モードに切り替える。

「あ、あれ!? ダインがいない!?」

と、同じく緊張させたラフィンから声が上がった。

彼女たちはまだ朽木の中にいたのだが、彼のカバンや汚れた衣類は残ってるものの、ダイン本人がいない。

(ドゴンッ!!)

そしてまた激しい物音と揺れ。

「きゃぁっ!?」

予期しない震動に、彼女たちはまた悲鳴をあげ、つい裸のまま抱き合ってしまう。

「ね、ねぇ、まさかダインが単身で封印地の中に入っていったんじゃ…!」

ディエルが緊張した様子でいった。

「こ、この音と揺れはダインとプノーの戦闘音ってこと!?」

まさか、とラフィンは驚くが、確かに音は自分たちの真下から聞こえていた。

「ぷ、プノーはこの島の地下にいた…!?」

よく下調べをしてなかったというラフィンに、「あ、そういえば!」、ディエルが思い出したように口を開く。

「探索してる途中で大穴を発見したの! あそこが封印地への道だったのかも…」

バリアの外にある森に変わった様子は見られない。音も振動も間違いなく下から来ている。

「じゃ、じゃあ私たちも早く向かわないと…!」

自分たちも早く戦闘に参加しようと立ち上がろうとしたが、どういうわけか足に力が入らなかった。

「あ、あれ?」

足だけじゃなく、腕も満足に動かせられない。

「こ、これは…ど、どういう、こと?」

ラフィンもディエルも地面に座り込んだまま、立ち上がることも服を着ることもできない。

とそこで、自身の身体に違和感が残っていることに気がついた。

この艶かしいような感覚には覚えがある。

「ね、ねぇ、まさかダインが私たちの魔法力を吸い取っていったんじゃ…」

ディエルと同じことを予測していたラフィンは、「け、けどどうして?」、と不思議そうにディエルに問いかける。

「私たちを危険に晒したくなかったのか、魔法力が必要だったのか…分からないけど、ダインの考えることなんてそれぐらいじゃ…」

とディエルがいいかけたところで、また物音がした。

今度は爆音のような、凄まじい音だった。

まるで島ごとなくなるような破壊音がして、同時に大地震が巻き起こる。

「きゃああああぁぁぁっ!?」

ラフィンとディエルはお互い抱き合ってしまい、訳の分からない状況に混乱しているところで、その音と揺れはすぐさま収まった。

一瞬にして周囲は静寂に包まれ、元の静かな島に戻る。

「な…何、が…」

ディエルはまだ何かあるんじゃないかとびくびくしている。

「か、確認してみるわね」

そういってラフィンは目の魔法を使おうとしたが、そのときどこからか枯葉を踏みしめる足音が聞こえてきた。

「いや〜、終わった終わった」

そういって朽木の中に入ってきたのは、ガスマスクをつけた男…ダインだ。

「悪いな。結構揺れたろ? あいつ、思ったよりも暴れてさぁ」

彼女たちに話しかけている彼の衣服は、紫色の液体にまみれている。プノーの体液か、返り血なのだろうか。

口をあんぐり開けたまま固まっている彼女たちに、「でもおかげで、ほら」、とダインは軽い調子で胸に抱いていた“それ”を見せてきた。

小さな子供のドラゴンだった。肌は紫で、気を失っているようで動く気配はない。

「とりあえず作戦成功だ。帰ろうぜ」

と、ダインはガスマスクを取って爽やかな笑顔を向けた。

いつもの笑顔だった。

そんな彼を見上げる、硬直したままのラフィンとディエル。そのとき彼女たちの胸に沸き起こってきた感情は、非常に複雑なものであった。

作戦が成功した安堵。

自分たちを無視して勝手にプノーに挑んでいった、相変わらず無謀な行動をしたことへの憤り。

彼が元気を取り戻してくれた喜びに、笑顔を向けてくれた嬉しさ。

怒りも喜びも、全てが内側でぐちゃぐちゃになってしまい、結果彼女たちの口から噴出したのは、

「〜〜〜〜もうっ!!!」

という一言だった。

言い表しようのない感情に支配されていた彼女たちには、ダインにかける言葉が見つからず、しかし文句だけはどうにか伝えたい。

結果として「もう!」、しかいえず、彼女たちはそのままダインに飛び掛った。

「ちょあっ!?」

二人の突然の行動に驚いたダインは、すぐさま顔を背ける。

「もうっ! もうっ! もうっ!!」

そんな彼に、ラフィンとディエルは彼の肩をぽかぽか叩き続けていた。

「わ、分かってる! 言いたいことが色々あるのは分かってるし聞くつもりだけど!」

彼女たちの心情に一定の理解を示しつつも、ダインは訴えた。「とりあえず服を着てくれ!」

そこで自分たちがどういう状態かに彼女たちも気付いたようで、「あっ!?」、と動きを止めた。

「み、見ないでよ!!」

「わ、分かってるって!」

ダインはすぐさま彼女たちに背中を向け、カバンを拾い上げて乾いたタオルを詰め込み、そこにぐったりしていた“プノー”をそっとしまい込む。

ダイン自身も新しい服に着替え、ちょうどそこで「も、もういいわよ」、とディエルから声がかかった。

二人はようやく、服をちゃんと着てくれた。ダインは何故かホッとしてしまう。

「…とりあえず、良かったわね」

ため息を吐きつつディエルがいった。「一人で封印地に行って、一人でプノーを救出だなんて」

一人で、というところを強調していった彼女の表情は、明らかに不満げだ。

「どうして私たちを動けなくさせたのか、理由を説明してくれない?」

腕を組むラフィンまで不服そうにしている。

「い、いや、これ以上危険な目に遭わせたくなくてさ…」

そうダインは説明するも、彼女たちに納得した様子は見られない。

「その傲慢さが命取りだって、何度いえば分かるのかしら」

ラフィンはぷんぷん怒った表情でいった。「一言声をかけてくれれば、私もディエルも少しぐらいはあなたの言うこと聞いたかもしれないのに」

「そうよ。あんな派手な物音を立てて、島を揺らして。強いのは認めるけど、戦い方は下手くそよ、あなた」

便乗して文句をいってくるディエルもラフィンと同じようなポーズをとっており、ダインはたじろいでしまう。

「え、え〜と、まぁ…起こすのも忍びなかったしさ、もう夜中だし早く終わらせたくて…」

と彼がいっても、「ふんだ」、ラフィンの怒りはなかなか収まらない。

「結局私たちは何の役にも立てなかったっていうことでしょ」

不機嫌なままラフィンがいったところで、

「そんなわけないだろ」

ダインはそこだけははっきりと反論した。「この島に安全に来れたのはシャーちゃんとお前らのおかげだし、仮に単身でこの島に来ていたら俺はどうなっていたか分からなかった。寒さと毒で倒れるなんて予想してなかったんだから」

だから、と彼女たちに笑いかけ、両方の頭にそれぞれぽんと手を置いた。

「ありがとうな。二人は俺の命の恩人だよ」

頭を撫でるついでに魔法力を返還する。

彼女たちは見る間に顔を赤く染めていった。逆吸魔の艶かしい感覚か、頭を撫でられたことによるものかは分からない。

「二人がいてくれたからこそ、安全にプノーを救出できたんだ。これだけは断言する」

「ま、まぁ、結果オーライなんだったらそれでいいんだけど…」

とラフィン。どうやら機嫌を直してくれたらしい。

「ディエルもありがとうな? あんだけ寒かったのが、いまは汗をかくほど暑いんだ。こういっちゃ変な意味に聞こえるかもしれないが、お前たちの温もりがいまもまだ残ってるみたいだ」

ディエルにも笑いかけると、「そ、それは良かったわ」、とディエルも恥ずかしそうにしたまま微笑んだ。

「ん、じゃあさっさと帰ろうか」

機嫌を良くした二人に満足し、ダインは散らばった衣類をカバンに詰め込みだす。

「あ、でも眠いんだったらもう少し後でもいいぞ? まだ夜中だしな」

「いえ、私たちも結構長い時間寝ちゃってたようだから、眠気のほうは大丈夫なんだけど…」

ラフィンは隣を見る。ディエルは身体をうずうずさせていた。

「探索しましょうよ!」

と、カバンを背負いながら彼女はいった。「この島には気になるものが沢山あるし、いましかチャンスはないかもしれないし」

確かに気になるものはあった。結局、ヴァンプ族しか扱わない農具がどうしてこの島にあったのか、分からないままなのだが…。

「ん〜、悪いが却下だ」

ダインはいった。「深夜で真っ暗なんだし、そんな状況で森の中うろうろするのは危険だろ」

「え〜?」

不満を露にするディエルに、「それに」、とダインは続ける。「あんまりゆっくりしてる時間はない。夜明けには偵察隊が来るかもしれないからな」

「偵察? どういうこと?」

「サラが入手した情報によるとさ、来週の頭にはプノーの討伐作戦が始まるらしいんだ」

「え、そうなの?」、意外そうにラフィン。

「サラの情報は確かだから、プノーが討伐されるっていうのは間違いない。だから俺たちはここから慎重に動かなければならないんだ」、とダインはいった。

「暗黙の了承の元に俺たちはここにいるからな。俺たちがいたって痕跡を奴らに見られたら、後々面倒なことになる」

当たり前な話だった。ここが完全なる無人島ということが分かった以上、ダインたちがいたというほんの僅かな痕跡も残すわけにはいかない。

「それはその通りだと思うけど、ダインはプノーを救出したんでしょ?」

ラフィンが疑問を呈した。「痕跡も何も、ドラゴンを倒しちゃったんなら大事になるんじゃ…」

「いや、“張りぼて”のほうはいまもぴんぴんしてるぞ」

彼は意外なことをいった。「原理はよく分かってないが、七竜の“本体”に纏わりついていた思念が具現化したのが“奴”だからな。本体が操ってるわけじゃないから、自立して動けてるんだろ、多分」

「でもその張りぼての中にいた本体を救出したんでしょ? 傷跡とか色々残ってるんじゃ…」

ディエルの疑問に、「傷はつけてない」、とダイン。

「へ? じゃあどうやって…」

「要は体内にいたものを取り出しゃいいんだ。だから口からちょっとさ…」

その彼の説明で、ダインがどうやってプノーの本体を救出したのか理解したのだろう。その“様子”を想像し、ラフィンもディエルも表情を歪める。

「前に説明したかも知れないが、奴らは普通の生物じゃない。生きるためにあるべき器官や臓器はないから、ある意味そこらの生物よりも体内は安全で、だから楽に本体を引き抜くことが出来たよ」

彼は簡単にいってのけるが、巨大な口からドラゴンの体内に飛び込むなど、ラフィンにもディエルにも絶対に真似できるものではない。

「で、でも大丈夫だったの? 毒の息を吐くプノーなんだから体内には相当な毒が…」

今更ながら心配を寄せるラフィンに、「そこでこのマスクだよ」、とダインは笑ってガスマスクを見せた。

「リステン工房と、これを貸してくれたニーニア様々だ。後でお礼いわないとな」

「え? いや、ガスマスクだけって…皮膚からも毒は入り込むんじゃ…」

「流動性排出循環機能? とか何だとかで、全身守ってくれるらしい。毒沼の中を泳いでも平気なスグレモノだって説明したろ?」

笑っていうダインは確かにけろりとしており、特段苦しがっている様子はない。

「ど、どれだけ都合のいい代物よ…」

ラフィンはまじまじとそのガスマスクを見ている。

「まぁとにかくそういうことだから、とっととずらかろうぜ」

ダインの説明に納得したラフィンは、「そうね。いいでしょ?」、と探索したがっていたディエルに顔を向ける。

「はー、しょうがないわねぇ」

彼女も素直に従ってくれる気になったようで、周囲を見回して忘れ物はないかを確認して回った。

「よし、帰りましょうか」

そう笑顔を向けるディエルに疲れた様子はなく、ラフィンの体調も万全そうだ。

「じゃあ…」

歩き出そうとしたダインだが、「あ、ダインはガスマスクつけてね」、とラフィンから問答無用でガスマスクを装着させられた。

「海岸までは絶対に外さないこと。分かった?」

彼女にはまだダインが毒で倒れたトラウマが残っているのだろう。

「はいはい」

苦笑しつつダインが頷いたところで、ラフィンはバリア魔法を解放し、全員朽木の外に出た。明かりも何もない深夜の森は、文字通り暗闇だった。

「帰り道はどういったっけ?」

「こっちじゃない?」

彼女たちは相談しながら照明の魔法で周囲を照らし、歩き出す。

「ねぇラフィン、ほんとにこっちで合ってるの? あんな毒沼なかったでしょ」

「あ、あれ? こっちだったかも」

「しっかりしてよ」

「う、うるさいわね」

会話しつつ歩いている彼女たちの背中を追いながら、ダインは違和感を覚えていた。

話す彼女たちの距離がやけに近いのだ。

暗いから身を寄せ合っているだけなのかもしれないが、以前の彼女たちなら、近づいただけでどちらかが文句をいってたはずなのに。

手が触れ合っても気にもせず、何ならそのまま繋ぎそうな勢いだ。

これはひょっとして、自分が倒れてる間に何かあったんじゃないだろうか。

興味が一気に湧いたが、ここでわざわざ尋ねるのは野暮というものだろう。

「ねぇ、真っ暗なんだしはぐれないように手を繋がない?」、とディエルがそんなことをいいだした。

「ええ、そうね。ほら、ダイン」

簡単に同意したラフィンは、振り返って彼の手を握る。もう片方の手はディエルに取られた。

正直なところダインは顔をニヤニヤさせてしまっていたのだが、幸いなことにガスマスクをつけているのでバレてない。

「どうしたのよ?」

「いや? 何でも?」

とぼけつつ、素直に彼女たちに手を引かれていく。

三人手を繋いだ状態だが、ダインを引っ張りながらも前を歩く彼女たちの距離はやはり近かった。

ダインのニヤニヤは止まらず、ずっと彼女たちを見ていたかったのだが、突然二人同時にこちらを睨みつけてきた。

「ダイン、もっとしゃきしゃき歩く!」

「ちんたらしないでよ!」

同時に叱られてしまう。

容姿も格好も、種族も何もかも違うはずなのに、そんな二人の姿が姉妹のように見えて仕方なかった。


浜辺に出た直後、背後で森を覆うほどの巨大な膜が張られだした。

「おっと、仕事が早いわね」

ディエルは驚いた様子もなく、携帯をポケットに突っ込んでいる。

つい先ほど、彼女はプノーの守人とされる人物に作戦終了したことを伝えていたのだ。

深夜であるにもかかわらず守人は起きていたようで、通話を終えた瞬間に封印地を覆う二重のバリアが張られたようだ。

「いけるらしいぞ」

ダインも誰かと通話中で、いま会話を終えたのか持っていた携帯を降ろした。「シャーちゃんが起きて待っててくれてるってさ」

「そうなの。じゃあ…」

照明の魔法で周囲を明るくさせたラフィンは、軽く見回した後、光の膜が届かないギリギリの位置まで移動する。

「シャーちゃん召喚するわね」

「ああ。頼む」

早速魔法を使おうと両手の指を複雑に絡めた彼女だが、詠唱の途中で口が止まった。

「どした?」

「いえ…ねぇ、今日この後って何か予定ある?」

妙なことをきいてきた。「ちょっと寄ってみたいところがあるんだけど」

「寄ってみたいところ?」

「ええ。あと何時間かしたら夜明けだし、着く頃にはちょうどいい時間でしょ」

「どこにいくのよ?」

ディエルが割り込んできて、ラフィンは答えるよりダインに顔を向ける。

「あなたが疑問に思っていた“場所”よ」

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